
レース写真には、思いもよらなかった瞬間が撮れたという喜びがあります
「『カーグラフィック』の社員フォトグラファーとしてキャリアをスタートさせたのですが、入社する前年の秋、富士スピードウェイでのレースの練習中に大クラッシュして右腕にケガをしたんです。そのせいでカメラを持てなくなり、卒業制作ができず留年となりました。そうしたら面接で、そんなクルマ好きなら、なおよろしいと内定をいただきました。すごい会社ですよね。入社1年目は週一で通学もさせてもらいました」
今もモータースポーツとニューモデルの撮影が活動の主軸。国内レースの頂点であるスーパーフォーミュラとスーパーGTでオフィシャルフォトグラファーを務める一方、ライフワークとしてル・マン24時間には毎年、足を運ぶ。
「すべて思い通りにコントロールして撮れた美しい写真とは異なりますが、レース写真では、思いもよらなかった瞬間が撮れた、という喜びがあります。モータースポーツは文字通りスポーツですから、コースアウトや接触と紙一重のことろで競り合ってコーナーに飛び込んでくるレーシングマシンがどんなラインを通過するかは、フォトグラファーの思い通りにはなりません。それをどう受け止めて切り取ることができるか? その歯痒さの面白さ。そこが報道的なスポーツ写真の魅力だと思いますね」
ストレートエンドの競り合いを斜俯瞰からとらえました

ボディに付着した汚れがル・マンの過酷さを物語ります

華やかな背景を入れ込むことでコース上の緊張感を際立たせました

毎年、満足して帰れないことが被写体としてのル・マンの魅力です

無事に朝を迎えられたという安堵感をレンズにおさめました

雨の中で繰り広げられるギリギリのチャンピオン争いをとらえました

コーナーで大きくロールするマシンの躍動感を画角いっぱいに切り取りました

フィルムカメラでは撮れなかった日暮れ時のシーンです

余計なライティングはせずにクルマをきちっと見せるのが身上です

一般オーナーの代表として自然体のままに撮影することを心がけています

● 小林 稔
日本大学芸術学部写真学科卒。1978年に二玄社に入社、「カーグラフィック」の社員フォトグラファーとして勤めた後、86年に独立。モータースポーツや新車の試乗記、広告やカタログで幅広く撮影。JRPA(日本レース写真家協会)の会長も務めている。
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