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2023.06.04

VOL.11 「電気自動車ってなんだ?」

「合成燃料」容認でEUが電動自動車化に待ったをかける!?

これで内燃エンジン車も販売禁止にはならない──⁉ 日本だけではなく、世界中のメディアもこぞってこのニュースを報道したのだが、ことはそう単純ではなさそうだ。

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文/藤野太一 編集/近藤高史(LEON)

2035年以降のガソリン車販売は禁止

EU 「Fit for 55」
自動車の電動化に関する、これまでの経緯を少しさかのぼってみる。

2021年7月、欧州委員会は2050年に域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げ、その中間点の2030年の温室効果ガス削減目標を1990年比で55%削減という政策パッケージ「Fit for 55」を策定。このFit for 55に基づいて2035年以降、ハイブリッド車を含むエンジン車の新車販売は実質的に禁止されることとなっていた。乗用車としては、電気自動車か燃料電池車のみの選択になるというわけだ。
しかし、イタリアをはじめ、ポルトガル、スロバキア、ブルガリア、ルーマニアの5カ国が、このエンジン車の新車販売を禁止する時期を2035年から5年延長するように要求。これを受けて欧州委員会は、2026年にプラグインハイブリッドや合成燃料を含む代替燃料技術の発展などの進捗評価を行い必要に応じて見直しをする、としていた。

また自動車を基幹産業とするドイツも、2035年までの新車販売禁止に対して反対を表明。いま合成燃料を認めなければ新市場での機会損失になると声をあげたことで、欧州委員会は2035年以降にエンジン車を認めないという方針の転換を迫られることになったのだ。
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トヨタ自動車のマルチな新戦略

トヨタ自動車が豊田章男社長(現会長)
一方、日本ではトヨタ自動車が豊田章男社長(現会長)の陣頭指揮のもと、カーボンニュートラルへの解決策はひとつだけではないという「マルチパスウェイ」という考え方を軸に、電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド、プラグインハイブリッドなどすべてを市販化している。さらに、水素エンジンや合成燃料などカーボンニュートラル燃料による近未来の可能性を、メーカー間の壁を越えて互いに協働し模索中だ。

「合成燃料」とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)から作られる液体燃料。複数の炭化水素化合物の集合体で、化石燃料を由来とするガソリンや軽油などと同じくエネルギー密度が高く“人工的な原油”ともいわれる。最大のメリットとしては現在の内燃機関、そしてガソリンスタンドなどのインフラも含めてそのまま使える、ということ。

現状では、発電所や工場などから排出されたCO2を利用。もうひとつの原料である水素は、製造過程でCO2が排出されることがない再生可能エネルギーを使って調達し、この再エネ由来の水素を用いた合成燃料のことを「e-fuel」と呼んでいる。
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ちなみに現在、モータースポーツの世界では、バイオ燃料をはじめとするカーボンニュートラル(CN)フューエル(バイオマス由来の非化石燃料)の導入が始まっている。世界ラリー選手権では、2022年シーズンから合成燃料とバイオ燃料を混合した再生可能燃料の使用を開始。

そして今シーズンのスーパーGTでは、バイオマス由来のCN燃料が導入される。現在、F1ではバイオエタノールを10%混合したE10燃料が使用されているが、将来的には、再エネ由来の水素を用いたe-fuelの導入に向けて開発が進む。

モータースポーツの燃料はNG!?

e-fuel LEON RACING 「DAC(Direct Air Capture)」
ここでひとつ、とても気になる重要なポイントがある。これはまだ確定事項ではないようだが、EUはこの法案においてバイオ燃料は認めない方針を打ち出しているというのだ。さらにe-fuelにおいても、発電所や工場などから排出されたCO2の利用を認めない方針だといわれる。要は発電所や工場から回収したCO2を、クルマを通して大気へと排出してしまうのならば、本当の意味でのカーボンニュートラルとは言えない、という理屈だ。
空気中から直接CO2を採集してこそ正しい循環であるという話だが、これは相当にハードルが高い。他方、現在、大気中の CO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」という技術が注目を集めている。主に吸収液や吸着材を使って空気中のCO2を吸収・吸着させたのち、CO2を分離・回収する方法が用いられる。
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欧米で先行して開発が進んでおり、日本国内でも川崎重工や三菱重工、また政府主導の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとしてDACの研究が進められているというが、そもそも回収するのに大量のエネルギーが必要で、発電所や工場から回収するのに対して数倍のコストがかかるなど実用化にはいくつものハードルが存在する。今後は航空機や船舶などでの活用も視野に開発を進めていくことで、製造技術の確立、コスト削減といった課題を地道にクリアしていくほかないのだそうだ。

世界最大市場の中国は電気自動車だらけ!?

こうした一連の流れを見てみると、e-fuelが容認されたところで欧州委員会の定義をクリアするには製造やコストに関する壁は高く、開発に相当な時間を要するため、いきなりいまの電動化の勢いが弱まることはないだろう。4月に行われた世界最大級の国際自動車展示会、上海モーターショーでは、まさに電気自動車一色になった。結局、欧州や日本メーカーも電気自動車のグローバル戦略の見直しを迫られており、弱まるどころかさらに加速していくことになるのかもしれない。
現在、EUの乗用車保有数はおよそ3億台以上、日本は約8300万台。それらが10年後にすべて電気自動車に置き換えられるとは想像しがたい。デイリーユースのクルマはどんどん電動化が進んでいく一方で、航空機や船舶など電動化には向かない輸送インフラを維持していくためにも、既存のスポーツカーやクラシックカーなどをこれから先も楽しむためにも、そしてモータースポーツをなくさないためにも、化石燃料由来のガソリンの代替品として、e-fuelの存在は重要な意味をもつものになるはずだ。
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ラリー車はカーボンニュートラルの見本市

トヨタのハイブリッドラリーカー、GR YARIS Rally1 HYBRID
▲ トヨタのハイブリッドラリーカー、GR YARIS Rally1 HYBRID。2023年シーズンの、WRC(世界ラリー選手権)のトップカテゴリーであるラリー1では、1.6リッターターボエンジンに全車共通のハイブリッドユニットを組み合わせている。そして、合成燃料とバイオ燃料を混合した非化石燃料が使用されている。FIA世界選手権のモータースポーツで、再生可能な燃料が使用されるのはWRCが初。
水素エンジンカローラ
▲ カーボンニュートラルへの道は電気自動車の1択ではないという考えのもと、トヨタが2021年のスーパー耐久シリーズに参戦し、レースの現場で開発を続けている水素エンジンカローラ。約2年間は気体水素を燃料としていたが今シーズンからは、より可搬性、充填性などに優れた液体水素の導入を予定。
GR86
▲ 2022年のスーパー耐久シリーズから参戦している、GR86。スバルのBRZとともに、カーボンニュートラル燃料(バイオマス由来の合成燃料)を使ってレースに参戦中だ。
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トヨタが開発中の「GRヤリスH2」
▲ サーキットだけでなくラリーの現場においても水素エンジンの可能性を探るため、トヨタが開発中の「GRヤリスH2」。
日産もZ
▲ 日産もでカーボンニュートラル燃料を使ってスーパー耐久シリーズに参戦している。230号車はCNF(カーボンニュートラルフューエル)を、もう1台の244号車はハイオクガソリンを使用することでデータを蓄積し、将来への可能性を探っているのだ。
「マツダ3Bio concept」
▲ マツダは、ミドリムシの活用などで知られるバイオベンチャー企業、ユーグレナ製のバイオディーゼル燃料を使用した「マツダ3Bio concept」でスーパー耐久シリーズに参戦。

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