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2022.06.04

『シン・ウルトラマン』は、「日本のおっさん社会」を描くショートコント!?

興行収入20億円突破の映画『シン・ウルトラマン』。昭和サラリーマンのパロディのような展開を感じとった55歳の筆者は思ったそうです。「同世代の中高年男性と、酒を飲みながら、笑いながら観たい」と……。

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文/スージー鈴木(評論家)

記事提供/東洋経済ONLINE
映画『シン・ウルトラマン』が好調だ。興行通信社が発表した5月21、22日の週末全国映画動員ランキングでは2週連続で1位、累計興行収入はすでに20億円を突破している。

観に行く前は、重々しい作品になるだろうと少しばかり緊張した。同じく、脚本:庵野秀明、監督:樋口真嗣による『シン・ゴジラ』(2016年)のヘビーな仕上がりを思い出しながら。

また、ネット等で事前に目にした批評も、非常に硬派で濃厚な書き方をしているものが多く、かつ賛否両論だったことも、緊張に拍車をかけた。

しかし、映画館で観ている途中から、その緊張が緩んでいくのが分かった。さらには、思わず笑ってしまうシーンもチラホラ出てきた。平日午前中ということもあり、比較的空いていることをいいことに、マスクの下で「おいおい」「マジかよ」「あちゃー」と、小声でつぶやきながら観た。
▲ 映画『シン・ウルトラマン』公式サイトより。(C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ
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おっさんホイホイとしての『シン・ウルトラマン』

そして「これは我々、中高年男性が、理屈抜きに楽しめる映画なのではないか」と思い直した。言わば、「おっさんホイホイ」としての『シン・ウルトラマン』(なお、この「おっさんホイホイ」はアース製薬「ごきぶりホイホイ」からの引用で、おっさん世代がいとも簡単に吸引されることを表している)。

先に断っておけば、私はウルトラマンや特撮のマニアではない。ただそんな普通の(?)55歳による意見を、硬派で濃厚な論評の中に混ぜておいてもいいと思ったのだ(注意:以下、少しだけネタバレ含みます)。

まず、この映画が持つ「おっさんホイホイ」性として指摘したいのは、テレビ版原作(1966~1967年)への忠実性である。

観る前に危惧したのは、(ありがちな)近未来的サイバー空間に映像が押し込められてしまうことだ。再放送で何度も見た、あの映像世界と離れてしまうこと。

しかし、それは杞憂に終わった。最新の技術を駆使しながらも、映像世界が、原作の延長線に置かれていた。

原作ではミニチュアセットとスーツで表現していたウルトラマンと怪獣の戦いを、CG(コンピューター・グラフィックス)で映像化したそうだが、絵面(えづら)にはアナログな昭和の匂いがぷんぷんする。

また、ウルトラマンのキャラクターデザインを手掛けた成田亨の意志を継いだという、ウルトラマンの姿が、とにかく惚れ惚れするほど美しい。

映画の公式サイトで、庵野秀明はこう書いている——「成田氏が望まなかった、眼の部分に覗き穴を入れない。成田氏が望まなかった、スーツ着脱用ファスナーに伴う背鰭(筆者註:せびれ)を付けない。そして、成田氏が望まなかった、カラータイマーを付けない」。

さらには、オリジナルでウルトラマンのスーツに入った古谷敏(78歳)を再起用して、モーションキャプチャーで撮影したのだというから徹底している。

ちなみに米津玄師による主題歌は『M八七』。我々がよく知るのは「M78星雲」だが、最初の企画の段階では「M87星雲」だったことから来ているのだという。

まずはこれら、原作への忠実性、原作愛によって、この映画は、中高年男性の基礎票を吸引する。
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現代性を帯びたテーマに中高年が引き寄せられる

加えての「おっさんホイホイ」性として、『シン・ゴジラ』もそうだったのだが、単なる懐古物でなく、テーマが現代性を帯びていることが指摘できる。このあたりも、未だに新聞を紙で読み、ニュース番組を眺め、米倉涼子主演の『新聞記者』(Netflix)に惹かれるような中高年男性の好むところだと感じた。

言い換えれば、テレビ版原作のエピソードから、東日本大震災以降、コロナ禍の日本における現代性を持つテーマと怪獣を選択している。

前半に登場する2つの禍威獣(かいじゅう。本映画では「怪獣」ではなくこう表す)、電力をエネルギーとするがゆえに電力設備を破壊するネロンガと、同様に地下核廃棄物貯蔵施設を狙うガボラを、私は、福島第一原発事故と関連付けて観た。

