2023.07.27

酒場の達人、牧野伊三夫さんと高円寺はしご酒

目まぐるしく時代が変化しているなか、モテるオヤジはどうあるべきか? 過去の価値観にとらわれず、しなやかにしたたかに現代を生き、男女を問わず皆に好かれる「愛されオヤジ」たちをご紹介する本特集。今回は画家の牧野伊三夫さんの登場です。

CREDIT :

文・編集/秋山 都(LEON.JP) 写真/吉澤健太

【04】牧野伊三夫さん(画家)

酒場でこそ「愛されオヤジ」の実力が発揮される

気負わず気張らず遊び心をもって  愛されオヤジで行こう!
男女を問わず皆に好かれる「愛されオヤジ」たちを紹介していく……まっさきに浮かんだのが画家の牧野伊三夫さんです。本業の画家としての活動の傍ら、書籍挿画や雑誌の挿絵、広告など、多岐にわたり活躍する牧野伊三夫さんの30年以上にわたる仕事については、2019年に上梓された作品集『椰子の木とウイスキー、郷愁』をご覧いただくとして。
牧野伊三夫 著書
▲ 『椰子の木とウイスキー、郷愁』(誠文堂新光社刊)では牧野伊三夫さんの書籍や雑誌等の出版物や広告物をはじめ、自費出版や、自身でデザインも手掛けるちらしや葉書など、数万点もの作品のなかから約1000点に絞って掲載。
最近では画業に留まらず、執筆においても多数の自著を持ち、『POPEYE』誌ではコラム「のみ歩きノート」を連載中。もともと酒好きではありますが、さらに風呂好き、料理好きとして“愛すべきおじさん”スタンスを確立し、ヤング(死語)にもファンを拡大しています。そんな牧野さんの「愛されオヤジ」ぶりを堪能したく、今日は久々に牧野さんとランデブー(これまた死語?)。中央線沿線に住まう牧野さんが馴染みでもある高円寺の酒場をホッピングしながら、「愛されオヤジ」なポイントを探していくことといたしましょう。
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1.驚きのある待ち合わせ場所

さて、牧野さんとの酒場ホッピング。のっけから「愛されオヤジ」ポイントを発見しました。
牧野伊三夫 小杉湯
▲ 「小杉湯」(東京都杉並区高円寺北3-32-17)は昭和8年創業の老舗銭湯。銭湯絵師・丸山清人さんの富士山壁画も見もの。
この日、待ち合わせ場所として牧野さんが指定してきたのは、なんと銭湯。筆者は以前にも「サンボア銀座店」で牧野さんと呑みましたが、その際も「金春湯でひとっぷろ浴びてから会いましょう」と言われたっけ。どうやら、「浴びてから呑む」は牧野さんのお気に入りコースのようで。

試してみると、暑かった1日でかいた汗を流してからお会いするから体臭も気にならないし、なによりさっぱりと爽快! 壁一枚隔てているとはいえ(筆者は一応オンナですので)、同じ屋根の下で互いに裸になるというのはちょっとドキドキするものですが、同時によそ行きの仮面が脱げてしまい、なんだか素直になれるから不思議です。ヨコシマなLEON読者のみなさまにおかれましては、デートの後半に入浴(岩盤浴とかね♡)をプランする方も多いかと思いますが、いきなりスタートにもってくるの、おおいにアリですよ。化粧もとれちゃうし、互いに素をさらけ出せますから。
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2.お会計が気にならない、町の名店で呑む

牧野伊三夫 一徳 高円寺
▲ 名酒場「一徳」(東京都杉並区高円寺北2-11-1)。角地に面した大きな窓から風が入って心地いい。
さて、湯上りのさっぱりとした心持ちでお店へ。まず1軒めの「一徳」は一品料理も美味しいことで知られる名酒場。いつも地元の人でにぎわっているこの店を、今日は撮影も入るということで牧野さんが予約してくれていました。
一徳 高円寺 牧野伊三夫
▲ 「ご無沙汰しちゃって」「先週も来たじゃない(笑)」と話が弾む牧野さんと店主の木下卓也さん。
牧野さんが友人を連れていく酒場はレストランガイドに掲載されるような高級店ではありません。懐にもやさしい価格帯だから、「今日はどっちが支払うのかな」と気もそぞろになる心配はご無用。奢っても、奢られても、負担にならない絶妙な価格帯でありながら、酒や肴が美味い……これ、なかなかないんですよね。
一徳 高円寺 ホッピー
▲ 注文は「まずホッピー」。ついで「マカロニサラダとポテトサラダのあい盛り」。
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3.基本は聞き上手

