2023.02.16
六角精児「すべての人に感謝です。悪いヤツにも酷いヤツにも」【後編】
いろんな噂は聞きつつも、いつも飄々と楽しそうに生きている姿がなんともカッコいい。ずっとそう思って見てきた六角精児さんに話を聞くことができました。驚くほど真摯でストイックで、でも心の奥には不良の魂を忘れていない、まさにちょい不良(ワル)を体現した魅力的な人でした。インタビューの後編です。
- CREDIT :
文/木村千鶴 写真/平郡政宏 スタイリング/秋山貴紀 ヘアメイク/西村佳苗子 編集/森本 泉(LEON.JP)
舞台に対しては、できる限り真摯な態度であり続けた
六角 はい、縁は誰が偉いとか関係なくて、皆同じなんですよ。後輩も先輩も、それから偉い人も、何か苦労してる人間も、縁は縁だから。
── 人の意見に耳を傾けるからこそ、しっかり人とつながっていけるのでしょうね。厳しいお母様だったとしても、その厳しさの価値を理解して感謝するなんて、なかなかできることではないと思います。
六角 誰にも感謝です。自分にとって悪いヤツとか酷いヤツが、必ずしも障害になるとは限らない。そういう人間がいたからこそためになることもあるから。だからね、人ってあながち自分にとって親切で優しい人だけが必要なわけでも大切なわけでもないんですよ。むしろちょっと酷い方がいいんです(笑)。
── 人に恵まれるって、偶然だけではないと思います。例えば六角さんが「これだけはした、またはしなかった」ことはありますか。
六角 ないです。でもただ、芝居だけはやっていましたね。
六角 そう。決して好きではないんです。それでも舞台ってものに対しては、できる限り真摯な態度であり続けたと思います。自分なりの力で懸命にやった、それだけです。だから借金で潰れかかっていた時も、周りの人たちはそこまで酷かったとは思っていなかったのかもしれない、芝居の稽古も休まず出てくるし。
自分がやってきたことが結果につながるとしても10年後だったりするので、その時点では誰にも将来なんてわからないんですよ。だから苦しい時でもやれるだけのことはしておいた方がいい。そうしたら悔いがないから。
六角 それは、ご縁だから。若いうちにやっていたことがご縁になって、30代後半ぐらいから「相棒」に出させてもらったりとか、色んなお芝居の依頼が来始めたんです。それでもその時はまだ大きな借金があって大変でしたけど、借り入れは一切しないで返済しかしないって決めて。
人間そんなにちゃんとできていないから、返すってことだけに集中して何年間かやっていかないとダメなんです。特に僕みたいな人間は。これね、当たり前のこと言いますけど、お金って借りる時より、返す時の方がものすごく大変です。だから全部返し終わった時に、なんか「ざまあみろ」って思った(笑)。
── ワハハ、何に対してでしょうね。
六角 なんだろう、自分に対してかもしれないね。その時から物事が変わってきたというか、同じことをしているのに仕事でも何だかちゃんと認められるようになって。そこから何かが開き始めました。
彼女はみんなちゃんといなくなりました
六角 どうなんですかね。彼女がいることは多かったけど、自分の生活っていうものがあまりにもギャンブルに傾いていましたから、やっぱりみんな、ちゃんといなくなりましたね。
六角 大体決まった年月でいなくなるんですよ。2年ぐらいかな〜、もつのは。2年で白黒つきますね。そうして置いていかれて、どうにもならなくなるわけですよ。
── でも今は奥様と動物たちと仲良く暮らされているとのことですね。
六角 はい、妻は僕たちのことをお世話してくれていますし、仲も良いですよ。今の妻とは以前一度結婚して、別れて、また結婚していますから(笑)。お互いに何に気遣えばいいのか、ちょっとずつわかってきたのかもしれません。何か特別にしてもらいたいことはないですが、栄養バランスをしっかりと考えてくれる人が家にいるのは、本当にありがたいことです。
六角 別にそんな特別なことはないですけど、ただちゃんと相手の話を聞いて、その人の味方になるような形のアドバイスはします。基本的には聞き役が多いですが、自分が喋ったほうが良さそうだったら、なんとなく相手の好みのジャンルに合わせて喋ります。例えば相手の趣味の話は、自分が知らないことでも聞くことによって興味を持つこともできますよね。
