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2023.12.03

僕が欧米車メーカーの社長に呼ばれて、プライベートジェットの機内で話したこと

自動車ジャーナリストとして各社の新車試乗を繰り返しているうちに、車両開発のアドバイザー的役割を求められ始めた筆者。最初は日本車メーカー、そして10年遅れで欧米車メーカーからも次々とお声がかかるようになったといいます。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第222回

プライベートジェットの機内で、、

イラスト 溝呂木 陽 プライベートジェットの機内
僕が自動車ジャーナリストの仕事を始めたのは1964年。ほぼ60年前だ。

その間、日本の自動車産業はすさまじいほどの進化発展をしてきたのはご承知の通り。そんな中で仕事をしてこられたのは、ほんとうに素晴らしいことだし、ラッキーだった。

60年代~70年代までは、国内での仕事が大半を占め、海外取材は、たまに出版社からの依頼がある程度。他は個人で動いた。

1964年、大学を卒業して出版社に入社したその年に「世界一周の旅」をしたのだが、それも自費での旅だった。

出版社には、「記事を現地から送る」約束で出張扱いにしてもらい、2カ月間の「東回り世界一周一人旅」に出た。

超緊縮財政の旅だったが、面白かった! 英語もカタコト程度しかできないのに、なぜか、行く先々で友人ができ、食事を奢ってもらったり、家に泊めてもらったりした。

特に、最初の目的地だったサンタモニカでは超フレンドリーな人との出会いが多く、食事やパーティーに招かれたり、そのまま泊めてもらったりもした。それもかなりの頻度で、、。
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そんなことで、サンタモニカには1カ月ほど滞在してしまったのだが、出費は最低限で済んだ。有難くもハッピーな時を過ごした。

以後、ちょっと小遣いが溜まると、サンタモニカへ行った。サンタモニカをベースにカリフォルニアを動き回った。砂漠が好きなので、旅の範囲はアリゾナにまで広がった。

仕事絡みではあっても、突然メイヤーズマンクスに乗りたくなってカリフォルニアに行ったり、なぜか急にRRに乗りたくなってロンドンに行ったり、、まさに、気楽でハッピーな旅を繰り返していた。

それが、80年代に入ると大きく変わっていった。欧米メーカーから、イベントへの招待状が届くようになったのだ。

とくに80年代後半から、その数は一気に増えた。招待状の中身の大半は「新車試乗会」だった、だが、「そうでないもの」も徐々に加わっていった。

「そうでないもの」とは、いわゆる「マル秘のミーティング」である。初めは「日本向け車両の試乗を中心にした、エンジニアとの意見交換」がほとんど。だが、時間の経過とともに、その内容は変わっていった。

より幅広く奥深いものへと変わっていったのだ。同時に、意見交換の相手も、、担当者から部長へ、部長から役員へ、役員から社長へと、、。

さすがに社長とのミーティングは限られていたが、お呼びがかかった時は、当然、重要な内容を伴っていることがほとんどだった。

ちなみに、日本では、車両開発のアドバイザーとして招かれたり、役員や社長とのミーティングが始まったのは70年代後半から。欧米メーカーより10年ほど早かったことになる。
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日本で最初に声をかけてくれた、、厚い扉を開いてくれたのはメーカーAの車両開発担当者。主査とか、主管とか、チーフエンジニアとか呼ばれるポジションの人だった。

当時は、外部の人間、特にジャーナリストを内部に招き入れるのには厚い壁があったと思う。だが、その人は壁を突破してくれた。

日本にはまだなかった新しいジャンル / キャラクターのクルマの開発を担当していたが、「どうしても外部の意見を聞きたい」ということで、僕に白羽の矢が立ったらしい。

で、結果は「正解だった」ようで、以後、メーカーAとは長い長いお付き合いになった。

この話には後日談がある。その開発担当者が個人的に親しくしていたメーカーBの実験部担当役員に、お酒の場かなにかで僕の話をしてしまったらしいのだ。

その結果、メーカーBから僕に連絡があり、「メーカーAと同様のアドバイスをわが社でもお願いしたい」ということになった。

この流れは以後も続き、結果的に、多くのメーカーの開発、あるいは商品戦略に、いろいろな形で関わることになったのだ。

すでに触れたように、80年代後半からは海外メーカーとの意見交換の場も急増していったが、恥ずかしながら、僕は外国語が不得手。

試乗会などでは、居合わせた関係者と直接意見交換できないのはとても残念だった。特に「感覚的、かつ微妙な表現が必要な評価」を僕は大切にしているので、その辺りのニュアンスを正確に伝えられないことに、もどかしい思いをすることが多かった。

