![今年もクラシックカーレース「ミッレミリア(Mille Miglia)」に参戦したというショイフレ氏。](https://assets-www.leon.jp/image/2018/06/25035418396289/0/rd1600__89P0039.jpg)
ショパールにとって変わったこと、変わらないこと
「機械式時計への皆さんの興味は、変わっていないどころか、逆に興味をもつ方が増えてきたと思います。買っていただく層の裾野全体が広がりましたし、実際にお買い上げいただくお客様も時計の知識が本当に深くなりましたよね。皆さん洗練され、時計のことをよく勉強していると感じます」
── そのことは製品づくりにも影響を及ぼしているのでしょうか?
「はい。お客様が洗練されてきているので、ブランド側もそれに対応するために、イノベーティブなものを追求したり、製品にさらに磨きをかけたりと、良い刺激を受けています」
── クルマもそうですし時計もそうですけど、この30年間で、品質は高まりつつある一方、「均一化」に向かっている気がするんです。そういったなかでは、自分たちの「オリジン」をいかに打ち出していくかが重要だと考えますが、ショイフレさんはどう考えていますか?
「仰るとおりだと思います。お客様が洗練されることによって、ブランド側もクオリティを上げなければならない。それによって製品の仕上げや革新的な技術がどんどん上がってきていると。その一方で、今日のお客様はその製品の裏側に関心をおもちのようです。どういう工程で作られて、どういう人が携わっていて、どういう背景でこの製品が生まれたのか。そういった“ストーリー”に価値を見出しつつあるように思います。そしてそのストーリーというのは、マーケティングや広告表現によって上手につくられたものではなく、ショパールとミッレ ミリアの関係のような、インスピレーションによる本物のストーリーでなくてはならないように感じますね」
「先ほど、変わったこと、変わらないこと、という話が出ましたが、コミュニケーションのチャンネルは“変わったこと”ですよね。昔は新聞や雑誌が主流でしたが、今はそれに加えてSNSやブログ、自社のWEBサイトなどで情報が発信・拡散されるようになりました。ですから、いかに正しい方法で情報を伝えていくのかが大事になってきていますね。なかには広く浅くじゃないですけど、ブランドや製品について“ちょっと知りたい”という人もいて、そういう人に向けてはSNSなどを活用するのが良いと思います。あるいは、“もう少し深く知りたい”人には客観性をもった記事、第三者がしっかりリサーチをして調べたジャーナリスティックな記事というのが必要です。その両方をいかにバランスをとって発信していくかが大事だと考えています」
── WEBの台頭により、ファッションの世界では『See Now, Buy Now(シーナウ、バイナウ)』という言葉が現れて、今そこで見たものをすぐ買えなきゃダメ、という考え方が出てきました。ショイフレさんにとって、それはどうでしょうか? 僕はどこかで、それとは違う「時間」というものがラグジュアリーなものを作ると思っているのですが。
「そのとおりですね。私もクラフツマンシップには時間がかかるものだと考えています。ちなみにですが、ジュネーブ ウォッチメイキング グランプリ(Grand Prix d'Horlogerie de Genève)で金の針賞(Aiguille d'Or)を獲得したこの『L.U.C フル ストライク』も、研究開発に1万7000時間が掛かっています。約2年ですね。さらにこのモデルは生産にも手間暇がかかり、月に1本も作れないんです。例えば……このミニッツリピーターの音を聞いてください」
「そうです。これは複雑機構のひとつの例ですが、このL.U.Cは組み立てに533のパーツがあって、ムーブメントもかなり複雑に作られています。それゆえに、1本を生産するのに6週間がかかってしまうのです。ですから、これは我々にとって時計というよりも、もはや芸術の領域だと考えています。先ほどの答えですが、芸術に『時間』はやはり必要ですよね?」
![ミニッツリピーターを搭載する「L.U.C フル ストライク」。2017年、機械式時計の権威ある賞GPHG(Grand Prix d'Horlogerie de Genève)を受賞。](https://assets-www.leon.jp/image/2018/06/25035614801397/0/rd1600__89P9999.jpg)
ロング・ラスティング・バリューを伝える
「ブランドの評価は、そのブランドが標榜する価値をお客様に提供できるかどうかによって決まると思います。ショパールであれば、それは『エクセレンス』、つまり『最高品質の追求』ですね。私たちは製品を通じて、お客様に長年の喜びを届けたいと思っています。そのことによって、今だけでなく次の世代のお客様にとってのクラシックとして、長く継続するブランドを確立していきたいと思っています。そのためにはやはり、クラフツマンシップや歴史を大切にする必要があるんですね」
── クラフツマンシップや歴史を大事にする、それはクラシックカーレースである「ミッレ ミリア」にも通じることでしょうか?
