2022.10.22
真心ブラザーズ「ブレないワケは、常に自分に優しく、甘く(笑)」
1989年より活動開始、「どか〜ん」(90年)や何度もリバイバルヒットしている「サマーヌード」(95年)など、さまざまなヒット曲を輩出している真心ブラザーズ。通算18作目となるオリジナルアルバム『TODAY』が完成しました。デビューから34年、社会も音楽の流れも変わっていくなかで「ブレない」おふたり。その秘訣とは?
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文/松永尚久 写真/トヨダリョウ
完成したアルバム『TODAY』(10月26日発売)もまた、力強いロックナンバーはもちろん、胸に沁みるラヴソング、さらには胸を高鳴らせるダンストラックなど、バラエティ豊かな音色で、バンドの「今」を伝えています。そこには先行きの見えない世界を「共闘」して前に進んでいくエネルギー、キャリアを重ねたからこそ表現できる「カッコよさ」が滲み出ていました。
「自分が楽しむことを最優先にしているところは変わらない」(YO-KING)
YO-KING 音楽を制作するにあたっても、人生においても、自分が楽しむということを最優先にしているところは変わらないですね。常に自分に優しく、甘く(笑)。まず、そこにいる誰よりも自分が楽しんでいるという気持ちが大切かな。
── マンネリ感は生まれないのですか?
YO-KING 音楽ばかりに集中せず、遊びも忘れないことですかね。自分自身、たまたま音楽が仕事になっているだけで、ほかにも好きなことがたくさんあるし。たとえば趣味の1つにサウナがありますが、サウナも楽しむことで音楽を俯瞰で見られるというか。違った視点を与えてくれる。いろんなコト・モノで遊ぶのがいいのではないかと思います。
── YO-KINGさんはサウナ好きとして有名です(笑)。
YO-KING サウナはずっと行っていたので、最近ブームがやってきて、神輿に乗せられているようなかんじ。だから、今はフィクサーみたいな活動をしていますよ(笑)。声をかけられたら、イベントに出演させていただいたりもしますが。まぁ「遊び」と「仕事」の境界線がなくなってきてますね。
── 桜井さんは、マンネリを感じたことはありますか?
桜井 僕はもう「どか〜ん」や「サマーヌード」をパフォーマンスすることに対して、飽きたという感情はすっかり通りすぎていまして。そういう感情を抱いた時期もありましたが、やり続けていると楽しくなってくる。
それに、演奏する場所、聴いていただけるお客さんは、毎回異なるワケなので、1000回演ったとしても、どれも同じ空気ということは絶対にない。だから同じ曲を披露しても楽しくて。さんざん飽きた先に、楽しいことがあることに気づきました。
桜井 今では結婚式とかでも何度でも演奏しますよ、という状態になりましたね(笑)。
YO-KING 「どか〜ん」を演るのはしんどくなかったのですが、「サマーヌード」は発表してから2、3年がキツかったかなぁ。当時、あの楽曲のよさを全然理解していなかったので。ああいう(ポップな)タイプの楽曲をリリースするのが初めてで、どういう表情で歌えばいいのかわからなかった。
桜井 その前のアルバムが『KING OF ROCK』(95年)というゴリゴリにロックな内容で、「サマーヌード」とはまったく異なる角度の楽曲でしたから。
YO-KING ほかのミュージシャンだったら、おかしくなっているくらいの方向性の変化(笑)。でも、自分は適当な性格の人間なので乗り越えられたんだと思う。
── おふたりともいい感じで肩の力が抜けてますよね。
桜井 自分では納得できないけれど、世の中の流れがそうならば甘んじて受け入れましょうという姿勢。それにあえて逆らうのも、大変な労力が必要になりますしね(苦笑)。
YO-KING 「器が小さい」と思われたくなかったんですよね。みんなが「いい」と言うものはやればいいじゃないって。そういう方法で、これまで鍛えられた部分がありますね。
── その「サマーヌード」は、今や時代を超えた「サマー・アンセム」になりました。
YO-KING 当初自分では「どうかな?」と思うことでも、とりあえず種を蒔いておけば、失敗することもあるけど、もしかしたら芽が出る可能性もあるし。だから、とにかくやってみるという精神は大切だなって思いますね。
「34年活動してきたミュージシャンの今見えている世界はこんなものです」(桜井)
桜井 まさに「現在地」のアルバムです。何か新しいことに挑戦するといった感覚はとっくに過ぎていまして(笑)。先日のイベントでROLLYさん(すかんち)と大槻ケンヂさん(筋肉少女帯)とで「バンドって3枚目のアルバムくらいですべてを出し切るよね」という話をしていたのですが、新しいものはそうそう作れない。
