2023.01.06
別荘は個人所有からシェアへ! 豊かな時間をサービスする「ADD(アド)」ってどんなブランド?
従来の別荘のあり方に疑問をもち、新たな仕組みを作り出したのが「Blue Order株式会社」の武田崇嗣さん。所有しないことで、気軽に、しかも、いくつもの別荘での非日常を味わうことができるのだとか。メイン事業「ADD(アド)」のビジネスモデルを伺いました。
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写真/田中駿伍(maettico) ヘアメイク/勝間亮平 文/木村千鶴
会員制別荘ブランド「ADD(アド)」で、豊かな時間を提供する
今回は審査制別荘ブランドをメイン事業に持つ「Blue Order株式会社」の武田崇嗣さんに話を伺います。
「別荘で過ごす時間」をもっと“身軽”に、そして“いくつも”を実現
武田崇嗣さん(以下、武田) 「ADD(アド)」という審査制の別荘ブランドがメイン事業です。ADDは、平均600m²という国内最大規模の別荘を、厳選された会員様でシェアするサービスで、最終的には国内外30拠点まで拡大する計画です。
その中でも特に、我々が提供したいのは「別荘で過ごす時間」です。日常から離れて大切な人とゆっくりする時間をもつ事で、忙しい毎日の中で損なわれがちな活力や創造力を補給する存在でありたいというのが私たちの思いです。
── 一般的な別荘とは何が違うのでしょうか。
武田 従来のように別荘を個人で所有すると、滞在中は掃除などの家事も必要ですし、管理にも手間がかかったり、建てるたびに建築費や税金などのコストがかさんでしまいます。そうした従来の別荘のもつ問題を払拭している点が違いです。
武田 はい。沖縄の小浜島に、当時はお付き合いをしていた妻と1週間ぐらい滞在したことがあるんです。そこで過ごした時間が本当に豊かで、日常のすべてをリセットしてくれるかのようでした。
その頃の私たちは、余裕なく働くばかりの毎日で。普段の頭の中って、未来の仕事のことや、やらなきゃいけないことなどを考えるし、過去のことを反省したりもして、時間が行ったり来たりしますよね? でも小浜島では、ただ今を純粋に生きていると感じたんです。その時に、自分はこういう時間が欲しかったんだなと気づきました。
それで、日常から離れる時間をあえて作るために「別荘があったらいいよね」という話になり、ふたりで一緒に探し始めたことが、別荘に興味をもつきっかけになりました。
「あれ? 別荘って本当に必要?」という疑問が、この事業の出発点
武田 ただ、そこからリサーチを進めると「あれ? これって本当に必要かな?」と思い始めてしまったんです。元々、私たちは不動産開発会社を経営しておりましたので、どうしてもシビアに見てしまうのですが……。別荘を持つことに経済的な合理性はないし、一般の方は、一発勝負で納得のいく建物を建てるのが難しい。“理想の別荘は3棟目に建つ”とも言われていますから。
そして正直、1箇所ではきっと飽きるだろうなと。お互いの家族を呼ぶにも、みんなが来やすい地域を考えると拠点がひとつでは足りないし、別荘を買う選択肢は一旦外しました。
── 確かに、いつも同じ場所に行くだけでは、自宅にいるのと似たような時間になってきます。
武田 そこから、既存の会員制ホテルや別荘をシェアするようなサービスを探したのですが、満足する空間と経済的な合理性を併せもつサービスは見つかりませんでした。
── ご自身の満足するサービスがなかったから、別荘で過ごす時間を得られるサービスを作り出してしまおう、となったのですね。
武田 日常との振り幅のある時間をもつことは、普段事業をしているうえでの創造性につながり、活力やアイデアも湧いてきます。それができる空間が欲しかった。きっとこれは我々だけじゃなく、特に日本人はその時間を全然持ててないんじゃないかなと。そこから着想して今の事業が始まりました。
「プレビルド」という方式を取り入れることで適正な価格で提供できます
武田 千葉、琵琶湖、屋久島、沖縄の4拠点を開発中です。今後30棟まで増やす計画が進んでいます。
武田 先ほどお伝えした、国内最大規模の別荘でありながら、不快な要素を取り除いた質の高い空間づくりを目指しています。空間へのこだわりは建物のパースでお分かりいただけるかと思いますが、その土地ごとでまったく異なるコンセプトを別荘を通して表現しております。また、あまり言及していないのですが、実は水・音・香りなどの目に見えない部分にも、かなりこだわっておりまして、ご体感いただけるのが楽しみです。アメニティなども、生産過程から吟味し、コンセプトに共感できるもののみを取り入れています。
── お食事はどうされるんですか。
武田 キッチンやBBQのご用意ももちろんありますが、ご自身で用意をしなくても済むように、出張シェフを呼ぶことができたり、地域の食材を使った食事のセットをケータリングできたりするような計画を立てています。また、ラウンジにはその土地ならではの軽食やお酒のご用意があり、その場で購入してお楽しみいただけます。
武田 会員様の数を大きく増やさないことで調整ができます。従来のこうしたシェアサービスでは、1部屋に対する会員数が多いために予約が取りにくい問題が起きやすかったんです。ADDでは会員数を絞っているので、その問題は起きにくいと思います。
── 少ない会員数でも事業は成り立つのですか?
