2019.08.08
ふたりで海に行くとイイ感じ❤︎になる、はホントの話だった
日本の海水浴客は10年で1/3に減少しているそう。でも、恋愛の最高の舞台はやっぱり海、ですよね。人は海に行くとなぜかロマンティックな気分になって恋心がうずくようです。さて、その理由とは?
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文/木村千鶴
海には人をロマンティックな気分にさせる魔法の力がある。皆、そう信じていました。けれどそれも今は昔。海の人気は落ちる一方で、日本の海水浴客はこの10年で約3分の1に減ったというデータもあります。
確かにイモ洗いのような混んだ海水浴場よりは都会のホテルのナイトプールの方がお洒落だし、陽にも灼けないので女子ウケもいい! とはいえ、せっかく海洋国・日本に住んで海を忘れてしまうのはなんとも寂しい話ではありませんか。
海は今も昔も人の心を癒し、ロマンティックな気分にさせる不思議なエネルギーに満ちています。その効果は失われるどころか近年では海のもつ力を利用した海洋療法(タラソテラピー)や、旅先での運動や食事を通して心と体の健康の促進を目指すウェルネスツーリズムの観点からも、海に出かける効果が再評価され、注目されているのです。
そこで最新の知見をもとに、改めて、海がいかに恋に効く魔法の力をもっているのかを探ってみたいと思います。
お話をうかがったのは国立大学法人琉球大学教授の荒川雅志先生。荒川先生は海洋療法学者であり、ウェルネスツーリズムの研究の第一人者。具体的に海に行ってどんなことをすればどんな効果があるのか教えていただきました。
彼女と海に行ったらしたい、あんなコトやこんなコト
「特に裸足で歩くのは体にとてもいいんですよ。現代の生活では快適な環境で暮らすことに慣れてしまい、裸や裸足で過ごすことがあまり経験できません。裸足で歩くことで、幼児や幼少の頃のことを想起させ、鈍ってしまった五感のセンスを呼び覚ますのです」
細かい砂の粒はツボの多い足の裏を刺激し、その気持ちのよさが人の心をハイにするのだと言います。
「実は裸足で砂浜を歩いている時には、リラックスとは反対の作用が働いています。平たんではない砂浜を裸足で歩くというのは、ある程度緊張している状態、すなわち交感神経が優位に働いている状態です」
この心地よい緊張感が恋心を生むきっかけになることも。
「恋愛感情を表現するとき、ドキドキするという言葉をよく使いますね。あれは心拍の表現なのです。吊り橋効果という言葉があるように、ドキドキする気持ちを恋愛に勘違いすることは起こり得ますね(笑)」
さらに
「集中・緊張(交感神経優位)とリラックス(副交感神経優位)は必ず一対で訪れます。交感神経の高まった緊張状態から脱した後、次には副交感神経の高まりが自然とやってくるのです。リラクゼーションのためのエステなどを行うときに、予めジャグジーに入ったりすることがありますが、それは体温を上昇させて交感神経を高め、緊張からリラックスを迎える幅を広げているんです」
つまり砂浜を裸足で歩いて交感神経が高まったあとには、副交感神経を高めるリラックスした状態が自然と訪れるということ。実はこの「緊張」と「リラックス」という心の振り幅が大きいほど、人の感動も大きくなるのです。そして当然、その時一緒に過ごした人も心に強く印象付けられるというわけ。
これを言い換えれば
「ドラマティック」+「リラックス」⇒「ロマンティック」
と表現しても良いでしょう。
海にはこのような「ドラマティック」と「リラックス」を感じさせる要素がたくさん。だから、人は恋に落ちやすくなるのですね。
「Watsu」は海の中で彼女をお姫様だっこするリラクゼーション⁉
● 水平線に沈む夕陽をふたりで見る
古来、日本では海の向こうには神様が住んでいるという伝説があります。そして沈む夕陽は明日=明るい未来を感じさせるのです。また夕陽に赤く染まった景色には人の緊張を和らげ、心を整える効果があるとも言われています。まさに「ドラマティック」+「リラックス」のパターンですね。
● 砂浜で砂遊びをする
