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2023.02.05

僕が身近で見てきたGT-R伝説の裏側とは?

戦うため、勝つために誕生し、日本を代表するスポーツカーとして数々の伝説を作ってきた名車GT-R。筆者は初代スカイラインGT-Rのテスト走行を始め3代目以降はその開発にも関わってきた。内側にいたからこそわかるGT-Rの類まれなる走行性能とクルマとしての魅力とは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第202回

僕のGT-Rストーリー

GT-R イラスト
GT-Rという名車が誕生した起源を辿ると、1964年5月3日に遡る。第2回日本GPだ。

あの日、僕は鈴鹿サーキットにいた。自動車ジャーナリスト人生をスタートして1カ月ほど。ホヤホヤの新人だった。

でも、学生時代から鈴鹿通いは繰り返していた。頑張ってチューニングしたいすゞ ベレットで、ワークスチームに近いタイムをマークするまでにもなっていた。

また、個人的にも、ジムカーナやヒルクライムなどを通じて知り合ったドライバー、モータースポーツ関係者も少なからずいた。だから、パドックでも孤立感などなく、取材もスムースに進められた。

第2回日本GPのハイライトといえば、言わずと知れた、生沢徹スカイラインGT vs 式場荘吉ポルシェ904GTS.。

とくに、生沢スカイラインが、式場ポルシェをリードした7ラップ目、、鈴鹿を埋め尽くした大観衆を熱狂のるつぼに落とし込んだ。

しかし、所詮は世界の頂点に立つレーシングマシン vs ツーリングカー ベースの即席マシン。初めから結果はわかっている。

でも、鈴鹿を熱狂させ、クルマ好きを熱狂させたあの日、あの時から、日本のモータースポーツはフル加速を始めた。
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日産はポルシェに勝つために、プロトタイプ スポーツカー「R380」を送り出す。

そして、R380用に開発された、DOHC、直6、24バルブ エンジンをスカイライン2000GT(PGC10型)にも移植。栄光のGT-Rは誕生した。1969年のことである。

翌1970年にはハードトップモデル(KPGC型)が誕生。ボディサイズは小さく、ホイールベースは短く、トレッドは広く、軽量で空気抵抗も減少、、戦闘力は一層増した。

GT-Rは戦うため、勝つために誕生したクルマだが、デビュー戦から46戦目まで勝ち続けた。「46連勝!」は、伝説になっている。

1969年の初代から2002年誕生の5代目までは「スカイライン」を名乗り、伝統を継承し続けた。

だが、2007年に誕生した新世代GT-Rにスカイラインの冠はなかった。冠は「日産」に変わった。「日産GT-R」に変わったのだ。

と同時に、すべてが新しくなった。しかし、一つだけ変わらないものがあった。それは「日産の象徴」という立ち位置である。

そんな、栄光の「GT-R」に、僕は多くの場面で関わってきた。

初代と2代目のGT-Rでは、開発現場に足を運ぶことはなかった。だが、開発を率いた桜井真一郎さんとはよく意見交換をした。いつも話は弾み、そして熱かった。

桜井さんと僕の連名の単行本も出た。タイトルは「クルマ、ハート、スカG」。

対談形式の本だが、読めば、話が大いに弾んでいることはすぐわかる。なかでも「走り」に関してのやり取り、、とくに限界特性に関した話は熱がこもっている。

そんななかで、桜井さんは、僕を「限界に生きる男」と最大限の賛辞で称えてくれた。とても照れ臭かったが、すごくうれしくもあった。
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当時のスポーツ車は、ゼロヨンが性能評価の大きなポイントの一つだった。そんななか、初代GT-Rのテストで、僕はメーカーの公式タイムを大きく上回るタイムを出した。

メーカー公式タイムは16.0秒だったが、僕のテストでは15.5秒をマーク。桜井さんがとても喜んでくださったことを覚えている。

3代目以降のGT-Rには、開発過程からあれこれ関わりを持つようになった。

中でも、R32型(3代目)での関わりは深かった。初期段階から市販されるまで、ほぼ全行程に関わった。

当時、日産は「901活動」なるものに取り組んでおり、その活動には、錚々たるメンバーが顔を揃えていた。

ちなみに、「901活動」とは、「1990年代内に技術力世界一を目指す」というもの。そんな活動のメンバーの1人に、僕が選ばれたのだから光栄なことだった。

メンバーの絆は強く、僕個人としても、今なお親しくしている人は少なくない。そして、年に1~2度のペースでお会いし、「901活動」の話で盛り上がっている。

大きな目標と熱心な開発メンバー、当然、僕も気合が入った。テストコース、ニュルブルクリンク、アウトバーン、、、多くの場を走り込み、開発メンバーと熱いディスカッションを重ねた。

そして、901活動は見事に大きな果実を実らせた。R32型GT-Rは「すごいクルマ!」に仕上がった。

ATTESA E-TS(電子制御トルクスプリット4輪駆動システム)、Super HICAS(電子制御4輪操舵システム)といった高度な最新制御システムの開発にも成功。その操縦性 / 安定性は世界を驚かせた。
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僕は、無数といっていいほど多くのクルマを世界中でテストしてきたが、R32型GT-Rの操縦性 / 安定性は、まさに「未体験ゾーン」。

