2019.02.05
志摩観光ホテルが、あなたの“特別なホテル”になる理由とは?
志摩半島の南端、英虞(あご)湾に面した高台に建つ志摩観光ホテルは、素晴らしい眺望と料理で知られる日本を代表する老舗観光ホテルだ。訪れた誰もが再訪を誓うという、その特別な魅力の秘密を探ってみた。
- CREDIT :
文/森本 泉(LEON.JP) 写真/森浩輔
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何がそんなにいいのかと聞くと、自然がいい、食事がいい、サービスがいいと言う。けれど、それだけなら箱根にも伊豆にも良い宿はいくらでもある。友人がもうひとつ付け加えたのは建築の素晴らしさだった。
なるほど、志摩観光ホテルの旧館(現「ザ クラブ」)と新館(現「ザ クラシック」)は“東の丹下(健三)、西の村野”と並び称された昭和を代表する建築家、村野藤吾の手によるものだ。彼の作品が老朽化によって次々と失われていくなか、文化的な価値を考慮して当時の建築を大切に守り続けているこのホテルは、確かにそれだけでも見に行く意味がある。
その志摩観光ホテル、通称“シマカン”をようやく訪れることができた。東京から名古屋を経由して、近鉄観光特急「しまかぜ」の終点である賢島(かしこじま)駅に降り立ったのは、少し寒さの緩んだ旅行日和の冬の午後だった。
美しい英虞湾を見下ろす高台に建つ歴史ある観光ホテル
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元は鈴鹿にあった旧海軍クラブの建物を移築してロビーや食堂に充て、25の客室を新たに造った。その旧舎が村野藤吾の作だったことから、ホテル全体の設計も彼が担当することになったという。
真珠養殖の一大産地としても知られる美しい湾を見下ろす高台にできた小さなホテルは、昭和天皇、今上天皇をはじめ多くの皇族や文化人、地元の名士たちに愛されてきた。たとえば作家の山崎豊子が定宿として『華麗なる一族』など多くの傑作を残した事はよく知られている。
「ザ クラシック」のプレミアムスイートの客室。木のぬくもりが感じられるくつろぎの空間。
「ザ クラシック」プレミアムスイートのビューバスからは英虞湾の景色を眺めることができる。
「ザ ベイスイート」の「スーペリアスイート ツイン」。100平米の広々としたスペースで寛ぎの時間を過ごすことができる。
「ザ ベイスイート」の「スーペリアスイート ツイン」のビューバスからは英虞湾に沈む夕日が楽しめる。
「ザ クラシック」のプレミアムスイートの客室。木のぬくもりが感じられるくつろぎの空間。
「ザ クラシック」プレミアムスイートのビューバスからは英虞湾の景色を眺めることができる。
「ザ ベイスイート」の「スーペリアスイート ツイン」。100平米の広々としたスペースで寛ぎの時間を過ごすことができる。
「ザ ベイスイート」の「スーペリアスイート ツイン」のビューバスからは英虞湾に沈む夕日が楽しめる。
その理念はいまも引き継がれている。ホテルでは宿泊客に、この土地ならではの魅力を存分に味わってもらうことを使命と考え、宿の内外に多くのアクティビティを用意している。今回はそのうちのいくつかを経験させてもらった。
海上でホテルラウンジのような時間を愉しめる英虞湾クルーズ
船はソファ席となっていて、ゆったりとクルーズが楽しめる。デイクルーズ(9:00~16:00)は12名で2万1600円(1時間)。
サンセットクルーズでは、日本の夕景100選にも選ばれた英虞湾の雄大な夕陽の眺めを楽しめる。11名3万2400円(1時間)。
クルーズ料金+1名5400円でスパークリングワインとフィンガーフードのついた船上パーティープランも用意されている。
船はソファ席となっていて、ゆったりとクルーズが楽しめる。デイクルーズ(9:00~16:00)は12名で2万1600円(1時間)。
サンセットクルーズでは、日本の夕景100選にも選ばれた英虞湾の雄大な夕陽の眺めを楽しめる。11名3万2400円(1時間)。
