2023.10.07
アンジャッシュ渡部のYouTube『渡部ロケハン』が面白いらしい……
自身のスキャンダルで活動自粛に至ったお笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建。彼のYouTube『アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組』がじわじわと人気だと言うのだ。
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文/ジャスト日本(ライター)

思わぬ方向から、協力の手が……
「予想はしてましたけど、全然甘くはないです。ネット配信で局の記録を塗り替えるくらいの番組にも呼んでいただきましたが、それが継続的なものにはなりませんでした。単発のオファーを一生懸命にやって反響はあっても、先につながらずに終わっていく。今後、どのように芸能活動を行っていくべきなのかという不安がありました」(渡部氏)
キャリアを積み重ねてたどり着いた栄光。だが一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。苦悩の日々を過ごす渡部氏だが、思わぬ方向から協力の手が差し伸べられることになる。それが、YouTube番組『アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組(渡部ロケハン)』だ。
2023年4月26日にスタートし、現在までに本編動画11本、ショート動画45本を配信(2023年9月26日現在)。渡部氏がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てグルメロケハンを行う番組である。
たとえば、2023年6月23日に配信した埼玉・蕨市編では、これまで取材NGだった人気串揚げ屋の取材に「渡部さんだからですよ」という理由で特別に許可が下りた。

いったいどんな経緯があってこの番組が始まり、どんな点が支持を得ているのか。今まで報じられたことのないその裏側を、この記事では解き明かしていく。
超人気放送作家の胸を打った渡部の覚悟
「実は以前、渡部さんが司会を務めた『ハシゴマン』(TOKYO MX)という番組に構成で参加していました。あまり直接会うことはなかったのですが、渡部さんがラジオで『カツオというやつがいる』と言って話題にしてくださったり、『有田哲平の引退TV』での接点があって、渡部さんの覚悟に感情移入してしまったんです」(カツオ氏)

カツオ
放送作家。1980年、東京都荒川区生まれ。2000年、早稲田大学在学中に、劇団「盗難アジア」を旗揚げ。2005年まで、劇団主宰・俳優としても活動。2001年に演劇活動と並行して、放送作家の活動も始め、現在に至る。過去、年間600本の企画書を書いた実績もあり、自称・企画書渋滞系放送作家。現在は『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)、『有吉ぃぃeeeee!』(テレビ東京系)など、30本以上のレギュラー番組・SNS映像コンテンツを担当。またバスケットにも精通し、バスケ系SNS等にも参加。
「渡部さんに『僕がグルメ番組やったらMCなってくれますか?』とDMを送ったんですよ。すると『喜んでやりますよ』と返信がありまして、そこで西村(隆志)さんに相談しました」(カツオ氏)
西村隆志氏は、『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)など数々の人気番組を担当するテレビ業界の第一線で活躍する放送作家。スポンサーと番組をつなげる幅広い人脈にも実績があった。
その西村氏がひらめいたのは、「1社単独スポンサー」のアイデアだった。
「スポンサーをつけられるかどうか、企画会議をしました。いろいろと考えた時に、ただのグルメ番組では視聴者にも刺さらないので、1つのストーリーを乗せて作ることになりました」(西村氏)

西村隆志
放送作家。1977年。福岡県出身。 中央⼤学在学中に⽇本テレビの深夜放送の『電波少年的放送局企画部放送作家トキワ荘』に参加 、グリーンのネグリジェを着た「グリーン⻄村」として6カ⽉間、マンションと⼭奥の寺に隔離。最終オーディションを勝ち抜き、放送作家に。現在は、『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)『ZIP!』『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)などの人気番組の構成として活躍。またテレビ以外に、成田悠輔のYouTubeチャンネル、企業PRコンサルなどに取り組んでいる。
こうして『アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組(渡部ロケハン)』という方向性とタイトルが決まった。
毎回、ある駅をテーマに、グルメ未開拓のお店をアポなしでロケハンし、実は美味しいのにあまり知られていない“ウモレ店のウモレ美食グルメ”を発掘するという内容。構成は西村氏とカツオ氏が参加。
ディレクターには西村氏とともにYouTube番組『サウナノフタリ』を立ち上げた映像ディレクター・ソマシュンスケ氏に決定。ソマ氏は『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)、『有吉反省会』(日本テレビ系)などに携わるなど地上波の経験が長く、ネット配信にも造詣が深い鬼才映像ディレクター。あとはスポンサーである。
ソマシュンスケ
映像ディレクター。1984年8月29日福岡県出身。18歳で芸人を志し大阪のNSCへ。途中挫折。その後、大阪で映像の専門学校に行って卒業後上京。24歳の頃、制作会社に入りADとして下積み。『劇的ビフォーアフター』(ABC・テレビ朝日系)や『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)などを経て、番組ディレクターになる。人気バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)、『有吉反省会』(日本テレビ系)、『ニューヨーク恋愛市場』(ABEMA)を担当。2023年4月に制作会社いまじんを退社し独立。株式会社バリサンを創立。
「現段階、渡部さんの番組のスポンサーになるのは結構リスキーじゃないですか。でもCHILL OUTさんは番組内容に快諾してくださいました。渡部さん、ソマディレクター、僕、カツオさん、CHILL OUTさん……。どれかが欠けたらこの番組は成立していない。すべてのピースが埋まって『渡部ロケハン』につながったんです」(西村氏)
ショート動画と大物たちの絶賛がきっかけに
「この番組の話をいただいた時、コンセプトが面白いですけど、単発で終わるのかなと思っていました。ディレクターのソマさんとは組むのはこれが初めてで、どういう人か、どういうテイストで撮る人かもわかりませんでした。最初はカメラ1台回して、僕が店で食べるというシンプルな内容をイメージしてたんですが、すごくちゃんとした番組に仕上がっていて驚きました」(渡部氏)
こうして2023年4月28日に初回配信。地上波テレビクラスの番組を提供する制作体制を整え、クオリティーの高い動画内容だったが、反響は芳しいものではなかった。