比較テスト車にはポルシェ944ターボが選ばれたが、比較にはならなかった。ATTESA E-TSとSuper HICASという高度な新兵器がもたらした効果も絶大で、まさに「独りわが道を行く」といった状況だった。

それは、アウトバーンやニュルブルクリンクでのテストで、より強く、いや、「より強烈に!」実感させられた。200km/hオーバーのアウトバーンでの緊急回避操作も、サラリとやってのけた。

できるだけ多くの環境下でテストをするということで、選ばれたコースの一つに「芦ノ湖スカイライン」があった。夏の早朝、一部を貸切にしてテストを行った。

僕のホームコースとも言える芦ノ湖スカイラインの貸切。となれば、僕は当然、限界領域で走った。

助手席には実験部の方が同乗したが、走っている間はまったく無言。クルマの挙動に神経を研ぎ澄ませていたのだろう。そしてクルマを降りると、「われわれのクルマがこんなに走れるとは、、驚きましたし、感動しました!」とポツリ。

R32型GT-Rの潜在性能の高さを確認すると同時に、いくつかの課題も引き出すことができた。芦ノ湖スカイラインの貸切テストは大成功だった。

R32型GT-Rからのバトンは、1995年にR33型へ、1999年にR34型へと手渡され、2002年をもって生産は終了。一部には「GT-Rはなくなる」との悲観的観測も上がった。

しかし、2007年、GT-Rは復活。車両型式は流れを受け継ぎ「R35型」となったが、大きな飛躍を求めて、すべてがゼロからのスタートとなった。
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しかし、うれしいことに、ここでもまた開発に携わってほしいとのオファーが届いた。

当然のことながら、R35型GT-Rの開発もまた熱いものだった。

エンジンは3,8ℓ V6 ツインターボになり、出力も280psから480psにアップ。ちなみに、最新のNISMOモデルの出力は600ps(米国仕様)にまで引き上げられている。

初めの頃は、大きくジャンプアップした出力についてゆくのにかなり緊張した。でも、じき慣れた。貴重な体験だった。

開発の仕上げでは、僕のドライビングで、アウトバーンでの「300km/hクラブ入り」に挑戦。最後の最後に邪魔が入って298km/hに止まった。邪魔が入らなければ、と思うととても残念だったが、またひとつ素晴らしい思い出ができた。

もう一つの仕上げは、LAからサンフランシスコまでのドライブ。速さだけではなく、日常的な快適さをも確かめるためのテストだ。

このテストでも合格点がついた。サンフランシスコのゴールポイントであるゴールデンゲートブリッジに着いた時は、、開発過程のあれこれを思い出し、、ちょっぴり感傷的になった。

日本の名車「GT-R」との関わりは、深く、長きに亘った。ほんとうに名誉なことであり、僕の大切な宝物である。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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EXHIBITION OF AUTOMOBILE ART 2 in Luce 溝呂木先生 水彩画展

名古屋と犬山市で溝呂木先生の水彩画展が同時開催!

名古屋の自動車アート専門ギャラリー、「アウトガレリアルーチェ」にて、本連載でおなじみの溝呂木先生を含む自動車アート10人の作家たちが、木工、切り絵、模型作品、イラストレーション水彩画、フルスクラッチモデルなどで自動車の美を表現します。

さらに、シトロエンや旧車の集う喫茶店、犬山のカフェプラスアルファでは溝呂木先生の水彩画展が開催。ドミニクドゥーセのクロワッサンやカヌレ、パンオショコラ、京都嵐山のブランドコーヒーを味わいながら原画に触れられます。

昨年夏のルマンクラシックや、7月のパリの女性たち、さらに普段行っているクロッキードローイングの水彩画を展示販売、2/1から2/5までは模型作品も展示販売。2/5 9-18時にはカフェに在廊して、水彩画デモンストレーションも行われ、合わせて水彩画の受注会も。この機会にぜひ溝呂木先生の世界に触れてみてください。

EXHIBITION OF AUTOMOBILE ART 2 in Luce」
〜10人の自動車アートinアウトガレリアルーチェ〜

会場/アウトガレリアルーチェ 
住所/名古屋市名東区極楽1-5 オリエンタルビル極楽NORTH 2F
TEL/052-705-6789
HP/http://www.luce-nagoya.jp/Top.html
会期/2023年2月1日(水)〜4月16日(日)12時〜18時(祝祭日を除く月、火曜日休)入場無料

溝呂木陽水彩展「Parisの女性とルマンクラシック in カフェ+α」
会場/カフェ+α(プラスアルファ)
場所/愛知県犬山市塔野地中ノ切18-4
HP/https://www.facebook.com/profile.php?id=100086790212665
TEL/0568-90-8883
期間/2023年2月1日(水)〜2月28日(火)祝祭日を除く月曜休 9時〜21時(火〜木、日、祝)、9時〜22時(金、土)

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