2021.11.28
超豪華! ミシュラン星10個のスターシェフ軍団による一夜限りの晩餐会に行ってきた
日本を代表する7人のスターシェフによる一夜限りの晩餐会「合餐2021Gohsan 7chefs in Fukuoka」とは何だったのか? 福岡で開催された熱狂のグルメイベントをリポートします。
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文・写真/江藤詩文 写真/前田耕司
今回、そんな私たちに明るい光を見せてくれたのは、思いをひとつにする7人のスターシェフたちでした。福岡に駆けつけたその顔ぶれといったら、思わず二度見してしまう豪華さ。まずはラインナップをどうぞ。
「傳」長谷川在佑さん
2021年「アジアのベストレストラン50」3位、2021年「世界のベストレストラン」11位、「ミシュランガイド東京2021」 2つ星
「Floriege(フロリレージュ)」川手寛康さん ※以下「フロリ」
2021年「アジアのベストレストラン50」7位、2021年「世界のベストレストラン」39位、「ミシュランガイド東京2021」 2つ星
「Ode(オード)」生井祐介さん
2021年「アジアのベストレストラン50」27位、「ミシュランガイド東京2021」 1つ星
「デンクシフロリ」清水将さん
「傳」と「Floriege」がコラボした串料理レストランの新料理長に就任
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「La Cime(ラシーム)」高田裕介さん
2021年「アジアのベストレストラン50」8位、2021年「世界のベストレストラン50」76位、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2021」 2つ星
「villa aida(ヴィラ・アイーダ)」小林寛司さん ※以下「アイーダ」
2021年「アジアのベストレストラン50」64位、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2021」 2つ星及び「グリーンスター」
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「La Maison de la Nature Goh(ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ)」福山剛さん ※以下「ゴウ」
2021年「アジアのベストレストラン50」30位、「ミシュランガイド福岡2019年」 1つ星
ガストロノミーをテーマに生産者と交流したり、地域を活性化する大規模なイベントを開催したりしてきた「ゴウ」福山さん。今回のイベントは実に2年ぶりとか。おおらかで温かい人柄もあり、いまや「ゴウ」福山さんの人気は国内にとどまらず、海を超えた韓国や中国からもその活躍にエールが贈られています。
ましてや今回は14ハンズという超大所帯。しかもこれだけ自分の世界観を表現している、誤解を恐れずに言えば相当ユニークなキャラが立った料理の作り手たちばかり。そんな7人によるメニューはどう構成されたのでしょうか。
「このメンバーで料理をしようと言われて、逆に断る理由がいっこもない」。参加理由を尋ねられた「アイーダ」小林さんが言うように、普段から交流があり、気心が知れていて、お互いの料理にかける思いや料理の方向性を知っているからこそ、役割分担もすんなり決まったとか。その結果「どのお皿も個性バリバリなのに、なぜかコースのリズムがなめらか」という奇跡のメニューが完成しました。
と、その前に。レストランめぐりにはちょっと自信がある方は、まず写真だけご覧いただき、どの料理が誰の作品が推測してみてください。これ、かなりの確率で当たると思いますよ。
●「ラシーム」高田さん
五島産イシガキダイのセビーチェ。「ラシーム」の本拠地である大阪の人たちが愛する、黄色と黒の縞模様のクラッカーを添えて。ちなみに、宮崎県産の柑橘「へべす」を中心に、シークワーサー、かぼす、ゆず、ライム、レモンと異なる柑橘を組み合わせたセビーチェのマリネ液は「“タイガース”ミルク」と呼ばれます。
「僕が最初に終われば、他のみんなを手伝えると思って」。チームいちやさしくて、仕事が早く的確で、精緻な高い技術をもつ「ラシーム」高田さんのこの判断が、後に大きな効果を発揮します。
●「フロリ」川手さん+「傳」長谷川さん
