2022.05.07
阿部サダヲ「そりゃモテたいです。僕らの時代はみんな肉食系でしたから(笑)」
良きパパから猟奇的な殺人鬼まで、幅広い役を飄々とこなし、独自のポジションを築いている俳優・阿部サダヲさん。所属する大人計画の主宰者・松尾スズキさんとの関係は? 最近カッコいいと評判のモテる50代の素顔にも迫ります。
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文/岡本ハナ 写真/平郡政宏 スタイリング/チヨ(コラソン) ヘアメイク/中山知美
舞台のみならず、テレビやCM、バンドなど多岐にわたりマルチな才能を発揮する阿部さんですが、松尾さんの舞台で主演を務めるのは3年ぶりとか。
近年は良きパパから猟奇的な殺人鬼まで、幅広い役柄を飄々と演じ分け、俳優としても脂の乗り切った阿部さんは松尾作品とどう対峙するのか? 最近カッコ良さを増していると評判のモテる50代の素顔にも迫ります。
松尾さんのことは未だに分からないけど、すごさが増している感じはする
阿部 松尾さんの作品って僕にとっては共感ができるところとまったくできないところの幅の広さがすごくて。何それっていうのと、なんかドキッとするぐらい分かるっていう時があるんです。それが面白いなと。あと人に対しての見方というか距離感みたいなところ。例えば……一番怖いのってやっぱり人だよね、みたいなことってあるじゃないですか。それを面白く笑いに変えられる能力は本当に素晴らしい。普通だったら(演者の)怒りのパワーがガ~っと上がってくるようなシーンでも、すっと笑いに変えてくれるという。松尾さんはそれが一番すごいと思いますね。たまに、まったく理解できないところもありますけど(笑)。
阿部 それがね、松尾さんのこと、未だに分かんないし、あんまり付き合いないんです、実は(笑)。年々重ねていくうちに、舞台以外では会わなくなっちゃったし。どういう人だかとか、そういうのってあんまり知らないし、彼も知られたくもないだろうっていう感じがするから(笑)。
でも、それはそれでよくて、分からないからいいんです。それでも、どんどん松尾さんのすごさが増している感じはするし。最近では演出のみされていますが、それも松尾さんにとってハマっているのではないのかな、と。まぁ僕が言えることは……お元気そうで何よりでございます♡ということでしょうか(笑)。
阿部 僕は最初から大人計画所属なので、ここしか知らないんですよね。松尾さんが取ってくれなかったら今の僕はいなかったと思うし。だからこそ、ここが一番自分に合っていて、自分を表現できる場所なのではないか、とは思います。他の現場だとちょっと気取っていますよ、僕。よそ行きというか(笑)。
── 今回は、大人計画の皆さんとご一緒ですから、やっぱり安心してお芝居ができる?
阿部 大人計画の人とは本当に付き合いが長くて、なんかもう恥ずかしいぐらいの域に達しているというか。特に、今回、僕は冒頭から麻生(久美子)さんと演じるのですが、稽古をあいつらに見せるのが恥ずかしい!「見てるな、皆川猿時」みたいな(笑)。演技云々ではなくて、「稽古初日はどういうジャージ着てくるんだ、あいつは」「パンフレットの時のTシャツは一体なんだ」とか、どうでもいいコトが気になってきますね。
阿部 もうお馴染みになるんですね(笑)。何回か一緒にやらせていただいていて、またご一緒できたらと思っていたのでうれしいですね。今回は兄妹役なので近い関係性ですし!
── 麻生さんが「阿部サダヲさんとお芝居できることが楽しみ。きっとカッコこいいんだろうな」と仰ってますが。
阿部 アキオはカッコいい役じゃないんですけどね(笑)。でも、そう言ってくれるのはうれしいです。麻生さんが演じるマリエ然り、新しいメンバーとの共演はもとても楽しみです!
── 今回は谷原章介さんも参加されていますが、彼とは初めてではない?
