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2021.06.19

【第10回後編】西田尚美(女優)

西田尚美「大根役者で、現場でいつも叱られて、ダメダメな感じ満載でした」

世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる女性に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。ゲストは、前回に続いて女優の西田尚美さん。若くから人気モデルとして活躍後、女優へ転身。その後26年もの間、映画やテレビの世界で活躍を続け、幅広い層から人気を集める国民的女優さんです。

CREDIT :

写真/椙本裕子 文/井上真規子

『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、才能のある美しい女性の魅力を掘り出す連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい!」。

前編(こちら)に続きゲストは、女優の西田尚美さん。6月18日に公開となった新作映画『青葉家のテーブル』に主演された西田さんは雑誌『anan』『non-no』やCMの人気モデルとして活躍後、23歳で女優に転身。以降26年にわたって300以上の作品に出演して第一線で活躍されています。

果たして、その原点となった経験とは? 樋口さんが知られざるエピソードに迫ります!

「審査員のおじさんたちの前を水着で歩きました(笑)」(西田)

樋口 広島の田舎が嫌で東京に出てきた女の子だった西田さんですが、そこから、どういう経緯でモデルに?

西田 文化(服装学院)のクラスメイトの男子が、モデル事務所は割のいいバイトになるからって、いくつかピックアップしてくれたんです。それでなんとなく入ることになって、はじめは何も決まらなかったんですが、オーディション慣れするためにレースクイーンのオーディションに行ってこいって言われて……。バブルの頃だったからかな。それで審査員のおじさんたちの前を水着で歩きました(笑)。

樋口 え〜〜〜!(驚愕)  本当に想像つかない!

西田 下向いて、とぼとぼ歩いただけですけど(笑)。なんでこんなことをしているんだろう?  って当時はこの悔しさなのか悲しみなのか置き場がわからなかったです。それ以降はCMのオーディションばかりでしたし、あれは私の人生の中になくてよかった歴史かも(笑)。

樋口 黒歴史ってやつですね(笑)。モデル業は、雑誌からスタートされたんですか?

西田 一番最初に出たのは『MENS NON-NO』。現場に行ったら、雑誌で見たことのある田辺誠一さんや大沢たかおさんがいて、みんなイケメンだし、すごく煌びやかで、私なんかいていいのかな?  って恐縮してましたね。でもまた撮影に呼んでもらって。あの編集さんが使ってくれなかったら、多分『non-no』にも出れなかったし、今の仕事もやってなかったと思います。
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樋口 同級生のすすめで事務所に入って、雑誌でもレギュラーになって、やっぱり「美は発見されます」ね。そこから、あっという間にテレビドラマに出演されるまでになりましたね。

西田 全然、「美」じゃなかったですけどね(笑)。その時たまたま、モデルから女優っていう流れが流行っていたんだと思います。はじめは、女優に興味なくて怖い世界と思っていたし、やりたくなかったけど、マネージャーさんが絶対やるべきって。最初のオーディション現場に知り合いのモデルの子がいて、この人がいるなら大丈夫かもって思ったんですけど、合格したらその人はいなかったんです。

一同 笑

樋口 モデルから俳優になるのってハードルが高そうに思えるんですけど、どうでしたか?

西田 ホント大根役者で、現場でいつも「ちゃんとやれ!」って叱られて、ダメダメな感じ満載でした(笑)。だから初めのうちは、嫌になったらいつでも戻れる場所がある、戻ればいいって、自分の中でそういう場所を確保しながらやってました。でも、次第にできないのは嫌だと思うようになって。それで続けてこられたんだと思いますね。

樋口 意外に負けず嫌いだったんですね。

西田 そうですね(笑)。

樋口 菅原文太さんも、元はファッションモデルだったんですよね。岩手のインテリお坊ちゃんで早稲田大学に入ったら、手足が長いからって写真のモデルにスカウトされて。俳優になって、戦争から帰ってきた人たちの現場に行ったら、使えないって顔とかボコボコにぶん殴られて、なんで俳優の顔を殴るんだこの人たちは!?ってカルチャーショックを受けたらしいです。

西田 そうなんですか。全然知りませんでした!

樋口 だから、ファッションモデルからここまでになったのは、菅原文太さんと西田さんだけですよ。

西田 そんなことないですよ(笑)。
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「『何も考えなくていい。そんな感情を入れる必要ない』って、全部排除されて演じた」(西田)

樋口 西田さんの初期の作品で、僕の中で印象的だったのが、矢口史靖監督の映画『ひみつの花園』(97年公開)です。短大卒の平凡な銀行員が銀行強盗に巻き込まれて、思いもつかないストーリーが展開されていくという、ひと筋縄ではいかない巻き込まれ系映画ですよね。

西田 ありがとうございます!

樋口 西田さんは矢口監督の作品に多く出られていますよね。矢口監督は、無名の若手俳優を使ってブレイクさせていく人って印象が強いですよね。あの映画ではどんな演出があったんですか?