クルーズ料金+1名5400円でスパークリングワインとフィンガーフードのついた船上パーティープランも用意されている。
ゲストラウンジは沈みゆく夕陽を大パノラマで見られる特等席
「ゲストラウンジ」内の「リスニングルーム」は完全防音のため高級オーディオで高音質の音楽が楽しめる。
「ゲストラウンジ」内の「リーディングルーム」。写真集や単行本、文学作品など、地域に因んだ本も色々揃っている。
「ゲストラウンジ」にはお菓子やコーヒー、紅茶、ソフトドリンク、アルコールなどが用意されてセルフスタイルでいただける。
「ゲストラウンジ」の長いカウンターテーブル。景色を眺めながら読書や会話が楽しめる。
「ゲストラウンジ」内の「リスニングルーム」は完全防音のため高級オーディオで高音質の音楽が楽しめる。
「ゲストラウンジ」内の「リーディングルーム」。写真集や単行本、文学作品など、地域に因んだ本も色々揃っている。
「ゲストラウンジ」にはお菓子やコーヒー、紅茶、ソフトドリンク、アルコールなどが用意されてセルフスタイルでいただける。
「ゲストラウンジ」の長いカウンターテーブル。景色を眺めながら読書や会話が楽しめる。
昭和の名建築家、村野藤吾の作り出した和モダンを楽しむ
「旧館」の食堂は現在、カフェ&ワインバー「Lien(リアン)」として営業。開業時の村野藤吾による意匠を色濃く残している。
「Lien(リアン)」ではワインの他、各種カクテルやウイスキーなども楽しめる。
茶室「愚庵(ぐあん)」。開業時に川喜田半泥子により命名された。茶会などを不定期に開催している。
「ザ クラブ」に設置された和紙作家、堀木エリ子氏による「光壁」。柔らかい光が心地良い空間を作っている。
「旧館」の食堂は現在、カフェ&ワインバー「Lien(リアン)」として営業。開業時の村野藤吾による意匠を色濃く残している。
「Lien(リアン)」ではワインの他、各種カクテルやウイスキーなども楽しめる。
茶室「愚庵(ぐあん)」。開業時に川喜田半泥子により命名された。茶会などを不定期に開催している。
「ザ クラブ」に設置された和紙作家、堀木エリ子氏による「光壁」。柔らかい光が心地良い空間を作っている。
さらに館内には歴代の支配人が集めたと言われる名画の数々が、自然な佇まいで飾られている。藤田嗣治や小磯良平、ベルナール・ビュッフェなど値段を聞くのもはばかられる名品が、あまりにさり気なくに壁に掛けてあるのは、客への信頼を示す証のようにも感じられて面白い。
豊穣な土地の恵みを生かした独創性溢れるフレンチ
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「伊勢海老ソテー 伊勢沢庵風味のベルモットソース」。地元産の沢庵をソースに絡めた樋口シェフの豊かな発想がうかがえる一品。
「鮑ステーキ こがしバター風味の軽いソース」。鮑は肉厚なのに驚くほど柔らかい。
「伊勢茶の香りをまとわせた松阪牛フィレ肉 鰹のコンソメ添え」。伊勢茶を使って燻した松阪牛に地元産の鰹の香りを移したコンソメスープを注いだひと皿。
「伊勢海老ソテー 伊勢沢庵風味のベルモットソース」。地元産の沢庵をソースに絡めた樋口シェフの豊かな発想がうかがえる一品。
「鮑ステーキ こがしバター風味の軽いソース」。鮑は肉厚なのに驚くほど柔らかい。
「伊勢茶の香りをまとわせた松阪牛フィレ肉 鰹のコンソメ添え」。伊勢茶を使って燻した松阪牛に地元産の鰹の香りを移したコンソメスープを注いだひと皿。
そんな樋口シェフは、フランスに修業に行ったこともなく、出身も三重とあって、ほぼこの地だけでフランス料理を学んできたと言うから驚きだ。自称○○帰りのシェフが幅を利かせる業界にあって、あえて国内に留まった彼女が、こんなにも素晴らしい料理を作るというのは、何やら痛快な気がしなくもない。
美食で地域を活性化するさまざまな試み
そのローカル・ガストロノミーの試みは、ホテルの中だけでなく、地域の食材を体感するアクティビティにも組み込まれている。