阿部 谷原さんとは、すごく若い時に共演しているんです。しかも、谷原さんと女性を奪い合うみたいな役柄でした。役者としてお会いしたのは20年以上前のことですから、お互い変化を感じていると思いますよ。僕は、谷原さんが朝の番組をやる人だと思っていなかったので、生放送終わりに稽古に来るのは体力的に大丈夫なのかな、と心配していますが(笑)。
── ですよね(笑)。
阿部 でも、僕がヴォーカルを務めるバンド「グループ魂」のメンバー・港カヲルの生誕祭を催した時に、谷原さんが司会を務めてくれたんですが、立ち振る舞いが素晴らしくて! どうやったらあのドンとした落ち着きは出てくんだろうと思いますね。おそらく、谷原さんが演じる芸能マネージャー・若松役にはすごく合っていると思います。もちろん信頼感もあるし、楽しみです。
好きに生きている男性がカッコいい!
阿部 ほんとですか?(笑) そんな噂ある?
── 麻生さんをはじめ、長澤まさみさんも阿部さんを何度もカッコいいとおっしゃっています。
阿部 そんな大女優の方に言ってもらって……すみません(汗)。でも、悪い気はしないですよ、うれしいです! そんなこと言ってもらえる時代が来ると思わなかったですから(笑)。
── 既にモテモテな阿部さんですが(笑)、ご自身ではモテたいという気持ちはありますか。
阿部 そりゃあモテたいですよ! 僕らの世代は、みんなそうだと思いますよ。「モテてもモテてもモテ足りない」って昔からみんな言っていますからね! 今は女性の方がカッコ良くて、男性をも導いてくれる時代になってきたけど、僕らが若い時は男性が引っ張る感じでしたから。草食男子なんて言葉がない時代ですし、肉食男子でいることが当たり前な世の中でしたよね。
── では、阿部さんにとってカッコいい男性とはどんな人でしょうか。
阿部 好き勝手やっている人がやっぱりカッコいいですね。好きなことをするっていうのは、カッコつけていないのにカッコいい雰囲気がでますよね。具体的にいうと、僕がカッコいいと思う男性は、ひとりで鮨屋のカウンターで食べることができる男! 憧れているんですけど、僕にはまだ無理なんですよねぇ。
── そんなことないでしょう(笑)。チャレンジしたことはあるのでしょうか。
阿部 一回扉を開けて、そっと閉じることは何回かやっています(笑)。怖いというか、恥ずかしいというか……。
── 想像つかないです(笑)。
才能溢れる存在が身近にいることが‟役者魂“に火をつける
阿部 ウ~ン……自覚はないのですが、40代後半頃から「更年期始まるぞ」「朝は無駄に早起きになるぞ」とか言われたり、耳から入ってくる情報は、まるで呪いみたいです(笑)。「絶対眠れるから」と言われて耳栓をもらったこともあるのですが、かえって眠れなくなったこともありました。50年も経てば人間だってガタはくると思いますが、今のところ自覚なく元気でいますよ。全然ビンビンだぞ!という感じです(笑)。
── それでも若い役者さんと一緒に仕事をする機会が増えて、自分の立ち位置というか、俺もやっぱり大人だなみたいに思ったり、助言を求められることはありますか。
── ご自身も先輩とかに教えを乞うタイプではなかなかったのですか?
