
被写体に向き合って一歩踏み込む作業こそが、写真表現の理解を深めるのです
「造形美で捉えるクルマもありますが、ロールス・ロイスのような超越的な存在感は、ステアリングを自分で握って考えて、初めて見えてくる。自分にとってどういうものか? そんなクルマと自分の関係性を意識すると、ポルシェと同じには撮れないし、街のキレイな場所に置くだけの撮り方もできなくなる」
第一印象のみで美しいと思えるクルマだけが、美しいクルマではないのだ。
「例えば女性モデルを撮る時、容姿や性格にピンと来なくても、美しく撮ろうと決めたら、もうほふく前進です。色々な角度から眺めて、美しさを引き出します。
クルマでもよくあるじゃないですか、“乗ってみたらよかった”って。誤解ないようにいいますけど、一定以上の時間をかけてつき合ってみること。すると写真の出来も、表面的なだけのものと、まったく変わってきます」
被写体に向き合って一歩、自ら踏み込む作業こそが、写真表現の理解を深めるものであり、自分にとって「このクルマは何か」ということをつきつめないと、意味を持った自動車写真にならないのだ。
自らの記憶に刻まれたイメージが写真表現を豊かにします

ライカのカメラに通じる空冷911の精緻なイメージを意識しました

幼少期の原体験が、現在の作品にも生きています

「横顔の美」を高コントラストのモノクロで表現しました

被写体に触発され夢中でシャッターを切ることも大切です

繊細かつ生命力あふれるデザインを一枚の写真で追及しました

東京の猥雑な雰囲気とミニのある生活の楽しさをレンズにおさめました

ロールス・ロイスの唯一無二の世界観を、富士山と対峙させることで表現しました

● 小川義文
「NAVI」のメインフォトグラファーとして長らく作品を発表し、日本雑誌広告賞など受賞歴多数。クルマの文化的コンテクストや背景に踏み込む写真術が内外で高く評価される。著書に「写真家の引き出し」、写真集に「小川義文 自動車」、「小川義文写真集 MOMENT OF THE TRUTH」など。
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