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2022.02.15

義足のアーティスト、片山真理。「腑が煮え繰り返る瞬間も(笑)。でも、“違うこと”を受け入れれば……」

新作個展『leave-taking』のために上京した“義足のアーティスト”片山真理さん。「上京する前日、1カ月ぶりに化粧をしました」と笑いながら語ってくれた彼女に、アーティスト、母親、そしてひとりの女性としての目線を通して思う、“カッコいい”大人像を伺いました。インタビュー後編です。

CREDIT :

文/持田慎司 写真/岸本咲子 撮影協力/AKIO NAGASAWA GALLERY

前編(こちら)に続き、アーティスト・片山真理さんへのインタビューをお送りします。先天性の四肢疾患をもつ
彼女は、幼い頃から自分と自分以外との“違い”を常に意識し続けてきました。小中学校時代には、ハンディキャップを理由に同級生からいじめに遭ったことも……。それでも片山さんは、表現し続けること、人から求められたことに対して、挑戦し続けることをやめようとしませんでした。

他人と比べてできることが少ないからこそ、自分の身体に足りない部分を補うように創作に励んできたという片山さんですが、その意識に大きな変化が生まれたきっかけは娘さんとの日々のコミュニケ―ションだと言います。

紛れ込みたい反面で表現したいと思う矛盾

── 高校時代からSNSで作品を発表していたのですか?

片山 当時はmixiとかのSNSに作品を時々投稿していました。今ほどSNSが普及していなかったので、どちらかというと国内外問わず、オタクとかギークと呼ばれる人たちがそこに集まっていました。で、みんなが自分の作品を発表したり意見を言ったりするだけじゃなくて、知り合った人の作品にも共感したりする。そんな環境の中で、私も作品を発表したり、人の作品に共感したりしていたんです。

──  一見「紛れ込みたい」という感情と表現するという行為は矛盾するように思えますが?

片山 本当に紛れ込んでしまうと、人って孤独を感じてしまいますよね。だから、共感をして欲しかったんだと思います。英語を勉強するようになったもの、海外の人ともコニュニケーションを取れるようになりたいと思ったから。共感したりされたりしていくうちに、その想いはどんどん強くなっていきました。

──  一方、小中学生時代にはいじめに遭っていたこともあるとか?

片山 そうですね。あの頃のことをひとつの経験として美談にはできないけれど、確かにあれがあったから「負けるもんか!」というハングリー精神は養われたのかな。人って、「これだけは人に負けないぞ」というものがひとつでもあると、それを糧に、というか自信にして生きていくことができると思うんです。私の場合はそれが裁縫でした。

── その自信があったから当時を乗り切れた?

片山 もちろんそれはあると思います。あと、母に救われた部分も大きかったのかも。母は“嫌ならその場から逃げ出してもいい”というスタンスの人。そんな彼女に傚って、私自身も物理的に遠いところからいじめを見ることができたというか。
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娘と接していくうちに“違うことが当たり前”と気づいて

── 片山さんからは、常に物事を俯瞰して見ているような印象を受けます。

片山 それ、よく言われます(笑)。娘が産まれてから、改めていじめは絶対に良くないことだと本当に思うけれど、いじめられている人はもちろん、いじめている人も辛いかもしれない。だからこそ、根本的な問題を見つめることの方が大切かなって考えていました。母のおかげで距離を置けていたから、そういう思考に至ったのかもしれません。

それに、みんながいつも楽しそうにしているところを外で見ていることが多かったのも影響しているのかも。体育の授業を見学してたり、クラブでツイスト踊ってる友達をじっと見てたり。そういう状況の積み重ねが、俯瞰して物事をみる視点につながっているのかな。

── それは、20代の頃までのアートワークで意識されていたという、他者との違いを意識することにも繋がる?

片山 これは、作品を手放すことになってから気づいたことですが、私にとってのオブジェって“自分の身体の足りない部分を補うもの。身体の代わりになる物”だったんです。違いを意識するうちに、それをオブジェで補おうとしていた。だから、作りながら身体や心がどんどん変化していくことが、辛く感じてしまっていたのかもしれません。だって、変わってしまったら、いつまでたっても代わりになるものにはならないし、その作業はそれこそ永遠に続いていきますからね。

── 最近では、制作途中でその辛さを感じることは無くなったのですか?

片山 子供が産まれて子育てをしていくうちに、徐々に消えていきました。そもそも娘がハイハイを仕出したタイミングで、オブジェを作るのはしばらくお休みしていたんです。なんでも口に入れようとしてしまう時期があって、作業場に針や鋏があるのは「さすがに危ないな」と思って。
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── お休みの期間が、意識に変化を与えた?

