2022.08.28

【第14回】「萬福」(東銀座)と「麵や七彩」(八丁堀)

東京の貴重な財産のような冷やし中華

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博

萬福 麵や七彩 LEON.JP 山本益博

「萬福」の冷やし中華は昭和の時代を想い起こさせる味

「冷やし中華」──なんと懐かしい響き。そして、すぐに思い出すのは東銀座の「萬福」の冷やし中華。甘酸っぱいつゆに常連の具はチャーシュー、名物薄焼きたまご、胡瓜、紅しょうが。それぞれ繊切りにし、それにもやし。私にとっては昭和の時代を想い起こさせる味である。
東銀座「萬福」は私の初めての飲食店ガイドブック「東京味のグランプリ200」(1982年講談社刊)に登場している。

そこには、冷やし中華の記述はないが、中華そばに「ナルト」がなくなったことに言及している。「以前からナルトを残す客が多かったようだが、店もそれに抗しきれず、ついに具のスタイルを変更してしまったようだ。(中略)この店だけでも、中華そばのナルトを復活させたいものである」

それが「東京味のグランプリ1984」では「メニューどおり中華そばの味である。めんは細め、しょうゆ味だがしつこくないスープ、さらにコクがもっと加われば申し分ない。具はチャーシュー、シナチク、青味、薄焼きたまご、それにナルトが復活した。老主人の顔が見えなくなったのは寂しい」となった。
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萬福  LEON.JP 山本益博
▲ 東銀座「萬福」の冷やし中華「冷やしそば」。
それからほぼ10年後、同じく私の東京の食べ歩きガイド「ダイブル96~97」(昭文社刊)では、
「戦前の下町の面影をとどめるような街並にある。店内に飾られた写真が物語るようにかつては老いてもなおかくしゃくとしていたご主人がラーメンを作っていた。代が替わっても内容はほとんど変わらない。この店ではラーメンと呼ばず中華そばと言う。歯応えのある細いめんに透明感溢れた穏やかな味わいのスープ、それにあっさりとした味つけのチャーシューにシナチク、さらにこのみせならではの薄焼き玉子焼き、バランスのよくとれた、懐かしさを覚えるような東京ラーメンである」と書き、スリーダイヤモンド(料理・居心地・値段)の最高点をつけ、ナルトが入った中華そばの写真を掲載している。

この夏「冷やし中華」を久しぶりに食べると、ほぼ同じような感想を抱いた。いまや東京の貴重な財産のようなひと皿である。
萬福  LEON.JP 山本益博

萬福

住所/東京都中央区銀座2-13-13
営業時間/月~木11:00~15:30、17:00~23:00
 (金は~23:30、土は~22:30)
定休日/日祝
TEL/03-3541-7210

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「麺や七彩」の冷やし中華はアイデアに富んだ「モダン」な味わい

現在、魅力的な「冷やし中華」を探すとなると、八丁堀「麺や七彩」のそれとなろうか。

この店に初めて出かけた時、「打ち立ての麺」でラーメンを食べさせる店として人気店なので、並ぶことを覚悟で夕方店の前に立つと、誰も並んでいなかった。券売機でラーメンを選んで席に着こうとすると、それを見計らったように女性が麺を打ち出した。その麵が瑞々しくて美味しかったこと!
麵や七彩 LEON.JP 山本益博
▲ 八丁堀「麵や七彩」の冷やし中華。
この夏、「冷やし中華」を食べに出かけた時も同じだった。私が店に入り、「冷やし中華」を食べて店を出るまで、彼女は何回麺を打ったことだろう。その打ち立ての細麺は期待通りに美味かった。冷たいスープの中のトマトの酸味、ごま油のうま味、大葉の爽やかな香り、胡瓜の清涼感。「冷やし中華」と言いながら「懐かしさ」ではなく、アイデアに富んでとても「モダン」な味わいだった。夏でなくとも楽しみたい逸品である。
※次回は9月12日予定です。
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麵や七彩 LEON.JP 山本益博

麺や七彩

住所/東京都中央区八丁堀2-13-2
営業時間/11:00~15:00、17:00~22:00(土日祝~21:00)
定休日/毎月第3火曜
TEL/03-5566-9355

らーめん LEON.JP 山本益博

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
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