2022.11.26
出社vs在宅!? リアルとリモートのいいとこ取りする方法
ストレージサービスを展開する企業「サマリー」は、コロナ禍を機にフルリモート勤務を導入。代表取締役の山本憲資氏が言う「リモートワークという基本体制に、リアルコミュニケーションのよさをうまく取り込む」方法とは?
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文/山本憲資(サマリーFOUNDER & CEO)
日本でも、パンデミックという外的要因によって、リモートワークが一気に広まった感がある。だが、はたして、このまま多くの企業で定着するのか、事態収束とともに元の勤務スタイルに戻るのか。それは企業経営者や会社員が、実際、どれだけのメリットを業務のリモート化に見出したかによるだろう。
そんななか全国的にも率先してフルリモート勤務体制を導入した企業がある。ストレージサービスを展開する「サマリー」だ。代表取締役の山本憲資氏に自社の取り組みについて聞いた。

コロナ禍の生活変化で需要が急伸した
スタッフがボックス内のものを1点1点撮影し、お客様はウェブサイトやアプリを通じて、いつでも1点単位で収納物の取り寄せを依頼できるといったプランが好評です。
テレビCM等で知ってくださっている方もいらっしゃるかもしれません。
多くの住宅で収納スペースが限られているなか、思い出の品や溜まった書籍、衣替えなどにご利用いただければと思って始めたサービスですが、ここ2年ほどでは、コロナ禍をきっかけに始めていただくお客様も少なくありません。
リモートワークになると、今までは居住スペースだったところに勤務スペースを確保しなくてはならない。特に都市部の住宅事情は「狭小」が通常ですから、普段使わないものをストレージサービスに預けることで、スペースをつくろうというニーズが高まっているのです。また、東京都の不動産価格が上昇するなか、より広いところに引っ越すよりも、今の住居をより広く使うことを選択したいという事情もあるでしょう。
すでに「2割が地方在勤」という事実
かねて当社では、「すべての社員は等しく情報を取得できる権利を有している」という考えのもと、すべてオープンチャンネルの社内Slackなど「誰もが時差なく同じ情報を取得できる体制」を整えてきました。そうした体制づくりをしておいたことが、社員が一堂に会さないフルリモートになった今、改めて奏功していると感じています。
僕自身は2019年、軽井沢に築50年ほどの家を購入。もともと旅が好きで、一カ所にとどまるよりも動き回っているほうが好きなので、いずれ多拠点生活ができたらと考えてのことでした。その家のリノベーションを進めているころに新型コロナウイルスが感染拡大し、リモートワークを導入、当初の目論見よりも早く東京と軽井沢の二拠点生活が始まりました。
われわれは「UX(ユーザー・エクスペリエンス)」をお客様に対してだけでなく、社員に対しても意識しようという方針を掲げています。社員も大切なユーザーの一人と見なして、働きやすさや社員同士のコミュニケーションなど「社員としてのエクスペリエンス(体験)」を向上させるという考えです。
その意味でいうと、「リアルとリモートをいかに融合していくか」というのは、フルリモートの開始を機に生まれたUX課題でした。リモートワークのメリットはすでに十分実感しつつも、リアルにはリアルのよさがある。それを享受できる環境をどうすれば社員に提供できるか、それが課題です。
無視できない「会って話すこと」の価値
ただ、仕事の優先度としては、セレンディピティ以前に、まず自分の仕事をパフォーマンス高くこなすことが求められます。特にスタートアップ企業ではそうでしょう。われわれサマリーは社員の業務範囲や目標が明文化および管理されています。
その条件下においては、リアルなコミュニケーションによっていつ生まれるとも知れないセレンディピティよりも、リモートワークで各々の仕事に集中できることのほうに、社員の多くが大きな価値を見出しているのだと思います。
しかし、もう少し大きな視野で考えてみると、やはりリアルコミュニケーションの価値は無視すべきではないでしょう。
同じ空間にいれば、勤務中であっても、自然と世間話や身の上話をするものです。そして、たとえ社員の業務範囲が明文化、管理されているような組織でも、他愛ない会話から互いの人となりなどを知り、人間関係を構築できることの意味は大きい。当意即妙な教え合いや助け合いが格段に起こりやすく、チーム全体のパフォーマンスが上がっていくというのは確かにありうることです。
リアルコミュニケーションがあるかどうかの差は、新人を迎え入れたときにも如実に表れます。サマリーでは「自立的・自律的に働ける人」という採用基準を設けてはいますが、新しいメンバーに仕事の手順や社内ルールを教えるには、やはりリアルコミュニケーションのほうが向いています。社会経験のない若い人を採用した場合、なおのこと丁寧に寄り添って手取り足取り教える必要があるでしょう。
「距離感」はテクノロジーでハック可能
まず挙げられるのは、「距離をテクノロジーでハックする」という発想です。「物理的な距離」というハードルがあるリモートワークでも、リアルに近い温かいコミュニケーションができる環境を整えれば十分可能です。
実は、フルリモートを導入する前から、すべてオープンチャンネルの社内Slack上で質問しやすい・助けを求めやすい雰囲気をつくるよう気を配ってきました。さらに、社内Slackでのやり取りだけでは不十分な場合は、まとまった時間を割いて音声通話やZoomで話すという流れもすでに確立されています。
オフィスに出勤していたころは「社内Slackで気軽に相談→込み入ったことは直接話す」という流れだったものが、フルリモートの現在は、後段部分が音声通話やZoomに取って代わった形です。
また、社員同士で「ありがとう」「がんばれ」「がんばったね」「よかったよ」などの気持ちをリアルタイムで送り合えるピアボーナス制度「サマチップ」(AmazonポイントやiTunes/Googleポイントに変換できる社内ポイント)や、任意参加のオンライン飲み会「月末ゆる会」も、社員同士の温かなコミュニケーションの土壌になっています。
このように、距離という物理的ハードルをテクノロジーで乗り越える取り組みに加えて、リアルコミュニケーション自体の機会を増やすことも考えています。
当社では半期に1度、次の半期のキックオフとして社員が一堂に会し、部署ごとに目標を発表するという食事会を開いているのですが、いざフルリモートになって直接会わない期間が長くなってみると、実際に会って話すのはいいものだな、と素直に感じます。
そこで新たに導入したのが、隔月で他チームとの交流を図る「まぜご飯」。さらに、月に1度ほどのペースでチームメンバーが集まって一緒に働く、という試みも考えています。私が感じた「実際に会って話すのはいいものだ」というのが社員共通の実感ならば、こうした取り組みもまた社員のUX向上につながるでしょう。
リアルにはリアルのよさがあるといっても、すべてをリアルに戻す必要はありません。リモートワークという基本体制に、リアルコミュニケーションのよさをうまく取り込む。そうすることで社員同士のコミュニケーション向上と個人のパフォーマンス向上を総合できる。まさに、リンダ・グラットンが新著『リデザイン・ワーク 新しい働き方』の中で語る、「新時代の働きやすさ」が叶うのだと私は考えています。
(構成:福島結実子)