ふたりそろって童心に返ることにも意味があります。お互いに普段とは違った一面を見せあうことで、相手に対する新たな発見が生まれます。その時に感じる意外性がギャップとなって相手への興味をより高めるのです。
● 海の中で彼女をお姫様だっこする
水中は浮力があるので陸上ではできない行為(例えばお姫様抱っこ)も容易になります。そして荒川先生によれば
「それと似たような動きをするWatsu(ワッツ=ウォーター指圧の造語)というリラクゼーションのプログラムメニューがあります」とのこと。
「これは、水圧や水の抵抗力が体全体を柔らかく指圧するという理論の基に、日本の指圧療法にインスパイアされて生み出されたプログラムです。体温に近い温度の海水で、施術者が対象者を水の中でゆらゆらと水面を浮遊させたり、水の中をくぐらせたりするものなのですが、施術中に阿吽の呼吸が整ってくると、気持ちが伝播して、お互いにリラックスできるようになるとも言われています」
水の中でゆりかごのように揺らされると、人は羊水の中の安心安全に包まれた世界を感じるといいます。
「冷たい海水ではお勧めできませんが、海の入り江など、海水の温度が高いところでより自然に近い形で行われることもあるので、カップルの人たちにはぜひ、“ワッツごっこ”のような形で楽しんでもらいたいですね」
波音には「1/fゆらぎ」と呼ばれる自然界に独特のリズムが
さて。夜の海もまたロマンティックを感じやすい場所ですよね。夜の浜は暗いので視覚よりも聴覚が研ぎ澄まされていきます。そこで聞く波の音には「1/fゆらぎ」といわれる自然界特有のリズムがあり、大きな癒し効果があるといわれています。
「“同じ波は二度とやってこない”と言われるように、打ち寄せる波などの自然が出す音には、一定のものはありません。常に揺らいでいます。私たちの体も、心音は一定ではなく、やはり揺らぎがあります。自然なものは不安定にできているんですね。この不安定なもの同士が重なると、調和が生まれ、そして安定が生まれる。自然とシンクロするんです。するとリラックスできる。静かな環境が良さそうに感じることもあるでしょうが、実は、人は何も音がしないところにいると、心が不安定になるんですよ」
また、夜の海の暗さは星空を眺めるのにもぴったり。星空が宇宙の永遠を感じさせ、ロマンティックな気分を高めるのは言うまでもありません。
もし可能であれば、ぜひ試していただきたいのがこれ。一緒にスキューバダイビングをする、というのはいかがでしょう。
「水中というのは最高の瞑想環境だと言えます。陸上では目や耳からいろんな情報が入ってしまいますが、水の中では音も視覚も陸より遥かに遮断された状態になり、重力からも解放されます。タンクを用いてスキューバダイビングを行うと、自分の呼吸音がリアルな音に変換され、呼吸に集中できます」
なるほど。水中が集中に適しているのはわかりましたが、彼女との恋にも役立つのでしょうか?
「リラックスした中で集中力を高めることはもちろん恋愛にも効果があります。恋愛でも仕事でも集中力は大切なポイントです。そして彼女と一緒に魚を見たり海底の地形を楽しんだりして特別な体験を共有できることも親密さを増す効果があります」
このほか、例えば海の近くで現地の美味しい魚介料理を食べたり、イベントなどで地元の人々と触れ合ったりすることも、ウェルネスツーリズムにとっては大きな意味があることなのだとか。
つまり海で過ごす非日常の時間は、ことごとく人の交感神経を揺さぶり(緊張)、副交感神経を高める(緩和)繰り返しとなり、それによって
ドラマティック+リラックス⇒ロマンティック
の効果が一層得られるというわけ。それが彼女との恋路を進める手助けをしてくれるのですね。これは都会のプールではできないこと。やっぱり海は、今も昔も最高の「恋の舞台」のようですよ。
● 荒川雅志
1972年 福島県生まれ。学習院大学卒、福岡大学大学院医学研究科社会医学系修了。医学博士。国立大学法人琉球大学 国際地域創造学部/観光科学研究科 教授。ヘルスツーリズム、ウェルネスツーリズム研究の第一人者。海洋療法学者。