2022.12.03
倒産寸前のスキー場を救ったのは、あのハイジの「ブランコ」だった!
スキー人口の激減にコロナ禍が追い討ちをかけ、危機に陥ったスキー場「白馬岩岳マウンテンリゾート」を救った1台のブランコ「ヤッホー!スウィング」。「土地が本来持っている『隠れた資産』を発見し、磨き上げる」アイデアとは?
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文/和田 寛(白馬岩岳マウンテンリゾート代表)
「土地が本来持っている『隠れた資産』を発見し、磨き上げる。ただそれだけを考え、さまざまなアイデアを実現してきました。その結果、わずか4年で100のテレビ番組で紹介していただき、スキー場なのに夏の来場者数が8倍になって、冬の来場者数を超えるという結果につながったのです」
そう語るのが、白馬岩岳マウンテンリゾート代表の和田寛氏だ。ずば抜けたアイデアを次々と導入し、「夏に稼ぐスキー場」を生み出した和田氏。その初の著書『スキー場は夏に儲けろ!──誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』が刊行された。ここでは、コロナ禍によって客足が途切れ、危機に陥った白馬岩岳を救った、たった1台の「奇跡のブランコ」のアイデアの源泉を解説してもらった。

小雪とコロナのダブルパンチ
私が経営に携わる「白馬岩岳マウンテンリゾート」も、重要な稼ぎ時であるゴールデンウィークの期間を含め、ひと月以上の営業休止に追い込まれました。
その直前のスキーシーズンも記録的な小雪だったことと、シーズン後半からコロナの足音が響き始めていたこともあり、非常に苦しい状況になっていました。この苦境にコロナ禍が追い打ちをかけたかっこうで、業績も一気に大赤字に転落。倒産寸前の大ピンチです。
2018年10月に白馬マウンテンハーバー(参照記事:元官僚46歳「夏に稼ぐスキー場」を生んだ逆転人生)を開業し、2019年にはグリーンシーズンの集客を大幅に伸ばしたところでした。スキー場であるにもかかわらず冬を超える数のお客さんにお越しいただき、ようやっと「夏に稼ぐスキー場」になりかけていた矢先に、この大ピンチがやってきたのです。
この状況でいちばん大切なのは、コストをできるだけ削り、そのお金をいちばん大事なスタッフの雇用継続に回すことです。
しかし経営者として、「みんながつらい時期だからこそ、しっかりとした準備をできれば、世の中が好転したときに勝ち残れるチャンスが増える」という確信もありました。よくなりかけてきたグリーンシーズンの流れを止めずに、さらに新たな魅力ある話題を作ることも重要だったのです。
コストをなるべくかけずに攻めの手を打つ。そんな矛盾した課題に取り組むときにまず必要な考え方が、前回の記事で説明した「隠れた資産を見つけ出し、磨き上げること」です。
「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」を活用すれば、ゼロベースで何かをつくるよりもコストも時間も少なくてすみます。お客さんから見ても「なぜそこでそのビジネスをやるのか」がわかりやすく、SNSやメディアでも広がりやすくなります。大ピンチだった会社の状況から見ても、絶対に欠かせない視点でした。
私たちが目をつけたのが、白馬マウンテンハーバーの隣にある、昔のリフトの終点のプラットフォームでした。かつては展望台として機能していた場所ですが、機械類はすでに撤去し、コンクリのプラットフォームだけが残っていました。
この眺めのいいプラットフォームは「隠れた資産」に違いないと考え、ここをどうコストをかけずに次の観光資源に変えられるか、頭を悩ませることになります。
シンプルな仕掛けが伝わりやすさを生む
アルプスの山を眺めながら爽快感を覚えてもらえるような、まだ誰もやっていないような仕掛けは何かないかと悩んでいたときに、テレビである家庭教師派遣会社さんのCMを目にしました。そう、あのアルプスの少女ハイジが、スイスアルプスに向かってブランコを漕いでいる、有名なシーンをパロディにしたCMでした。
「これだ!」と思った私はGoogleで「ブランコを作れる遊具メーカー」を調べ、片っ端から相談を始めます。ただし、普通の公園のブランコをそのまま作っただけではあのハイジのブランコにはなれません。普通じゃない大きさと、そこに迫力を増すひと工夫が必要です。
複数の遊具メーカーさんに相談したところ、最終的に福井県敦賀市に本拠を構える遊具メーカーの「ジャクエツ」さんが柔軟に相談に乗ってくれました。
高さは通常の約2倍。迫力を出す工夫として、目の前に柵をつくらないかわりにプラットフォームの先に安全ネットを取りつけ、さらにお客さんにはハーネスをつけてもらうことにしました。これで「北アルプスの山々に向かって飛び出すような爽快感」というわかりやすさが生まれます。
ここに、当社の副総支配人が「もう少しわかりやすさを加えたい」と、ブランコを漕ぐ2分弱の間にアニメ「アルプスの少女ハイジ」の主題歌をかけることを提案してきました。