武田 会員様をたくさん集めて、別荘の部屋も狭くして数を多くすれば当然儲かります。ですが、それでは私たちが作り上げたいブランドを実現することはできません。
なので、その意味では利益は度外視(笑)。ただ、ADDは建物が未完成のうちに取引を行う「プレビルド」という方式を取り入れているので、先行投資をしない分、より価格価値に見合った適正価格で提供することができ、会員の方々に余裕のある時間と空間を提供することができるわけです。
武田 一般的に、建築後に取引を行う場合、事業主が建築するために背負うリスク分を価格に上乗せする必要があるんです。例えば、5億で建てたものを8億、10億、ひどい場合だと20億で売るような話もあります。プレビルドではそれをせずとも、採算が合いますので。
── ただ、最初に会員になった方は1棟も建ってないうちに会員権を買うリスクがある。30棟建ってから買う人とは条件が違う分、価格も違いますよね。
武田 そうなんです。やっぱり別荘が一棟もない状態からブランドに共感して、信用して買ってくださっている方には、当然我々も還元したい思いがあるんです。なので、会員券の価格は段階に応じた適正な価格を逆算して設定しています。当然早ければ早いほど値段は安いという金額の設計です。そして当社の会員権は、国内市場におけるたった0.3%である、2000口という発行上限を決めていますので、希少性もあります。
── そうなると、会員の皆さんは理想の事業展開を実現できるように応援してくれますよね。事業が成功すれば自分の持っている会員権が値上がりするわけですから。
武田 はい。でも、単に投資商材を生み出したいと思ったわけではありません。不動産は建物が劣化していくので、価値は下がっていくのが常識ですが、それは仕組みで変えられると思ったんです。
我々がやっているのはサービスを売ることなので、そのブランド価値をしっかり担保できれば価値は下がらない。それを不動産と組み合わせれば、「不動産は年々価値が下がる」という現象を逆転できると思ったんです。
その土地にしかない魅力を、広々とした空間で体感してほしい
武田 クオリティを担保するうえで大事なことのひとつは、飽きさせないこと。土地ごとにある良さ、その土地にしかない要素をどれだけその空間に詰め込むことができるかだと思っています。
── 確かに、せっかく足を運ぶのですから、地域の魅力を味わいたいです。でも東京から来て、その土地の方々に別荘の建築を受け入れてもらうことに難しさはないでしょうか。
武田 そうですね、実は難易度が高いです。その土地々々のルールがありますから。我々の拠点、例えば「湖畔の別邸」は、重要文化的景観に指定されている集落にありまして。住人は10人程度、無粋なことをすればそもそも立ち入らせてくれないし、別荘を建てた後も全然共感されないということになってしまうんです。
── えっ、それはまた凄いところに。なぜ受け入れてもらえたのでしょう。
── 拠点の住所を非公開にされていますよね。それはそういった気持ちからですか。
武田 そう。大事に思っている場所ですし、別荘というプライベートな空間に人が殺到してしまうことを避けるため、会員様にしか公開していません。
── 事業を始めてから、壁にぶち当たったと感じたことはありましたか。
武田 このブランドを始めた当初は、理解されないことが多かったです。銀行からは、利益の出にくいモデルだと指摘されたこともありました。
壁はいたる所にありますが、こだわりを曲げた瞬間にブランドが崩れるので、それを価値としている会員様のためにも、絶対に守らなければいけない部分だと思っています。
ただ、リリースの1年後くらいから会員様からの応援が非常に多くなったんですよ。土地情報を提供してくださったり、資本提携のお話をくださったり。地道にやってきたことで、何かが実ったんだろうと思った瞬間でしたね。
飽きるまで好奇心を満たす、を繰り返す子供時代でした
武田 とにかくなんでもやりたい、好奇心旺盛なタイプでした。やり方も制限されたくなくて、自分で考える性質だったように思います。親も「好きなことをやりなさい」と言ってくれる環境でした。ただ、飽き性な部分もあるんですよ。ある程度の期間ガーっとやって、大枠がわかった瞬間に急にパタッと飽きる。でも、それを繰り返しながらできることを増やすやり方が、私には凄く合ってたみたいです。
── 自分の中に取り込めた瞬間みたいなものを感じたら、興味が移るんですか。
武田 そうですね。好奇心の拡大スピードに対して、飽き性じゃないと追いつかないんですよ。いっぱいやりたいことがあるから。
その後、大学入学を機に東京に出てきたんですが、学生の頃はバックパッカーであちこちを旅しました。パリから入って、帰りのチケットは1カ月後のマドリードから。途中のルートは自分で決めて、行きたいところを探して……。
── 完全に世界へ飛び出しましたね。
そこにしかないものはそれだけで価値がある。現地の方と喋るだけでも、当然いろんなものが得られます。その体験が、新卒入社した星野リゾートで働くこと、そして今の事業の着想にもつながった面があります。
