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2023.09.02

窪田正孝「今はモノに興味なし。家の中はすっからかんで人間関係も断捨離中です」

俳優としても活躍する齊藤 工が監督したホラー・ミステリー映画『スイート・マイホーム』。理想の家を求めた結果、想像を絶する恐怖と絶望に直面する夫を演じた窪田正孝さんに自身のマイホームと家族観について伺いました。

CREDIT :

文/相川由美 写真/アライテツヤ スタイリング/菊池陽之介(RIT inc.) ヘアメイク/菅谷征起(GÁRA) 編集/森本 泉(LEON.JP)

窪田正孝 LEON.JP
理想のマイホームを手に入れたと思った途端、次々と巻き起こる不可解な事件。追い詰められていく家族の恐怖と絶望を描いた神津凛子の小説『スイート・マイホーム』が、俳優としても活躍する齊藤 工監督の手によって映画化されました(9月1日公開)。主演を務めた窪田正孝さんに、映画のこと、自身の理想のマイホームについて伺いました。
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撮影中感じたもやもやした気持ち悪さが実は正解だった

── 今回の映画『スイート・マイホーム』は、神津凛子さんのベストセラー小説の映画化です。ホラーでもありミステリーでもありという作品ですが、最初に本を読んだ時の印象はいかがでしたか?

窪田正孝さん(以下、窪田) まず、僕が原作を読んだ時に感じたのは、目に見えないものよりも、人間が一番怖いんだなって。“人間の奥底”にアクセスしている小説だなと思ったんです。それを台本に起こした時に、ちょっとネタバレが早くないかな? と思って。すぐに監督である齊藤 工さんに正直に聞いたんです。そしたら、「そうかもしれないですね」って。

でも、工さんの視点って、日本だけじゃなく海外のマーケットも視野に入れているから、僕たちからするとズレとか違和感があるとしても、その部分は工さんの方が全然詳しいわけで。これが工さんの見ている世界なんだということが分かって腑に落ちました。
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── そういう違和感は、齊藤監督と、つど意見交換しながら解消して演じられていったんですか?

窪田 解消はしていないです。でも人って生きている中で、こうやって話をしていても裏で違うことを考えたりすることもあるじゃないですか。「あれ? 今日、家の電源切ってきたかな」とか「ゴミ出ししたかな」とか。いろんなものが同時進行しているから、そういう意味ではどこかに気持ち悪さはずっと残っているのが日常だと思うんです。

その点、お芝居というのは台本に沿ってやるのものだけど、今回は撮影中もずっと自分の中がもやもやしていて気持ち悪かったんです。でも、その気持ち悪さが実は正解で、それが作品にとっても、結果的にはいいように出たのかなと思います。半面、本当に役者はラクな仕事じゃないなと思いました(笑)。
窪田正孝 LEON.JP
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── 窪田さん演じる清沢賢二は、愛する妻とふたりの娘がいて、念願のマイホームを購入し、絵に描いたような幸せを手に入れています。ところが登場人物のそれぞれの心の中には、表からは見えない闇や秘密が隠されています。演じてみて、賢二という役柄についてはどう感じましたか?

窪田 僕が演じた賢二が、実は一番、家庭を壊しているんですよね。それでも、自分では理想の家族だと思いこんでいて、自分の本音には都合よくフタをしている。実はその中に幼児期のトラウマがあって。これ以上はネタバレになるので言いませんが、そのズレみたいなものを一歩踏み込んで考えていくと、けっこう表面的な見え方とは違うものが浮き彫りになってきて、自分の中では、それで(賢二に)アクセスできたのかなと思いました。

きっと人ってそれぞれに様々なトラウマを抱えて生きているんだと思います。いつも思うのは、いろんな作品でいろんな人間像が描かれていても、人って「子どもの頃にどういう家庭環境にいたか」というのが、くさびのように、その人にくっついているんだなって。今回の作品にもそれがまざまざと書きなぐられてるような気がします。
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人間は便利になるほど退化している。だから自然の中で暮らしたい

── この一見、幸せそうな家族についてはどう思いましたか?

窪田 理想の家って何だろうって考えると、自分たちの理想なのか、外から見られた上での理想なのか、それは(理想を)築いている柱が違うんですよね。そして、それを作っているのはやっぱり親なんですよ。それがどんどん子どもにも伝染してくる。だから教育ってむずかしいなぁと思います、僕は子どもはいないけど(笑)。
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── 窪田さん自身にとっての理想のマイホームはありますか?