六角 だけどほら、最終的には容姿が良かったりする奴らに抜かれていくから。昔はモテるジャンルの幅が狭かったですからね。我々が中学生の頃は、頭が良いか、スポーツができるか、2つしかなかった。2色パンですよ。そいつらが今なんかくたびれた感じになっているのを見るのが僕、凄く楽しいんですよ。ざまあみろって(笑)。まあ自分がどうだってわけじゃないんですけど。
これで幾許かの金を稼いでいるんだから、ざまあみろですよ
六角 自分の趣味で鉄道に乗っていますから、鉄道に乗って旅をすることが番組になるのは楽しいことだと思います。音楽は好きでやっているので、商売にしようなんて気持ちはないです。でもラジオの仕事で自分が好きな音楽を紹介できるのは、やっぱり喜びですよね。
── 「らじるラボ」(NHK)ですね。
六角 中学生の頃、自分で作ったカセットテープを好きな女子に送ったことがあるんですよ、ボブ・ディランのプロテストソング。あれは迷惑だったと思うなあ。好きでもない男子からプロテストソングですよ、嫌でしょ(笑)。後から自分の趣味を押し付けるのは愚かだと気づいて、そういうことはやめたんです。
でもラジオのパーソナリティって、自分の好きな曲をかけなきゃいけないじゃないですか。もう最近は必要にかられて訳のわからない音楽ばっかりかけていますからね。これは喜びですよ(笑)。
六角 そう、それで幾許かの銭を稼いでるんですからね。ざまあみろです(笑)。
── 3回目のざまあみろいただきました(笑)。本当に幸せな仕事人生ではないですか。
六角 今はきっとそうですね。ただ、良い時はいいですが、問題はうまくいかなかった時の対処をどうするかです。うまくいかなかった時は、自分の責任なのかそうじゃないのかをちゃんと吟味して、自分にできることが残っていたらそれは試してみる価値があると思うんです。そこまでやらないと結果は出てこない。何度でも挑戦すべきですよ。
── なるほど。
六角 そういった意味で僕は食らいついています。ある程度諦めは早いけれども、心底は諦めないですね。だいたい芝居の稽古なんて最初からできるはずないんだから。自分の考えてきたものを覆されにいくようなものなんですよ。生活もそう。自分のやったこと、思ったことを覆されにいくのが、社会だと思います。そのうえで、じゃあ自分が何をするか、それが底力につながると思うんです。
── 覆されることに慣れることも、ある意味の打たれ強さかもしれません。では最後に、そんな六角さんにとっ
て、カッコいい大人って、どんな人間ですか?
六角 今の常識にとらわれず、心が自由な人かな。そうなりたいと思っているからかもしれないけれど、心を自由にしておくのはとても大変なことだろうし、難しいことだと思うので。
── 心が自由というと、どんな状態のことなんでしょう。
六角 世間一般の目や流行、そういうものから自由。世間一般の評判だとか、他人の目だとか収入みたいなものとか、そんなものを気にしないで相手の素敵なところを見つけて付き合える人、そういう人を僕はカッコいいと思います。
● 六角精児(ろっかく・せいじ)
1962年6月24日生まれ、兵庫県出身。身長175cm。劇団「善人会議(現・扉座)」の創立メンバーとして主な劇団公演に参加。近年の出演作は舞台「怪人と探偵」(19年)、「レ・ミゼラブル」(21年)、「衛生 リズム&バキューム」(21年)、ドラマではNHK連続テレビ小説「おちょやん」(21年)、「拾われた男」(NHK21年)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日・22年)などで名バイプレイヤーとして活躍。最近では「エルピス-希望、あるいは災い-」(KTV・22年)も話題に。映画は「相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿」(09年)で初主演。近年は「くらやみ祭の小川さん」(19年)、「すばらしき世界」(21年)などに出演し、22年は「大怪獣のあとしまつ」、「ウェディング・ハイ」、「ハケンアニメ!」、「コンビニエンス・ストーリー」、「ある役者たちの風景」と5本の出演作が公開された。また六角精児バンドを結成し、2枚のCDをリリース。22年4月には初のソロアルバム「人は人を救えない」をリリース。現在公開中の映画「仕掛人・藤枝梅安」に出演。4月には舞台「ザ・ミュージック・マン」(日生劇場ほか)の公演が控えている。
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