2023.08.18
【第24回】麻生久美子(女優)
「どうやったら麻生久美子と結婚できるんだろう」って考えた
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが時代の先端を走る女神たちに接近遭遇! その素顔に迫る連載。第24回目のゲストは、女優の麻生久美子さんです。藤竜也さんと26年ぶりの共演が話題の映画『高野豆腐店の春』(8月18日公開)の話をはじめ、樋口さんがいろいろと伺ってきましたよ。
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文/井上真規子 写真/トヨダリョウ スタイリング/井阪恵(dynamic) ヘアメイク/ナライユミ 編集/森本 泉(LEON.JP)
今回のゲストは、女優の麻生久美子さんです。1998年、名匠・今村昌平監督に見出され映画『カンゾー先生』に主演するや、日本アカデミー賞最優秀賞助演女優賞、新人俳優賞など映画賞を総なめ。その後も、『贅沢な骨』(2001年)、『夕凪の街 桜の国』(2007年)など様々な作品で映画賞を受賞し、女優としての地位を確立しました。
一方でドラマ『時効警察』(2006年)の三日月しずか役などコメディな演技にも挑戦し、幅広い活躍を続けてきた麻生さん。今回は、藤竜也さんと26年ぶりに共演した映画『高野豆腐店の春』(8月18日公開)の話をはじめ、樋口さんがいろいろと伺ってきましたよ。
「悲しみもあるけれど人間讃歌になっていてとても良かった」(樋口)
麻生久美子さん(以下、麻生) うれしいです。ありがとうございます。
樋口 すごく安心して見られました。最近の日本映画、意外とそういう作品ってないんですよね。
麻生 そうなんですよね。
樋口 それにしても麻生さんがお豆腐屋さんで働いているなら、夜は“豆腐バー”にして麻生さんにお店に立ってほしいと思いました。大変な二毛作になりますよ!
麻生 アハハ(笑)。
樋口 映画の舞台は尾道ですよね。セリフの中にすぐ隣の福山が出てきますが、妻の実家が福山のお寺で、この辺りの風景はよく知ってるんです。
麻生 私は尾道は今回の撮影で初めて行きました。いいところですよね。映画人に愛されるのもわかるなって思いました。
樋口 今作を観ていて、麻生さんは藤さんのカッコ良さや情けなさをすごく引き出しているなと思いました。藤さんとは97年公開のハードボイルド映画『猫の息子』以来、26年ぶりの共演だったんですね。当時は、将来親子を演じることになるなんて想像もしなかったんじゃないですか?
麻生 藤さんとは、またこうやって共演できたことがすごくうれしいです。
麻生 実は、内容をほとんど覚えてなくて……。バイオリンを弾いて泣いたっていうのだけは覚えてるんですけど(笑)。藤さんとお話したら、一緒のシーンなかったよね? って。
樋口 二人は敵対している役同士でしたけど、最後の方でちょっとだけ会うんですよ。
麻生 見てくださったんですね!
「このTシャツは旦那さんの伊賀さんにいただいたもの」(樋口)
麻生 え! そうなんですか!(ビックリ)
樋口 それ以来、このTシャツは本当に大事な日にしか着ていません。最近は、息子の運動会で着させていただいたんですが、保護者の中でモリッシーを着ているのは僕だけでした。
麻生 そうですよね(笑)。ありがとうございます。
樋口 実は麻生さんには、昔ご挨拶したことがあるんです。日比谷野音でやったエレファントカシマシのライブで、当時宮本さん(ボーカルの宮本浩次さん)のスタイリングをされていた伊賀さんにお会いしたんです。それで僕が「宮本さんのスタイリングってどういうお仕事されるんですか?」って聞いたら、伊賀さんが「白シャツにアイロンかけてます」って。
麻生 アハハ(笑)。宮本さんは、いつも同じテイストの衣装ですもんね。
麻生 そうだったかもしれない! 多分娘は2歳ぐらいだったかな?
樋口 そのくらいだったと思います。お子さんがすごく可愛くて美しかったのを覚えています。やっぱりスタイルがいい者同士のお子さんは違うな〜って感心したんです。
麻生 いやいや、そんなことないですよ〜。ありがとうございます(笑)。
樋口 麻生さんと伊賀さんは、どうやって出会われたんですか?
麻生 え~っと、私の写真集の撮影ですね。
樋口 僕は初めて伊賀さんを見た時、あんまりにもカッコよくてビビりました。顔が小さくてスタイルもいいし。麻生さんもやっぱり最初からいいなぁと思ったんですか?
