2023.02.11
仲 暁子「予想できる未来は面白くない。想像を超えた景色を見てみたい」【後編】
若者を中心に人気のビジネスSNS「Wantedly(ウォンテッドリー)」の代表取締役・仲暁子さん。もの作りで世の中にインパクトを与えたいという夢を実現し、人材業界の常識を覆す斬新なサービスを成功させることができた理由とは? その後編です。
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文/牛丸由紀子 写真/内田裕介(Ucci) ヘアメイク/勝間亮平 編集/森本 泉(LEON.JP)
無為に過ごす人生こそ、最大のリスク
仲 やっぱり最初の頃ですね。大学を出て大企業に入って、一応ちゃんとしたコースを走ってきたのに、自分の意志ではありますが、そこから外れてしばらくは無職状態。起業したとはいえ、まだまだ事業として回っているとは言えませんでしたから。エンジニアも常駐しておらず、とはいえ状況に応じてサービス内容をタイムリーに変更していくことも必要だったので、自分で必死に勉強してプログラミングもやっていました。その時は背水の陣の覚悟で臨んでいました。若かったので、別に失うものは何もなかったんですけど(笑)。
── 挫折を感じることもあったと思いますが、どうやって乗り越えてきたのでしょうか?
仲 確かにいろんなことが起きますが、私の場合はもう寝たら忘れます(笑)。極論を言えば「人生は有限」です。その中で何を成すかが一番大事であって、それを無為に過ごすことが最大のリスクだと私は思うんです。起業する人は総じて楽観的な人が多いと思います。神経質な人とか、考えすぎちゃう人は向いていない。先ほど話したように起業当初は精神的にもすごく大変でしたが、一方でけっこう楽しかったんですよね。
仲 大変なこともたくさんあります。でもそれと同じぐらい、面白くエキサイティングなことがあるんです。ある時は一気に登ったり、ある時は急降下したり、ジェットコースターのようにずっとやってきている感じがします。
── 波乱万丈な人生は嫌じゃない、むしろ何も変化がない方がつまらない?
仲 そうですね(笑)。私にとっては、“予想できる未来”を生きる方がつらいかもしれません。5年後にはこうなっちゃうと見えるより、見えない方が未来は無限大に広がりますから。
仕事で重要なのは楽しむポイントと共感性
仲 やっぱり、どんなことも楽しむということでしょうか。人生も仕事も面白くないと生きていけない、と私は思っています。
── 仲さん自身は、今の仕事では、どんなところが楽しむポイントですか?
仲 やっぱり成果を出すことが楽しいわけですが、会社のフェーズが変わってきていることもあり、そのためには長い視点で見るようになりました。20代から30代前半までは、1年単位で成果を出すことが楽しかったですが、ウォンテッドリーも創業10年を迎え、プロダクトでも組織でも、今は5年から10年でどれだけ大きい成果を出すかという視点に、変わってきています。
仲 心の余裕というより、何かスケールの大きい課題を解決しようと思ったら、それなりの人数と時間が必要だということ。個人で必死に働いて2~3年で何かを作るのはやっぱり限界がある。自分一人が動くよりも、チームや組織でいかに動けるかが重要になってきていると思います。
── そうなると人を動かす、人に共感してもらい同じ目的を持って動いてもらうということですが、そのために大切なこととは?
