身もココロも胃袋も掴まれた♡
ワタシの口説かレストラン体験記
たったひと晩のレストランデートがふたりの関係を一気に加速させた、そんなドラマが起こった舞台と記憶を再現写真とともに克明にレポートいたします。
【番外編】
実録! ワタシたちの口説かれ「サプライズストーリー」
危険な道 〜加奈子さんの場合〜
たしかに出自も条件も不満はなかった。何より、温和な彼といると穏やかな空気が流れる。少しばかり刺激には欠けるが、将来を共にするなら、こういう安心の塊みたいな人を選ぶのが正解なのだろう。もう潮時だ。そんな私が、ふらりと遊びに出かけた先で出会ってしまったのが、マサさんだった。
「金融業界の、凄い有名な人。カッコいいよね。しかも独身」
女友達の熱っぽい口調のとおり、確かに40歳という彼の年齢を聞いて少し驚いた。ピンと伸びた姿勢にスマートな身のこなし。品のある笑顔の彼と話していると、自分が上質な女になった気になる。
そんなマサさんに、食事に誘われるようになった。今の私にわざわざ危ない橋を渡るメリットはない。でも……堅実な道を進む前に、少しくらい寄り道したい。そんな好奇心が勝った。
「どうしたの、緊張してる?」
怖いもの見たさで誘いにのってしまった私が、目を見張るほどの高級車で連れていかれたのはホテルニューオータニだった。まさかと少し警戒する私に笑顔を向け、彼は飄々と客室に向かうエレベーターに乗り込む。でも、いざとなれば上手くかわして帰ればいい。そのくらいの場数は踏んできた自負がある。
「じゃあ大将、よろしくね」
けれど私の心配をよそに、その広々としたスイートルームには鮨職人が待ち構えていて、早々にお鮨と懐石の食事が始まった。
ビルカール・サルモンのシャンパーニュを手際良く私のグラスに注ぐマサさんは、変わらず楽しそうにしていた。彼の下心を疑うなんて、私の過信だったのだ。お腹が満たされ、上品で優しいシャンパーニュの果実味が身体中に広がる頃には、緊張もすっかり薄れ気分が良くなっていた。
「本気でデートしたいって思ったの、久しぶりだったよ」
不意にマサさんが言った時、気づけば部屋にふたりきりだった。その台詞、週に何回使いますか?と冗談めかしてみたけれど、薄暗い部屋に響いたのは私の声だけ。
「……俺は飲んじゃったしゆっくりしていくけど、帰るなら、クルマ呼ぶよ」
ありがとうございます、と答えた自分の声がやけに弱々しくてヒヤリとした。毅然と笑顔で部屋を出る。それが賢い女だと、頭ではわかっているのに。
「ほんとは、一緒にいてほしいけど」
彼の手が私の髪に触れる。その瞬間、胸が大きな音を立てて、怖くなった。だめだ。この道を選んだら、きっと抜け出せなくなる。
「どうする?」
笑顔を崩さない彼にじっと見つめられたまま、私は返事ができずにいた。
Kudokare Scene
ホテルニューオータニのインルーム久兵衛
期間/2023年10月1日~11月30日
料金/1名 3万4155円 (税サ込)
提供時間/17:00~19:00
※予約は宿泊14日前まで、宿泊料別。
お問い合わせ/ホテル ニューオータニ東京
客室予約TEL/03-3234-5678
Story written by 小説家 山本理沙
作家・コラムニスト。東京カレンダーWEB、雑誌STORY、ミモレなどで人気連載を多数執筆。「不機嫌な婚活」(講談社)や2022年にドラマ化された「恋と友情のあいだで」(集英社)など、東京で生きる女性のリアルな心情を描いた作品が話題に。
※掲載商品はすべて税込み価格です