2022.10.26
番組打ち切りの「クレイジージャーニー」が復活できたワケ
2019年9月に突然終了となった「クレイジージャーニー」(TBS系)のレギュラー放送が、10月17日夜に再スタート。不適切演出が原因で打ち切りとなったのに、なぜ復活できたのか、その魅力とは?
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文/木村隆志(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)
視聴者の熱い支持に加えて、ギャラクシー賞や放送文化基金賞を受賞するなど、業界内外から評価を得ていましたが、2019年9月に突然の番組終了。しかもその理由が「爬虫類ハンターの企画で、スタッフが事前準備した生物を使って捕獲シーンを撮影した」という不適切演出だったことで猛批判を受け、打ち切らざるをえない状況に追い込まれてしまったのです。

「復活は不可能だろう」という声が大勢だったが
しかし、ネット上には「クレイジージャーニー」の話題が出るたびに、「あんな演出がなくても十分面白い」「このまま終わるのはあまりに惜しい」「他の企画に罪はないからできるはず」など擁護の声が続出。制作サイドの不祥事があった場合、ネット上はほぼ批判一色になるものですが、逆に復活待望論があがるほど視聴者から愛されていることが明らかになったのです。
それらの声を受けたTBSは再発防止に向けた議論を重ねたうえで、2021年5月に2時間特番を放送したほか、動画配信サービス・Paraviでの配信も再開。さらに約1年半の時を経た今秋、ついに完全復活というステップを踏んできたのです。
では、制作サイドの不祥事によって「放送倫理違反」とされた番組が、なぜ復活できたのでしょうか。再開前にあらためて番組の特徴や魅力を掘り下げていきましょう。
復活初回に“ダブルエース”が登場
今回、丸山ゴンザレスさんはコカインの密輸ルートを取材し、「殺し屋のアジトに初潜入する」という際どいシーンもあるそうです。一方の佐藤健寿さんは世界最北端のゴーストタウンへ。旧ソ連時代の生活風景などの不思議な世界観を撮影するようです。
丸山ゴンザレスさん自身が「TBSさんは大丈夫ですか?」と同行スタッフを気づかうほどの旅であり、視聴者は「スタジオにいて、放送できているということは、大丈夫だったのかな」と思いながらもドキドキしてしまう。一方、佐藤健寿さんの旅は、「美しい」「神秘的」「奇妙」などの風景に言葉を失うとともに、その地域の歴史背景を学ぶ楽しさがある。
ともに「他の番組では見られない」「ネット上では見られない」という映像であり、それを子どものように目を輝かせて追い求めるクレイジージャーニーたち自身も、他のコンテンツでは見られない当番組ならではの存在。また、人々の想像を超えるほどクレイジーな旅に同行するスタッフも「怖い」「危ない」「わからない」などのハイリスクな仕事であり、それが視聴者にも伝わるからこそ支持を集めているのでしょう。
丸山ゴンザレスさんと佐藤健寿さんだけでなく他のクレイジージャーニーたちも、ディープ、マニアック、デンジャーなテーマが多かっただけに、これまでは深夜帯で放送されていました。しかし、今秋から幅広い世代が見るゴールデンタイムで放送されることで、「内容がマイルドになってしまうのではないか」と不安視する声もあがっていましたが、初回の人選と旅の内容を見る限り、心配無用ではないでしょうか。
旅と言えば、奇しくも今月11日、旅行代金の割り引きなどで観光業を後押しする「全国旅行支援」がスタートしたばかり。さっそく予約が殺到するなど、人々の間で旅のモチベーションが上がっている様子がうかがえます。
世界に誇りたい型破りな日本人
さらに特筆すべきは、「奇人と偉人の紙一重」と言われるクレイジージャーニーたちが基本的にすべて日本人であること。とかく「真面目で枠をはみ出さない」と言われがちな「日本人も面白いんだ」と思わせてくれるからこそ、彼らのことが好きという視聴者が多いのではないでしょうか。
次に話を番組から放送局のTBSに移すと、ここにきて“クレイジー”というキーワードを重視するような戦略が見られます。今秋は「クレイジージャーニー」のほか、「~通しか知らない究極の1日~熱狂! 1/365のマニアさん」も金曜20時台のゴールデンタイムでスタート。この番組は「マニアたちの熱狂的な生き様をのぞき見する」というコンセプトで、異常なまでの情熱やレアな映像を見せるところが「クレイジージャーニー」と似ています。
もともとTBSには、「マツコの知らない世界」という「いい意味でクレイジー寄り」のマニアが登場する番組がありますし、「水曜日のダウンタウン」はスタッフたちが「いい意味でクレイジー」と言われ称賛されてきました。これらの番組から、TBSが必ずしも視聴率だけにとらわれず熱量の高いコンテンツを重視している様子がわかるのではないでしょうか。
バラエティはドラマと比べて配信再生が伸びず、業界内ではその将来を不安視する声もありますが、だからこそ期待されているのは、オリジナリティと熱量があり、SNSで広がりやすいこれらの番組。「クレイジージャーニー」はその筆頭であり、配信での収益化を狙えるバラエティの筆頭となっていく可能性を秘めているのです。裏を返せば、だからこそTBSとしては「不祥事の事実は重いが、それでもあきらめきれない番組だった」のでしょう。
「その後」が気になる人物がズラリ
この番組でしか見られない人物と映像があり、コロナ禍が続く中で旅のニーズが上がり、マニアをフィーチャーした番組がウケている。これらの強みや追い風がある以上、復活した「クレイジージャーニー」は、よほどのことがない限り、過去と同等以上の支持を集めるのではないでしょうか。
もちろんMCの松本人志さん、設楽統さん、小池栄子さんがいてこその「クレイジージャーニー」ですが、「もしこの3人がいなかったとしても見続ける」という視聴者は多いでしょう。つまり、「それほどコンテンツとしての魅力がある」ということであり、一部のスタッフが不適切演出をしたくらいでは揺るがなかったのは当然と言えるかもしれません。
「スタッフを一新して臨む」ことを明かしていることも含め、復活が発表されたときに飛び交った「あのまま終わらなくて本当によかった」「この番組が帰ってきてうれしい」などの期待に応えられる番組になりそうです。