2021.04.03
Vol.06
名作腕時計、IWC「ポルトギーゼ」は何が通を惹きつけてやまないのか?
数多の時計のなかでも「名作」と呼ばれるモデルを、時計のプロが語ります。第6回目は、懐中時計のディテールを継承する「IWC」のポルトギーゼ。一見シンプルに思えるそのデザインにも、革新があったのです。
- CREDIT :
文/福田 豊
元祖“デカ&ドレス時計”の華麗なる復活
スイスの時計ブランドであるのに英語の社名にされたのは、創業者がアメリカ人であったため。創業したのは1868年。スイスのなかでもドイツ語圏であるシャフハウゼンに本拠地を置くのも特徴。スイス時計界屈指の技巧派として知られ、これまで数多くの名作を発表してきました。なかでもポルトギーゼは、ストーリーテリングなモデルなのです。
〜ポルトギーゼの3つの革新的ポイント〜
(1)ポルトガル人商人の依頼で開発された高精度モデル
(2)高精度で視認性がよく、ドレッシーな、これまでにない名作
(3)薄いケースとクラシックなデザインが独特の魅力
(1)ポルトガル人商人の依頼で開発された高精度モデル
マリンクロノメーターとは、航海用の高精度時計のこと。海洋上での揺れや湿気や温度差などに影響を受けないマリンクロノメーターは当時の最高精度の時計であり、つまり彼らの依頼は、世界最高精度の時計を腕時計で作って欲しい、ということだったのです。
そこで「IWC」が行ったのが、懐中時計のムーブメントを搭載する、ということ。というのも、1930年代の当時は、まだ腕時計の草創期。腕時計用の小さなムーブメントは発展途上であり、高い精度が必要とされる軍用腕時計などには、サイズが大きく完成度の高い懐中時計のムーブメントを使用するのが、時計界での常套手段であったのです。
そしてその結果、ポルトギーゼはケース径42mmという、当時としては異例に大きな腕時計として誕生しました。ポルトガル人商人の元に納品されたのが1939年。その数年後にポルトギーゼという名前が付けられ、市販化されることとなったのです。
(2)高精度で視認性がよく、ドレッシーな、これまでにない名作
ところが、1993年に「IWC」の創業125周年を記念して復活すると、ポルトギーゼの真の魅力が再発見されることになります。
というのは、前記したように、ポルトギーゼは軍用腕時計と同じく懐中時計のムーブメントを搭載するのを一大特徴とします。しかしその一方で、軍用とは全く違う、薄いケースに収められています。細い針や小振りなインデックスなどクラシックかつエレガントなディテールも、軍用とは異なる様式です。
要するにポルトギーゼは、大型かつ高精度で視認性に優れ、しかしドレスウォッチのように洒脱に付けこなせる、これまでにない名作だったのです。復活を機に、世界中の時計好きがそのことに改めて気付かされました。
(3)薄いケースとクラシックなデザインが独特の魅力
まず、薄いケースについて。実は「IWC」は、ポルトギーゼとほぼ同時期に、ドイツ空軍のための軍用モデル、ビッグ・パイロット・ウォッチも開発しています。しかし、後者が55mm径の分厚いケースであったのに比べて、ポルトギーゼは42mm径の薄いケースと、ずいぶんと小さく薄い。
その理由は、ビッグ・パイロット・ウォッチに当時の「IWC」のムーブメントでもっとも高精度のキャリバー52系を搭載したのに対し、ポルトギーゼにはより小型で薄いキャリバー74系を搭載したため。つまり、発表当時は大衆に受け入れられなかったものの、ポルトギーゼは最初から意図してドレッシーに作られたモデルだったのです。
▲ インデックスにかぶるほど長い分針は、高精度な時刻表示への自信のあらわれ。アラビア数字のインデックスもオリジナルから受け継がれてきたディテールです。
▲ インデックスにかぶるほど長い分針は、高精度な時刻表示への自信のあらわれ。アラビア数字のインデックスもオリジナルから受け継がれてきたディテールです。
▲ インデックスにかぶるほど長い分針は、高精度な時刻表示への自信のあらわれ。アラビア数字のインデックスもオリジナルから受け継がれてきたディテールです。
▲ インデックスにかぶるほど長い分針は、高精度な時刻表示への自信のあらわれ。アラビア数字のインデックスもオリジナルから受け継がれてきたディテールです。
つまり、ポルトギーゼは、時計好きには堪らない魅力が詰まったモデルなのです。
■ 問い合わせ
IWC 0120-05-1868