2021.10.18
注目の俳優、笠松 将「本当にクールなのは笑顔の人」
コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナはいい笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて皆で笑顔について考える特集です。今回は注目の若手俳優、笠松 将さんに話を伺いました。
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文/岡本ハナ 写真/トヨダリョウ スタイリスト/徳永貴士 ヘアメイク/松田陵
僕のことをクールだなんてきっと誰も思っていない
── とはいえ、知らない人にとっては……。
笠松 そうですよね。僕が「ん?」(顔をしかめる)とやっただけで、怖がられるというのは学生の頃から経験していましたから(笑)。いい印象をもたれないんです。そこは自覚しています。だから、ときには「ん?」(アゴを突き出した変顔)とやってみたり。ま、場が和むための手段として(笑)。
── 面白過ぎです(笑)。そんな笠松さんにとって「笑顔」とは?
笠松 これは25歳の時にふと思ったんですけど、機嫌が悪い人、怒ってる人はカッコ悪いなと。やっぱり笑ってる人って余裕があるじゃないですか。例えば現場が大変な時に「大丈夫だよ」と笑顔でいる人って素敵ですよね。 『全裸監督2』の現場でも、國村隼さんやリリー・フランキーさんとか、皆さんとても優しくしてくださって。
若い俳優が多い現場だとお互いがライバルという雰囲気もあるし、作品の空気をつくるために、カメラが回っていない時も演じるキャラクターを保っているという風潮もあります。でも、大人の俳優たちがいる現場では、自分達でスイッチを切り替えられているので、和やかなんですよね。心に余裕があるから普段からギスギスしていない。世間一般では「無表情=クール」という認識ですが、僕が思うに本当にクールな人は笑顔の人。振り返ってみると「カッコいいな」「この人、余裕があるな」と思う人は、みなさん笑顔なんですよ。
空回りの熱意でどんどん負のスパイラルにハマっていった
笠松 思います。でも、それは簡単ではないです。僕は高校卒業後、俳優を目指して上京したのですが、正直、なかなか芽が出ませんでした。
若い俳優たちが戦隊ヒーローとかでたくさん活躍しているから、自分もすぐ人気者になれると思っていたけれど……そうはならなかった。20代前半くらいまでは、オーディションで受からないと次の仕事がないという状態。その後、バイトはせずに生活していくことができるようになっても、ずっとギリギリで。それが人生で初めての挫折でした。
その頃は、演じるキャラクターや台本に対して思うことがあっても、監督に相談することもできなかった。言えたとしても、若さゆえに伝え方が下手くそだから、距離ができてしまってオシマイ。
熱意が空回っている時って、自分でも気づかずピリピリしているので、当然うまくいくはずがないんです。さらに悲しいことに、撮影現場で心を分かち合った仲間がいないから、作品が公開される頃には孤立してしまうという負のスパイラルができてしまっていました。
── 良かれと思っていることがすべて裏目になってしまったんですね。
笠松 当時の僕は、どうにか面白いと思ってもらわないと次に繋がらないと、体当たりの「一生懸命」でした。ただ、その負のスパイラルを経験してから自分自身に問いかけ、打開策を考えたんです。それは、最初のステップを柔らかくすること。熱くなってしまうところでも冷静さを保ち、笑顔を交えながら本気で伝える。すると、みんなが受けいれてくれることが分かったんです。
笑顔でいることで何事も順調に進む
笠松 はい。熱さや勢いだけのコミュニケーションは、相手に不快な思いをさせるだけではなく、自分自身も含めて誰も得をしないことに気がつきました。笑顔があるだけで、突拍子のない僕の意見でも「面白いかもね」と言って採用してくれることがあって、人と向き合ってコミュニケーションを深めるには、笑顔が必要なことを実感したんです。
現場が柔らかい空気だと、名前で呼びやすくもなりますよね。名前を覚えてもらえるってすごくうれしいです。笑顔の先には、そういう関係性も生まれてくるって思うんです。作品公開後も「あのアイデア面白かったよ」と連絡をいただいたこともあり、笑顔でいること、そして心に余裕をもつことは大切だと実感しましたね。
── なるほど。いい作品を作るためには、自分だけの努力だけではなく共演者やスタッフとどうスムーズなコミュニケーションをとっていくかが大切。そこで「笑顔」の大切さがわかったと。
笠松 俳優業は個人プレイだと思われがちですが、僕は違うと思っています。もし役者一人だけでいい作品が作れるというのであれば、「この俳優が出演している作品、前作は良かったけど今作はそうでもないな」といったことはありえない話になりますから。