「発酵」をテーマにフレンチのチーズと和のすぐきを合わせたこの夜限りのコラボメニュー。代名詞でもある経産牛を軽くしゃぶしゃぶにして、通常なら廃棄するチーズの皮まであますところなく使い切るなど、ガストロノミーにおけるサステナビリティに早くから取り組んできた「フロリ」川手さんならではのひと皿。
●「ゴウ」福山さん
自身の出身地である福岡県朝倉郡で生産されるブランド黒大豆「筑前クロダマル」。これを軽やかなケークサレに仕上げて、スパイスの効いた黒イチジクのチャツネとフランスのフォアグラ、エスプレッソ風味のチュイルを重ねました。フォアグラが得意な福山さんらしい豊かな味わい。鮮烈なスタートを切った前菜1を受ける前菜2と前菜3は難しいポジションですが、さすがの流れをつくって次へと繋ぎます。
●「アイーダ」小林さん
誰がどう見ても一目瞭然の小林さんらしいタッチ。ローストした栗かぼちゃの実をガーゼで包み、レモンチェッロとみりんに漬けてやわらかな甘味をなじませました。ソースはみりんをベースに、ごくわずかな卵黄を隠し味に加えてコクをプラス。素材のもつやさしい味わいにどこまでも寄り添った、繊細ではかなく、夢々しい野菜の世界です。
●「オード」生井さん
あの有名な“映える”アミューズ「ドラ○ンボール」やミニマルを極めた「Gray」に続く「オード」のシグネチャーディッシュ。旬の魚と野菜をデニッシュ生地で巻き込んで焼き上げ、熱々のうちにソースと共に味わうクリエイティブな料理です。参加者90人全員に焼き立てを提供するのは至難の技でしたが、「ラシーム」高田さんをはじめ7人のシェフが徹底してアシスト。急ぎ足でテーブルに配膳するスターシェフという珍しい場面も見られました。
●「デンクシフロリ」清水さん
付け合わせ「カブと柿のサワークリームマスタード」
●「アイーダ」小林さん
ソース「赤ワインソース」
●「ゴウ」福山さん
世界を食べ歩いている読者の皆さんは、台湾南部の山村「霧台郷」にある、台湾語で「原住民」と呼ばれる少数民族の伝統料理を再構築したイノベーティブなファインダイニング「AKAME(アカメ)」をご存知かもしれません。「AKAME」のシェフ、アレックス・ポンさんは少数民族ルカイ族。「原住民」のルカイ族やパイワン族は、伝統的に「霧台郷」でとれる頁岩(蓄熱性がいいそうです)を使った岩板を調理や建築に使ってきたとか。アレックスさんの友人である「デンクシフロリ」清水さんは、「原住民」の調理器具である頁岩の岩板を福岡に持ち込みました。
鹿児島牛のシンシンのかたまり肉を、手のひらで温度や繊維の状態を確かめつつ、転がし続けることなんと6時間半。実はこのイベントは、単にスターシェフが集まっただけではなく、日本を代表する料理人たちの技術を次世代に伝えようと、地元・福岡を中心にした若手料理人が40名ほど厨房に入っていました。清水さんの所作ひとつひとつに息を飲む若い料理人たち。世界最高峰の料理人を目の当たりにして、おおいに刺激を受けたに違いありません。
●「傳」長谷川さん+「フロリ」川手さん
「傳」の名物・土鍋の炊き込みご飯に、川手さんのフレンチのビスクのハーモニー。地元から参加したサポートメンバーの中心のひとり、居酒屋「赤坂こみかん」主人の末安拓郎さんと共に笑顔のまま全テーブルを回り切り、会場をひときわ盛り上げました。
●「ラシーム」高田さん
「秋王(福岡のブランド柿)のソルベ」
●「ゴウ」福山さん
「サバイヨンソース」
●「オード」生井さん
「国境が開けば世界各地を飛び回るこのメンバーが、7人全員集まってイベントを開催できるのは、これが最初で最後かもしれない。そんな気持ちで向き合いました」と「ゴウ」福山さん。彼らの姿を見て、レストラン業界の未来を信じるパワーを得たり、励まされたりした若手料理人やゲストも多かったようです。
海外のメディアでも「21世紀の日本のガストロノミー史に残る」と評された一夜限りの晩餐会。それは日本のレストラン業界を勇気づけ、世界に日本の存在感を発信するものでした。
●江藤詩文(えとう・しふみ)
世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに、世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ、各国でのインタビュー多数。訪れた国は60カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。Instagram(@travel_foodie_tokyo)でもおいしいモノ情報を発信中。