窪田 理想というのはないですね。ただ、希望という意味では、自然の森の中にひとつ佇む家に暮らすのが理想です。人がいない、自然がいっぱいあるところに行きたいんです。これは実際に思い描いています(笑)。東京じゃないかな、と。

人ってどう生きるかで、その人の軸が決まると思うんです。身に纏う服や食べるものとか思考も、いろんなものがその人の行動に出てくると思うんだけど、今は、携帯とか機械的なものでどんどん便利になるなか、気づかないうちに人間が退化していってるように感じて。人と向き合う時間とか価値が、どんどん下がっている気がするんです。だからこそ、自然の中で暮らしたいなっていうところに繋がるんですけど。

── 話を映画に戻しまして、齊藤監督からは、ご自身が俳優ならではのアドバイスや演出はありましたか?
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窪田 やっぱり役者の気持ちを誰よりもわかってくれているっていうのがすごく大きかったですね。冬のすごく寒い時期に仙台で撮ったんですけど、現場で温かい味噌汁を出してくれたり。そういう気持ちがうれしかったです。あとは極力、順撮りにしてくれたこともそうだし。一番は子役たちへの配慮で、子役の子が昼寝しちゃったら、無理やり起こしたりしないで、「はい、大人たちもお昼寝タイム」って、小一時間ぐらい起きるまで待つんですよ。最高の現場だなって思いました(笑)。日本人は良くも悪くも真面目すぎるけど、本来、これが普通なんだなって。そういうストレスを与えずに、現場づくりをしてくれたのは齊藤組ならではの温かさを感じました。

監督から、一番映しちゃいけない顔を撮りたいですと言われて

── 映像的には、齊藤監督ならではのこだわりを感じましたか?

窪田 美術的なこだわりはいろいろあるんですけど、それは言わないで見てもらったほうがいいかな。おもしろかったのは、僕が、外から事件があった家の中まで入り、2階に上がって事件の現場が発見されるまでをず~っと長回しでワンカットで撮ったこと。それもあえて人物の背中側からだけ撮り続けていたんですよ。その時に僕が1回、横顔を見せるようなことをしてしまったら、「いや、顔は絶対に見せないでください」って言われて。
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意図を聞いたら、顔の表情を見せてしまうと、「怒ってる」とか「悲しい」とか、観る人間はそれだけで処理してしまうから、と。僕はなんておこがましいことをしたんだ、めっちゃ恥ずかしい、と思いました(笑)。表現の仕事って、そのさじ加減が究極というか、答えがないから、いつも未知だし、おもしろいところだなと思います。

あとは、一番最初に、「俳優ひとりひとりの一番映しちゃいけない顔を撮りたいです」と言われました。僕はクライマックスのところで、熱々になって汗びっしょりになっているところがあるんですが、それだったのかなと。
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── 窪田さんは、そういう苦境に立たされるお芝居が得意だと思いますが。

窪田 ですかね(笑)。僕自身、最近はけっこう“陰”なほうの芝居を求められることが多くて、幸せな役があまりなかったんですけど、工さんもそれを計算して呼んでくださったと思うんです。ただ、「こんな感じのことをやっていればいいや」ってこなすことだけは絶対にないように、まっさらな気持ちで演じようとずっと意識していました。

── その結果、監督の希望する、見たことがない窪田さんが撮れたと?

窪田 と言ってくれてましたけど、大丈夫かな?(笑) でも、キャストの皆さんと共演させてもらった時間はすごく有意義だったし、賢二の妻、ひとみを演じた蓮佛美沙子さんの母性だけじゃない、だんだん壊れていく、その内側にアクセスしていく感覚とか、ハウスメ―カーの本田を演じた奈緒さんのすごく多様なお芝居にも助けてもらいました。
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そもそも自分だけの感情を人に向けて吐き出すのが芝居

── ところで窪田さんは、この8月で35歳になられましたが、年齢を経て、お仕事との向き合い方は変わりましたか?

窪田 最近は、私生活あっての仕事かな、と思うようになりましたね。これまではずっと「もっと芝居がうまくなりたい」とか、仕事が主軸にあって。もちろん、今もそれがなくなったわけではないけれど、普段の生活を充実させることによって、それが仕事にも派生されていくという考えに変わりました。

── やはり4年前に結婚されたことが影響していますか?