海女さんが実際に採ってきた魚介を中心に、網焼きで提供する。さざえが焼けてきました。
獲れたてさざえ、ぷりぷり桧扇貝、新鮮スルメイカ、漁師町の干物というラインナップ。
こうやって海女さんが目の前で焼いてくれる。とっとと食べないと怒れられます。
ひじきの釜飯。よく味が染み込んでいて、あおさの味噌汁と一緒にいただくといくらでも食べられる。
取材の前日に70歳を迎えたという海女の三橋まゆみさん。お肌もつやつやの美人さんだけどちょっと毒舌キャラ。
海女小屋の外観。本来は海女さんが囲炉裏を囲みながら、海で冷えた身体を温め、休息する小屋。
海女さんが実際に採ってきた魚介を中心に、網焼きで提供する。さざえが焼けてきました。
獲れたてさざえ、ぷりぷり桧扇貝、新鮮スルメイカ、漁師町の干物というラインナップ。
こうやって海女さんが目の前で焼いてくれる。とっとと食べないと怒れられます。
ひじきの釜飯。よく味が染み込んでいて、あおさの味噌汁と一緒にいただくといくらでも食べられる。
取材の前日に70歳を迎えたという海女の三橋まゆみさん。お肌もつやつやの美人さんだけどちょっと毒舌キャラ。
海女小屋の外観。本来は海女さんが囲炉裏を囲みながら、海で冷えた身体を温め、休息する小屋。
伊勢神宮に奉納された名産の鰹節を昔ながらの製法で
かつおの天ぱくが実際に今も使っている鰹いぶし小屋。作業の合間に見学を受け入れている。
鰹節つくりの工程は ①切る(生切り)②煮る(煮熱)③燻す(焙乾)④発酵させる(かび付け)。写真は焙乾用の木箱に並んだ鰹節。
焙乾は火力を加減しながら何回も行われる。その過程で水分が抜けて鰹節はどんどん小さく硬くなっていく。
かつおの天ぱくが実際に今も使っている鰹いぶし小屋。作業の合間に見学を受け入れている。
鰹節つくりの工程は ①切る(生切り)②煮る(煮熱)③燻す(焙乾)④発酵させる(かび付け)。写真は焙乾用の木箱に並んだ鰹節。
焙乾は火力を加減しながら何回も行われる。その過程で水分が抜けて鰹節はどんどん小さく硬くなっていく。
水揚げ後、三枚におろして煮熟(長時間煮ること)された鰹は「古式手火山式」と呼ばれる独自の手法で何度も燻され乾燥していく。燻す作業が始まると周囲には強い芳香が立ち込める。それは日本人なら誰もが香しいと感じる香りだ。長時間、何度も燻しの作業を繰り返した後、「カビ付け」がされ、さらに乾燥が進んで最終的な「本枯節」と呼ばれる鰹節になる。
炊きたてご飯に荒く削ったできたての鰹節をたっぷりかけて、まぜて、そこに醤油をひとたらし。これは美味い!
社長の天白幸明さんが、この地域の鰹節作りの歴史について詳しく教えてくれる。コワモテだが、話はわかりやすく面白い。以前、ジローラモもこの店を訪れたことがあるそう。
できたての鰹節。こちらで製品の販売も行っている。
炊きたてご飯に荒く削ったできたての鰹節をたっぷりかけて、まぜて、そこに醤油をひとたらし。これは美味い!
社長の天白幸明さんが、この地域の鰹節作りの歴史について詳しく教えてくれる。コワモテだが、話はわかりやすく面白い。以前、ジローラモもこの店を訪れたことがあるそう。
できたての鰹節。こちらで製品の販売も行っている。
魂をリセットしてくれる安らぎの志摩時間
ここで最初の問に戻りたい。なぜ、“シマカン”は特別なのだろう?
人々は日々の疲れを癒やし、リフレッシュを求めて旅に出る。例えば海外のリゾート地のように、日常とかけ離れているほど、確かにそれは刺激的で強烈な体験となる。
けれど、このホテルが提供してくれるのはそのような非日常の刺激ではない。むしろ日常の根っこにあるのに人が往々にして忘れてしまう大切な何かを思い出させてくれる時間。ホテルではそれを「志摩時間」と呼んでいる。旅人はここで母の胎内に回帰するような至福の安らぎを得、そして、自らの魂がリセットされる喜びを味わう。それは他所では得がたい特別の時間だ。だからこそ、人は何度でもこのホテルに戻りたくなるのではないだろうか