だけど2022年のこの瞬間は二度と戻ってこなくて、そこで感じたことを純粋に音楽にしたというかんじですね。「18枚もアルバムを出したミュージシャンが今見えている世界はこんなものですよ」という提示はできていると思います。
── YO-KINGさんは、江﨑文武さん(WONK、millennium parade)など、異なる世代のミュージシャンとタッグを組んでますよね。
YO-KING 江﨑さんとは、以前にごはんを食べる機会があって、品のあるいい人だなと思っていたので。僕もこう見えて「品のある」人間なので(笑)、共通するものがあるなって。
── 「雨」は、江﨑さんの弾くピアノで構成された深みのあるバラードです。
YO-KING 実は一番好きな“本番一発録り”スタイルです。あんまり作り込んで、制作するのは好きじゃないんですよ。
── 江沼郁弥さん(ex.plenty)と制作の「LOVE IS FREE」は、生音ではなくトラックを駆使したダンストラック。真心ブラザーズでは珍しいタイプの楽曲では?
YO-KING 僕は90年代に「エレファントラブ」というヒップホップのユニットを組んでいて、当時流行していたブレイクビーツの放つループ感というものが、自分の骨格の一部になっている。それを、ここ数年表現したいと考えていたので、ようやく発表できたというかんじですね。
── 一方、桜井さん制作の楽曲は、どれも柔らかな日常の風景が思い浮かんでくるようです。
桜井 ここ数年のコロナの影響、また制作時期が梅雨だったこともあり、いい具合に気分が落ち込んでいたので、これはチャンス!と思って作った楽曲です(笑)。
「現代って、1人で何かするには暗すぎる。同じ考えの人たちと一緒に突破しないと」(YO-KING)
桜井 影響は大きいと思います。デビュー当時は、バブル経済の終焉が見え始めた頃で、そこから30年間景気は下り続けて、ついにここまで来たか!ですよね。だけど、その間に生まれた子どもたちは真っ直ぐに成長していて、それを思うと泣けてきちゃいます(笑)。
── 「一触即発」や「破壊」など、現代に溢れる不安や憤りを表現している気がしました。
YO-KING 現代って、もう「個人」で切り抜けることができないというか。1人で何かをするには、暗すぎる。多少の差異はあっても同じ方向性の考えをもった人たちと共同で明るく楽しく生きようとしなければ、突破できない時代に移り変わっていると思います。そこで生まれる力を信じたいという気持ちが込められている部分はあるかもしれない。
── さらに、怒りを乗り越えた先には「希望」があることも伝えていると感じました。
YO-KING うん、出口はすごく明るく希望に満ちているはず。ただ、出口にたどり着くために、とても分厚い雲をかきわける必要があるけど。出口にある青空で深呼吸できたような気分やエネルギーを感じるアルバムになったのではないかと思います。
「ハイエンドとローエンド、どちらも知っている人がカッコいい」(YO-KING)
YO-KING いっぱいありますよ、言えないレベルのものが(笑)。だから前作で「不良」という楽曲を制作しました(笑)。
桜井 僕はお酒ばっかり飲んでいることですかね(笑)。前はみんなでワイワイ・ガヤガヤしながら飲んでいましたが、今は“ひとり飲み”が好きになりました。途中下車して、気になるお店を散策するのが楽しいですね。自宅が横浜方面なんですけれど、今日もこの取材後はどこかにぶらり途中下車しようかなって(笑)。
── 街の空気を感じながら飲むのはいいですよね。今回のアルバムジャケットは、移り変わる渋谷の「今日」を捉えていますね。
『TODAY』/Do Thing Recordings/日本コロムビア
YO-KINGが6曲、桜井秀俊が4曲を作詞・作曲。テレビ東京『種から植えるTV』のテーマソング「白い紙飛行機」も収録。レコーディングメンバーは、伊藤大地さん(Dr)、奥野真哉さん(Key/ソウル・フラワー・ユニオン)、サンコンJr.さん(Dr/ウルフルズ)などが参加。息の合ったセッションも聴きどころ。3300円(税込・10月26日発売)
アスファルトで埋められた場所がデフォルトで、公園などに行かないと土を踏むことができない環境にいたから、都会が普通なんですよ。もちろんツアーなどで全国各地を周って、それぞれに素晴らしさを感じますが、それで東京を離れたいと思ったこともないし。そういう自然な気持ちが現れたジャケットです。
── 東京で好きな場所はありますか?
