2022.03.23
原田知世「何でもない日を、ちょっと特別な楽しい日に変えるには……」【後編】
デビュー40周年を迎えた今も、奇跡のような美しさと透明感を保ち続け、ますます魅力的に輝いている原田知世さん。50代になって、これまで以上に日々を楽しみながらシンプルに生きているという、その暮らしぶりの秘密に迫りました。
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文/浜野雪江 写真/岸本咲子 ヘアメイク&スタイリング/藤川智美(Figue)
後編(前編はこちら)では、3月23日にリリースするデビュー40周年記念オリジナル・アルバム「fruitful days」のことに加え、50代を軽やかに生きるコツや、原田さんが思うカッコイイ大人について聞きました。
── 「fruitful days」は、40周年記念アルバムということで、どんな作品にしようと思って取り組まれましたか?
原田 まずはこの“周年”というのは、応援してくださっているファンの方にお返しする1年だということを、迎えるたびに思っています。そして、メモリアルな時ではあるので、思い出深い曲も入れたり、ご縁の深い方にも参加して欲しいなと。でも、懐古的になりすぎず、現在(いま)やこれから先の未来を感じさせるものにしたいと思いました。
ですので、今回は、川谷絵音さんや網守将平さんという、私よりも世代の若い方とのコラボレーションもやってみたかったことです。
── 川谷さんは、先行シングル「ヴァイオレット」の作詞・作曲をされていますが、川谷さんの世界観には、何かシンパシーを感じていらしたのですか?
原田 川谷さんは、いろんなバンドをやってらっしゃいますが、その中でindigo la End(インディゴ ラ エンド)の、川谷さんの曲や世界観がもともと好きでした。ですので、そのイメージで曲を書いてもらえたらうれしいなと思って、ちょっとトライしてみたいという気持ちでお願いしました。
原田 聴いた瞬間に、あ、これは名曲だなって。曲を書かれるのもとても早く、詞も曲もすでに完成された状態で届いて、改めてすごい方だなと思いました。
── 松任谷由実さん作詞・作曲の「守ってあげたい」は、新カヴァーで収録されていますが、選曲の理由は?
原田 「守ってあげたい」は、15歳の時にカヴァーさせていただき、「ダンデライオン~遅咲きのタンポポ」(1983)というシングルのB面に入った曲で、もう何十年も歌っていませんでした。でも、この曲はホントにたくさんの人に愛されていますし、10代の時に歌わせてもらったご縁もあるので、懐かしい曲を何か入れるなら、この曲もいいんじゃないかなっていう提案があって。
── 「ダンデライオン」のB面としてリリースされた当時の音源も、YouTubeで聴くことができますね。
原田 当時は15歳なので、本当に子供の声ですよね。昔は、この歌を歌うのはちょっと、「ああ、なんか照れくさい」ってずっと思っていたのですが、この年齢になって改めて聴き返すと、愛おしくさえ思うぐらい子供の声なんです(ニコニコ)。その時の声を音として残していただけていることは本当にありがたいなとも思いましたし、今、この曲を歌った時に、より、年齢を重ねた自分のこともちゃんと感じながら(笑)、しっくり歌えたというか。その変化を実感できたのも40周年だからこその経験だし、歌ってよかったなぁと思いました。
原田 今回のアルバムは、近年リリースしてきたアルバムよりももう少し、歌に対して積極的になったのは、大きな変化だと思います。
実は、アルバムを作り始めたのは2021年の夏で、夏の間に1回、ベーシックな仮歌だけを録り、そのあと作業をいったん中断して、「スナック キズツキ」の撮影に参加しました。それで、全話分の撮影が終わってから、再びスタジオに戻って歌入れやTD(トラックダウン)をやりました。レコーディングの間に映像作品の撮影をはさむのは初めての経験でしたが、それがいい効果になったと思います。
── 「スナック キズツキ」は、日常の中でたまった小さな傷を抱えた人たちが店に訪れ、原田さん演じるスナックのママ・トウコさんの温かさにほぐされ癒されて元気になるというドラマで。トウコさんは一風変わったママですが、原田さんがなさると、ごく自然に映るのが不思議でした(笑)。
原田 原作がマンガですからね(笑)。そもそも、店に来るお客さんを「あんた」って呼ぶ言葉を、いかに温もりのある「あんた」にできるかというところから始まりました。ちょっと想像できるようで、できないような難しい表現がいろいろありましたが、それはひとつの試練として受け止めて。いま思うと、いい試練をもらったなぁっていうか。
その気持ちを持って歌入れできたので、より伸び伸びと表現することができたと思います。ちょうど40周年の手前であの作品に出会えて、本当によかったです。
原田 そうですね。タイトル通りの「実りある日々」だったと思います。
── アルバム制作において、コロナの影響はありましたか。
原田 レコーディングでみんなが久しぶりに集まった時には、当たり前のことが当たり前じゃないんだなぁということも、こうやって一緒にできる幸せも、もう一度噛みしめたし。皆さんそうだと思いますが、いろんなことを感じながら、自分にとって大切なものや大切な人がより見えてきて、さらにシンプルになってきたように思います。
コンサートも、ここ2年ぐらいやれていなくて、よりその思いが高まってきているので、いまは6月のツアーがホントに楽しみですね。来てくださるみなさんに、ああよかった、と思っていただけるような選曲も、みんなで考えているところです。