「北アルプス白馬で、『アルプスの少女ハイジ』の音楽」という非常に「ベタ」なアイデアではありましたが、こんな「お馬鹿」なノリもレジャー施設にはあっていいかもと思ってその提案を採用。JASRACに使用料もお支払いし、2分弱に編曲して、ブランコの開始とともにアルプホルンの音が流れるようになっています。
シンプルなブランコですので投資金額はさほど大きくはないのですが、それでもコロナ禍の中で、どうしても自社だけでは資金が捻出できません。
そうした中、携帯ゲームの「にゃんこ大戦争」を展開されるポノス株式会社さんが「苦しい中でも面白いことをやりたい」という私たち趣旨にご賛同くださり、協賛していただけることが決まります。こうして初期投資もかなり抑えられることがわかり、事業化の目途も立ちます。
今までにない「有料のブランコ」とした深い理由
私が「スタッフがついてサービスを提供し、きちんとお金をいただく形でやりたい。1回1000円くらいでどうか」と提案したのですが、社内からは「公園でブランコやるのにお金を払う人なんていない」と猛反対を食らいます。
最終的には、じゃあ半分で、と500円の料金を頂戴することになりました。「しっかりしたコンテンツを整備し、その対価をきちんといただく。そのお金をもとに次の仕掛けを展開できるようにしていかないと、スキー場の未来はない」という私の信念に基づき、少しだけ強引に通させてもらった形です。
多くの地方の観光施設で、魅力的なコンテンツを無料開放しているところを見かけます。お客さまに少しでも楽しんでもらおうというサービス精神なのでしょうが、これは長続きしません。
一時的にお客さんの数が増えたとしても、効果はいつか必ず薄れていきます。するとメンテナンス費用も十分に用意できなくなり、結局、施設のかたわらで朽ち果てていく……そんな光景をよく見ます。
しっかりと価値があるものをつくり、それに見合った対価をしっかりと頂戴するのは、けっして恥ずべきことではありません。「ビジネス」では当然のことです。
そうして頂戴した対価を次につながる投資に回し、隠れた資産をさらに掘り起こしながらどんどん魅力を高めていく。そんな発想が、絶対に必要なのです。
実際、ヤッホー!スウィングで得られた資金をもとに、マウンテンカートを購入したり、白馬ヒトトキノモリを造成したりと、お客さまに楽しんでいただける「次のコンテンツ」を整備できました。こうして、リゾート全体の魅力を高めることにも大きく貢献することになるのです。
「明らかな特長」がSNSでの拡散を生んだ
絶景の中でのブランコという想像を掻き立てやすいコンテンツ、ハイジの音楽を流すことで生まれたわかりやすいテーマ設定。それらが奏功し、メディア、SNS双方で取り上げてもらいやすい状況が生まれました。
そして、あるノマドワーカーさんの、「まだ工事中だったけど、白馬の岩岳山頂にオープン予定のブランコ、えぐくない?」というTwitterの書き込みが数多くリツイートされたことをきっかけに、全国キー局のほとんどが一度は取材に来てくれました。
さらに多くのお客さんが、実際にブランコに乗っている動画をSNSにアップしてくれることで、あっという間に拡散が進みます。
「たかがブランコ」に5時間待ちの大行列
このブランコの誕生をきっかけに、コロナ禍の影響はまだ強く残ってはいたものの、8月からはリゾート全体のお客さんの足もだいぶ戻ってきて、2020年グリーンシーズンもなんとか10万人を超えるお客さんにお越しいただけました。
お客さんもいない、お金もない、非常に苦しい状況だったからこそ出てきた、隠れた資産を活用するためのアイデアが、瀕死の状態だったスキー場を救ったのです。
現在、地方の観光地はどこも厳しい状況が続いていると思います。しかし、そうした厳しい環境だからこそ、どの地方でも「隠れた資産」を見つめ直し、チームの知恵と工夫でこの状況を打破できるチャンスを見つけられるはずだと考えています。
『スキー場は夏に儲けろ!!──誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』
白馬のスキー場なのに、夏の来場者「8倍増」で冬を超えた!
「官僚→コンサル→スキー場経営者」異色の男が明かす「逆転ヒット」の法則!
「隠れた資産」とは、簡単に言えば、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」です。
すでにそこに存在しているものを活用するので、ゼロベースで何かをつくるよりもコストも時間も少なくてすみます。
お客さんから見ても「なぜそこでそのビジネスをやるのか」が伝わりやすくなります。
ですから、本当にポテンシャルのある「隠れた資産」を目利きすることができれば、成功確率は格段に高まります。
本書では、私たち白馬の事例を通じて、この「隠れた資産の発見と活用」を徹底的に解説します。
和田 寛・著 東洋経済新報社 1760円(税込)
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