どんなにすごい監督や俳優でも作品に対する評価は人それぞれ。誰かと繋がって作品づくりを進行するからこそ、いい作品をつくるためにはお互いの信頼関係が必要不可欠なんです。その中で、笑顔というのは相手に対して好意的に思っていることが伝わる最強のコミュニケーションツール。絶やさず笑顔でいることはいい作品づくりにも繋がってくるはずです。
与えられた人生の時間なのだから一生懸命やった方が面白い
笠松 上京して10年の間は出来ないことだらけでした。「オーディションが受からない」「CMやったことがない」「バラエティにも出演したことがない」といったように出来なかったパーツが細分化されていて、今はまだそれらをひとつずつ埋めている段階なんです。だから成功しているという思いもない。いくらでもやることがあるから、走り続けられているという感じでしょうか。
僕は負けず嫌いなので、このコンプレックスこそが原動力になっているんです。ただ、人間誰しも、いいことがあれば悪いことがあると思っているので。人生の中で経験するすべてが成長のためだと言えばカッコいいのですが、シンプルに「与えられた人生の時間なのだから一生懸命やった方が面白い」と思って、何事も本気で楽しみながら向き合っているし、今というこの瞬間が自分にとって最高の時だとは思っています。
── 他人に評価されることは興味ないですか。
笠松 他人というか、ネットなどの評価は気にしないようにしています。会ったこともない人が言ったことに振り回されるのはやめようと(笑)。
生意気に思われるでしょうが、僕は演技をする俳優を仕事にしているからこそ、演技が上手なことが当たり前であって基本だと思っています。……かと言って、前述に戻りますが楽しいことばかりあるわけではないので、そういう心持ちでやっていても撮影に臆する自分が垣間見えることもあります。でも、そんな時には、あえて威勢をよくして弱い自分にも打ち勝てるようになりたい、と自分を奮い立たせています。
抗っている瞬間の積み重ねが一番美しい
笠松 いえ、それで言うと反対ですね。僕が一番僕のことを厳しい目で見られるようになりたいです。公開された作品でも、こうしておけばよかったと思うこともあります。台本を読んでいる時や、イメトレをしているなかでさえも、「そんなんでいいの?」と、もう一人の自分の声が聞こえてきたり……極端に追い詰める自分がいるから、気がひきしまって常にモチベーションを保てているのかと。基本的に自分に厳しいのですが、時にめちゃくちゃ褒める自分もいる。お前天才だよって(笑)。
── 先ほど、できなかったパーツを埋めているという話がありましたが、そういう結果が欲しい、結果を出した自分に価値があるということでしょうか。
笠松 いや……結果を出した自分に価値があるのではなくて、結果が出せなかったことに抗っている自分に一番価値があるんです。でも、過程が欲しくてやっているわけではないので、もちろん結果は求めます。僕にとって、抗っている瞬間の積み重ねが一番美しいんです。
大人の社会では、学生の頃と違って周りと競い合わなければならないことが多々あります。勝負の相手が自分自身だったりもするのですが、何にせよ特化しなくてはいけなくなる。そのシビアな環境の中で、さらに一番を獲るとなると非常にしんどい。自分の仕事に真正面から向き合い、本気でやっていることが一番おもしろいんです。
笠松 もちろん疲れますよ。でも、いい意味でさぼっています。よく言えば、「引き算」をしています。もちろん台詞を覚えないとかではなく(笑)。例えば、家に帰ってくるシーンの台詞で「ただいま」のひと言をパワー全開に言ってもきついでしょう(笑)。演技の中で、おさえておかなければいけない箇所を見極めたいと思っていて。それ以外はバランスを取りたいんです。でも、大泣きしたり暴れ回るシーン、他にもセリフが長かったり、カメラワークが大変なシーンは、スイッチをバチッと入れます。
まだまだ出来ていないと思うことは山ほどあります。悔しいけれど、いくらでも上があるんです。でも、年齢に関係なくリミットがないので挑戦し続けることができる。これからも笑顔を絶やさず走り続けますよ!
●笠松 将(かさまつ・しょう)
1992年11月4日生まれ、愛知県出身。B型。2020年、『花と雨』で長編映画初主演。主な最近の出演作は、ドラマ『君と世界が終わる日に』(日本テレビ)、ドラマ『全裸監督2』(Netflix)など。現在、ドラマ『エロい彼氏が私を魅わす』(FOD)が配信中。映画『君は永遠にそいつらより若い』、映画『DIVOC-12』が公開。待機作に、ドラマ『岸辺露伴は動かない』(2021年12月)、主演映画『リング・ワンダリング』(2022年2月)、ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』(2022年春)など出演作品が多数控えている。
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