── LEON世代の読者に、アルバムをどんなふうに聴いてほしいですか。
原田 映画も音楽もそうですけど、作り終わったものに関しては、こんなふうに見てくださいとか聴いてくださいっていうのはありません。ホントに自由に聴いてほしいですし、何か気に入っていただいて、その方の生活の一部としてこのアルバムがかかっていたら、こんなに幸せなことはないなと思います。これまでもずっと、そっと生活に寄り添うようなアルバムを作りたいと思ってやってきているので、今回も、40周年という冠(笑)がついていますが、気持ちは変わらないですね。
原田 50代はいいなぁと思っています。40代も楽しかったけれど、50代はより肩の力が抜けて、日々を楽しむことに集中できるというか。それは、当たり前のことが当たり前じゃないとか、いろんなことを知ったうえで、なんでもないことにありがたみを感じられるようになってきたから、小さな幸せを味わえるようになったんだとも思います。
そして50代は、自分の生活や人生に彩りを持たせることを意識したり、考える年代だなぁというか。今までは、時間は永遠にあるように思っていたけど、健康で元気に動ける時間って、実はそれほど永遠じゃない。もう見えてきているじゃないですか。だからこそ、興味をもったことを後回しにしないで、いまやりたいことをやろうと思う。その感覚は40代ではまだ全然なかったけど、いまはとても感じることで、時間の使い方もすごく変わってきました。
原田 それを考えた瞬間に、あ、楽しまなきゃって思いますよね。それで私は、50歳になってからゴルフを始めました。ゴルフって本当に難しくて、なかなかなかなかうまくならなくて、もう1mmぐらいずつ伸びている感じなんですね。だけど、ある日、「あれ!? できなかったことができてる」っていう自分の変化を、この4年の間で何度も実感しています。体力は落ちていくのかもしれないけれど、でも、伸びてる! という、自分の伸びしろを発見した時に、ものすごくエネルギーがわいてきました。
仕事以外で、そこまで夢中になれるものって今までなかったけど、そういう趣味を見つけることも、50代以降は特に大切だなと思います。
── 日常生活の中でできることも、いろいろありそうですね。
原田 何ごとも自分の感じ方次第だと思うので、何でもない日を、自分なりのちょっと特別な楽しい日に変えることができたらいいんじゃないかなと思います。小さなことに喜びを感じられるようにしていきたいですね。あと、もう、あまりいろんなことを考えすぎたり構えたりせず、シンプルになっていたいというか。スッと力を抜いて、誰と会っても、どんな仕事においても自分でいられるような、そんな人になれたら。それが理想ですね。
原田 そうですね。私は14歳で仕事を始めて大人の中にいて、きちんとしなきゃっていう意識が少し早めにあったので、自分の中で作られているものがあったのかなって。でも、なにぶん4人きょうだいの末っ子で、デビューする前の子どもの頃は、本当に明るくて伸び伸びしていたんですよね。それを思い出して、ある時期から、人に対しても、感じたことを素直に伝えていくようにしたら、コミュニケーションがとてもうまくいくようになりました。
こう言ったら相手に悪いかなとか、考えすぎちゃうのは本当に物事を複雑にするので、できるだけシンプルにしようと思っています。
── そんな原田さんが思う、カッコいい大人とは?
原田 なんの鎧(よろい)もつけず、スッと、自分のままで人と向き合える人が、いちばん強いし、カッコいいなぁと思いますね。そうなれたら無敵だなぁと思うし、できるだけ、そういうふうにありたいです。
● 原田知世(はらだ・ともよ)
1983年、映画『時をかける少女』でスクリーンデビュー。近年は、映画『しあわせのパン』、『あいあい傘』、『星の子』、NHKドラマ10『紙の月』『運命に、似た恋』、CBDドラマ『三つの月』、NHK連続テレビ小説『半分、青い』、日本テレビ系日曜ドラマ『あなたの番です』、テレビ東京系『スナック キズツキ』など数々の話題作に出演。歌手としてもデビュー当時からコンスタントにアルバムを発表。1990年代は鈴木慶一、トーレ・ヨハンソンを迎えてのアルバム制作や、オール・スエディッシュ・メンバーとの国内ツアーなどで新たなリスナーを獲得。近年はプロデューサーに伊藤ゴローを迎え、充実したソロ・アルバムをコンスタントに発表。。高橋幸宏らと結成したバンドpupa(ピューパ)にも在籍。そのほか、ドキュメンタリー番組のナレーションを担当するなど幅広く活動している。
HP/O3 Harada Tomoyo Official Site
■ 「furuitful days」
デビュー40周年を記念したオリジナル・アルバム。川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイ etc.)のサウンド・プロデュースによる先行シングル「ヴァイオレット」に加え、THE BEATNIKS(高橋幸宏&鈴木慶一)、高野 寛、伊藤ゴロー、辻村豪文(キセル)、高橋久美子、網守将平という、原田知世の音楽キャリアにおいて重要なアーティストや今回初タッグとなる豪華作家陣が新曲を提供。加えて、「守ってあげたい」と「シンシア」という往年のファンには堪らない2曲の新カヴァーも収録。新しさの中に懐かしさが同居する、現在の原田知世ならではの豊潤なサウンドに仕上がっている。アルバム・プロデュースは、15年にわたり原田知世の音楽活動のパートナーを務めるギタリスト/作曲家の伊藤ゴローが担当。初回限定版(SHM-CD+VD)4070円、通常版(SHM-CD)3300円