2021.03.22
Vol.05
伝説的ムーブメント「エル・プリメロ」が時計好きを魅了し続けるワケ
数多の時計のなかでも「名作」と呼ばれるモデルを、時計のプロが語ります。第5回目は、趣向を変えて「ゼニス」伝説的ムーブメント「エル・プリメロ」に注目。その進化と深化に迫ります。
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文/福田 豊
伝説的ムーブメントと「ゼニス」の歩み
なお、「ゼニス(ZENITH)」とは、英語で「天頂」の意味。そして「エル・プリメロ(El Primero)」は「No,1」という意味。今回は、そんな時計界の天頂でいちばんの輝きを魅せ続けるエル・プリメロと、エル・プリメロを搭載したモデルについて、お話しいたします。
〜エル・プリメロが伝説的な3つのポイント〜
(1)世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント
(2)伝説的な復活と、さらなる高精度とハイビートへの進化
(3)デザインの継承も大きな見どころ
(1)世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント
まず、1月に「ゼニス」のキャリバー3019PHC。3月に「ホイヤー」、「ブライトリング」、「ビューレン」、「デュボア・デプラ」の4社共同によるキャリバー11。5月に「セイコー」のキャリバー6139。
そのキャリバー3019PHCに付けられた名前が、エル・プリメロです。エル・プリメロが他の2つに比べて優れていたのが、10振動/秒=3万6000振動/時というハイビートであったこと。ハイビートとは、調速するためのテンプの振動数が多いということ。振動数が多いことで、高い精度が出しやすいという特徴があります。そのためエル・プリメロは、1/10秒の計測というクロノメータークラスの高精度を可能としたのです。
というように、「エル・プリメロ」というのはムーブメントの名前であるとともに、モデル名でもあるのがポイント。そこも他のクロノグラフムーブメントとは違う、特別な魅力なのです。
(2)伝説的な復活と、さらなる高精度とハイビートへの進化
1969年は時計界にとって本当に特別な年で、この年に世界初のクオーツ腕時計の量産が実現しました。これをきっかけにクオーツ式が台頭するようになり、スイス時計界は急速に衰退。「ゼニス」もアメリカ企業の傘下となり、機械式の生産をすべて停止、エル・プリメロに関する資料や工具類のすべてを破棄することを命じられます。
ところがただひとり、シャルル・ベルモという時計師が、それに反発。機械式には必ず未来があると信じ、工房の屋根裏にエル・プリメロの設計図や金型やパーツなどを隠します。
そうして1980年代になると、シャルル・ベルモの信じた通りに、機械式が復権の兆しを見せます。「ゼニス」は当時の設計図や金型を使用することでエル・プリメロを再生産することができました。そして、その物語が伝説となり、エル・プリメロの名は、よりいっそう広く知られることとなったのです。
そんな進化の代表が、2017年に発表されたデファイ エル・プリメロ 21。新開発キャリバーのエル・プリメロ 9004は、10振動/秒による時間表示とは別に、100振動/秒という超高速振動のクロノグラフ専用の機構を搭載。クロノグラフ秒針が1秒で1周し、1/100秒を正確に計ることができるのです。
(3)デザインの継承も大きな見どころ
3、6、9時位置の3インダイヤルや、ベゼル、3連ブレスレットなどで「似てる」といっているのでしょうが、それは「ロレックス」の占有のものではなく、他の多くのクロノグラフでも使用されているデザイン。なのに似ていると騒ぐのは、あまり時計を知らない人なのではないでしょうか。いわばロックを聴いて、すぐに「ストーンズっぽい」とか「ツェッペリンみたい」とか言う、音楽をあまり知らない人と同じ。時計好きなら、実機を見れば、きっとすぐにわかります。
クロノマスター スポーツのデザインは、先にご紹介したエル・プリメロのファーストモデルのひとつエル・プリメロ A386を基本に、1990年代のレインボーや、2011年のストラトス、エル・プリメロの前身のA277など、各時代のモデルの特徴を組み合わせて再構築したもの。
つまり、このデザインもエル・プリメロが進化しながら使われ続けてきたのと同様に、大切に受け継がれてきたのです。そういうデザインが継承されているところも大きな見どころ。エル・プリメロが時計好きたちに愛され続けてきた魅力のひとつなのです。
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ゼニス 03-3575-5861