── 旅での経験が仕事にも反映されたと。星野リゾートで働いてみていかがでしたか。
武田 やりたいことはできたと思います。私の故郷の北海道には魅力がたくさんあるのに、知られずに埋もれていました。旅の中でもいろんな地域で同じことを思ったんですよ。星野リゾートでは、その地域にしかない魅力を空間に落とし込んでいくような仕事をしていました。適性も恐らくあったと思います。
ただその中で、会社員として生きることで自分の人生にいろんな制約を受けることに違和感を覚えました。なのでその後、宅地建物取引士の資格と不動産コンサルティングマスターまで取得し、起業を目指して転職をしました。
── この記事は起業を目指す方も読まれていると思うので、参考までに、起業の資金についても教えていただけますか。
武田 最初は資金がかからないモデルで始めました。独立して扱ったのは投資向けのアパートやマンションの開発。土地の取引は情報戦なんです。アナログでどれだけ情報を拾えるかが鍵で、地域との関係づくりも大事。
当初は事務所もまったく持たずに、自分の身ひとつでとにかくいい情報を拾ってくることだけを考えてやっていました。多い時には年間約100棟開発・販売していたので、働きすぎて頭がおかしくなりそうでしたよ(笑)。
── それは凄い数ですね! 旅にも行けなかったんじゃないですか。
武田 その頃は行けませんでした。忙しすぎて、何のための人生なんだろう、起業したのに何してんだろうと思う瞬間もありましたよ。それでも土地探しは、私にとっては宝物を探すような感覚でした。
常に自分を完成させずに、好奇心を大切に生きたい
▲ 襟元には、月の別邸をイメージしたオーダーメイドのブローチが。奥様には海の別邸をイメージしたネックレスをオーダーし、ペアでつけているのだとか。なんともロマンチック! 最近になって、長い年月をかけて生成される貴石の魅力にハマったとのことで、武田さんの好奇心はまだまだ尽きそうにありません。
▲ 襟元には、月の別邸をイメージしたオーダーメイドのブローチが。奥様には海の別邸をイメージしたネックレスをオーダーし、ペアでつけているのだとか。なんともロマンチック! 最近になって、長い年月をかけて生成される貴石の魅力にハマったとのことで、好奇心は健在のよう。
▲ 襟元には、月の別邸をイメージしたオーダーメイドのブローチが。奥様には海の別邸をイメージしたネックレスをオーダーし、ペアでつけているのだとか。なんともロマンチック! 最近になって、長い年月をかけて生成される貴石の魅力にハマったとのことで、武田さんの好奇心はまだまだ尽きそうにありません。
▲ 襟元には、月の別邸をイメージしたオーダーメイドのブローチが。奥様には海の別邸をイメージしたネックレスをオーダーし、ペアでつけているのだとか。なんともロマンチック! 最近になって、長い年月をかけて生成される貴石の魅力にハマったとのことで、好奇心は健在のよう。
武田 「未完であること」でしょうか。理解した、完成だと思った瞬間に成長も止まると思います。自分自身にも言い聞かせている言葉ですが、不動産にも同じことが言えます。建物自体にも完成はないと思っています。
── アントニ・ガウディみたいですね(笑)。
武田 まさにそうですね。我々のブランドも飽きられないためには、常に未完の状態であり続けることが必要です。なので、別荘は30拠点を目指していますが、30拠点が出来たら終了ではなく、拠点が消えます。
── え? 消える?
武田 入れ替わるんです。古くなった拠点を売却するなどして、新しい拠点に入れ替えていくことを計画しています。
年数が経ってお客様から求められるものと提供できるものが合わなくなったものから入れ替えを行い、常に今の時代において快適だと思われる、かつ飽きない、そして地域によって変化のあるものを30拠点、ずっと揃えていきますよ、というブランドなんです。
武田 そうなんです。だからこそ、ブランドが未完の状態にあるのは非常に大事だなと思っています。
── それはなんともワクワクしてくるビジネスですね! 最後の質問になりますが、武田さんはこれからどんな大人になりたいですか。
武田 う〜ん、大人にはなりたくないかもしれません。私が尊敬している人たちは皆さんピュアで固定概念がなく、好奇心のままに生きているような気がしています。なんだろう……本物を知っている子供でいたいと思います。
● 武田崇嗣(たけだ・たかつぐ)
Blue Order株式会社 代表取締役。1990年北海道生まれ。中央大学卒業後、株式会社星野リゾートに入社。 入社2年目にしてホテルの運営責任者を経験する。 不動産ベンチャー企業に転職後、 2018年、合同会社Blue Order創業。 2020年、企業買収、自社ビルの建設を開始。 現在はBlue Orderグループとして組織拡大・再編し、Blue Order株式会社の代表取締役に就任。
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