阿部 はい。どちらかと言うと嫌いなタイプだったかもしれません。昔はそういう人いましたよね。居酒屋とかで色々言う人って結構いたんですよ。やっぱり演劇って、そういうイメージがあるんじゃないですか。未だに居酒屋で、こう、芝居論はどうのとか。でも、大人計画はそういう事務所じゃなかったですね。
── それはよかった(笑)。大人計画の皆さんで集まるとどんな話で盛り上がるんですか。
阿部 今は、人間ドックとかじゃないですか(笑)。そういう話になってくかなぁ。まあみんな子供とかもいるし、あんまり舞台とか芝居の話で盛り上がることまずないかな。
阿部 もうそんな感じですね。だって30年以上一緒にいるから。同級生、学生の時の人たちよりも長いですしね。それこそ親とかよりも長くなってくるから。
── ではライバルとかもいないんですか。
阿部 へっ!?ライバル?(笑)。昔は小池栄子とか言ってたけど(笑)。同い年くらいの人達がやっぱりライバルみたいになってくるかもしれないですけどね。
阿部 そうですよねぇ、宮藤さんも同級生ですけどね。でも、同じ歳でもあんな人いないからなあ。不思議なタイプですよね。役者としてもすごいいい役者だし。作家としてもすごいし。
── 松尾さんもそうですが、身近なところでそういう凄く才能のある方がずっといらっしゃるというのは、やはり役者・阿部サダヲさんの刺激になるのでしょうか。
阿部 それはすごくあります! 松尾さんや宮藤さんのようなスゴイ方、同年代の皆川君、そして駄目な先輩もいたし……それはそれで刺激になるんですが(笑)。同じ劇団ではなくても、同世代に近いムロツヨシさんをテレビやCMを見ると「売れたなぁ~」と、感慨深くなることもあるし(笑)。たくさんの役者から刺激を受けていますね。
阿部 それはありますね。最近、舞台に立たない年があったのですが……なんだかこう気分が良くなかったんです。僕にとって、お客さんの目の前で表現をすることは役者としての醍醐味なのかもしれません。バンド「グループ魂」も然り、お客さんの熱を感じとることができるライブ感は、僕の根幹。そういう環境にいさせてもらっているのはラッキーなことですよね。
阿部 そう言っていただけるとうれしいですね。僕もずっと思っていたというか。やはり(みんなと)一緒じゃつまらないというか。洋服でもそうですけど、人と同じに見られたくないっていうのがすごく昔からあったので。学生の時からそうだったので、そこは変わらないのかもしれないです。マインドはずっと同じ。
── そんな阿部サダヲ流を貫いた先の理想的な老後とかありますか。死に至る部分とか急に今回の作品に結びつけちゃってごめんなさい。
阿部 やはり歳をとると1カ月とか長い期間、舞台に立つことは難しいとは思いますけど、できる限り役者を続けていきたいですね。森光子さんみたいに80代後半になっても舞台の上で転がっていられたらいいけど。頑張ります!(笑)
●阿部サダヲ(あべ・さだを)
1970年4月23日生まれ、千葉県出身。A型。1992年に大人計画に参加し、舞台『冬の皮』でデビュー。映画『舞妓Haaaan!!!』(2007年)では長編映画初主演ながらも、日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞。民放連ドラ初主演となる『マルモのおきて』(2011年)では、亡き親友の肩身で双子に翻弄される独身男を熱演、高視聴率を叩き出した。NODA・MAP番外公演「THE BEE」(2021年)では、第29回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。待機作のひとつである主演映画『死刑にいたる病』(2022年5月6日)では、連続殺人鬼役を怪演。どんな役柄でも見事に演じ切るその様は、実力と個性を兼ね備えた唯一無二の俳優として揺るがないものに。ほかにも、NHK土曜ドラマ『空白を満たしなさい』(2022年6月25日スタート)、主演映画『アイ・アム まきもと』(2022年9月30日公開)を控える。
『ドライブイン カリフォルニア』
「日本総合悲劇協会」(通称・ニッソーヒ)の7作目となる本作は、1996年に初演、2004年に再演し、18年振りの再々演となる。舞台は、裏手に古い竹林が広がる田舎町のドライブイン『カリフォルニア』。経営者のアキオ(阿部サダヲ)は、妹マリエ(麻生久美子)に対して、兄妹愛というにはあまりにも純粋な思いを抱いていた。マリエは14年前に店に芸能マネージャー若松(谷原章介)にスカウトされ、東京でアイドルデビューするも結婚をして引退。息子ユキヲ(田村たがめ)をもうけたが、事業に失敗した夫が自殺。マリエは、ユキヲと地元に帰ってくるが、ユキヲは不本意な死を遂げてしまい……。作・演出/松尾スズキ 5/27~6/26東京・本多劇場 6/29~7/10大阪・サンケイホールブリーゼで上演。
HP/日本総合悲劇協会Vol.7「ドライブイン カリフォルニア」