2018.11.18
知ってる? ロイヤル オーク、ノーチラスの天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタのこと
「オーデマ ピゲ」のロイヤル オーク、「パテック フィリップ」のノーチラス……、名作と呼ばれる腕時計のデザインを手がけたのは、ジェラルド・ジェンタという一人の男だった。その功績は今もなお、腕時計業界に大きな影響を及ぼし続けている。
- CREDIT :
文/広田雅将(クロノス日本版編集長) イラスト/Isaku Goto
腕時計デザインに革新をもたらした、ジェラルド・ジェンタという男
彼の手掛けた代表作には「パテック フィリップ」のノーチラス、「オーデマ ピゲ」のロイヤル オーク、デザインの一部に携わったものが「ブルガリ」のブルガリ・ブルガリなどがある。いずれも、時計史に残る傑作揃いだ。
大きな挫折から時計デザイナーの道へ
食べるために、スケッチを1枚15フランで売っていたジェラルド・ジェンタ。転機が訪れたのは、1968年のことである。「ユニバーサル・ジュネーヴ」にデザインした極薄のゴールデンシャドウが、国際ダイヤモンド商を受賞したのである。以降、さまざまな時計メーカーがジェンタにアプローチし、彼は「世界初の時計デザイナーになった」(ジェラルド・ジェンタ)のである。
もともとジュエリーデザイナーを目指していた彼は、キャリアの始まりから、時計の着け心地に対して実にうるさかった。初めてすべてのデザインを手掛けたロイヤル オークも例外ではなく、角張った形ながらも、決して袖口に引っかからなかった。またジェンタは、このスポーツウォッチを、シチュエーションを問わずに使えるユニバーサルウォッチにしようと考えた。そのためロイヤル オークは、ドレスウォッチ並の薄さを持ちながらも、スポーツウォッチとしてのデザインを与えられたのだ。
一例が、途中から太くなった通称「ジェンタ針」だ。初代ロイヤル オークに載せた2針の自動巻きは、薄くてエレガントだったが、太り針を動かせるほどのトルクはなかった。そこでジェンタは、弱い力でも動かせるよう、針を出来るだけ細くし、しかし、夜光塗料を載せる部分の面積を広げて、時間を読み取りやすくした。今となっては当たり前のデザインだが、初めて手掛けたのは、ジェンタだったのである。
新たに拓かれた腕時計デザインの可能性
ーークォーツの出現によって、正確さは当然の性能となる。今後、重要になるのはウォッチの外観やイメージをいかに訴えるか、になるだろうーー
その予言通り、彼がデザインを手がけた「オメガ」シーマスタ-・ポラリスは空前の大ヒットを遂げたのである。以降、ヨルグ・イゼック、エディ・ショッフェルといった著名な時計デザイナーたちが、ジェンタに続き、時計のデザインを大きく変えていくこととなる。
「パテック フィリップ」のノーチラスのドローイング 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
アメリカの美術コレクターの個人オーダーのために作られた「Impressionistes(印象派)」というジュエリーウォッチの一群。こちらの題材は、ゴッホの「ひまわり」。エナメルや半貴石のモザイクで名画を忠実にしている。リューズに粒金細工、ベゼルに彫金細工も施され、ジュエリーデザイナー出身の氏らしいデザインだ。 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
1998年に立ち上げたブランド「ジェラルド・チャールズ」のクロノグラフのドローイング。ベゼルに施された装飾はビス留めからの発展か? 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
同じく「ジェラルド チャールズ」のレディースモデル、スターレディー。風防に多角カットが施されているのが特徴。 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
「パテック フィリップ」のノーチラスのドローイング 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
アメリカの美術コレクターの個人オーダーのために作られた「Impressionistes(印象派)」というジュエリーウォッチの一群。こちらの題材は、ゴッホの「ひまわり」。エナメルや半貴石のモザイクで名画を忠実にしている。リューズに粒金細工、ベゼルに彫金細工も施され、ジュエリーデザイナー出身の氏らしいデザインだ。 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
1998年に立ち上げたブランド「ジェラルド・チャールズ」のクロノグラフのドローイング。ベゼルに施された装飾はビス留めからの発展か? 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
同じく「ジェラルド チャールズ」のレディースモデル、スターレディー。風防に多角カットが施されているのが特徴。 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
今や、時計の売り上げを大きく左右するのは、時計のブランドでもムーブメントでもなく、まずはデザインと言われる。その基礎を築き上げた巨匠、ジェラルド・ジェンタ。皆さんが使っている時計も、必ずどこかに、ジェンタの影響があるはずだ。それほどまでに、彼の存在は偉大なのである。
● 広田雅将 (ひろた・まさゆき)
1974年生まれ、大阪出身。時計専門誌『クロノス日本版』編集長。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活躍し、2016年より現職。関連誌含め連載を多数抱える。また、一般・時計メーカー・販売店向けなど、幅広い層に対して講演も行う。
高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]