2021.08.11
■村上虹郎(俳優)
村上虹郎、24歳はなぜ圧倒的な色気とエネルギーを放出できるのか?
「挑戦し続ける大人はカッコいい」をテーマに、果敢に挑戦を続ける方々にお話を伺っている「大人の“カッコいい”を取り戻せ」特集、第3弾。最後にご登場いただくのは若干24歳にして映画、ドラマ、舞台、と各方面からオファーの絶えない若手実力派俳優、村上虹郎さん。繊細かつ大胆な演技で観る者を圧倒する俳優の素顔に迫ります。
- CREDIT :
文/井上真規子 写真/椙本裕子 スタイリスト/Tsuyoshi Nimura(hannah) ヘアメイク/TAKAHIRO HASHIMOTO(SHIMA)
シリーズ最後にご登場いただくのは、デビュー7年目、若干24歳にして映画、ドラマ、舞台、と各方面からオファーの絶えない若手実力派俳優、村上虹郎さん。瑞々しさと色気を兼ね備えた独特の存在感を放ち、繊細かつ大胆な演技で観る者を圧倒するそのエネルギーは我々オヤジ世代にも大きな刺激を与えてくれます。インタビューでは、村上さん自身の俳優に対する想い、8月20日に公開となる映画『孤狼の血 LEVEL2』での撮影秘話、プライベートでの話までたっぷり語っていただきました。
「僕はすごい夜行性。夜にお店がやってないって本当にストレス!」
村上 自分ではよくわからないんです。みんなも言ってくれないんですよね。撮影が終わって、監督がインタビューで「村上くんのココがこういいんです」って答えてくれるじゃないですか。「なるほど、でもインタビューだしな」みたいに思っちゃいます(笑)。
村上 成長しているなという感覚はけっこうあります。以前はクランクアップの数日後に次の現場入って、みたいな仕事も珍しくなくて、現場でただ消費しているような時もあって、それはすり減ってる感じがして嫌だったんですけど。今回の『孤狼の血 LEVEL2』は、撮影前に予定していた舞台がコロナでキャンセルになって準備期間がけっこうあったんです。マネージャーやチーフからは「こんな機会は一生ないと思った方がいい」って言われたくらい。
それでも自分としてはもっと時間が欲しいと思いましたし、将来的に役者として学びもある程度深まってきて、少し余裕が出たら自分で企画もやって、出演する作品も自分で選んでいけるようになったらいいなと。そのためにも役者として、もっと上に上がっていきたいんです。あとは作品に関わっていない、自分自身でいる時間もある程度必要だなと思います。そこのバランスはシビアに考えつつ、できるだけ自分のペースでやっていきたいですね。
村上 というより、今はコロナもあって、こういう時代だし、コミュニケーション不足なんです。仕事でも、昼に会議室で2~3時間打ち合わせすれば話はできるけど、人と人の関わりって本来はそうではないですよね。
例えば、朝陽が出るまで一緒にいて肉体的に疲れて出てくる言葉とか、肉体的に時間を共にした時にしか生まれない関係性や信頼感みたいなのってあると思うんで。それがないのは、相当なロスだなと。自分のこの歳の頃に、プライベートも含めてそういう関わり合いが失われているのは本当に悔しいですね。僕はすごい夜行性で、夜に稼働することが大好きなので、夜にお店がやってないってことも本当にストレス!