YO-KING 楽曲にもありますが“土手”ですかね。東京はアスファルトばかりなので、意識的に土を感じられる場所に惹かれるのかも。だから、散歩はよくしていてほかの人よりも歩いている自信はある。靴やブーツも大好きですから。
── ちなみに靴は何足くらい持っていますか?
YO-KING 100足はあるかな? ほとんど90年代に買ったものなんですけど。今はそれを履いてはインスタ(@yokinghonnin)にアップしています。
── さっそくチェックします! 桜井さんはファッションにこだわりはありますか?
桜井 今日は撮影があるから、マネージャーにちゃんとしたものを着なさいと言われ、以前買ってきてもらったシャツです(笑)。ファッションに関しては「清潔感」を大切にしています。50代は放っておくと汚く見えてしまうので(苦笑)。
YO-KING 幅のある人ですね。ハイエンドとローエンド、どちらも知っているという。高級なレストランだけとか、逆に安い居酒屋ばかり行くとかでなく、状況に応じて対応できる自由さがある人はカッコいいなと思います。
桜井 最近は、レザーのジャケットやブーツ、楽器ケースなど、使い込むことで滲み出てくるモノのカッコよさにも惹かれるようになりました。その反面、瞬間で心を奪われるモノもあるし、その2つをバランスよく使い分けるようになってきたかな。
「なじみの居酒屋のように、いつでもいいサービスを提供したい」(桜井)
YO-KING カッコいいということに対して諦めずにいたい。そこに到達しているかどうかは別にして、カッコよくあることを諦めてしまうのは、これまで応援してくれている皆さんに対しても失礼だし。だからカッコいいという灯を絶やしてはいけない。ただ、ついつい楽な方向に流れがちになってしまうけど(苦笑)。
桜井 真心ブラザーズを、なじみの居酒屋にたとえるとして。久々に訪れてみたら、閉店していると悲しくなるじゃないですか。そういうふうにはしたくないですね。いつでもフラっと立ち寄っていただいた時に「空いてる?」って、暖簾をくぐってもらえる状態にしておきたいです。そこで、いい料理といいますか、いいサービスを提供いたしますので。
YO-KING 別に無理してるワケじゃないですが、YO-KINGというキャラクターがあることで楽な部分があるんですよね。不幸が似合わないキャラなので、たとえ病気になったとしても、皆さんの前に立つ時は幸せなYO-KINGでいなければいけない。その環境があること自体が幸せだと思います。
だから最期までYO-KINGを全うして、みなさんに「お見事!」と言っていただけるような活動をしていきたいです。
● 真心ブラザーズ(まごころブラザーズ)
1989年に、バラエティ番組内の“フォークソング合戦”にて10週連続で勝ち抜き、同年9月にメジャーデビュー。以降、多数のヒット曲を輩出し、98年発表のアルバム『I will Survive』は音楽チャートでトップ10入りを果たした。14年には自身のレーベル「Do Thing Recordings」を設立し、コンスタントに楽曲を発表し続けている。2022年11月3日の東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに、真心ブラザーズ ライブ・ツアー「FRONTIER」がスタート。
https://www.magokorobros.com