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2019.09.16

カリスマ美人画家、池永康晟の新画集から紐解く

美人画に秘められた、オヤジと美少女の鬱憂とは?

独特の憂いを秘めた美人画で人気の日本画家、池永康晟さんが5年ぶりとなる画集『少女百遍の鬱憂』(玄光社)を発売。10代の美少女アイドルや女優を描いた本作には、今までとは違う苦労があったそうです。

CREDIT :

文/井上真規子

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池永康晟「霧・らな」
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実はいま、アートの世界で美人画が大ブームなのをご存知でしょうか。その中心にいるのが日本画家の池永康晟さん。新作が公開されると、ファンが行列をつくって見に訪れるほど(くわしくはこちらの記事へ)の人気なのです。

その池永さんの新しい画集『少女百遍の鬱憂』(玄光社)が7月31日に発売されました。 “少女”という新たな題材に「葛藤と鬱憂」をもって挑んだという今作。どんな想いがこめられているのでしょうか。
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美しさと可愛らさしさが混在する少女は “異形”の存在

「少女期の一瞬の煌めきは奇跡である。
しかしその奇跡の瞬間は残酷な程に短い。
そして少女が最も煌めく時、少女は最も無力なのだ。」

画集『少女百遍の鬱憂』の前書きに、池永さんはこう記しています。

女性の色香や熱情を描いてきた池永さんですが、「アイドルを描いてみないか?」というある編集者の誘いをきっかけに10代の少女を描くことになったといいます。今回の画集は、少女を描くという新境地に挑戦し、数年間にわたって葛藤を続けた筆跡を記録した一冊なのだとか。
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一番はじめに描いた少女が、女優の牧内莉亜さん。池永康晟「素顔・莉亜」
「10代の女の子が煌めく瞬間は、本当に短い。たとえばアイドル映画というのは、その少女の一瞬の煌めきを写すことが目的だと思うんです。映画監督は、大人の権力を行使して彼女たちの煌めきのままを永遠に残すという役割があるわけです。だから大人は権力を間違って使ってはいけない。アイドルを描く誘いをもらった時、ついに私にもその役割がまわってきたなと思い上がってしまいました。ところがいざ、筆を取ってみると苦しみの連続でした」
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一番初めに描いたのは、女優の牧内莉亜さん。あどけなさの残る端正な顔立ちの牧内さんを、池永さんはどう描いていいかわからなかったのだとか。

「少女の幼さと美しさを同時に描くと、怖い絵になってしまうんです。岸田劉生の『麗子像』や、智内兄助の『久美子』はまさにそれ。自分の愛娘を描いているのに、ものすごく怖い絵になっている。美しさと幼さが混在する少女は、まさしく “異形”なんです。イメージしやすいのは北欧の透明な少女たち。美しさと同時に異界の住人のような恐ろしさがあります」
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制作風景。伝統的な麻布と岩絵具の技法を用いて怪しくも美しい美女を描く。
そうして池永さんは少女という“異形”を描くことを恐れ、1年近く筆を動かせなかったのだとか。

「実は10代の女性を描いたのは初めてではありません。いままでは、10代も40代も“女”として見て描いてきたんです。しかしアイドルや女優に対して、そうはいきません。彼女たちには守らなければいけないものがあって、私も大人として相応に接するべきと考えました。それに体をこわし、精神にも衰えを感じていた私は以前のような勢いがなく、物分かりのいい大人を演じていた。だからいつまでも少女たちと私の間にあった“垣根”を越えることができなかったんです」
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長崎出身の九州初アイドルグループ「LinQ」で副リーダーを務める、海月らなさんを描いた時のこと。もともと、少女の未完成な色香をもった彼女を描きたいと思っていた池永さんでしたが、アトリエに現れた彼女は、髪を切り、化粧をして“今どき”の女の子になっていたといいます。
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池永康晟 「雹・らな」(『少女百遍の鬱憂』より 海月らなさん)
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「私は、彼女の未完成な荒々しい色気に魅力を感じていました。だから“アイドル”の彼女を見て、すごく憤慨した。ショートパンツに着替えて太ももを露出させたり、アイドルらしからぬポーズを模索したけど、どうにもならなくて。それで、こらしめたくなって、何度もシャワーを浴びせたんです。すると彼女が身に纏ってきたものが流されて、また荒々しい少女に戻っていった気がしました。そういう彼女に私はすごく愛おしさを感じたんです」

『雹・らな』はその時に描いた作品で、画集の作品のなかでも池永さんの思い入れのある作品だそう。少女の独特の色気とあどけなさ、強さが混在し、思わず目が離せなくなりそうな雰囲気をたたえています。
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女優の芋生悠さんを描いた作品。池永康晟「娯食・悠」
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一方で、池永さんいわく「違う意味で苦しんだ」という作品が「娯食・悠」。女優の芋生悠さんを描いた作品です。池永さんは、彼女がまだ上京したばかりの駆け出しの頃から描いていたそうですが、次第に彼女が女優として成長していくにつれて、葛藤が色濃くなっていったのだとか。

「彼女は単身女優になる野心をもってきた娘です。はじめはその弾ける姿を描けばよかったんです。しかし彼女は次第に本物の女優になっていきました。女優は演じる器です。誰かが魂を入れないといけないんです」

「この頃、私のアトリエに来た彼女はずっと虚ろでした。私が魂を入れるのを待っていたはずなんです。でも私は相変わらず物分かりのいい大人のふりをしてそれが出来なかったんです」

「『少女とはなんだろうか、それを見せてほしい』と訊ねた時、『わたしはもう大人よ』それが彼女の答えでした。少女の煌めきの明滅のままを写すべきか、垣根を乗り越えるべきか最後まで答えが分かりませんでした。私は正しく権力を行使できなかったんです」
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一見、どれも美しく、みずみずしい色気をまとった美人画に見えますが、池永さんの画集に綴られた言葉を読み解いていくと、すべての作品、人物にドラマがあり、それを知った後にはまた新たな作品の魅力が発見できます。

「画集の前半は、“少女”として描いた4人のアイドルと女優たちを、後半は一般人の女性たちを“女”として描いた過去の作品を載せています。合間には、私の悶々とした愚痴がたっぷり載っていますよ(笑)。ぜひ同じ世代に読んでいただきたいですね」
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池永康晟画集「少女百遍の鬱憂」

日本を代表する天才美人画家、池永康晟の初の試み。数年にわたって描きあげた、少女美人画作品集の決定版。
仕様/A4判 144ページ(フルカラー)
定価/本体2800円+税
玄光社刊

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● 池永康晟(いけなが・やすなり)

日本画家。1965年、大分県生まれ。大分県立芸術短期大学付属緑丘高校卒。独学で日本画を学び、40代より本格的に制作活動をスタート。2014年に出版した作品集、「君想ふ 百夜の幸福」(芸術新聞社)は6刷を超える人気。ほか、「美人画づくし」(監修/芸術新聞社)など。

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