「そうですね。例えば今のクルマは、その部品のほとんどが電子製品になっているので、残念ながらカーコレクションに加える気にならないですよね。20年後に今のクルマを(クラシックカーとして)乗れるかというと、ちょっと自信がありません。逆に30年以上前のクルマは、壊れていても修理ができますし、ちゃんと整備をすれば乗り続けることができます。そういう意味では、クラシックカーは機械式時計に近いかもしれませんね」
── 日本では『クルマには乗らなければいい』『時計もスマートフォンがあれば事足りる』という若者が増えています。そういう今の若い世代に向けて、ショイフレさんは何を思い、何を伝えたいですか?
「都市部に住んでいたらクルマがいらないというのはわからないでもありません。私にも20歳の息子がいますが、17歳まではクルマにまったく興味がなかったんです。しかし、免許をとって自分で運転ができるようになると、そこから興味をもつようになりました。時計に関しても『今度スマートウォッチを見にいこうか?』と聞いても『いらないよ、実用的じゃないし』と言って欲しがりませんし、洋服に関しても最近ようやくスーツを着るようになって、ボタンの数やポケットの位置などにこだわるようになりました。つまり20歳になり、さまざまな経験を経ることで、クラフツマンシップに興味をもつようになったんですね。
そういう意味では、クルマであっても時計であっても、クラシックカーのように長年大切に乗り続けるものと、消費される電化製品のように何年かしたら忘れられてしまうものと、その違いをきちんと若い人たちに説明すれば、永続的な価値(ロング・ラスティング・バリュー)をわかってもらえると思うんですね」
![実の息子を例に出し、楽しそうに話をするショイフレ氏。家族を大切にするのも西洋の紳士ならでは。](https://assets-www.leon.jp/image/2018/06/25112341700195/0/rd1600__89P0021.jpg)
「そうですね。ショパールとしても次世代のお客様をいかに味方につけるかが大事だと考えています。また、ロング・ラスティング・バリューは電化製品のように消費されないという点で、非常にサスティナブルだし、現在のいろんな課題にも対応していると思います」
ラグジュアリーの本質とは何か
「日本はすでに成熟していますし、西洋から遅れるどころか、むしろ世界的なトレンドの発信地になっていると思います。お客様を見ても、日本で購入される方はすごく洗練されていてますし、知識もあります。本当に細かい情報をすごくよく知っていて、こだわりがありますよね。日本でも昔から『匠の技』というクラフツマンシップの伝統があるので、見る目が肥えていていると同時に、職人への愛を感じますね。伝統を大切にする、という意味では、ショパールと日本の皆さまはよく似ているのかもしれません」
── とはいえ、日本はまだヨーロッパから学ばなければならないことがたくさんあると思います。特にショイフレさんを見ているといつも思うんですけど、日本人の中に「紳士」に対する姿勢というか、そういうものが足りない気がしてならないんです。
「お誉めいただいて恐縮です(笑)。『紳士』ということですが、ちょうどショパールでは『#TheGentlemansWay』という動画シリーズを公開しているんです。『ジェントルマン』とは、あまり自分の主張を押し付けすぎない、モダンで、余裕がある人だと思うのです。そんなショパールの理想とする男性を描いたものなので、機会があればぜひ見ていただければと思います」
「そうですね。四角四面じゃなく、自分の個性がありながらもジェントルマンでいることは可能ですよね」
── おそらくこれからは、表面的な豊かさではなく、内面的豊かさに重きが置かれるようになると思います。
「紳士であるためには『ナチュラルエレガンス』が大事ですよね。高級な時計を身につけて、フルオーダーの高級素材のスーツを着て、『ほら僕ってエレガントでしょ?』といくら言ってもそういうわけではないですからね。ジーンズをはいていてもエレガンスを醸し出せる方っているじゃないですか。そういった、お金を出して買えるものではなく、自然に滲み出るものが大切だと思います」
── ショイフレさんにとって、エレガンスのシンボルがいらっしゃったら教えてください。
「今年亡くなられてしまいましたが、『ジバンシィ』のデザイナー、ユベール・ド・ジバンシィさんですね。写真を見ただけでもわかりますが、彼は何を着てもエレガントです。言葉で説明するのが難しいのですが、彼はナチュラルエレガンスを纏っていると思いますね。そして、ジェームス・ディーン。ファッションではない、立ち居振る舞いのすべてがエレガントだと思います」
── ジェームズ・ディーンですか!
