2023.07.29
【第23回】最上もが(タレント) 前編
最上もが。うつ、LGBTQ、未婚シングルマザー。全部持ってる“最強”元アイドルの美学と信念
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが時代の先端を走る女神たちに接近遭遇! その素顔に迫る連載。第23回目のゲストは、タレントの最上もがさんです。アイドルグループ「でんぱ組.inc」で活躍後、独立。2020年にはシングルマザーになったことを電撃発表した最上さんの“いま”を探ります。
- CREDIT :
文/井上真規子 写真/内田裕介(Ucci) ヘアメイク/澤西由美花(クララシステム) 編集/森本 泉(LEON.JP)
今回のゲストは、タレントの最上もがさん。2011年にアイドルグループ「でんぱ組.inc」にスカウトされ、加入するや「金色の異端児」というキャッチコピーで一気に頭角を表します。アイドル活動と並行して「週刊ヤングジャンプ」の表紙&グラビア抜擢、1st写真集『MOGA』の大ヒット、女優デビューなど次々に活動の幅を広げ、知名度は揺るぎないものに。
「一般社会ではハンデになってしまう手札もすべて武器になる」(樋口)
最上 こちらこそ、よろしくお願いします。
樋口 フォトエッセイ、拝読しました! 面白かったです。最上さんはHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)だそうですが、僕はこの言葉を初めて知りました。ひと一倍繊細な気質を持って生まれた人で、職場や家庭など生活の中で気疲れしやすく、生きづらいと感じてしまうんですね。
最上 はい。
樋口 さらに本の帯にもありますが、うつでバイセクシャル、シングルマザーだと。これはいい意味で全部持っているなと思いました(笑)。一般社会ではハンデになってしまう手札だけど、芸能界、ロックやお笑いの世界、文芸の世界でもプラスに変わりますからね。全部武器になるんです。
最上 どうなんでしょう! とにかく、面倒くさい女代表という気持ちがあります(笑)。
最上 遅い方ですね。アイドルは10代から入る人がほとんどなので。こういうものは芸能の星に生まれた人がやるべきだと思っていたし、芸能界は目指してなかったんです。でも職を探していた時に、でんぱ組.incのプロデューサーから「1人辞めるから、かわりに2人入れたいんだけど入らない?」と声をかけられました。
最上 東京タワーで試供品を配ったりする日雇いのバイトをしていたんですが、たまたまでんぱ組.incの関係者を集めたコンベンションの受付でどら焼きを配るお仕事をもらったんです。そこで、プロデューサーの目にとまったみたいです。
樋口 どら焼き!(笑)
「最上もがは、できる!って思い込んでやってます」(最上)
最上 最初は無理だと思いました。でも父がリストラされて家庭の雰囲気がすごく悪くて。私が働かなくちゃダメな状況だったんです。とはいえ企業の採用面接に行くのも嫌だったし、(でんぱ組.incは)履歴書もいらないというので楽かもと思って決めました。
樋口 なるほど。そうは言っても突然アイドルって(笑)。歌って踊れるようになるまでは、大変だったのでは?
最上 私は、いまだに歌も踊りもすっごい下手くそで、ファンの間でも有名なんです(笑)。ファーストライブもひどかったですよ。小さいステージだから踊りはごまかしがきくけど、歌はごまかせないからガンガン音外してました。ガチガチに緊張もしてましたしね。
樋口 そうなんですか⁉
最上 でんぱ組.incみたいな事務所も無名で土台がなかったグループというのは1からスタートしてるので、成長を楽しむファンの方も多かったと思います。伸び代や目標があると、わかりやすいですしね。
私も年々場数を踏んで、ファンの方に「もが、ほんとに歌上手くなったよね」って褒めてもらえるようになりました。
樋口 ほとんど保護者ですね! 最上さん自身は、何年目ぐらいから自分に自信が持てるようになったんですか?
