2022.06.04
中村勘九郎が目指すのは「口にしたことは必ず実行して成功させていった父」
歌舞伎俳優として多忙を極めつつ、テレビや映画や舞台など幅広いジャンルで活躍し、俳優として新たな挑戦を続ける六代目中村勘九郎さん。主演を務める朗読劇『バイオーム』の話とともに、40歳のひとりの男としての覚悟と心構えを伺いました。
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文/木村千鶴 写真/トヨダリョウ スタイリング/藤長 祥平 ヘアメイク/中村優希子(フェリスヘアー)
その勘九郎さんが主演を務める朗読劇、スペクタクルリーディング『バイオーム』が、6月8日〜12日に東京建物BrilliaHALL(豊島区立芸術文化劇場)で上演されます。
朗読劇でありながらスペクタクル(大がかりな仕掛けで魅せる)と銘打つ不思議な舞台の中身とは? そして勘九郎さんが今回の舞台にかける思いとともに、歌舞伎の未来を担う継承者として、40歳のひとりの男としての覚悟と心構えについてもお話を伺いました。
何がスペクタクルなのか僕にもわからない
勘九郎 もちろん僕のホームは歌舞伎ですし、その中で古典のものを追求していくというのが一生の課題です。けれども演劇人のひとりとして、多種多様のジャンルで活躍なさっている方々と出会い、一緒に仕事ができるというのは素晴らしいこと。そんな恵まれた環境に置かれている以上はそういう出会いを大事にしたいと、単純にそういう思いです。
── そこで得たものを歌舞伎の世界にフィードバックしたいという気持ちも?
勘九郎 そこはなかなか持ち帰るのは難しいんです。歌舞伎には独特な演出であったり、ならではの手法というものがあるので、そのまま生かすのは難しい。でも、その経験と場数と、度胸と言うか、色々なものを吸収して、中村勘九郎という役者が成長できる場ではあると思うんです。今回もそうですが本当に才能豊かな方々が揃っていらっしゃるので、その方々と一緒に自分たちでさえ想像できないものを作り上げていくというのは、大きな楽しみです。
勘九郎 そうですね、普段と違って声だけで伝える難しさはあると思うので、その部分はしっかり意識しながらやりたいと思います。でもこの作品、ただの朗読劇ではないみたいなのです。最初はリーディングの朗読劇としてお話をいただいたんですが、台本を読んでみたら、これ本当にリーディングなの?って(笑)。脚本の上田(久美子)先生が本当にもの凄いものをお書きになったので、朗読劇が好きな人はもちろん、苦手な人でも楽しめるような、なんだか摩訶不思議な舞台になりそうです(笑)。
── ただの朗読劇ではないというと?
勘九郎 僕もまだよくはわからないんですが、「スペクタクルリーディング」と銘打っているわけで(笑)。何がスペクタクルなのか、演出の一色(隆司)さんのお話を伺うと、舞台装置もずいぶん凝っているようだし、果たして朗読劇の枠に収まるものか。だってこのメンバーが揃っていて、体を使わないのはもったいないでしょ? これは見てのお楽しみになりますが、朗読劇だと思って観に行ったら、なんか凄いものだった、となればいいなと思っています(笑)。
宝塚も歌舞伎も、男女で演じるより更に深い部分がみえてくることも
勘九郎 父(勘三郎さん)も母も宝塚のファンで私も子供のころからよく観ていましたし、これまでにも宝塚出身の方と共演もさせていただきましたので、この舞台でも皆さんとご一緒できることがとても楽しみです。
── 歌舞伎と宝塚では男女が逆ですが、異性を演じるという構図には近いものがあります。
勘九郎 はい。凄く似ているという感覚はあります。どちらも昔からジェンダーの垣根を飛び越えている演劇であり、女性が演じる男性の魅力もありますし、男性が演じる女性の魅力もある。そこに対を成している立ち役や娘役の魅力があって……不思議ですよね。男女で演じるよりも、より深い部分が見えてきたりもしますし。更なる美しさを追求しているもの同士なのではないかな、と思いますね。
── そして今回は40歳の勘九郎さんが8歳の子供を演じるというのも新しい挑戦かと。
勘九郎 あえて子供っぽくしなくてもいいとは言われていますけど、ちょっと不安です(笑)。今回はルイという男の子とケイという女の子の二役なのですが、ふたりでの会話も多いんです。
勘九郎 そうなんです。これは大変です(笑)。男の子であろうが女の子であろうが、8歳の子なんて声も一緒でしょ? 本当に、とてつもなく難しいものを提出されていますね。
── ご自身のお子さんが参考になることもあるのでは?
勘九郎 うちの次男(長三郎くん)が8歳ですからね。その行動とか言葉は参考になると思います。でも、僕たちも同じ道を通ってきたはずなんですけど、大人になると欲や感情に流されて、純な心って失われていくじゃないですか。僕の演じるルイとケイは、役どころとして特に純な部分であり、欲の塊たちの中にいる存在なので、よく研究はしたいと思います。
江戸三座の頃から、「なんでもあり」が歌舞伎なんです
勘九郎 歌舞伎が全盛期だった「江戸三座」があった頃、江戸時代の中期から後期にかけてですが、歌舞伎というのは当時のエンタテインメントのトップにいたわけです。街で起きているさまざまな物事を吸収して発信していく、というのが庶民の娯楽の一番だったので、歌舞伎もまさにそういうものでした。その魂は忘れずに持ち続けていきたい。つまり「なんでもあり」が歌舞伎なんです。
── なるほど、元から歌舞伎は“なんでもあり”だったのですね。ということは、現代のエンタメを取り入れることにも、あまり抵抗がないということ?