また、ガボラの登場に対して取り沙汰される「非常事態宣言」などは、コロナ禍における「緊急事態宣言」をいやがおうにも想起させる。さらには、日米関係の辛辣な描写まで(「属国」という表現まで出てくる)。

この点については、かつて私がこの連載に寄せた記事=『「ウルトラQ」に2021年の中高年がハマる理由』にも書いたように、元々のウルトラシリーズが、極めて現代的(つまり当時としては未来的)なテーマを取り上げていたことに驚くのだが。
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コント性の高さにも注目

しかし、今回私が最も注目した「おっさんホイホイ」性は、喜劇性、言い換えればコント性だ。白状すれば、この映画、途中から半笑いで観た。

言い換えれば、「ショートコント『日本のおっさん社会』」としての『シン・ウルトラマン』。特に後半は、おっさんのパロディ化をおっさんが笑う、極めて優秀な「コント」に感じたのだ。

まずは首相や大臣、官僚など、絶えず集団でウロウロ動いているネクタイ組が、何事も主体的に判断せず、ザラブやメフィラスに、いとも簡単に騙されてしまうこと。このあたり、昭和のサラリーマン喜劇映画によく出てくる、態度は横柄なのに中身がポンコツな上司の姿とダブる。

このメフィラス(山本耕史、好演)が最高で、「メフィラス」と書かれた縦書きの名刺を差し出したり、「河岸(かし)を変えよう」という劇的に昭和なセリフを放って、神永(斎藤工)と一緒に浅草の居酒屋で交渉を始めたり(バックに五木ひろしが鳴っている)と、昭和サラリーマンのパロディのような展開がいよいよ極まる。

それ以前に、メフィラスと神永が、並んで仲良くブランコに乗るシーンや、狩場防衛大臣(益岡徹)も参加する「ベーターボックス」の受領式典会場が紅白の横断幕で囲まれているところに、90年代のフジテレビ深夜のコント番組で見たような、シュールなコント臭が漂っている。

極めつけは、巨大化する浅見(長澤まさみ)だ。その凛々しい美しさによって、色々な意味で映画の印象を支配する長澤まさみだが、巨大化した浅見については、少なくとも私には、セクシャルというよりコミカルに見えた。そして「この映画は笑っていいんだ」という信号のように感じた。

そして、この喜劇性/コント性に気付いた途端、私は、同世代の中高年男性と、酒を飲みながら、笑いながら観たい映画だと思ったのだ。

「おっさんホイホイ」には、3種類のとりもちが塗られている。それぞれ「原作への忠実性」「テーマの現代性」「喜劇性(コント性)」で、これらが黄金比率で調合された香りは、中高年男性を十分に惹き付ける魅力的なものである。

そう考えた上で、特に3つ目の「喜劇性(コント性)」に重きを置けば、シン・ウルトラマンの最大の敵は、禍威獣・ゼットンではなく、禍威獣・マスクではないだろうか。

マスク着用が義務付けられる映画館。いきおい声を出して笑うことははばかられる。『シン・ウルトラマン』のみならず、すべての映画において、笑いの要素が抑え込まれてしまう。

日本中の映画館から、笑いを奪い去る巨大透明禍威獣・マスク!

また最近は、自宅において、映画作品を早送りで観ることが一般化されつつある時代だ。対して、結果、映画館で観る映画が、必要以上にシリアスかつ大仰に捉えられる傾向が生まれているのかもしれない(これらの結果が、事前にネットで見た硬派で濃厚な批評群なのかも)。

コロナ禍が生んだ巨大透明禍威獣・マスクとの戦いは、まだしばらく続きそうだが、シン・ウルトラマンがマスクを退治した暁には、「禍威獣・マスク退散記念、大声爆笑上映」を開催してほしいと思う。メフィラスと神永が落ち合った浅草で。

そして続編だ。すでに報じられている『シン・仮面ライダー』への期待が高まるが、加えて、かつて日本を席巻した原作に忠実に基づいて、貧困という現代に通じるテーマ設定で、かつタイトルからして喜劇性を備えた『おシン』をおすすめしておきたい。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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