最上 いまだに自信を持てたことはないです。けど、場数を踏めば慣れるので、昔のように緊張することは減りました。恥ずかしいとか、うまくいかないって思うほど失敗しちゃうので、本番中は恥を捨てて、嘘でも「最上もがは、できる!」って思い込んでやってます。終わってからはすごい反省しますけど(笑)。
「最上さんは、生き残ったシド・ヴィシャス」(樋口)
樋口 でも、今はこうやってちゃんと話されてますしね。
最上 ちなみに、撮影は今も苦手です。自分の顔、特に口が嫌いで。少し太い唇とか。だから笑ってる顔もあまり好きではなくて、笑ってって言われて撮影されてもその写真は結局使われず「やっぱり」って思ってました(笑)。アンチから「口が下品」「笑うと気持ち悪い」って指摘されたこともあって、皆が思うってことはやっぱりそうなんだって凹みました。
樋口 なんでですか⁉ 全然素敵ですよ。
最上 ありがとうございます。でも、なかなか自分に自信が持てないですね。綺麗でいたいけど、自分の理想にはほど遠いし、最近は年齢的な焦りも出てきてさらに自信がなくなりました。この仕事は見た目が重視されますし、「劣化」という言葉もよく吐かれてしまいます。みんな若い子の方が好きじゃないですか(笑)。
最上 いえいえ。ただ、どんなに見栄えを良くしても、人となりが良くなかったらファンは離れてしまうと思っていたので、握手会の前とかはTwitterでリプしてくれる人のアカウントを見に行って皆さんの名前を覚えたり、今日はどんな格好でくるか、何を持ってきてくれるか、どんな話題を私に振ろうとしているか、とかを全部チェックしてメモしていました。
樋口 凄すぎます! それじゃ潰れちゃいますよ。
最上 それで潰れたんです(笑)。でもでんぱ組.incを大きくするためには、必要なことだと思っていました。ある程度売れた時に、めちゃくちゃアンチが湧いたこともあって。イケメンと言われている若手俳優さんと共演したら、そのファン(?)から叩かれて、インスタの過去記事すべてに遡って誹謗中傷を書かれました。
樋口 ネット見ちゃダメです……(うなだれる)。
最上 そうしたいけど、私はファンの人の言葉を見たいし、対話したいから、見ないという選択肢はないかなって。
樋口 最上さんは、「生き残ったシド・ヴィシャス」だって吉田豪さんが言ってたけど、ホントそんな気がしてきました。セックス・ピストルズのベースも弾けないベーシストで、20代でオーバードーズで死んだロクでもないけど凄い奴。とはいえ彼の責任感のなさとはまったく逆で、最上さんは責任感ありすぎですね。
「子供が生まれて死ねないと思うようになりました」(最上)
樋口 死ねないっていう気持ちはすごくわかります。
最上 今は、うつとうまく付き合っていく方法を考えるようになりました。うつ病って完治が難しくて、今でも自分のどこかに闇が潜んでいる。だから自分で感情をコントロールできるようにならないとダメだなって。あとは健康を意識するようになって、食にもすごく気をつけるようになりましたね。
樋口 元はジャンクフードが好きだったり?
最上 というより、体に何が合うとか考えずに好きなものを食べてましたね。元々仕事柄すごく不規則な生活で、深夜も起きてましたし体のこともまったく気にしてなかったです。
最上 でも娘がいるとそうはいかなくて。どんなに遅く寝ても、朝は絶対起きなきゃいけない。強制的に健康的な生活をさせてもらっている感じですね。
最上 そうなりますよね。
樋口 あとは自分の苦しみや悩みは自分だけが背負い込めばいいけど、子供のことはそうはいかない。上の子は言葉が遅く「普通学級は諦めてください」と言われたことがあって、その時は人生で一番悩みました。不眠症になってメンタルクリニックに通って、睡眠薬も飲んでました。自分のことで悩んでいた頃を振り返ると、なんて気楽だったんだろうって思いますね。
最上 わかります!
樋口 きっと世のお母さんたちも、自分のことももちろん大事だけど、同じなんだろうなって思います。
最上 私は自分のことは、1ミリも大事じゃないです。綺麗でいようと思うのも自分のためじゃなくて、仕事のため。アイドルになったのも家族のためだし、なってからもグループのため、ファンのためって思ってやってきました。うつで脱退して芸能界を辞めようと思ってたんですが、その後に復帰したのも知り合いに働いてほしいと言われたからでした。
樋口 そうだったんですね。
最上 私は自分のためだと何も行動できないんです。でも娘のためなら頑張ろうと思える。だから娘には本当に救われていると思いますね。
※後編(こちら)に続きます
● 最上もが(もがみ・もが)
1989年2月25日生まれ。東京都出身。2011年にアイドルグループ「でんぱ組,.inc」のメンバーとして芸能界デビュー。2017年脱退後は、映画、ドラマ、バラエティ、ファッション誌など幅広く活動。2021年、第一子出産。育児と仕事の両立に奮闘中。初のフォトエッセイ「も学」(KADOKAWA)が好評発売中。
Twitter/Instagram
HP/https://mogatanpe.com/
● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊『無法の世界』(KADOKAWA)が8月31日発売。カバーイラストは江口寿史さん。
公式Twitter
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