片山 というよりも、娘と接していくうちに“人って違って当然”ということを受け入れられるようになったのが大きかったのかも。以前知り合いから「子育てで自分が決められるのは名前だけ」と言われたことがありますが、本当にその通りだなって。自分の思い通りになることなんてほとんどありませんから。まさに、名前だけ決めさせてもらって、あとは彼女が好きにやれるようにお手伝いさせてもらっている感じ。期待するとか、諦めるとかじゃなくて「そういうものなのね、うんうん」と受け入れることができるようになったんです。

── お子さんとのコミュニケーションの中で、違うことが当たり前だと気づいたのですね。

片山 こんなに近しい関係なのに違う。それを気付けたのが大きかったのかな。だから、これまで手放さずにとっておいた作品たちに対しても「もう、そんなのいらない」って思えるようになったんです。

自分の身体に対する期待とか諦めとか、そういうものもスッとなくなったというか。オブジェがなくなる、私が身体に求めていたものもなくなる。今回の新作では、カメラの長時間露光という機能を使って私の身体が消えていくような表現方法をしていることもあるけれど、まさにテーマ通り、身体に対するいろんなものが消えていったんです。
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今は純粋にもの作りを楽しんでいます

── では、今は人との身体の違いを意識しないで毎日を過ごせている?

片山 私が住んでいるところは結構な田舎なので、ハンディキャップに対して心無い発言をしてくる人もいます。ただ、今は「どうしてそういう考えになるの? なんでそんな発言をするの?」と一旦、相手の言葉を受け止めつつ、投げ返すことができるようになりました。

── その軽妙な切り返しは、今日インタビューをして受けた片山さんの印象そのものです。

片山 もちろん、腑が煮え繰り返る瞬間もありますけどね(笑)。でも、私自身が“違うこと”を受け入れることができているからこそ、そういう切り返しができるようになったのかもしれません。

── 意識の変化は創作活動にも影響していますか?

片山 4歳になった娘が、最近、私が作ったオブジェに「これママが作ったの?」「好きになっちゃったな~」と興味を示すようになって、自ら進んでアトリエの引き出しを開けて、道具を使いながらせっせともの作りをしているんです。その姿を眺めるうちに、「じゃあ、ママもやってみようかな」という具合に、自然と私にもオブジェの創作意欲が湧くようになって。今は当時のように自分を投影しようとするのではなく、純粋にもの作りを楽しんでいます。

── これからの作品も楽しみですね。最後になりますが、片山さんにとって、カッコいい大人とは?

片山 “自分のことをわかっているってこと”かな。「これくらいできる」ということがわかっていれば自信がもてるはずだし、きっと自分以上を見せようとはしない。そういう意味で自信がある人が、私にとっては“カッコいい大人”なんだと思います。そんなわけで私自身はきっとずっとカッコいい大人にはなれないでしょうけど(笑)。
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● 片山真理(かたやま・まり)

1987年群馬県出身。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。幼少の頃より裁縫に親しむ。先天性の四肢疾患により9歳で両足を切断。以後、手縫いの作品や装飾を施した義足を使用しセルフポートレートを制作。2011年より「ハイヒールプロジェクト」をスタートし、歌手やモデルとしてハイヒールを履き、ステージに立つ。
主な展示に 2019年「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ」(ヴェネチア、イタリア)、「Broken Heart」(White Rainbow,ロンドン,イギリス)、2017 年「無垢と経験の写真 日本の新進作家 vol.14」( 東京都写真美術館、東京、日本 )、「帰途-on the way home-」( 群馬県立近代美術館、群馬、日本 )、2016 年「六本木クロッシング 2016 展:僕の身体、あなたの声」( 森美術館、東京、日本 )、2013 年「あいちトリエンナーレ 2013」(納屋橋会場、愛知、日本 )など。主な出版物に2019年「GIFT」United Vagabondsがある。2019年第35回写真の町東川賞新人作家賞、2020年第45回木村伊兵衛写真賞を受賞。
2月19日(土)までAKIO NAGASAWA GALLERY GINZAで個展『leave-taking』開催中。

■AKIO NAGASAWA GALLERY GINZA
住所/東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F
開廊時間/11:00-19:00(土曜 13:00-14:00 CLOSE)
定休日/日・祝・月曜日
TEL/03-6264-3670
HP/AKIO NAGASAWA

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