西田 『ぴあ』と東宝が手を組んで若手の監督を育てるという、低予算のプロジェクトだったんです。最初監督にお会いして、モノローグを読んでと言われて読んだら「違う!  そうじゃない!」って言われて。「何も考えなくていい。そんな感情を入れる必要ない」って、全部排除されて演じた感じでした。

樋口 分かる気がします。西田さん演じる主人公は、簡単な感情移入を拒絶するような役柄だったので。なんだろうこの子は?  って思いました。可愛い主人公なのに、あまりにもハチャメチャな行動をしているから、好きにはなれないんですよ。

西田 矢口さんがどうやったら笑ってくれるんだろうって考えているうちに、矢口さんの真似すればOK出るかも?  って思って、途中からそういう風に変えました。
樋口 見抜いたんですね! それからジャンピングボードになったのは、29歳の時に出演された、沖縄を舞台にした『ナビィの恋』(99年公開)。西田さんの魅力が爆発していて、素晴らしかったです。

西田 ありがとうございます! 撮影では、沖縄の島にずっと閉じ込められて軟禁状態でした。観光もできなくて、休みは雨の日だけだったので、島から出たい〜!ってなってましたね(笑)。

樋口 そうなんですね(笑)。あの作品は、沖縄映画のパイオニアになったと思います。
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「熱演って恥ずかしいって思っているのかもしれないです」(西田)

樋口 先ほど西田さんはNGがないって言ってましたが、この膨大な仕事量をこなしながらも、的確、適切にご自身にふさわしい作品を選択されてきたんじゃないかなと思うんです。

西田 そうでしょうか。ただ、大きいバジェットのものでも、小さいバジェットで若い監督さんのものでも、スケジュールが空いていて、面白そうって思えば、やります。そういう数も含めると、300以上になるのかな?

樋口 そうなんですね。選択が正しくなかったら、次々にニューカマーが現れては消えていくこの世界で30年以上サバイブできないと思います。その術を、僕やLEON読者にぜひ、レクチャーして欲しいです。

西田 それは私が聞きたいくらい!(笑)  どうしたら飽きられないで続けられるかってことを。続けることって大変じゃないですか。

樋口 西田さんは、モデルから女優への転身とか、難しいことをさらっとクリアされているように見えるんです。それに泣きわめくとか、エモーショナルな面を見せるといった、わかりやすい熱演をしないのは、西田さんの美学なんだろうなって思って。平熱を維持する奥深さというか。

西田 そういうのを自分は求められてないって思うからですかね。熱演って恥ずかしいって思っているのかもしれないです。出来れば空気みたいにいたいんですよね。
樋口 なるほど。最後に300本以上出られている作品の中で、印象に残っている監督や共演者、師匠になった人がいたら教えてください。

西田 いっぱいいますけど、やっぱり矢口監督かな。右も左もわからない時に、映画や演技の面白さや、一緒に物を作る楽しさを教えてくれました。

樋口 今後の夢と野望はありますか?

西田 今は、この仕事をずっと続けていくことが夢です。この仕事は楽しいって分かっちゃったから、死ぬまで続けたいですね。

樋口 西田さんは、最後まで謙虚の塊でした! ご自身をよく分かっているようで、どこかでいい具合に自分を放っておいてあげているのが西田尚美流なのかなって思いました。

西田 自分で自分のことを傍観できないから、どういう感じなのかわからないんです。

樋口 それなのにこんなにサバイブできてるんですか!? やっぱり自己プロデュースができているんですね。今日はありがとうございました!

西田 果たしてプロデュースできているのかな!? こちらこそありがとうございました!

【対談を終えて】

この連載も10人目。美女に対して免疫というか、慣れてきたと思っていました。しかし今回の西田尚美さんの可憐さと言ったら……!「き、緊張してます」「えーっ、いっぱい可愛い子と会ってきたんでしょう?」と西田さんに言われて、内腿を擦り付けておろおろする僕は今月50です(キモっ)。

カメラマンの椙本さんの指示に従い、西田さんと目を合わせました。心の中で叫んだよ。「好きになるからやめて下さい!」。正気を保つのに一苦労でした……。(キモっキモっ)

まとめます。西田さんとお話しした日は、2021年いちばんのうれし恥ずかしデー1位でした。主演映画がヒットしますように!

● 西田尚美 (にしだ・なおみ)

1970年、広島県福山市生まれ。CMや雑誌のモデルを経て95年、映画『ゲレンデがとけるほど恋したい。』に出演。97年初主演映画『ひみつの花園』で第21回日本アカデミー賞新人俳優賞他を受賞。近作に映画『凪待ち』『新聞記者』『五億円のじんせい』(すべて2019年)、『空はどこにある』(20年)、『あの頃。』(21年)。テレビでは『半沢直樹』、『にじいろカルテ』、『彼女のウラ世界』(すべて21年)。今後はNHK21年度後期連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、映画『護られなかった者たちへ』、『かそけきサンカヨウ』などがある。最新作は映画『青葉家のテーブル』。

● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/

『青葉家のテーブル』

「フィットする暮らし、つくろう」をテーマに日々の暮らしに寄り添ったさまざまなコンテンツを発信する「北欧、暮らしの道具店」。2018年4月より既に600万回以上再生されている短編ドラマを長編映画化。
シングルマザーの春子(西田尚美)と、その息子リク(寄川歌太)、春子の飲み友達めいこ(久保陽⾹)と、その彼氏で小説家のソラオ(忍成修吾)という一風変わった4人で共同生活をしている青葉家。夏のある日、春子の旧友の娘・優子(栗林藍希)が美術予備校の夏期講習に通うため、青葉家へ居候しにやって来た。そんな優子の母・知世(市川実和子)は、ちょっとした“有名人”。知世とは20年来の友人であるはずの春子だが、どうしようもなく気まずい過去があり…。監督/松本壮史。6月18日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開。
HP/映画『青葉家のテーブル』公式サイト

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