2021.08.27
【vol.12】モテる茶の湯を学ぶ/前編
男こそハマる! 茶の湯の面白さとは?
いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(47歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載。今回のテーマは「茶の湯」です。
- CREDIT :
写真/米山理功 文/井上真規子 取材協力/芳心会 撮影協力/一条恵観山荘
茶の湯の作法には、日本人、そして大人のオトコとして知っておくべき立ち居振る舞いの基礎が凝縮されています。茶の湯の世界に馴染めば、和の世界を飛び越えて、日常生活や社交の場でも気品や知性をにじませることにつながり、ひいてはモテにもつながっていくのです。何より実際に体験すれば、新たな発見や楽しさに驚かされるはず。というわけでは、今回も編集長の石井が茶の湯の世界へ飛び込みます!
重要文化財の由緒あるお茶室で、茶の湯を学ぶ!
石井 「それはすごいですね。国指定の重要文化財でもあるそうで、ワクワクしています。そしてこちらは茶室として使われているということで、今日学ばせていただくのは……」
田中 「はい! 今日は、モテの秘訣が全〜部詰まった、茶の湯を案内したいと思います!」
石井 「茶の湯には、モテる要素が詰まっているということですか?」
田中 「そうなんです。茶の湯には切り口がいっぱいあって、マスターすれば本当にさらにいいオトコに近づけますよ。楽しみにしていてください」
石井 「では、さっそくお邪魔したいと思います!」
田中 「非日常の空間で、ここを歩くだけで気持ちが切り替わりますよね。茶の湯では、庭のことを露地とも言うんです」
石井 「風も、香りも違いますし、気持ちが自然と切り替わります」
田中 「では、本日ご指導いただく木村宗慎先生にお出ましいただきましょう。木村宗慎先生よろしくお願いします!」
田中 「木村先生は子供の頃から裏千家を学び、現在では流派に囚われることなく幅広い視点で茶の湯の魅力を伝えておられる先生で、芳心会を主宰されていっしゃいます。先生、本当にこちらの露地庭は気持ち良いですね」
木村 「露地は、お茶室に入っていくための装置のようなもの。鑑賞して楽しむためだけでなく、実際に歩いて、つくばいで手と口を清めることで、身も心も茶室に向かう準備を整えることができるんですね」
田中 「神社の手水舎で手と口を清めるのと一緒ですね。料亭の庭にもありますしね。実際使う人はほとんどいないけれど」
石井 「確かに料亭にもありましたね! 身体を清めることで、気持ちも引き締まりますね」
木村 「この露地にもつくばいがあるので、今日は見るだけだった庭をちゃんと使ってみてください。そこからお茶室にご案内したいと思います」
石井・田中 「よろしくお願いします」
【ポイント】
■露地(庭)は、茶室へ向かう準備をするための装置である
■茶室に入る前に、つくばいで手と口を清める
戦国時代には、密談にも使われた小さな茶室「小間」へ潜入!
石井 手と口をゆすぐ。
木村 「ハンカチで手と口元の水を抑えて。さあこれで、茶室に入る準備完了です」
石井 「知ってはいるけど、正しい入り方はわからないですね」
木村 「板戸の前の石の上でまっすぐぬかづきます。最初はわずかな手がかりからはじめて、板戸を3回くらいに分けて開けるというのが正しい作法です。これも舞台装置のひとつ。しゃがみこんで、この小さな扉を開けるとお茶会の幕が開くということ。だから、自分の中で気持ちを高めるように徐々にゆっくり開けて、そしてパッと中を見てください」
にじり口を開ける
石井 「おお〜! 始まりますね~!!」
石井 「確かにお互いの距離が近いですね」
木村 「中は狭いですが座ってみると、ものがバランスよく綺麗に見えるように色々考えて設計されているんです」
石井 「にじり口を開けて、まずこの床の間のお花が目に入ってきました。近くで見ると花が美しいだけじゃなくて、周辺にも水が打たれていることに驚きました」
田中 「なんだか、椿が壁の真ん中に浮いているようにも見えますね」
木村 「気づいていただけてうれしいです。床の間には、掛け軸を掛けることが多いですが、今日はにじり口を開けた時に一番印象的な“絵”を味わっていただきたいと思って、まず花を。向掛(むこうがけ)と呼ばれるスタイルで、壁に花入が浮かんでいるようでしょう。でも味わっていただきたいのは、花というより、花に打たれた“露”なんです」