通訳はいるが、その辺りをうまく伝えてくれる人は多くはなかったということだ。
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ドイツのメーカーで、僕の評価を非常に重視してくれたトップがいたが、その人は、クルマの評価を含め、僕と意見交換する時は必ず決まった通訳を同席させた。

通訳が違うと、「微妙な部分の表現が異なってしまうからダメ」というのがその理由。

非常に尊敬していた人であり、その人と意見交換する時は、聞きたい事、言いたいことを、何度も何度も繰り返し考えに考えた。一言一句に心を込めた。

60年ほどもこの仕事をやってきたのだから、内外のメーカー、大小のメーカーに関わらず、尊敬する人は少なからずいた。

約束の時間にはたいてい遅れる。1~2時間遅れることさえあった。でも、後の時間は全部空けてあり、夜中まで話し込む、、そんなトップもいた。大好きだった。遅れるのは、心を許してくれているから、、そんなふうに僕は捉えていた。

ちなみに、遅れるとはいっても、No.2とかNo.3といった立場の方がその間のお相手をしてくれるので、ミーティングの奥行はより深くなった。もしかしたら、そんな事を考えての意図的な遅刻だったのかもしれない。

トップとの話し合いが、重要な結論結果をもたらしたことも少からずある。その典型例のひとつをご紹介しよう。

海外試乗会の出先で、コトは起こった。試乗会の途中、、昼食の時に、本社広報担当者から声がかかった。

「岡崎さん、帰りのフライトスケジュールを変更してもよろしいでしょうか。大切なお願いがあるので、、」と。

僕は特に問題はなかったので、「ええ、いいですよ」と軽く返事をした。が、返事をした後急に、「いったい、なんだろう!?」との思いが湧き上がった。
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で、「なんなのでしょうか?」と聞いたのだが、、「ええ、あの~、、重要なことでご意見を伺いたいことがありまして、、」と曖昧な答えしかなかった。

広報担当者が曖昧な答えしかできないということは、「ほんとうに重要なことかもしれないな」といった思いが頭を掠めた。

試乗会を終えて、僕は同行者に、「帰りに寄るところがあるので別便になるよ」と告げて別れたが、広報担当者に連れて行かれたのは試乗会会場に近い小さな空港。

そこで待っていたのは、プライベートジェット! それだけでも驚いたが、タラップを上りキャビンに入ってまた驚いた。笑顔と共に現れたのはそのメーカーのトップだった。

いかにも心地良さげなシートが向かい合った席に招かれ、僕の前にはトップと広報担当者が座った。そして僕の横には通訳が、、。

離陸して水平飛行に入るまでは、試乗したクルマの感想を聞かれたりしたが、本題は「日本市場との取り組み方」についてだった。そのメーカー、日本市場ではそうとう苦戦していただけに、違和感はなかった。

僕は、僕の考えをストレートに話した。多くの車種があったが、日本市場との相性について1台1台具体的に考えを伝えた。

「このモデルは、価格面でいくら頑張っても難しい」、「これとこれは、少々強気な値付けをしても売れる」、「現在の車種構成とディーラーのあり方では上手くいかない。思いきった改革をすべきでは、、」、、等々。

このやり取りについては、もう少し具体的に話せればいいのだが、そうすると、どこのメーカーかわかってしまう。なので、ご容赦いただきたい。
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僕の場合、この種のことはほとんど「秘密厳守」で解禁無しのもの。だから、メーカー名も個人名も一切出せないのだ。

、、で、ミーティングの結果だが、僕の意見のほとんどが理解され、納得され、実行に移された。実行のスピードも速かった。日本市場での、そのメーカーのイメージ戦略、販売戦略は大きく変わった。

これに似たケースは、国内外を問わず、他にもいくつかある。ただ、出先でいきなり、トップの待ち受けるプライベートジェットに乗せられて、、といったドラマティックな展開は他にない。なので、この話をご紹介した。

だいたい、重要な話の時、シリアスな話の時は、あらかじめその内容を伝えられることはほぼない。これはその典型例だが、話の結末までを含めて大切な思い出になっている。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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