「ええ、私の中では、ジバンシィはクラシックなエレガンスで、ジェームズ・ディーンはクールなエレガンスですね」
── ちなみに『ミッレ ミリア』でクラシックカーに乗っているショイフレさんは、いつもジーンズにレーシングジャケットをラフに羽織っている印象なのですが、その姿は私にとってナチュラルエレガンスだと思っていますよ。
「ハハハ。ありがとう(笑)!」
ショパールのスポンサードによる初めての開催となった1988年の「ミッレ ミリア」。
元F1ドライバーのジャッキー・イクス氏とショイフレ氏。(1989年)
1994年の「ミッレ ミリア」にて。左から、父カール・ショイフレ氏、妻クリスティンさん、元F1ドライバーのジャン・アレジ氏、ショイフレ氏。(1994年)
2000年のミッレ ミリアの様子。
この年のミッレ ミリアでショイフレ氏が乗り込んだのはガルウィングのメルセデス300SL。(2002年)
往年の付き合いであるジャッキー・イクス氏とショイフレ氏。(2016年)
イタリアの町並みに並ぶクラシックカー。(2016年)
参加者、観客、すべての人に感謝を込めて。(2017年)
ショパールのスポンサードによる初めての開催となった1988年の「ミッレ ミリア」。
元F1ドライバーのジャッキー・イクス氏とショイフレ氏。(1989年)
1994年の「ミッレ ミリア」にて。左から、父カール・ショイフレ氏、妻クリスティンさん、元F1ドライバーのジャン・アレジ氏、ショイフレ氏。(1994年)
2000年のミッレ ミリアの様子。
この年のミッレ ミリアでショイフレ氏が乗り込んだのはガルウィングのメルセデス300SL。(2002年)
往年の付き合いであるジャッキー・イクス氏とショイフレ氏。(2016年)
イタリアの町並みに並ぶクラシックカー。(2016年)
参加者、観客、すべての人に感謝を込めて。(2017年)
「はい。今年は『ミッレ ミリア 2018 レース エディション』のスチールモデル、スチール×ゴールドモデルの他に、19世紀初頭のモーターレーシング界でドライバーの国籍を識別するために使われた各国のナショナルカラー(イギリス=緑、イタリア=赤、ドイツ=シルバー、フランス=青、ベルギー=黄、)を文字盤に表現したライン『ミッレ ミリア レーシング カラーズ』を発表しました。いずれも限定品となっています」
![ミッレミリア レーシング カラーズ](https://assets-www.leon.jp/image/2018/06/25113235669407/0/rd1600_Mille_Miglia_Racing_Colours_-_0_-_Full_Collection.jpg)
「ええ、似合うと思いますよ。そしてクルマ好きであれば、ぜひ再び『ミッレ ミリア』に参加してください」
── はい、そうさせていただきます(笑)。本日はありがとうございました。
「ミッレ ミリア 2018 レース エディション」18Kローズゴールドとステンレススティール。2018年の限定モデル。クラシカルなダッシュボードにインスパイアされたこのタイムピースには、ブショネ仕上げが施されたチャコールグレー文字盤を採用。91万5000円。
「ミッレ ミリア 2018 レース エディション」ステンレススティールケース。2018年の限定モデル。ラバーライニングと象徴的なレッドのディテールが華を添える新しいレザーストラップにも注目。64万5000円。
「ミッレ ミリア 2018 レース エディション」18Kローズゴールドとステンレススティール。2018年の限定モデル。クラシカルなダッシュボードにインスパイアされたこのタイムピースには、ブショネ仕上げが施されたチャコールグレー文字盤を採用。91万5000円。
「ミッレ ミリア 2018 レース エディション」ステンレススティールケース。2018年の限定モデル。ラバーライニングと象徴的なレッドのディテールが華を添える新しいレザーストラップにも注目。64万5000円。