麻生 いいなと思いました(笑)。でもこの仕事をしているとカッコいい人っていっぱいいるし、たくさん会うんですよね。その中でも、ちょっと違うものを感じたんだと思います。
「仕事のことや現場の感じもわかってくれる」(麻生)
麻生 すごく理解してくれていて助かっています。全然違う職業だとわかってもらいにくいけど、逆に俳優同士とかまったく同じ職業でも別の大変さがあるだろうなって思ったり。その点、うちはちょうどいい距離感なんですよね。仕事のことや現場の感じもわかってくれるので。
樋口 今回の映画もそうですけど、遠出で泊まりの仕事はやめてほしいとか、キスシーンやめてとか、そういうこともないんですか?(笑)
麻生 全然ないですよ! もう大人なので(笑)。
樋口 伊賀さんは映画やカルチャーにすごく造詣が深いですが、そういう話もよくされたりしますか? お互いに映画を勧めあったりとか。
麻生 お互いにではなく、夫から一方的に(笑)。今、私は子育てに集中しているので、インプットが何もできてないんです。ちょっとでも「あれって面白いの?」って聞くと、もう100返ってきます。あ、まだ説明が続くんだって(笑)。
麻生 そう、その感じです(笑)。
樋口 でも、時間がないというのはすごくわかります。妻は松竹芸能所属の多忙なタレント弁護士なので、我が家では僕が全面的に家事育児をやっているんです。毎週水曜に名古屋で夕方のローカルワイドショーに出ているんですが、先ほど「事務所から品川まで行くタクシーの運転が荒くて頭が痛いし、新幹線も1時間遅延してる。どうしてくれるんだ!」ってお怒りのメールがありました。「今日は麻生さんが待っているので……申し訳ありません」と僕が平謝りしたところです。
麻生 あらら、そういう力関係なんですね(笑)。
樋口 7歳の息子に「この家で一番強いのは誰?」って聞いたら、小さな声で「ママ……」と答えます。悪いことして「ママに言いつけるぞ」って言った途端に表情が変わります。家に強い人がいてくれると助かりますね!
麻生 アハハ(笑)。うちでその役は、多分私なんでしょうね。うちの旦那さんも全然弱いタイプではないんですけど、子供達が最終的にいうことを聞くのは私ですね。
「西田ひかるさんのことが、気持ち悪いぐらい好きだった」(麻生)
麻生 それが当時は何も分かってなかったんですよ。ただの田舎娘だったし、映画好きでもないし、監督も知らない(笑)。出演者もほとんど誰? って状態で。今だったらすごい重圧だと思います。
樋口 まさに、あの役と同じですね。麻生さんを選んでくれたのは、今村監督なんですよね。
麻生 そうなんです。でも、私ははじめ何も知らなくて「ちょっとおじいちゃんと会って話するだけだから」って言われて、それが今村監督だったんですけど(笑)。田舎から電車に乗って行ったら映画のオーディションだったっていう。
樋口 そうなんですか!
樋口 え! じゃあ、あのクライマックスで海の中をぐわ〜って駆け抜けるシーンがありましたけど、命懸けだったんじゃないですか⁉
麻生 めちゃくちゃ怖かったですよ。海の底の方で酸素をもらって吸わなくちゃいけなかったんですけど、それが怖くて怖くて。いちいち水面まで上がってたら撮影できないし、やるしかない。海に慣れてないから死ぬかと思いました。
樋口 うわ〜! すごい。そもそも、いろんなインタビューでもお話になられていますけど、麻生さんはアイドルになりたかったそうですね。
麻生 そうなんですよ。でも、周りからアイドル顔じゃないって言われて諦めました。童顔じゃないし、若い頃からそんなに顔が変わってないんですよ。今となっては、それでよかったなって思ってますけど。
樋口 本当に変わらなくて驚きます。どなたに憧れていたんでしたっけ?
麻生 西田ひかるさんです。西田さんのことが気持ち悪いぐらい好きだったんです(笑)。
樋口 そうなんですね(笑)。お会いしたことはあるんですか?
麻生 あるんですけど、この仕事をする前です。中学生ぐらいの時に、西田さんのサイン会に行ったんですよ。
樋口 男ばっかりのファンの中でこんな美少女が来たら、西田さんもさぞかしうれしかったと思います。
麻生 その辺のただの子供でしたよ(笑)。
「峯田さんは絶対麻生さんに片思いしている」(樋口)
麻生 いえいえ、順調ではないですよ。特に『時効警察』(2006年/テレビ朝日)の前あたりで一回落ちて、自分で勝手に限界を感じていました。
樋口 そうだったんですね。『時効警察』がヒットして、当時そのことばかり聞かれて重荷になったりはしませんでした? 麻生さん演じる三日月しずかについてとか。
麻生 それはないですね。あの作品には、もう感謝しかないです。
樋口 僕は、その頃に麻生さんが出た映画『アイデン&ティティ』(2003)が大好きでした。ロック・ミュージシャンの主人公・中島役を演じた峯田くん(銀杏BOYZの峯田和伸さん)に対して、彼女役の麻生さんが「君は……」とか言うのにゾクゾク来ましたよ。
麻生 いい作品ですよね。でも今振り返ると、もうちょっと相手役としてちゃんとできたんじゃないかと思います。
樋口 僕は当時、雑誌の編集者だったんですが、その数年後に原作者のみうらじゅんさんと峯田くんの対談をセッティングしたんです。その後、2人が再会して麻生さんの話になり、峯田くんが食い気味に「(麻生さんが)また綺麗になってるんですよ!」って言ってたという(みうらさんの)話が忘れられなくて。
麻生 アハハ! 峯田くん本当に面白いですよね(笑)。
麻生 なんで私にきたんでしょうね? でも夢があるなって思って受けました。
樋口 はっきり言って、峯田さんはもう麻生さんに片思いしてますよね。麻生さんが歌った楽曲『夢で逢えたら』の歌詞で、「君に彼氏がいたら悲しいけど君が好きだというそれだけで僕は嬉しいのさ」ってもう永遠の片思いですよ! 峯田くんの長年のミューズなんでしょうね。執念深いというか(笑)。途中、麻生さんが結婚されたというのでガクッと来たでしょうけど、まだ諦めてないと思います。
麻生 そんなことないですって(笑)。
樋口 諦めない力ってすごいなって思います。でも、僕も「どうやったら麻生久美子と結婚できるんだろう」って考えてましたよ(笑)。100回生まれ変わっても無理なんですけどね!
