2020.07.01
【プロが語る】高級時計はナニがスゴいのか?
腕時計に興味はあるけれど、選び方がわからない。そもそも、高級時計ってどんな魅力があるの? そんな疑問を腕時計のプロに聞いてみました。
- CREDIT :
写真/人物・金田 亮、静物・鈴木泰之(Studio Log) 文/福田 豊
しかしその一方で、どんな時計を選んだらよいのかわからない。どこを見たらよいかわからない。そもそも時計って難しそう。そんな話をよく聞きます。
そこで『クロノス日本版』編集長の広田雅将さんと、時計ライターの福田豊さんの、2人の時計専門家に対談を依頼。機械式高級時計の魅力や、選び方、見どころなどについて語ってもらいました(2回目はこちら)。
高級時計は"手触り"でわかる!?

福田「広田さんが『手触り』というのを聞いて、まさにそうだな、って。あまりに的確で、それに代わる言葉が見つかりませんね。でも、あえていうなら『密度』というようなことかな。リシャール・ミルが登場して『超軽量』がまったく新しい高級時計の価値観になったわけですが、それまでの時計は『重さ』が高級の証でしたよね。
例えば、パテック フィリップのカラトラバのRef.3796とか、小さな時計なんだけど手のひらに載せると想像以上にズシリと重くて驚いて。それで、ああこれが高級感なんだな、と実感したことがあります。で、そういう密度の濃さのようなものが、高級時計にはある気がするんです」
広田「確かにそう。ケースをピカピカに磨いて、リュウズの巻き心地を良くして、ローターの回転を滑らかにして……。そういうすべてが高いところでバランスされているのが高級時計。ムーブメントだけ凄い、ケースだけ凄い、じゃなく高級時計は総合的に良くできている。そういうところに密度の濃さを感じますね」

広田「まったくそうですね。だから、高級時計は持つとわかる。使うと納得する。そういう、何かわからないけど凄いな、というのを基準にして欲しい。それを基準に、クルマでも靴でも鞄でも見ていくと、きっと良いものが見つかる。高級時計にはそんな、ものを見る目の物差しになるようなところがあります。そういう意味でも、高級時計を持つのは意味があることだと思います」
福田「高級時計を持つ意味ということではもうひとつ、立ち居振る舞いがよくなる、というようなことがありますね。高級時計には高級な服を合わせたくなるし、食事も高級な店に行こうと思える。よく『ものが人を育てる』と言いますけど、高級時計にはまさにそういうところがありますね」
「面」と「針」が良ければ、それは間違いのない腕時計
▲ラック・アイボリーの文字盤は、針の影が映るほどに磨かれている。面取りが施されたバーインデックスやドルフィン針がシャープな直線を描く。「カラトラバ」(Ref.5227)自動巻き、18KYGケース(39mm)、アリゲーターブレスレット。359万円/パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)
▲ケースバックはヒンジ付きカバー仕様で、装着感を担保しながらも搭載ムーブメントCal.324 S Cを眺めることができる。ムーブメントだけでなく、カバー裏までもが鏡面のように磨き上げられている。
▲ラック・アイボリーの文字盤は、針の影が映るほどに磨かれている。面取りが施されたバーインデックスやドルフィン針がシャープな直線を描く。「カラトラバ」(Ref.5227)自動巻き、18KYGケース(39mm)、アリゲーターブレスレット。359万円/パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)
▲ケースバックはヒンジ付きカバー仕様で、装着感を担保しながらも搭載ムーブメントCal.324 S Cを眺めることができる。ムーブメントだけでなく、カバー裏までもが鏡面のように磨き上げられている。

それと同じで、良い針の時計は高級といえる。実際、針を美しく磨くのにはお金がかかります。例えば、針を自社制作するモリッツ・グロスマンでは、細い針を職人が手作業で仕上げています。さらに、立体的で重量のある針を回すのには、トルクの豊富な上質なムーブメントを積んでいる必要もあります」

購入前に、時計を付けた姿を確認するのも重要


まぁ、とにかく時計が欲しいなら、とりあえず買ってみたらいい。そうすればきっと楽しいと思います。それに、いまは工作精度が高くなって、昔のようなハズレがないですから。だからさっきも良いましたけど、見た目が良ければほぼ間違いがない。いまは時計を買うのには、とても良い時代だと思うんですよ」
福田「ただ、最初の1本に超複雑機構を選ぶとかはやめたほうがいい。そういうのは、まるで免許取りたてで、いきなりレーシングカーを買うようなものですから。超複雑機構にはやはりそれなりの使い方がありますからね。買ったばかりのミニッツリピーターをガンガン鳴らして壊してしまった、というような話を聞くこともあります」
広田「それだから、まずはベーシックなものを買って、実際に使ってみる。そうして傷を付けたりしないよう、ちゃんと使えるようになったら、次の複雑機構とかを買う。それが正しい順序です。というのも、高級時計は買うのは難しくない。キレイに使っていくのが難しいんです。そしてキレイに使えるようになると、自然と所作もキレイに格好良くなる。まさに高級時計が人を育ててくれる。それが高級時計の大きな魅力のひとつなんですよね」

左● 広田雅将(ひろた・まさゆき)
1974年生まれ、大阪出身。時計専門誌『クロノス日本版』編集長。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活躍し、2016年より現職。関連誌含め連載を多数抱える。また、一般・時計メーカー・販売店向けなど、幅広い層に対して講演も行う。
高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]
右● 福田 豊(ふくだ・ゆたか)
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』『ENGINE』『クロノス日本版』などの雑誌やwebで、ファッション、時計、クルマ、旅など、男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演多数。ロックTシャツの紹介をインスタグラムでやってます。
Instagram/@fukuda1959
■ お問い合わせ
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 03-3255-8109
モリッツ・グロスマン ブティック 03-5615-8185