2021.08.09
Vol.09
名作ダイバーズウォッチ「ラジオミール」の由来とは? プロが認めたスペックに迫る
数多の時計の中でも「名作」と呼ばれるモデルを、時計のプロが語ります。第9回目はイタリア海軍向けダイバーズウォッチとして誕生した「パネライ」の『ラジオミール』です。
- CREDIT :
文/福田 豊
イタリア海軍のために開発された歴史的ダイバーズウォッチ
その後、数度の移転を経て、フィレンツェ大聖堂の向かいのサン・ジョヴァンニ広場の宮殿内に落ち着いたのは20世紀初頭のこと。ここが現在に至る「パネライ」の本店であるのは、パネライの愛好家=パネリスティであれば、よくご存じのことでしょう。
同社が最初に扱っていたのは、スイスの高級時計でした。「パネライ」が特別だったのは、時計の販売だけではなく、修理部品や精密器機用の工具などを保管する大きな倉庫を所有し、時計の修理部門も併設していたこと。しかも当時のスイス時計は部品の状態で輸入されていたため、その組み立ては「パネライ」の工房で行うしかなく、結果、トスカーナ地方全域の時計店に供給されるスイス時計のほとんどは「パネライ」で製造されたものでした。さらにその当時、この地域に時計の技術を教える施設はなく、そのためパネライの時計店は実質的にフィレンツェで初の時計学校でもあったのです。
そんなことから「パネライ」は時計製造の技術と専門知識を飛躍的に高めることになります。そしてその技術と知識をもとに、光学・精密器機の製造会社を設立。イタリア海軍のさまざまな装備を手がけるようになります。
「ラジオミール」の3つのポイント
(1)モデル名の由来は同名の自然発光塗料
(2)古典的ディテールを受け継ぐミリタリーダイバーズ
(3)マニュファクチュール化により中身も進化
(1)モデル名の由来は同名の自然発光塗料
実際、ラジオミールの優れた性能は、軍事機密と呼ぶに相応しいものだったようです。資料によると、銃の照準器や魚雷発射用の機械式計算機などに用いられたラジオミールは、完全な闇の中でも明るく視認性に富むばかりか、強力な発光は昼光でも見えるほどであったそう。また、水中用のコンパスに使用したところ、あまりの明るさゆえに4~5メートルの深さに潜っていても水面から発見できてしまうため風防に泥を塗って光を抑えた、という記録も残されています。
(2)古典的ディテールを受け継ぐミリタリーダイバーズ
ラジオミールは第2次世界大戦後にも継続して使用されましたが、ある時点で大量のガンマ線を放射していることが判明し、「パネライ」は新たな自然発光塗料を開発。それがトリチウムをベースとしたルミノールでした。そして時計に使用する自然発光塗料をラジオミールからルミノールに変更、時計の名前もルミノールに変更します。
ルミノールも軍事機密だったのでしょう。開発年などは不明で、ラジオミールとルミノールの切り替わり時期は、正確には分かっていません。それどころか、第2次世界大戦終結以前の1940年代初頭の製造と思われるモデルに「LUMINOR」と記されたものがあるなど、同じ時代にラジオミールとルミノールが併存していたようです。
そのため、両者の違いを正確な事実に照らして言うのは不可能。そこで現在ではケースデザインなどで区別し整理されています。ではラジオミールの特徴は何か?
ブラックのダイアルや、太い針も、海中での視認性のため。インデックスを切り抜いた下に自然発光塗料が覗くサンドイッチダイアルも視認性のために考案されたものでした。
と、まぁ、ここまでは現在のラジオミールとルミノールでも使用されている共通項。ここからが現在の2モデルの違いです。
また、ラジオミールには最初期のワイヤーラグが取り付けられているのも特徴。要するにラジオミールは、より古典的なデザインにされている。そしてそのクラシック感が特徴であり、個性と魅力になっているわけです。
(3)マニュファクチュール化により中身も進化
また、近年は先端素材の使用や3Dプリンターを駆使した特殊構造ケースなど、革新的技術でも時計界をリード。一方、絶妙のダイアルカラーや、多彩なレザーストラップなど、さすがイタリアをルーツとする洒脱なデザインセンスでも、時計界に大きな影響を与えています。
そんなバリエーションが豊富になったラジオミールコレクションの中でも、ファーストモデルのアラビア数字とローマ数字を併用した“カリフォルニア ダイアル”を再現した47mmケースにワイヤーラグのラジオミール カリフォルニア - 47mmは大きな人気をもつひとつ。パネライの歴史を感じることのできる、特別なモデルとなっています。
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オフィチーネ パネライ 0120-18-7110