2021.02.04
『007』でロジャー・ムーアだけが例外だったこと
5000本以上のコレクションを持つ日本随一のワインコレクターで、多い時は月に3桁の金額をワインに費やす超愛好家だからこそわかる、真にスマートで男女問わずモテるワイン道ってどんなもの? ちょっとイタいワインおたくや面倒くさい半可通など、周囲の反面教師からも学ぶ、ワインのたしなみ方入門です。
- CREDIT :
文・写真/吉川慎二 イラスト/Isaku Goto, オキモトシュウ(吉川慎二氏)
モテるワイン道入門~『00』とシャンパーニュ (その2)
2019年には両者のパートナーシップ40周年を記念してBollinger Tribute to Moonraker Luxury Limited Edition((ムーンレイカーへのトリビュート-ボランジェ・ラグジュアリー・リミテッドエディション)が発表されました。世界限定407セットで、日本では2020年4月から発売されましたが、有名なクリスタル・メーカーであるサン・ルイ社のシャンパーニュ・クーラーがついて、お値段なんと110万円(税込)!
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ボンド:Bollinger! If it's '69 you were expecting me!
ボランジェだ! 69年ものだったら僕が来るだろうと思っていたってことだね!
とのやり取りがあります。興味深いのは、この時の発音が「ボリンジャー」と英語読みであることです。英米のChampagne市場を意識したからなのでしょうか? その後も、ロジャー・ムーアがボンド役の時はずっと「ボリンジャー」のままです。
また、映画後半では大人気の悪役だった不死身の大男ジョーズ(リチャード・キール)が「ボランジェ R.D.」を自慢の歯で抜栓するシーンがあります。別に歯を使わなくても手で問題なく開けられるはずなのですが、ジョーズのトレードマークの武器が鋼鉄の歯でしたからね(笑)。
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最近で興味深いのは第21作の『007カジノ・ロワイヤル』(原題Casino Royale、2006年)。前半、バハマのオーシャン・クラブという高級ホテルのコテージで「ボランジェ・グランダネ」とベルーガ・キャビアをルームサービスでオーダーするシーンでは、しっかり「ボランジェ」とフランス語の発音です。どうも「ボリンジャー」と言っていたのはロジャー・ムーアだけのようです。
ちなみに、カジノ・ロワイヤルは映画化こそ第21作目ですが、原作であるイアン・フレミングによる小説としてはジェームス・ボンドシリーズの第1作として1953年に出版されています。この時に小説の中で登場するシャンパーニュはボランジェではなくテタンジェ、しかも「コント・ド・シャンパーニュ」ができる前の、「テタンジェ ブラン・ド・ブラン 1943」です。原作の出版から50年以上も経過して映画化されたため、登場するシャンパーニュのヴィンテージはもちろん、ブランドも様がわりしてしまったのですね。
『007』シリーズは今後も映画化が続くと思われますが、ボンドが飲むシャンパーニュがどのように変遷していくかに注目して映画を鑑賞するのも一興だと思います。ジェームズ・ボンドにあやかって、少しでもモテるようになりたいものですね。
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● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa
1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。