木村 「半日かけてお茶会をしていると、花も最初は露が打たれて濡れていたのが、だんだん乾いてきて、硬かった蕾も少し開き気味になってくるんです。だから花と露は、今日の時間が二度と帰ってこないという一期一会の象徴でもあるんです」
石井 「この時は一回きりだから大切にして、というメッセージが込められているんですね〜」
石井 「いや〜、ちょうど足がつりそうになってたところでした(笑)」
木村 「実は千利休がお点前の時に正座をしていたかどうかは、わかってないんですよ」
石井 「それは知らなかった!」
田中 「男性は、あぐらをかいても無作法にはならないんです」
木村 「作法を知っていると楽かもしれないですが、今体感していること、味わっていることを一番大事にしてもらえたらと思いますね」
石井 「どう楽しむかを学ぶということですね」
【ポイント】
■ 小間のにじり口は、板戸の前でぬかづいて3回に分けてゆっくりと開ける
■床の間にかけられた掛け軸や花に、亭主のメッセージが込められている
■男性は、あぐらをかいても失礼ではない
茶室の床の間に掛けられた掛け軸から亭主の想いを読み取る
石井 「ここの茶室は、広い空間ですね」
木村 「小さい茶室もいいんですけれど、ずっといると雪隠詰めでしんどいのでね(笑)」
田中 「先生の体の圧もすごいから!」
木村 「ごめんなさい(笑)。でも、千利休さんは身長六尺の大男だったらしく、ひょっとすると181cmの僕より大きかったかもしれないんです」
田中 「あの時代に180cm越えは、すごいですよ」
木村 「畳2畳の小間に、身長150cmを切っていた(当時の男性の平均身長は157㎝)という小男の秀吉と、180cmオーバーの利休がいるのは、なかなかの絵面ですよね」
石井 「後年のふたりの関係性を考えると余計に!」
木村 「ドラマティックですよね。それにおもてなしの空間として、ぎゅっと狭い場所に集まるのも楽しければ、少しオープンに広がったほうがいい時もあって、その辺の緩急のコントラストもお茶ではすごく大事なのです。ということで、今日はこれからゆっくりと、この広間でお茶を差し上げたいと思います」
石井 「よろしくお願いいたします」
木村 「はい、床の間の設えは茶室の一番の要ですから、座敷に入ったらまず床の間を拝見します」
田中 「この連載の第1回目で料亭に行った時も、部屋に入ったらまず床の間を見るとお話しましたよね」
石井 「そうでしたね!」
木村 「はい。料亭でも同じで、掛け軸は本日のテーマを表します。お軸を見る時には、正面に座って深々とお辞儀をして丁寧に見るんですね。筆をとって軸を描いた人に敬意を表するために一礼するつもりで」
石井 「では早速拝見したいと思います」(お辞儀)
石井 「う~ん。先生、全然わかりません(笑)。教えてください!」
木村 「あ、それでいいんです。ホスト側がわかっているので、客はなんて書いてあるんですかって尋ねればよいのです」
石井 「そうなんですね」
木村 「これ、『大用現前 不存軌則(たいようげんぜん きそくによらず)』と書いてあります。慶長7年(1602)に、利休と仲のよかった大徳寺の禅僧、春屋宗園が描いたお軸です。意味は『本当に大事なことがいっぱいあるから、細かい規則に捉われなくていいよ』ということ」
石井 「なんて、この我々の連載にぴったりなお言葉!!(笑)」
田中 「素晴らしい!!」
木村 「今日はこちらのテーマでいきたいと思います」
【ポイント】
■ 茶室には、極く狭い小間(四畳半以下)と広間(四畳半以上)がある。
四畳半はどちらでもない基本の広さ。
■ 茶室に入ったら、まず床の間を拝見する
■ 掛け軸を見るときは、まず正面に座って一礼する
■ 掛け軸を飾った意図を亭主に聞いてみよう
● 木村宗慎(きむら・そうしん)
茶人。1976年愛媛県宇和島市生。神戸大学卒。 少年期より茶道を学び、1997年に芳心会を設立。 京都・東京で稽古場を主宰しつつ、茶の湯を基本に執筆や、雑誌・テレビ番組をはじめ 展覧会などの監修・コーディネートを手がけ、数寄の魅力を現代に伝える活動を行っている。これまでに、2005ミラノサローネ「空庵」や、フランクフルト工芸美術館「TEEHAUS」、オクスフォード大学でのワークショップなど国内外のデザイナーや、クリエイターとのコラボレートも多い。
■芳心会
HP/http://www.hoshinkai.jp/
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
■和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動