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2022.10.18

吉富愛望アビガイル「仕事は自分の好奇心を満たすためのもの。上でなく横に広げていきたい」

外資系投資銀行のアナリストとして勤務しながら「モーニングショー」(テレビ朝日)のコメンテーターとしても活躍する吉富愛望アビガイルさん。20代ですでにさまざまな領域を横断した職業を経験し、世界からの視点で日本を語る注目の才媛。その素顔に迫る後編です。

CREDIT :

文/牛丸由紀子 写真/トヨダリョウ

吉富愛望アビガイル LEON.JP
前編(こちら)では、自分自身が持つ関心の軸をぶらすことなく、あらゆる世界に飛び込んで柔軟に吸収してきたことを教えてくれた吉富さん。後編では、その挑戦を支える意志の強さはどんなところから生まれるのか、そして彼女が考えるオトナとは? その答えを探りました。

不器用でも自分は自分。その認識が自己肯定に

── 自信を持つこと、それが難しいと思いますが、吉富さんはどうやって自信を持つようになったのでしょうか?

吉富 これでも昔は自己肯定感がすごく低かったんです。ハーフという立場もあって、イスラエル人にもなりきれないし、日本人にもなりきれない。自分はどこにも属せないという感覚が強くて。実は学生時代には、そんなメンタルもあって体調を崩してしまったんです。

他の人が当たり前にやっていることが自分はできないと、自分を否定し自己嫌悪になる。どんどん気持ちが落ち込んで食事も喉が通らないほど。そんな状態が1年以上続いたので、さすがにまずいと、どんな時に症状が重くなるのか自分の状態を分析してみました。

── それは大変でしたね。でもさすが理系だからでしょうか、冷静な判断!

吉富 気づいたのは、やっぱり自分は他人と比べ過ぎだということ。他人と比べるのではなく、不器用な自分もまた自分だとちゃんと認めること、そして小さなことでも自分で自分を褒めるようにしたんです。結局病院は行かなかったのですが、症状も改善。何とか自分で乗り越えたことが、大きな自信になったと思っています。
(本人追記:ただし、今思えば私のような素人がこういった症状をひとりで扱うのは大変危険であったと思うので、まったくお勧めしません。このような状態になった時は専門家に頼りましょう)
吉富愛望アビガイル LEON.JP
── 苦しい状況から這い上がり、自分自身を変えることができたという自信が生まれたんですね。

吉富 ずっと辛かったことも、乗り越えられた。単純ですが、どんな挑戦もがんばればできる! と思うようになり、自己肯定感を高めるきっかけになりました。
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世界が注目する先端技術に日本の強みを活かす

── 現在は外資系投資銀行のアナリストの傍ら、客員研究員としても活躍されていると聞きました。

吉富 多摩大学ルール形成戦略研究所で客員研究員として活動しています。現在はその傘下で細胞農業研究会設立時から運営に関り、国内でルールが定まっていない細胞農業領域についてガイドラインや政策提言を作成したり、広報委員長として培養肉を取り巻く国内外の資金調達 ・ビジネス環境・規制・消費者コミュニケーション等の情報を発信したりしています。

── 細胞農業や培養肉というのは最先端の技術だと思うのですが、どんなものか教えてください。

吉富 細胞農業は動植物の細胞を培養し革等の動物由来の資源や農産物等を造るもので、牛などの動物の細胞を使うのが培養肉です。

メリットは、肉を生産する際の環境負荷を軽減できること。例えばトウモロコシを1㎏生産するには1800 リットルの水が必要ですが、牛はこうした穀物を餌として大量に消費するので、牛肉1kg を生産するにはその約2万倍もの水が必要と言われています。培養肉はそういった環境負荷を8~9割削減できるんです。
もちろん、生産スペースも冷蔵庫程度の大きさがあれば、2週間でチキン100羽分のお肉が取れるとも言われています。また動物を育てて肉を作るよりも効率的にお肉を生産でき、その結果干ばつやウクライナ侵攻などに伴う穀物価格の高騰にお肉の生産が左右されにくくなるため、食料安全保障に資する食品としても注目されているんです。
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── まだ市場には出ていないものですよね。

吉富 そうなんです。だからこれも新しいルールを造るのがとても重要になってきます。関連企業や畜産農家の方々、省庁や政治家の先生などと連携をとって、業界ガイドラインを作るなど、足並みを揃えて市場を作っていこうと活動しています。またこれこそ日本の強みを生かせるものだとも思っているんです。

── 日本の強みとは?

吉富 世界における日本の食の存在感の高さです。例えば和牛は世界中で人気で、高級な肉として認識されていますよね。そういうおいしい食材は日本にたくさんあり、おいしい細胞を作る技術もある。もちろん100%再現したものが作れるかは未知の部分もありますが、和牛を使っているということが大きな価値になると思っています。

実は海外ではすでに3社程度が和牛培養肉(wagyu lab-grown meat)という形で販売しようとしているんです。だからこういったものが浸透する前に、日本としてルールを整備する必要があると考えています。

仕事とは自分の好奇心を満たすもの

── これまであらゆる業界であらゆる視点を身に着けてこられたと思いますが、仕事において大切にしていることはありますか?

吉富 自分独自となるものを見つけ続けることですね。つまり自分にしか提供できない情報とか考え方があると、こんな私でもいろんな人が会ってくださったり、つながることができる。それこそ今まで何のコネクションがなくても、関係性を作ることができるという強みになります。そのために自分だけが与えられる独自性は大切にしたいと思っています。
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── 仕事の意味について、いい生活をするための手段だと思っている人も多いと思います。でも吉富さんの場合は、自分の関心軸に素直に沿ってきただけで、お金儲けとかいい暮らしという発想に仕事が結びついていない感じがします。吉富さんにとって、仕事とはどういうものでしょう?

吉富 自分の好奇心を満たすためのものです。ただおもしろそうというのではなく、自分はいったいどういう人間になりたいのか、その好奇心をずっと追求している気がしています。同じ仕事を続けて積み上げていくことはできないかもしれませんが、上に積み上げるのではなく、自分を中心に横に重層的に広げていく、それが私の仕事のスタイルなのかもしれません。
── LEONでは常に大人のあるべき姿を模索しています。吉富さんにとって、こういう大人ってカッコいいと思うのはどんな人か教えてもらえますか?

吉富 自分が理解できないことを否定しない人ですね。理解できないからといってその活動自体を否定するのではなく、自分には理解できないがこういう考えもあるのだろうとか、こういう価値観は共感できないが、他の人には価値があるのかもしれないという考えを持てる人。別の言葉で言えば、相手の考えを尊重できる人だと思います。
吉富愛望アビガイル LEON.JP

吉富愛望アビガイル(よしとみ・めぐみ・アビガイル)

1993年、イスラエル生まれ。早稲田大先進理工学部卒、東京大大学院中退。多摩大ルール形成戦略研究所客員研究員。ブロックチェーン技術に関わるベンチャー企業で海外案件のプロジェクトマネジメントに従事、イスラエル国防軍のSAR-ELプログラムに参加、多摩大学大学院にてルール形成戦略コースを修了。また、日本のソフトパワー研究として、伝統産業をテクノロジー活用で育成する会社への参画を経験。現在は、欧州系投資銀行のアナリストのかたわら、培養肉等の細胞農業食品のルール形成を行う「細胞農業研究会」の広報委員長を務め、運営に参画している。

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