「『今の渡部はこんなもんなんだな』という思いがありました」(渡部氏)
ただ、このテレビ番組のプロが集結した精鋭たちの前にあって、その心配は長くは続かなかった。
2023年5月6日配信の「自粛中の渡部を救った豊洲の仲間たち」、2023年5月9日配信の「未公開トーク/自粛中・寿司職人から渡部へ…」というショート動画が再生回数が100万回を超えた。


見えてきたという「一筋の光」
渡部氏にとっても大きな転機となった。復帰後、単発ではない継続的な仕事にめぐり合えたからだ。「これが僕がやっていくことなんだな」という一筋の光が見えたという。
「『渡部ロケハン』には多くの反響をいただいて、コメントもすべて目を通しました。僕はSNSではX(Twitter)もインスタもコメントを閉じています。すべて自分が悪いのですが、ネットニュースなどには厳しいコメントが多く、それが丸ごと世間の声という意識がずっとありました。でも『渡部ロケハン』のコメント欄で『頑張れ』『待っているぞ』という応援の声をたくさんいただき、本当に救われたんです」(渡部氏)
実は渡部氏は『渡部ロケハン』の前に、『アンジャッシュ渡部チャンネル』というYouTubeを2019年12月に立ち上げていた。しかし、活動自粛を機に更新は途絶えている。結果的にだが、復帰後、安易にYouTubeをスタートさせなかったことは功を奏した。渡部氏への逆風がまだまだ大きい中、番組を人気化させることは、並のチームでは到底不可能だったからだ。
「最前線で活躍している西村さんとカツオさんがこの番組でいつも楽しそうにやってくれていて本当に嬉しいです。最後、ロケ現場のスナックにわざわざ来てくれたり、『この番組をこうしていきましょう』とか提案してくれる。ディレクターのソマさんも現場を楽しんでくれている。チームのモチベーションの高さを感じます。本当にいいスタッフに恵まれました」(渡部氏)
映像ディレクターのソマ氏、放送作家の西村氏とカツオ氏も実は渡部氏とガッツリ一緒に仕事で組んだ経験は少なかった。実際に現場で体感したのは渡部氏の人柄だった。
「はじめて仕事で密にご一緒しましたが、渡部さん、周囲への気遣いもすごくて、めちゃくちゃいい人なんですよ。カメラが回っていても回ってなくても。温かい人で印象が変わりました」(西村氏)
だからこそ演者・渡部氏の見え方には細部まで気を遣う。
「渡部さんが応援される番組を作ろうというのがテーマ。少しでも渡部さんが横柄な印象に見られないように、3人で話しながら注意しながらやってます」(カツオ氏)
渡部氏の武器といえば、「グルメ芸」と呼ばれる熟練されたグルメロケの話術と知識。西村氏ら百戦錬磨の制作人からしても、衝撃だという。
「言葉選びが月並みじゃないんです。たとえば、『テレビ映えはしないけど、中華の教科書1ページになる店』と表現したり、絶賛するわけじゃなくても、ちゃんと褒めるポイントが際立つようなコメントをされる」(ソマ氏)
「渡部さんは長年テレビで生き残ってきた人なので、番組が使いやすくて、かつ、お店の方が喜ぶ“グルメパンチライン”を知っている。テレビマンがテロップしたいワードも熟知されてますよ」(カツオ氏)
渡部氏のそんな技術が見えるのが、たとえば4月28日配信の堀切菖蒲園編で、町中華の店に入り、500円のラーメンを食し、「皆さんが想像しているそのままの味」「ど真ん中王道中華そば」と視聴者に脳内試食させるようなワードはまさしく“グルメパンチライン”ではないだろうか。
「飲食店の方々は、命懸け」
「飲食店の方々は、命懸けで経営されている。もしテレビで変な写り方をしてしまったら、一生の生活を脅かすことになってしまいます。だからいい加減なことはできない。テレビで食レポをやっている中でわかったことです。『どうすればこの店がよく見えるのか』『どうすればこの人が魅力的に見えるのか』という視点でロケに関わるようになりました」(渡部氏)
『渡部ロケハン』でも渡部氏は飲食店への敬意と配慮を忘れない。
「この番組は必ず美味しいものはフォーカスの仕方で『これがすごい』とわからせることができるし、一見、普通の店でもこういう角度で光を当てたらこの店の良さが出るっていうのは、心がけてますね。チャーハンを食べて、何が美味しいのかをきちんと言わないといけないですし、このメニューをこの値段で提供していることがいかにすごいのかも伝えないといけない。お店のいいところを見つけることなんです」(渡部氏)

左腕には「ロケハン」の腕章が
「以前、僕が全国を食べ歩きする番組があって、飛行機の機内放送で流れていたんですよ。いつか、飛行機の機内放送で『渡部ロケハン』が流れないかなと。旅に行く人も多い飛行機に食べ歩き、飲み歩きの映像はフィットするんですよ。ずっと先だとは思いますが、その夢に向けて、この『渡部ロケハン』を本当に全力で誠心誠意、一生懸命やっていきます」(渡部氏)
『渡部ロケハン』の現場で、渡部氏は左腕に「ロケハン」と書かれた大きな腕章をつけている。まだ売れていなかった頃の渡部氏は、自身が芸能界で生き残るために“グルメロケハン”を全力で行っていたが、それへの原点回帰にも映る。強力メンバーで立ち上がった『渡部ロケハン』で渡部氏は今後、地上波にまで捲土重来を果たせるだろうか。
(後編に続く)