勘九郎 いろんな捉え方がありますが、私の父、勘三郎だったり、三代目猿之助のおじさまだったり、そういう方たちが築いてくださったから、今、私たちがいろんなものを取り入れていけているということはあります。先人が産みの苦しみを味わってくださったからこそ、いろんな間口が広がって、僕らがいま、挑戦できているのです。
勘九郎 いやもう、そんな大それたことはないんですが、お客さまに楽しんでいただけることが一番なので、それは何かを模索しながら、芸道を進んでいかなければいけないと思っています。
── 間口が広がって、皆が親しみやすい物語が歌舞伎の要素に取り込まれると、新しいお客様も増えますね。
勘九郎 はい、ありがたいことに足を運んでいただいております。それに併せて、古典の魅力も伝えていきたい。人間の持つ感覚、恋愛感情ですとか憎しみや怒り、喜びなどは、江戸時代から変わらないですから。歌舞伎にはそれが詰まっていますので、そんなことも細かく表現していきたいです。
── やっぱり古典を大事にしたいという気持ちが強いのですね。
勘九郎 もちろん。それを失ってしまうと何もなくなってしまうので、そこが一番ですね。
遊びにも仕事にも真剣な大人はカッコいい
勘九郎 やっぱり有言実行する部分は、男として見てもカッコいいですね。「この場所で演劇をしたい」「誰かと一緒にやりたい」そう口にしたら、必ず実行して成功させていったので。その行動力とパワーと、周りを巻き込んでいく吸引力は凄かった。それは見習う、というよりやっていかなければいけないなと。
── 小さい頃からお父様に学んできて、今度はご自身がお子様たちに教える立場になっていますものね。
勘九郎 はい、本当にたくさん与えてもらったので、今度は与えられるような人間にならないと。子供たちだけでなく、若手にもそうです。今はコロナ禍の影響も大きく、演じる場が減っています。それが一番のネックなので、僕たちが率先して作っていかなければなりません。それができなければ歌舞伎は途絶えてしまいますから。
勘九郎 遊びも仕事ももちろんですけど、真剣な人ってカッコいいですよね。そして「好き」をちゃんと持っている人はカッコいいなと思います。例えば、父には昔よく酒場に連れていってもらって、ウイスキーに関する知識ですとか経験だったりを教えてもらいました。それは私も好きだから学ぶし、父も真剣だからこそ伝えてくれるし。好きなことに真剣になれる大人はやっぱりカッコいいです。
── 勘九郎さんも歌舞伎役者を極めつつ、そこだけに収まらず、いろんなことに興味を持って活動されている姿がお父様に似てカッコいいです。
勘九郎 ありがとうございます。アンテナを張っていろんなことにビビッドに反応していくことは、歌舞伎役者だけでなく表現者として、必要なことだと思っていますから。
中村勘九郎
1981年10月31日、東京都生まれ。十八代目中村勘三郎の長男。1986年1月歌舞伎座にて初お目見得。1987年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年2月『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精ほかで六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎にとどまらず、舞台『おくりびと』『真田十勇士』、NHK大河ドラマ『新選組!』、映画『禅』など幅広く精力的な活動を続けている。2019年大河ドラマ『いだてん~東京オリンピック噺(ばなし)~』に主役の一人である金栗四三役で出演。2021年12月ドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5中村仲蔵出世階段』(NHK BSプレミアム・BS4K)では主役の中村仲蔵役を演じた。
HP/中村勘九郎 | 中村屋公式サイト (e-nakamuraya.jp)
スペクタクルリーディング『バイオーム』
宝塚歌劇団で心に残る数々の名作を手掛けてきた上田久美子のオリジナル脚本を『麒麟がくる』『精霊の守り人』の一色隆司が演出。スペクタクルリーディングと銘打った五感を揺さぶる朗読劇。政治家一族の家長として8歳の男の子ルイを抑圧する祖父、いわくありげな老家政婦、その息子の庭師。力を持つことに腐心する人間たちの様々な思惑がうずまく庭で、古いクロマツの樹下に、ルイは聴く。悩み続ける人間たちの恐ろしい声と、それを見下ろす木々や鳥の、もう一つの話し声を…。 主演は中村勘九郎。他に花總まり、古川雄大、 野添義弘、安藤聖、成河、麻実れい。全員がひとり二役を演じる。
2022年6月8日(水)~12日(日)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
ライブ配信※アーカイブ有
6月11日(土)17:00公演
企画・制作・主催/梅田芸術劇場
HP/『バイオーム』 | 梅田芸術劇場 (umegei.com)
■ お問い合わせ
サカス ピーアール 03-6447-2762
ジョン ロブ ジャパン 03-6267-6010