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2022.06.11

トム・クルーズが『トップガン マーヴェリック』で発揮した“いかにもスターらしさ”

『トップガン』が公開された1980年代は、「このスターが出ているから」という理由でハリウッド映画は選ばれてきました。35年後の今、コンセプトで映画が選ばれるようになりましたが、続編『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズのおかげで全世界で爆発的にヒットしているんです!

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文/猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
トム・クルーズの映画『トップガン マーヴェリック』
▲ 30年以上にわたってハリウッドスターの座を保ち続けているトム・クルーズ。(写真:Naum Kazhdan/New York Times)
『トップガン マーヴェリック』が全世界で爆発的にヒットしている。日本では公開1週間もしないうちに20億円を達成し、北米でもすでに興収2億ドルを突破した。

単に数字だけを見るなら、とくに目新しいことではない。これくらいのヒットはほかにもある。今作のヒットが注目されるのは、マーベルのスーパーヒーロー映画や『スター・ウォーズ』ではなく、トム・クルーズという往年のスターが、いかにもスターらしさを発揮して、全世界規模で人々を楽しませているからなのだ。

『トップガン』でトム・クルーズが大スターになった1980年代から20数年の間、ハリウッド映画はスターが引っ張るものだった。観客は「このスターが出ているから」という理由で映画を選び、それらのスターの出演料はどんどん上がっていった。

スターが目玉ではなくなっていった

トム・クルーズの映画『トップガン マーヴェリック』
▲ トム・クルーズはスターとしてのオーラを放っている。(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
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トム・クルーズ、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、ハリソン・フォード、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、ジム・キャリーなど、ひと握りの超売れっ子は「2000万ドルクラブ」と呼ばれ、さらにバックエンドという、興行成績に応じて歩合が支払われるボーナスまでもらえる、おいしい契約を結んだものだ(女優の場合は、ジュリア・ロバーツやキャメロン・ディアスなど超売れっ子でも、ここまでのギャラはもらえなかった。よく言われている、ハリウッドの男女差別である)。

しかし、時代が変わっていくうち、観客は、誰が出ているかではなく、コンセプトで映画を選ぶようになっていった。マーベルの映画はその典型。マーベル映画に出る俳優は、マーベル映画に出たから有名になるのであり、マーベルは自分たちの映画に出てもらうために大物スターを巨額のギャラで釣ろうとはしない。

映画とテレビの境目もどんどん薄れてきた。日本と違い、かつてアメリカでは、映画スターは別格の存在だった。映画スターはテレビにも、コマーシャルにも出ないものだった。ハリウッドスターが日本のコマーシャルに出る例は昔からあったが、それはアメリカ人の目に触れない日本だから、楽な金稼ぎとして出演したにすぎない。最近ではその辺りがかなり緩んできて、とくにスーパーボウルで放映されるコマーシャルには、ジェイソン・モモアやスカーレット・ヨハンソンなども出るようになっている。

テレビ俳優が映画俳優に昇格するのは非常に難しいことで、ブルース・ウィリスはまれな成功例とされてきた。だが、ネットフリックスなど配信ドラマが映画並みの製作費を投じてオリジナルドラマや映画を作るようになった今は、ニコール・キッドマン、コリン・ファース、レネ・ゼルウィガーのようなオスカー俳優もドラマに出ている。

映画スターが次々に配信作品に出演するようになったことから、テレビの賞であるエミー賞は、もはやアカデミー賞とあまり変わらない顔ぶれになってきた。もともと尊敬されている映画スターがエミー賞にノミネートされると、かなりの確率で受賞する。テレビや配信に出ることは、そうやって新たな賞をもらい、自分のエゴをくすぐるうえでも効果的なのである。

だが、トム・クルーズは違う。この7月で60歳になる彼は、昔ながらの映画スターの定義を頑固に保ち続けている。彼は絶対にテレビにもコマーシャルにも出ない。さらに、いかにも映画スターらしい作品と役ばかりを選び続けているのである。
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王道アクション映画にこだわる

『トップガン』はもちろん、彼が出るのは、『ミッション:インポッシブル』『オブリビオン』『バリー・シール/アメリカをはめた男』『アウトロー』など、ビッグスクリーンで見たい、アクションがたっぷりある映画だ。

その傾向は、ますます顕著になっている。10年前にはコメディミュージカル映画『ロック・オブ・エイジス』に出たし、1999年の『マグノリア』では助演男優部門でアカデミー賞に候補入りした。しかし、近年の彼はそういった映画に助演で出ることに興味はない。
トム・クルーズの映画『トップガン マーヴェリック』
▲ トム・クルーズはプロデューサーとしても手腕を発揮。(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
そして、出演したアクション映画で、彼はまだ自らスタントをやるのだ。それは、彼がプロデューサーでもあるからできることだと言える。もちろん、俳優もある程度はスタントをやるし、そのために厳しい特訓もする。だが、ケガをされて撮影に支障が出ては困るので、危ないことはスタントダブルにやってもらわないといけないのだ。車が大好きで運転が得意な故ポール・ウォーカーですら、「『ワイルド・スピード』1作目ではほとんど自分で全部やれたのに、もうやらせてもらえないことが多くなった」とぼやいていた。

そうやって作った映画を、トム・クルーズはビッグスクリーンで見せることに断然こだわる。テレビドラマに出るのが嫌なのだから、もちろんそれ以外の選択肢はないのだが、パンデミックで数々の映画が配信での公開に変わる中でも、クルーズは『トップガン マーヴェリック』を映画館で公開すると主張し続けたと言われている。

お披露目の仕方も華やかだ。ようやくサンディエゴでプレミアとなった時、クルーズは、『トップガン マーヴェリック』のロゴが描かれたヘリコプターに乗って現れたのである。これ以上に映画スターらしい登場のしかたがあるだろうか。そこでプレミアされた映画は、アクション、恋愛、ユーモア、葛藤など、ハリウッド映画の良いところを全部上手に詰め込んだ、ポジティブな意味で王道の娯楽映画だった。
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ハリウッドスターとはどういうものか見せつけた

その作品は全世界の観客を魅了している。今のところ、観客の中心は40代以上のようだが、アメリカで学校が休みに入り始める中、子供を連れて劇場に観に行く人がこれから増えるだろうと予想される。これだけ話題になったことで、若者にも「真のハリウッドスター」が出る映画とはどういうものかをリアルに体験する人が増えるかもしれない。
トム・クルーズの映画『トップガン マーヴェリック』
▲ ドッグファイトシーンで魅せるトム・クルーズ。(C)写2022 Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
時代の変化によって失われていく伝統は、どの分野にもある。クルーズは、そのひとつを守ろうとしているのだ。その姿勢にも、それができるという事実にも、敬意を払わざるを得ない。彼はきっと「映画スター」としてキャリアを終えるのだろう。それはとても特別で、尊いことではないだろうか。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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