以前、バーの達人である林信朗さんを取材した際、酒場で嫌われる男性の特徴として「自分の話ばかりする男」を挙げていましたが、牧野さんはその対極。もちろん聞かれれば自分のことも話すけれど、基本的には「最近どうなの?」「ここはね、これが美味いんですよ」「もう少し飲んだらどう?」と周囲を気遣います。

店主の木下卓也さんが音楽活動していることにも触れ、「この曲が最高なんだから」とさりげなく宣伝。店内でかけてもらった曲はバリバリのブルースでした。「本日の〆はナポリタン~♪」という歌詞につられ、たまらなくナポリタンを食べたくなっちゃった。
一徳 高円寺 ナポリタン
▲ というわけで私たちの「本日の〆」もナポリタン。
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4.雰囲気と趣向を変えた2軒目へ

牧野伊三夫 高円寺
▲ 「高円寺もずいぶん変わっちゃったなぁ」とそぞろ歩く牧野さん。
ほろ酔いになりながらも、まだ暗くならない夏の宵。早くも2軒目を目指して高円寺の街をそぞろ歩きます。
牧野伊三夫 高円寺
▲ 路地の奥に潜む「唐変木」(東京都杉並区高円寺北3-4-11)。ちょっと入りづらい雰囲気だが、居心地はよく独り客も多い。
「1軒目がホッピーだったから……次は洋酒がいいかな。ウイスキーはどうですか? ぼくのボトルが入っている店があるんですよね」と連れていってくれたのは小道の奥にあるちょっと怪しげなバー「唐変木(とうへんぼく)」。

牧野伊三夫 
▲ 牧野さんの煙草の吸い方は実にスマート。酒の合間にサッと吸ってスッと消す。
地階にひっそりと佇む「唐変木」は昭和49年創業。薄暗い店内には柱時計がたくさんかかっており、レコードの名盤も揃っています。名物ママであるむつ子さん手製のつまみも豊富で、我々はここで「にんにくスパ」をオーダー。さっきはナポリタンだったし、なんだかスパゲティばかり食べている1日です。
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5.下ネタはチラ見せくらいで

実は入店した際、「あら、おフェラちゃんじゃない」と声をかけられた牧野さん。
牧野伊三夫 サントリー
▲ フェラッチオっていう名前の画家、どこかにいそうですね。ラファエロ、ボッカッチョ、カルパッチョ、フェラッチオ……なんて。この日も何代目かのボトルをキープしました。
この店に通いだした当時、なかなか名前を覚えてもらえなかった牧野さんは“画家のフェラッチオ”という通り名を考案したのだとか。「それ以来、ママもおフェラちゃんって呼んで可愛がってくれた」というエピソードに、居合わせたお客さんたちも皆、爆笑。酔って下品な下ネタ話を繰り広げるエロオヤジはノーサンキューですが、このくらいならギリOK。「愛されオヤジ」はそのバランス感覚にも優れています。

6.お酒は美味しく呑む、作る

牧野伊三夫 唐変木 ハイボール
▲ [ちょっと濃いめにしましょうか」とハイボールをつくってくれました
そして酒場の「愛されオヤジ」たるもの、お酒はもちろん美味しく呑みますし、連れの分まで上手につくってくれます。「一徳」ではホッピーを、「唐変木」ではハイボールをそれぞれ取材スタッフの分まで美味しくつくってくれました。

7.いつの間にか隣のお客とも……

牧野伊三夫 唐変木
▲ 知らぬ間に居合わせたお客さんとも友達になる。
あれ? 牧野さんは? と、気づいたら、隣席のお客さんといつの間にか仲良くなっていました。「友達の友達は、みな友達だ」というわけで、牧野さんは周囲に垣根をつくりません。
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8.「愛されオヤジ」の夜は更けない

牧野伊三夫 唐変木
しばらく静かだなと思ったら牧野さん、寝てました……。よく飲みましたもんね。今夜はこれでお開き? と思いきや「もう1軒だけ行きましょうか」だって。やっぱり「愛されオヤジ」はタフじゃないとね♡
牧野伊三夫 コクテイル書房
▲ 「コクテイル書房」(東京都杉並区高円寺北3-8-13)で〆の1杯を飲んでこの日はおつもりに。
牧野伊三夫(まきの・いさお)

● 牧野伊三夫(まきの・いさお)

画家。1964年、福岡県生まれ。東京の広告制作会社でグラフィック・デザイナーとして勤めた後、画家として活動。酒好き、風呂好き、料理好きとしても知られる。近著にエッセイ『アトリエ雑記』(本の雑誌社)。

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