麻生 アハハ(笑)。でも峯田くんと、あとはオダギリさん(俳優のオダギリジョー)にはすごくご縁を感じています。これからも定期的に共演したいですね。
「おい、ね~ちゃんと呼ばれても愛を感じるんです」(麻生)
麻生 恩人というか、感謝してもしきれないのは今村さんですね。これはもう不動です。今村さんがいなかったら私は今ここにいないので。
樋口 そうですよね。世に引き上げてくれた方ですもんね。
麻生 あと、相米さんは面白かったです。すごく怖いんですよ(笑)。口が悪くて「おい、ね~ちゃん!」とか言われたりして。ビビりながら撮影してました。
樋口 おい、ね~ちゃん!(笑)
麻生 でも、すっごい怖いんですけど、なんか知らないけど愛を感じるんですよ、なぜか。あんなに言葉が綺麗じゃないのに、っていうか、き、汚い……のに(笑)、言われても嫌じゃないんです。あの不思議な感覚は相米さんだけでしたね。
樋口 コッポラ(映画監督のフランシスコ・フォード・コッポラ)が言うところの「この世で唯一許される独裁者が映画監督である」って言葉を思い出しますね。
樋口 と面白いお話を伺ったところで、残念ながらもうお時間のようです。今日は、本当お会いできてよかったです。伊賀さんにもよろしくお伝えください。ありがとうございました。
麻生 こちらこそ、ありがとうございました。
対談を終えて
「きみに彼氏がいたら悲しいけど、きみが好きだというそれだけで僕は嬉しいのさ」
ほんと、ほんとにそれなのです。「夢で逢えたら」と願っているのは峯田さんだけではない。実は麻生さんとお会いする前夜眠れずに、朝の4時に赤ん坊の絶叫により微睡から覚めた僕が嗤うことなどできましょうか。
「夏の終わりが君をさらってゆく。君の香りだけを残して」
僕は願う。人生の秋が来ても麻生久美子と夢で逢えますように。峯田、そうだよな? (樋口毅宏)
● 麻生久美子(あそう・くみこ)
1978年生まれ。今村昌平監督作品『カンゾー先生』(1998年)でヒロインに抜擢され一躍注目を集める。同作で日本アカデミー賞優秀助演女優賞など多数受賞。以降も映画『回路』(2001年/黒沢清監督)、『夕凪の街 桜の薗』(2007年/佐々部清監督)、『ハーフェズ ペルシャの詩』(2008年/アポルファルズ・ジャリリ監督)、『モテキ』(2011年/大根仁監督)、ドラマ『時効警察』シリーズ(2006年~/テレビ朝日)、『オリバーな犬(Gosh!!)このヤロウ』(2021~22年/NHK)など多数の映画やドラマに出演。
HP/Breath (breathinc.com)
X(Twitter)/麻生久美子mg【公式】
『高野豆腐店の春』
尾道の町の一角に店を構える高野(たかの)豆腐店。“大豆”と“水”と“にがり”だけでコツコツ作り続ける豆腐のように、淡々とした日々の生活にこそ、人々の幸せがある。これは職人気質で愚直な父・高野辰雄(藤竜也)と、明るく気立てのいい娘・春(麻生久美子)の物語。毎日、陽が昇る前に工場に入り、こだわりの大豆で豆腐を作っていく父と娘。商店街の仲間たちとの和やかな時間。そんな日常を生きる親娘にそれぞれに新しい出会いが訪れる── 。“変わらないもの”と“変わっていくもの”を丁寧に描き、この時代を懸命に生きる人々にひと筋の光を届ける作品。
監督・脚本/三原光尋 出演/藤竜也、麻生久美子、中村久美ほか。
8月18日(金)ロードショー。
● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊『無法の世界』(KADOKAWA)が8月31日発売。カバーイラストは江口寿史さん。
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