—— お酒の場がお好きなんですね。
村上 そういう場は好きですが、基本、お酒はほとんど飲まないんです。小さい時から酒飲みといたから(笑)。相手に気を遣われてしまうので多少は飲みますけど、飲まなくても朝までいけちゃいます。お酒の場では自分が騒ぎたいんじゃなくて、みんながワイワイ飲んでる中で「楽しそうだな〜」って静かに傍観しているのが好きなんです。
静かなところにいると落ち着かなくて外に出たくなるけど、うるさいところ行くと帰りたくなる。天邪鬼ですよね(笑)。だから家に帰りたくなりたいために酒の場に行くって感じです。ずっと家にいると自分が崩れてくる感じがするし、まだ落ち着きたい歳でもないので。
「今の時代のヤクザ映画は普段の演技とは違う筋肉が必要になってくる」
村上 すごくうれしかったですね。ヤクザ映画はVシネを見るほど詳しくはないですが『GONIN』や『シャブ極道』、(北野)たけしさんの任侠映画なんかも好きでよく見ていましたし。でも、自分のキャラクターや年齢的に、ヤクザ映画に出るイメージってあまりなかったんです。歳を重ねて、もっと顔に皺ができた頃にようやくオファーが来るんだろうって感じで諦めていました。だから今回出られることになって、良かったなと。
—— 普段の生活とはかけ離れた役柄ですが、役作りではどのように距離を縮めていったのですか。
村上 それは僕だけではなくて、今の時代の課題ですよね。というのも、半世紀も前のヤクザ映画が全盛だった時代は、実際にヤクザと関係がある人やそれに近いような本当の不良がヤクザを演じていたって聞いたこともあって。どこまで本当なのかはわからないですけど。でも今の時代にその部分のリアリティをもたせるのはもはや不可能ですよね(笑)。社会の目も厳しくなっているし、一般の世界でも不良は生きづらい時代だと思うので。
今でも、ここ20~30年ぐらいのヤクザ映画の時代を知っている寺島(進)さんみたいな先輩もいらっしゃいますけど、『孤狼の血』の初作に出演した江口(洋介)さんや竹野内(豊)さんもヤクザを演じるのはほぼ初めてだったそうですし、(松坂)桃李くんなんかはこういう作品に一番出てこなかった人ですよね。
そういった不良イメージのない役者が本気でヤクザ映画に取り組んで、その中でどこまで尖れるか、どれだけ雑味を出せるかっていう時代になっている。でも、それは、すごく面白いことだなと思います。そのためには不良っぽさを纏うだけでは古すぎるし、普段の演技とは違う筋肉が必要になってくる。そうやって、みんなそれぞれが違ったアプローチで演じているというのは、すごく勉強になりました。
「シンプルに圧倒的なエネルギーを放出すればいいのかなと」
村上 チンタは確かにいろんなものを抱えていて大変なヤツなんです。でも迫力のある役ではないので、自分の中で「150%出すつもりで行くしかない」って思って取り組みました。現場に行くまでは不安でしたけど、行ってみたらなんとかなるかなって。ヤクザってある意味、シンプルですよね。生き方そのものがシンプルだし、演じる方もそのまま圧倒的なエネルギーを放出すればいいのかなとも思っていて。エネルギーが足りるか、足りないかだから、そういう意味では難しくは考えなかったかもしれないですね。
—— 白石和彌監督から、演技指導はありましたか?
村上 ないですね。『孤狼の血』チームは、OKが早くて、テイクを重ねない現場なんです(笑)。すでに初作が成功していて、「孤狼とはこういうものだ」ってしっかり定義もあるので、現場も、スタッフさんたちも、完全に仕上がっているんです。僕たちは、そこに乗っかっていくだけという感じでした。
村上 撮影した時は、ちょうど広島初のクラスターが起きた時で、緊急事態宣言とも重なっていたので、みんなピリピリしていました。本来ならば撮影自体できなかったと思うんですけど、初作の評判が良かったので地元の方たちになんとか許可をいただくことができたんです。そんな中、東映さんの粋な計らいで、呉の街にシェフを招いて「孤狼居酒屋」という仮設のお店を作ってくれて。みんな1日一回はそこに集まって、飲んだり食べたりしてました。
お陰で、こんな時代にしてはみんなすごくコミュニケーションを取っていたと思います。斎藤工くんなんかも、撮影日数は多くなかったと思いますけど、いる間は毎日来てくれて。僕は、とくに(鈴木)亮平さんとたくさん話しましたね。亮平さんは話しかけたらなんでも答えてくれて、すごくフランクな方なので。
※後編(8月12日公開予定)に続く
●村上虹郎(むらかみ・にじろう)
1997年3月17日、東京都生まれ。父は俳優の村上淳、母は歌手のUA。2014年映画『2つ目の窓』(河瀨直美監督)で主演を務め俳優デビュー。この作品で第29回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。映画『武曲 MUKOKU』(2017)で第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。他に映画『銃』(2018)、『ソワレ』(2020)、舞台『書を捨てよ町へ出よう』(2015)、ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2015)、『この世界の片隅に』(2018)、『今際の国のアリス』(2020)『全裸監督シーズン2』(2021)、舞台「マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』(公演中。~8/31。地方公演あり)など。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年後期)の出演を控えている。
『孤狼の血 LEVEL2』
柚月裕子の同名小説を原作に、広島の架空都市・呉原を舞台に警察とヤクザの攻防戦を描いて高い評価を得た、白石和彌監督による『孤狼の血』の続編。前作で殺害された主人公の刑事大上(役所広司)の下で働く新人刑事として登場した日岡秀一(松坂桃李)が主人公となって、3年後の物語が完全オリジナルストーリーで展開する。村上虹郎は兄のように慕う日岡のスパイとなって上林(鈴木亮平)が組長を務める上林組に潜入する近田幸太(通称・チンタ)を演じた。他に西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦他が出演。8月20日より全国ロードショー。