2021.07.19
■山田孝之(俳優)前編
山田孝之「『全裸監督』で日本の映像作品も世界の人に楽しんでもらえるという確認が取れた」
挑戦し続ける「カッコいい大人」たちをクローズアップする今回の特集。最初に登場するのは、話題の作品に俳優として出演するだけでなく、自ら映画監督やプロデューサー、ミュージシャンとしても活躍するなど、社会に新鮮な驚きを与えつつ、クリエイターとしての可能性を広げ続ける山田孝之さんです。
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文/井上真規子 写真/椙本裕子
今回は『全裸監督2』(Netflix)や映画『はるヲうるひと』など話題の作品に俳優として出演するだけでなく、自ら映画監督やプロデューサー、ミュージシャンとしても活躍するなど、社会に新鮮な驚きを与えつつ、クリエイターとしての可能性を広げ続ける山田孝之さんの想いに迫ります。
文句が出ないような場を、自分たちで作ってくしかない
山田 実は「挑戦」とか大きくは捉えてないんです。というのも自分を俳優という枠に入れたら、監督やプロデューサーをやるのは挑戦になるのかもしれないけれど、僕は芝居が好きなだけで「職業=俳優」とは思ってないんです。芝居が好きだからプロデューサーも監督もやるし、表現が好きだから歌も歌う。どんなことでも表現ができればいいという考えです。
それから、やりたくてやっていることもありますが、やらなきゃいけないからやっていることもあります。俳優として、共演者や同世代の俳優と話していると、どうしても疑問や不満が出てくるんです。それはやはりどこかに問題があるということ。でも愚痴をいうだけじゃ何も変わらないからプロデューサーに言ってみるけれど、やっぱり変わらない。だったら文句が出ないような場を、自分たちで作ってくしかないと考えるようになりました。
山田 映画『ゾッキ』では、撮り始めた当初から撮影は何時間まで、撮影の間隔は何日開ける、といった労働基準をしっかり決めました。一緒に監督した斎藤 工くんも、「cinema bird」を自分で手がけていたりして、同じような意識をもっているので、「託児所を作った方がいいよね」って全然違う視点から改善案を出してくれました。世界中を見れば託児所なんてどの撮影所にもあるのに、いまだに日本では女性は妊娠して出産したら仕事に復帰できないんです。それって、遅れすぎてますよね。
当たり前のことが当たり前じゃない業界なので、それを当たり前にしていくべきだと思っています。それには当然お金がかかるし、成功させるのは簡単ではないですが、成功前提で動かないと変わっていきません。まずは自分たちの領域でやって、そこに共感する人たちが、またそれぞれでやっていけばいい。そういう作り方をする人たちがいるということが認識されれば、どんどん環境は良くなっていくと思います。
レッドカーペットを歩いて、俳優ってすごいのかもしれないと思った
山田 15歳からこの仕事を始めて22年経つんですけれど、辞めたくなったことも、死にたくなったことも、いろいろ体験してきました。そして今は、お芝居が大好きだってはっきり言えるんです。だから、これからもずっとやっていきたい。でも業界の環境が悪いから、そう言えない俳優はまだいっぱいいます。
だったら環境を整えて、“映像の世界って憧れるよね”って思ってもらえる世界を作って、輝かせて、入ってくる人たちをどんどん増やしていきたい。「俺は映画作ってるんだ!」「芝居が大好きで一生やっていきたい」って皆が自信をもって言えるような世界にしたいんです。
僕がそう思えるようになったきっかけは、『十三人の刺客』という映画(2010年公開)で、三池崇史監督と役所弘司さんに半ば強引にくっついて行ったヴェネツィア映画祭。レッドカーペットを歩かせていただいたら、観客やマスコミが“誰だかわからない僕”にも、映画人としての尊敬の目を向けてくれたんです。そこが、それなりのことをやってないと、歩けない場所だからです。その時初めて、俳優ってすごいのかもしれないって思ったんです。皆が目を輝かせながら拍手してくれる、誇れる仕事だったんだって。
山田 一度もありません。海外だと例えば、ニューヨークで「撮影でここから2ブロックは通行止になります」ってなったら、みんな「頑張って!」って基本的に温かく見守ってくれる。それが日本だと「邪魔だ!」ってなってしまうんです。映画なんて遊び、ただの娯楽だろって。
でも俳優もスタッフも、限られた予算・時間の中ですごいことをやっていると思います。だからもっとちゃんと光が当たってほしいんです。そういう映像の素晴らしさが日本中にもっと根付いて、皆が“映画に救われてる”って感じられる場が増えていけばいいなと思います。
山田 きちんとした作品が表に出る前の発表・製作段階で、これだけ歴史のある「SSFF & ASIA」に一緒にやりましょうと声をかけてもらって、さらにこれだけの人や企業が集まってくれて。僕らのやっていることを素晴らしいと思ってくれる人がたくさんいるんだ、ということを実感しました。結果は出てきているので、その都度意味は感じていますね。
『全裸監督』は日本の作品が、世界でどういう評価を受けるか知りたかった
山田 『全裸監督』は挑戦というより、確認ですね。日本の映像作品って、今は残念なことに国内でも国外でクオリティが低いと認識されてしまっている。でも、果たして本当にそうなのか? と。『全裸監督』の依頼が来た時、190カ国で配信されると聞いて、日本語・日本の題材・日本のスタッフ、キャストで作った作品が、世界でどういう評価を受けるのか知りたいと思ったんです。
結果的に、世界の人がシーズン2を見たいと言ってくれたわけですから、日本の映像作品にも多くの人に楽しんでもらえるクオリティがあるんだという確認が取れました。これは、映像制作に関わった人間全員の自信につながったと思います。そして、これから「もっと気合い入れて、面白いものを作るぞ!」ってどんどん作品を作って、国外に出していけば、マーケットも広がっていきますよね。
予算のことも考えていく必要があります。『全裸監督』はNetflixJapanの制作でしたが、最初は予算がかけられない作品でも、質の高いものを作れば、続編で後から回収できる可能性も広がっていきます。始めから世界に向けてじゃなくても、アジアを目指すところからだっていい。そういうことも全部理解したうえで、作品作りをしていかなきゃいけないと思っています。
山田 「MIRRORLIAR FILMS」のようなプロジェクトを進めたり、現場でプロデューサーとして立つときは、全体を俯瞰して見ていく必要があると思います。俳優的な思考で「この映画はこうだから!」と感情的に考えるのではなく、もっと頭を柔らかくして、外に出していく意識で考えるということです。
逆に俳優は、俯瞰しすぎると役に入り込めなくなるのでバランスが求められますが、ただ演じておけばいいというわけでもなくて。ある程度は俯瞰して、撮影の進め方や現場の空気、プロモーションはどうしていくか、といったことをみんなと一緒に考えることも重要です。もちろん宣伝部なり、各分野のプロフェッショナルがいるのでお互いに協力しあってく中で、ということです。
※後編(こちら)に続きます。
山田孝之(やまだ・たかゆき)
1983年10月20日、鹿児島県出身。1999年に俳優デビュー。TVドラマ『WATER BOYS』『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』『信長協奏曲』『山田孝之の東京都北区赤羽』、映画『クローズZERO』『闇金ウシジマくん』『50回目のファーストキス』『はるヲうるひと』など数々の作品に出演。映画『ゾッキ』(2021年)で竹中直人、斎藤 工と共同監督を務めた。Netflix配信ドラマ『全裸監督』(2019年)、『全裸監督シーズン2』(2021)も大きな話題に。
HP/TAKAYUKI YAMADA OFFICIAL (stardust.co.jp)