2022.07.30
仲野太賀「とにかく動く。行動することで縁は巡って回ってくる」
菅田将暉、神木隆之介、有村架純、吉岡里帆らと並ぶ、1993年生まれの「黄金世代」と呼ばれる実力者の1人・仲野太賀。人との縁や出会いによって俳優としてのキャリアを切り拓いてきた彼が大切にするのは、「とにかく動く」こと!
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文/池田鉄平(ライター・編集者) 写真/長田 慶

「ほんと、振り返ってみると縁や運に救われて、引き寄せられてばかりの人生だったなと思います。まず、人生で初めて行ったオーディションの扉を開けた目の前にいたのが、染谷将太なんです。そこから、今思えば全てが始まってたのかな」
仲野太賀は、俳優・中野英雄の次男として生まれ、2006年、13歳のときにデビューし「映画俳優」を目指した。自他共に認める苦労人タイプの俳優として、世間に認められるまで多くの月日を過ごした。それでも、下積み時代に培った表現力で俳優として様々な話題作に出演し、人情味溢れる演技で存在感を発揮した。映画『すばらしき世界』では、第45回日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を受賞する。
菅田将暉、神木隆之介、有村架純、吉岡里帆らとともに、「黄金世代」と呼ばれる1993年生まれの実力者たちの一角を担っている。
仲野太賀が主演を務める『拾われた男』

「実は、松尾諭さんとは、そこまで面識があったわけではなくて。まさかご自身の人生で、それがドラマになるぐらいいろんなことがあったんだなっていうのは、初めて知って。どういう人生だったんだろうと、原作本を読ませてもらったらとても面白くて。一見情けない話も、愛おしい話もたくさんあって、松尾さんのことをなんだか憎めないとても人間味あふれるキャラクターだなと思いました」
原作を読むにつれて、仲野太賀も同じ俳優として、共感できることがあった。悔しい思いをした感情や台詞はあってもなくても、仕事をもらえたときの喜び、そういう心情が痛いほど理解できることが多く、自然と役に没入することができた。
見る人がちゃんと共感できる物語、役作りで10㎏増量も
そこで、「強運」と「縁」の持ち主、愛すべきキャラクター“松戸諭”を演じる為に見た目から変えようと、仲野太賀は10㎏の増量を行った。
「自分はどちらかというと痩せ体型だったので、もう少しボリュームがあったほうが、松尾さん自身の愛らしい感や奇妙な感じが出るかなって。体重の増やし方も色々あって、食べるだけだとおなかが出てくるだけになってしまうと思って。だから、筋トレをして体格を大きくしながら食べる量を増やしていくっていう作戦でした」
『拾われた男』は、初のウォルト・ディズニー・ジャパンとNHKエンタープライズの共同制作として世界配信されている。今まで、数々の日本ドラマに出演してきた仲野太賀にとって、国内、海外との共同制作について、どのような違いを感じていたのだろうか。
「世界配信ですけど、どちらかといったらドメスティックな作品になっている気がしていて。いいなと思うのは、無理に海外のスケール感に合わせた作品づくりをしていないところかなと思いました。もちろん予算も普通のドラマより全然大きいと思うんですけど、スケールに予算をかけるのではなくて、クリエイティブに予算と時間をかけてる気がします。そういう意味では、すごく質の高い日本のドラマを見てもらえると思います」
作品には、家族・恋愛・仕事・夢など、誰しもが共感できる普遍的なテーマが物語に盛り込まれている。

『拾われた男』は、主人公が、出会う人たちに支えられて、そのなかで自分探し、自分のやりたいことを見つけることからスタートする物語だ。さまざまな人との縁、出会いによってちょっと時間はかかるけど、本当に自分がやりたいことをつかむ。
仲野太賀にとっても、自分と重なることが多い。2019年6月24日より芸名を「太賀」から「仲野太賀」に改める。本名の"中野"と、「"仲間"との出会いが俳優人生の財産である」と実感したことから「仲野」の表記を選んだという。
俳優人生のターニングポイント、草彅剛との共演
劇場でたまたま、岩松了さんのワークショップオーディション募集のチラシを見つけて、『これ受けたいです』って事務所に相談して、合格することができたこともそうだし。それが自分の中で演劇の扉が開いた瞬間だったんです」

結果的に世界が広がり、そこからいろいろな人が見に来たことで、宮藤官九郎との出会いにもつながった。ドラマ『ゆとりですがなにか』では山岸ひろむというキャラクターで、初めて世間に認知された感覚があったという。
「演じれば演じるほど、つながっていく感じなんです。
ほんとに縁だったり、運だったり。たまたま自分の家の近所に住んでたのが石井裕也監督で、若いときからご飯を食べさせてもらって、そこでいろんなことを教えてもらいました。自分が、俳優として仕事をさせてもらうようになる、ベースを築けた時間でしたね」
出会いが俳優人生の財産となる仲野太賀にとって、『拾われた男』でも今後の俳優人生のターニングポイントとなる出会いがあった。兄貴役で出演している草彅剛との共演だ。
「今回、ほんとに楽しみにしていて。草彅剛さんが絶品なんですよ。正しい表現か分かんないですけど、ギアが0か100か。そこに調節とかっていう概念がなくて。始まったら、もう兄貴でしかないというか。ほんとに躊躇なく役へ憑依されている。とにかく吸い込まれるように引き込まれていくというか」
草彅剛は、仲野太賀にとっても子どもの頃からテレビのど真ん中にいた大スターだった。主演をしている映画もドラマも何本も見ていて、大体のことを知ってるような気持ちになっていた。しかし、『拾われた男』で共演して、「なんでこんなに奥深いんだろう」という新たな発見もあり、俳優人生の希望にもなったという。

こんなふうにお芝居ができるんだったら、とにかく芝居を続けたいと思えましたね。歳を重ねた草彅剛さんの姿がとても素敵で。
まだまだ、この人は輝き続けるんだろうなって、そんな姿を目の当たりにした感じです。とても勉強になりましたし、勇気づけられたというか、自分も下の世代の俳優にそう思ってもらえるよう頑張らないと、と思いました」
とにかく動く、もう行動すること
「とにかく動く。もう行動することですね。好きな人の作品や学びたい現場には必ず行きます。じっとしていても何かが始まるわけではないと思うので、やっぱりちゃんと触れて、体感すること。好奇心が強くて気づいたら現場に足を運んでいることが多いです。そうやって行動していくことで、縁は巡って回ってくるのかなという気がします」
『拾われた男』は、ウォルト・ディズニー・ジャパンとNHKエンタープライズの共同制作で世界配信されている。撮影で行ったアメリカでも、持ち前の行動力で新たなる希望とも巡り合ったという。
「たくさん学ぶことがありましたね。海外の撮影スタイルもそうですし。今回、英語でお芝居させてもらったんですけど、自分の芝居を見て、日本人のスタッフも、アメリカ人のスタッフも、どっちも笑ってくれる状況がありました。それがすごくうれしかったんですよね。

アメリカ在住の日本人スタッフの方がたくさんいて、そういう人たちの話を聞いて、もっと、世界を広げたいなと。そういう人たちに触れたことで、とても刺激を受けましたね」
仲野太賀は、『拾われた男』という、他人に “拾われ”続けることで、夢も恋もつかんでいく主人公の松戸諭を演じながら、異国の地で俳優として“新たな夢”を拾ったのだった。
(文中敬称略)