2022.06.11
トム・クルーズが『トップガン マーヴェリック』で発揮した“いかにもスターらしさ”
『トップガン』が公開された1980年代は、「このスターが出ているから」という理由でハリウッド映画は選ばれてきました。35年後の今、コンセプトで映画が選ばれるようになりましたが、続編『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズのおかげで全世界で爆発的にヒットしているんです!
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文/猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)

単に数字だけを見るなら、とくに目新しいことではない。これくらいのヒットはほかにもある。今作のヒットが注目されるのは、マーベルのスーパーヒーロー映画や『スター・ウォーズ』ではなく、トム・クルーズという往年のスターが、いかにもスターらしさを発揮して、全世界規模で人々を楽しませているからなのだ。
『トップガン』でトム・クルーズが大スターになった1980年代から20数年の間、ハリウッド映画はスターが引っ張るものだった。観客は「このスターが出ているから」という理由で映画を選び、それらのスターの出演料はどんどん上がっていった。
スターが目玉ではなくなっていった

しかし、時代が変わっていくうち、観客は、誰が出ているかではなく、コンセプトで映画を選ぶようになっていった。マーベルの映画はその典型。マーベル映画に出る俳優は、マーベル映画に出たから有名になるのであり、マーベルは自分たちの映画に出てもらうために大物スターを巨額のギャラで釣ろうとはしない。
映画とテレビの境目もどんどん薄れてきた。日本と違い、かつてアメリカでは、映画スターは別格の存在だった。映画スターはテレビにも、コマーシャルにも出ないものだった。ハリウッドスターが日本のコマーシャルに出る例は昔からあったが、それはアメリカ人の目に触れない日本だから、楽な金稼ぎとして出演したにすぎない。最近ではその辺りがかなり緩んできて、とくにスーパーボウルで放映されるコマーシャルには、ジェイソン・モモアやスカーレット・ヨハンソンなども出るようになっている。
テレビ俳優が映画俳優に昇格するのは非常に難しいことで、ブルース・ウィリスはまれな成功例とされてきた。だが、ネットフリックスなど配信ドラマが映画並みの製作費を投じてオリジナルドラマや映画を作るようになった今は、ニコール・キッドマン、コリン・ファース、レネ・ゼルウィガーのようなオスカー俳優もドラマに出ている。
映画スターが次々に配信作品に出演するようになったことから、テレビの賞であるエミー賞は、もはやアカデミー賞とあまり変わらない顔ぶれになってきた。もともと尊敬されている映画スターがエミー賞にノミネートされると、かなりの確率で受賞する。テレビや配信に出ることは、そうやって新たな賞をもらい、自分のエゴをくすぐるうえでも効果的なのである。
だが、トム・クルーズは違う。この7月で60歳になる彼は、昔ながらの映画スターの定義を頑固に保ち続けている。彼は絶対にテレビにもコマーシャルにも出ない。さらに、いかにも映画スターらしい作品と役ばかりを選び続けているのである。
王道アクション映画にこだわる
その傾向は、ますます顕著になっている。10年前にはコメディミュージカル映画『ロック・オブ・エイジス』に出たし、1999年の『マグノリア』では助演男優部門でアカデミー賞に候補入りした。しかし、近年の彼はそういった映画に助演で出ることに興味はない。

そうやって作った映画を、トム・クルーズはビッグスクリーンで見せることに断然こだわる。テレビドラマに出るのが嫌なのだから、もちろんそれ以外の選択肢はないのだが、パンデミックで数々の映画が配信での公開に変わる中でも、クルーズは『トップガン マーヴェリック』を映画館で公開すると主張し続けたと言われている。
お披露目の仕方も華やかだ。ようやくサンディエゴでプレミアとなった時、クルーズは、『トップガン マーヴェリック』のロゴが描かれたヘリコプターに乗って現れたのである。これ以上に映画スターらしい登場のしかたがあるだろうか。そこでプレミアされた映画は、アクション、恋愛、ユーモア、葛藤など、ハリウッド映画の良いところを全部上手に詰め込んだ、ポジティブな意味で王道の娯楽映画だった。
ハリウッドスターとはどういうものか見せつけた
