2019.02.16
【四国・徳島・阿波】大人の四国旅、穴場巡りなら、ココです!
日本にもまだまだ知られていない素敵な場所がある。今回LEON.JP 副編集長が訪れたのは、徳島のにし阿波地区。平家の落人伝説と、祖谷のかずら橋で知られる土地。そこで、発見した大人のラグジュアリー体験とは?
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取材・文/高橋大(LEON.JP 副編集長)
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にほん昔話みたいなところで出会った大人のラグジュアリーとは?
でも、それだけではないのかも? と考えさせられた場所がある。
そこは一見するとラグジュアリーとはまったく無縁のような場所。
にし阿波地区というところで、徳島県西部の2市2町(美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町)からなるエリアをいう。古く平家が落ち延びたという伝説がある土地で、山肌に集落が点在し、その数はおよそ200近い。山間の集落は日本では珍しくないが、これだけの数が点在している地域は世界的に見てもまれだという。その場所へ、プレスツアーで行った。
地方創生が叫ばれて久しいが、成果はまだまだ見えづらい。ところが、地方の自治体単位ではさまざまな試みを仕掛け、新しい地域のあり方を模索している。
今回のツアーもその一環だった。印象に残ったのは、音頭を取っているのが自治体だけではなく、その地区に住み付いた若い人たち、ということだ。今回ツアーガイドをしてくれた榮さんも、そのひとりで、大阪出身で役者を目指し東京で暮らしたこともあるという。
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ずっと住んでいる人たちからすれば当たり前のものが、外から見ると非常に珍しく、価値があることに気づくことはままある。まさに榮さんの場合もそれだ。
初日は美馬で集落の暮らしぶりと、うだつの街並を訪れた。
うだつの街並は、特別珍しいものではないが、なかなか立派な家が多く、この地域が昔栄えていたことがよくわかる。
ちなみに阿波といえば、ファッションにもなじみがある。何かというとインディゴ、つまり藍の産地なのだ。
以前、鳥取で200年続く藍染工房を取材したことがあるが、そこでも使っている藍は阿波産だった。江戸時代には阿波の藍は全国に流通し、一大産業として地域を潤していた。
そのなごりがうだつの街並ということだ。いまはひっそりとした観光街だが、新しい動きもあるという。ITをベースとするベンチャー企業がこの地に拠点を構え、古民家を利用したモダンなカフェや宿泊施設を作るなど、若い感性で地域を活性化させているのだ。
ここでも新しい人の流れと視点がブレイクスルーの鍵になっているのが印象に残った。
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世界が注目する日本古来の伝統ワザ
事前にその名称は聞かされていたものの、棚田のようなものを想像していた。だが、実際に目にするとそれは本当の傾斜地だった。最大のところでは斜度は40度近くあり、その場所に立つとスキー場の上級者コースのような勾配がある。その斜面で農業を営んでいるというのだ。
いろいろと疑問がわく。土が流れちゃわないのか? そもそも作物が育つのか?と。
「この地域は昔からこの土地で作物を育てているので、作物の植え方で土が流れないようにしたりと、独自のノウハウがあるんです」と町の担当者が教えてくれる。
一番のキモは土の上に敷く茅にあるそうで、干した茅を農地全体に敷き土と混ぜることで、水分を保ち、土の流出を防ぎ、さらには肥料の役目までも担うそうだ。その農法は知られているだけでも400年は続けられているそうだが、正確なところは不明で、相当に古い時代から伝承されているのではないかと推察されている。農地の特殊性から、農具も特注品で、それらを作る鍛冶もいまやたったひとりという。
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この土地で採れるジャガイモは小粒で、味がとても濃厚だ。品種が特別なわけではないそうで、試しに同じものを平地で育ててみたら、普通の大きさになり味も普通だったらしい。
なので、商品化して都会に流通したくても出来ないのだと町役場の担当者は苦笑いをしていた。
でも、僕からするとこの場所でしか味わえないものが、これだけ流通の発達した現代の日本にもある、ということが担当者には申し訳ないがうれしかった。もちろん、子細に見ていけばそういうモノはまだまだいくらでもあるのかもしれない。だけど自分がその土地に行って実際に出会うとなんだか特別な感じがして「来た甲斐」を感じる。旅の喜びというのは、そんな小さな出会いにあったりするものだ。
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その場所でしか体験できない時間はやっぱりラグジュアリーなのだ
観光地として有名な落合集落を眺めながら、どうしてそう見えるのだろうと考えているとガイドの榮さんが教えてくれた。
「よく見ると集落部分が山の傾斜から少しずれているのがわかります。 じつは、こういった集落が作られている場所は、地滑りした土地なんです。だから傾斜がすこしなだらかで、家を建てたり畑を作りやすいんですね。さらに一度滑っているから、地滑りの危険も少なく、地滑りを起こしたということはそこに地下水脈があり、水を確保できる場所ということなんです」
ここに集落を築いた人たち(平家の落人たちという伝説もある)は、ブルドーザーやボーリングという道具や技術が無い時代に、その地形から安定した地盤、地質、水、などの情報を読み取っていた。その事実に、この景色がもつ独特の調和の理由がわかった気がした。そしてその先人たちの知恵を素直にすごいと思った。
そんな山間の風景や集落の空気を堪能できる宿が外国人に人気らしい。僕が訪れたのは、もともと地元で運転手をしていた中山伸介さんの営む比較的最近オープンしたという古民家宿「紺屋」。といっても、その建物自体は築100年というから、新しい宿と言っていいのかどうか。ともあれ、その宿の縁側に座ると目の前にはにし阿波の連なる山の風景がパノラマで広がる。
訪れたときは雨模様だったが、山間をゆっくりと雨雲が流れていく様は幻想的で、日本昔話の世界に迷い込んだような気になった。そう伝えると、中山さんは「雨の日が実はおすすめなんです」とちょっと誇らしげだった。
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なぜなら、そこに価値を見いだすのは、先にも書いたようによそ者の役割だからだ。
最終日は祖谷を訪問し、3日間のにし阿波の旅は終わった。
誤解を恐れずにいえば、ここでの時間を僕はラグジュアリーだと感じた。
高級ホテルや、都会のシェフが腕を振るった料理、高級旅館、それらが提供してくれるものと等しく、ラグジュアリーだと感じた。それはちょっとした発見でもあった。
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残念ながら僕にはその解決方法はわからない。だが、またここを訪れたいと強く思った。地域の観光産業に微力ながら貢献したい、なんていうおせっかいな理由からではない。ただ、あのラグジュアリーな時間をもう一度味わいたいという単純な動機からだ。地元の人にはしかられてしまいそうだが、そんな「軽いノリ」をもっと大事にしていいと思う。情報過多な現代人は行動前にあれこれ考えすぎる。かくいう私も旅先の選定で徹夜してしまうタイプなんだが。旅はノリでいい、はずだ。
ちなみに最終日に訪れた三好市の祖谷(LEON.JPでも紹介したあの祖谷のかずら橋がある場所。ご存じの人も多いだろう)は観光地としてすでに成功していて、かずら橋には年間36万人もの人が訪れているという。うち5万人は外国人というから、やはり外からの視点というのは、あなどれない。