2022.05.14
広瀬すず「映画『流浪の月』は、大好きなラーメンを我慢して挑みました(笑)」
14歳でデビューした広瀬すずさんも、今年6月19日で24歳に。すっかり大人の女性へと成長した彼女の主演映画『流浪の月』が公開中です。女児誘拐事件の当事者という難しい役をこなす広瀬すずさんの新たな一面をチェックしてみませんか。
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文/内埜さくら(フリーインタビュアー、ライター) 写真/梅谷秀司
筆者は彼女が『幽かな彼女』(関西テレビ)でドラマデビューした15歳の頃に取材をしている。今年6月19日で24歳。当然だがすっかり大人になり、コメントも洗練されつつ気さくな性格を失っていない彼女の成長に、笑みがとまらなかった。
15歳当時の記事を見せると、「うわ~っ、すごく若い!」と目を丸くしながら、インタビューが始まった。モデルから女優へと転身し、映画『いのちの停車場』(2021年公開)で共演した名女優、吉永小百合さんから「いま最も気になる女優」と言わしめた彼女はいま、どんな思いで仕事に取り組んでいるのかから話を聞いた。
やめたいと思った過去を昇華させたい
やめたいと思うきっかけはいつも、「普通の生活が送りたいな」という願望に心が浸潤されてしまうからなんです。“広瀬すず”でい続けることに、疲れてしまうときがあります。特に演じる役が重いと、いいお芝居ができるなどやりがいを得られていたのなら楽しさにつながるのかもしれませんが、自分ではお芝居がよかったのか悪かったのか、客観的な判断ができないんです。それは今も同じで、「楽しい」と感じるよりも役を掘り下げる時間のほうが長いので、考えても答えが見つからなくて。
でも、ここまで長く続けられたものがいまのお仕事以外には何もないんです。バスケットボールをしていましたけど(小学2年生から始め、小学6年生のときにはチームの司令塔に。東海高等学校総合体育大会で4位に輝く)、やけになっていたのか自分の誕生日に勢いで、「やめます!」と言って退部してしまったんです。
勢いがあればわりときっぱりと選択できるタイプではあるのですが、バスケットボールを勢いでやめてしまったことは、いまもすごく後悔していて。普段、気持ちが沈むことはほとんどないのですが、バスケットボールのことを考えたときだけ。だから、「バスケットボール以上に長く続けられているからこそ、何かを勝ち取ってからやめたい」というのが、いまのお仕事を続けていける原動力です。
中途半端なままではやめたくない。「やめるのはいまじゃないかな」と思っていたら、意外と長く続けてこられた、というのが現状です。やめたいと思った過去を、おもしろいエピソードとしてお話できるぐらいまで自分の中で昇華させたいです。
このお仕事はたくさんの方々と出会う職業で、みなさんいい人ばかりなんです。私自身は、出会う作品や人の運はとてもいいと思っていて、毎日感謝しています。とても恵まれていますし、みなさんのことが好きすぎて、そこが、お仕事を続けていきたいと思う大きな理由にもなっています。だから、ターニングポイントは? と聞かれたら、いままで出会ってくださった全員の方々かな、と思います。
私は人に相談するタイプではないので、いままであまりアドバイスをいただいた経験がないんです。でも単純な性格なので、褒められると「本当ですか!?」と、簡単にテンションが上がって喜びます。真正面から受け止めて、「もう1回、言ってほしいな」と思うぐらいです(笑)。言ってもらえるたびにポジティブな気持ちになれますし、悩む時間はいらないな、と思えるので、みんなに助けてもらっています。
厳しい一面を持つ監督と2度目のタッグを組んで
たしかに、厳しい一面を持つ監督だと思います。『流浪の月』の取調室でのシーンでは、20テイク以上撮り直しをしました。前回初めてご一緒させていただいた『怒り』では、「この映画を壊す気か」と怒られたこともあって、「また言われるのかな」と怖気づいたので(笑)、オファーをいただいたときは「私でいいんですか?」と驚きました。
ただ、李監督のことは、映画監督としても人としてもすごく信頼しています。今回は私にまかせてくださるシーンが多かったのですが、少しでもウソをついたりごまかそうとすると、すぐに見透かされてしまうんです。ピンポイントで的確な指示をされました。「もっと肌感覚で、滞りがなく演じてほしい」という言葉を何度も言われたのが印象的でした。
李監督に見透かされると、いままでの作品で経験してきたことがゼロになるというか、初心に引き戻されるというか。俳優として成長できたと感じられる現場でもありました。
『怒り』のときは、お芝居に対してフワフワとした感情を持っていたんです。演じる役に対して感情がわいてこないというか、感情を深く考えずにお芝居をしてしまう面があったというか。絶対によくないなとわかっていたのですが、自分でもどうしたらいいのかわからなかったんです。それは今でもお芝居をするときに「怖い」と思う部分で、今回は事前に、「人の感情にふれられなくなったかもしれません」と、伝えました。
李監督の期待に応えたかったのですが、今回は「(このシーン)どうするんだよ」と怒られることもたびたびあって。フワフワとした感覚を、壊していただけた気がします。
自分を押し殺して生きていく役を演じて
更紗はかつて世間を騒がせた、大学生による女児誘拐事件の当事者です。大人になってからも誘拐されたという他者からの過去の固定観念に取り囲まれていて、自分を押し殺して生きていく人。その環境になじもうとする女性でもあります。なので、彼女は「こういう人間だ」とは決めずに私は現場に入っていました。
ただ彼女が、家族と佐伯文(さえき・ふみ。誘拐犯として逮捕された。演:松坂桃李さん)に対してだけは強い思いを持っているという部分は忘れずにいました。あとは、他人と話を合わせてよく笑う生き方をする人で、笑っているようでまったく笑っていない人物像ということも、意識していました。
映画『流浪の月』で広瀬すずさんが見せる新たな一面
町中華のラーメンも我慢
李監督に「はかなげな女性のシルエットでいてほしい。更紗を小さな女性として見せたい。でも、やせすぎるとかわいそうな子に見えるので避けてほしい」と言われたので、食事制限で体重を落としました。2キロぐらいしか落としていないんですけど、私はダイエットをすると顔からやせていくのでとめられて、そこから3カ月は現状維持を求められたんです。(松坂)桃李さんも食事制限をしていたので、現場では「何を食べていますか?」という会話をよくしていました。
── 食事制限はつらかったですか?
めちゃめちゃつらかったです。普段からお酒を飲みますし、たくさん食べるので、よく行く町中華のラーメンも我慢しました。
── ラーメン、お好きですよね。
大好物です。細麺の硬めが好きという以外には味などにこだわりがないので、お店を見かけるとどこでも入りたくなります(笑)。つけ麺はやや太麺が好きですけど。……ラーメンの話をしていたら、食べたくなってきました。この取材が終わったら、食べに行くかもしれません(笑)。