仲 欠かせないのは、ウォンテッドリーのコアの価値観でもある「共感」だと思っています。この仕事をやる意味がある、これで世の中が良くなると思える状態を常に作り続けることが、すごく大事だと感じています。「本当にやる意味あるのかな?」とか、「なんで俺がこれをやるの?」と思っていたら、絶対にいいものはできないですから。
そのためにうちの会社では “カルチャーランチ”という名で、長期ビジョンを語る場を設けています。普段の業務から離れて、なんのために自分たちの仕事があるのかというようなことを話しています。
自分の人生に責任を持てるのは自分だけ
仲 う~ん、考えたことなかったですね。自分を信じているか信じてないかという問いを、正直したことがないかもしれません。
── 例えば自分がやりたいと思ったことを、まわりにいろいろ言われても揺らぐことなく、迷わず完遂する。そういうことも、自分を信じているからできることではないかと思います。
仲 なるほど、確かにそうかもしれませんね。私も大企業を辞める時は、世の中の一般的な価値観からすれば、コースアウトする恐怖感みたいなはすごくありましたけど、結局その道を選んだ。そこでもうタガが外れたので、それからはずっと変わらず自分を信じ続けているのかもしれません。
結局、自分の人生に責任を持てるのは自分だけ。死ぬ時は一人だし、人生を誰かのせいにできないから自分で決めるしかないと思うんです。もちろん色々な意見はしっかり聞きますけど、改めて考えてみればちゃんと納得して自分で意思決定してきたのかもしれません。
── 現状におごらず、いろんな決断をして変化し続けるのは、勇気がいることだと思います。何が自分を前へと駆り立てるのか、その原動力はどんなところにあるのでしょうか?
仲 やっぱり「人生は一度きり」という思いですね。20代ぐらいからずっと思っていたので、人生を悔いなく生きることが大きな原動力になっていると思います。日々忙しいとそんなことは忘れがちですが、たまに思い出して自分で自分をチェックしています。
── 以前は岡本太郎さんの「情熱があるから行動するんじゃない。行動するうちにエネルギーが湧き出てくるのだ」という言葉に影響を受けたと仰っていますが、今も同じですか?
仲 確かに若い頃は好きな言葉でした。でも、それもステージが変わると段々変化してきて。今響くのは、スティーブ・ジョブズの「Stay Hungry, Stay Foolish」(ハングリーであれ、愚か者であれ)という言葉です。ハングリーでフーリッシュなんて、20代では当たり前のこと。それが40代に近くなってくると、常識を外れたり、自分に正直でいることが難しくなってくる。だからこそ、今この言葉が大事だなと実感しています。
例えば20代の頃は、いつかイーロン・マスクを超える! と言っていたハングリーな若者がいたとしても、ある程度成功すると何となく停滞してしまう。そんな“それなりの人生”になってしまうと終わりだなって私は思っています。
予想できる未来はつまらない。目指すのはまだ見ぬ景色へ
仲 そうですね。確かに今も好きなことを仕事にしていて、カッコいいなと思います。ただ、母の場合は研究者なので、自分一人で突き詰めていくタイプ。私は自分だけではなく、もっとたくさんの人を巻き込んでやっていきたいと思っているので、そこの部分はちょっと違うかもしれません。
── 今のLEON読者であるオヤジ世代もそうですが、最近は歳を重ねてもまだまだチャレンジしたいという方が多いと思います。上の世代に対して思うことは?
仲 いくつであっても、守りに入るより攻めてほしいなと思います。人生のさまざまな経験で摩耗していくのではなく、それを糧にして楽しんで欲しいですよね。「Stay Hungry, Stay Foolish」の言葉通り、年齢関係なく好奇心旺盛で、いたずらっ子みたいな目をしていて、次は何をやってやろうかみたいな人ってカッコいいと思います。
── 仲さんご自身は、今後50代60代で自分がどうなりたいか、イメージはありますか?
仲 具体的なイメージはありませんが、今はまだ見えてない景色、今想像できる景色を超えたところにその時にいられるかどうか。理想としては、今の延長線上ではないところにいることができたらと思うと、ワクワクします。まだまだ見えないものが絶対あると信じているんです。予想できる未来は、やっぱり面白くないですから。
仲 暁子(なか・あきこ)
1984年生まれ、千葉県出身。2008年、京都大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2年目で退職し、漫画家を目指す。2010年にFacebook Japanに初期メンバーとして参画。同年9月、現ウォンテッドリーを設立し、Facebookを活用したビジネスSNS『Wantedly』を開発。2012年2月にサービスを公式リリース。現在約350万人が登録し、募集件数は3万7000社にも上る。
HP/Wantedly(ウォンテッドリー)「はたらく」を面白くするビジネスSNS