窪田 そうですね。相手(水川あさみさん)もプレイヤーなんで、いろんなものが共有できる環境になったことが大きいですね。ひとりだと、「仕事をしていないと不安だ」とかいろいろ考えちゃうけど、そういうヘンな不安が取り除かれて、無になれたというか。今は本当に、お金では買えない時間をどう過ごすかが一番大切になりました。例えそれで芝居との距離ができたとしても、自由でありたい、と今は思ってます。
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窪田正孝 LEON.JP
▲ ジャケット19万9000円、シャツ23万9800円、パンツ13万4000円/すべてルメール(エドストローム オフィス)
── 何歳ぐらいから考え方が変わってきたんですか?

窪田 やっぱり30代に入ってからかな。そのあたりから、食事や睡眠や健康の面でも、すべての点と点が、ぜんぶ線でつながってるんだと気づき始めて。30代になった時は、「20代でできたことが、やっぱり歳とともにできなくなるな。若い役もこなくなるしな」とか思っていたけど、それは順番だから。過去とか未来への不安なんて、今をちゃんとしていれば、どうってことないんですよ。だから本当に今は、心から幸せって思える生き方をしたいです。
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カッコ悪いことをガンガンにさらけ出せることがカッコいい

── 20代の頃まで大好きだった、クルマやバイクは今も好きですか?

窪田 今はぜんぜんですね。そういう優先順位も変わりました。今はプライベートだと、ご飯が大事かな。ご飯は(パートナーと)一緒に食べたいですね。一日の中でのお互いのことを話しあって、何があったとか、気づきとか、新しい発見の共有とか、そういう時間はすごく大事にしています。っていうふうに考えると、どんどん物質的なものがいらなくなって、どんどん断捨離して、今は家の中がすっからかん(笑)。

そうなると、むしろ何もない空間のほうが気持ち良くなるんですよね。物質的なものって、自分の欲求を満たすだけのステイタスで、いいクルマに乗ってるとか、いい時計をつけてるっていうのもわかるけど、僕はそれよりも心の豊かさのほうに価値があると思っているから。お金とか物資的な概念に縛られることなく、どこに行っても生きられる感覚でありたいです。そういう考えでいると、自然と人間関係も同じ感覚の人が集まってくるし、違う人は離れていくので、人間関係も断捨離されました(笑)。
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── では、そんな窪田さんにとって「カッコいい大人の男」とは?

窪田 すぐに思い浮かぶのは窪塚洋介さん。ず~っと曲がらずに自分の信念を貫き通して生きてる人だから。今回の作品で、窪塚さんが僕の兄の清沢聡役を演じられて、共演できたこと、工さんが引き合わせてくれたことに本当に感謝してます。

── 窪塚さんは、以前から気になる役者さんでしたか?
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窪田 僕らの時代は『池袋ウエストゲートパーク』のバリバリ「キング」でした。最近、テレビのCMでキングをやられていて、うわ~ってひとりで熱くなりましたね(笑)。兄さんとは、たまに連絡とらせてもらっているぐらいですけど、生き方とか、目指してる最終目標は同じかもしれないなって思っています。

言葉にするのは難しいけど、見た目的なカッコいいとかじゃなくて、むしろカッコ悪いことをガンガンにさらけ出せることが僕はカッコいいと思うんです。恥ずかしいから、理想というもので隠す人が多いと思うんですけど、窪塚さんみたいに隠さないで生きられる人って、そこまで振り切ったら生きやすいんだろうなって。目の奥行が違う感じがします。

── 窪田さんもありのままにさらけ出して、やがて森の中の生活に?

窪田 もう本当に、自然と一緒に地球と一緒に生きていきたいです(笑)。
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窪田正孝 LEON.JP

● 窪田正孝(くぼた・まさたか)

1988年生まれ。神奈川県出身。2006年に俳優デビュー。『ふがいない僕は空を見た』(2012)でヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞。主演を務めたNHKテレビ小説「エール」ではエランドール賞を受賞するなど演技も高い評価を得ている。『ある男』(2022)では第77回毎日映画コンクール男優助演賞、第46回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞などを受賞。「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」(2023)で主演を務めるなど、ドラマ・映画・舞台の垣根を超えて活躍している。現在、映画『春に散る』公開中。『愛にイナズマ』の公開も控えている。

スイート・マイホーム 映画

『スイート・マイホーム』

極寒の地・長野県に住むスポーツインストラクターの清沢賢二は、愛する妻と幼い娘たちのために念願の一軒家を購入する。“まほうの家”と謳われたその住宅の地下には、巨大な暖房設備があり、家全体を温めてくれるという。理想のマイホームを手に入れ、充実を噛みしめながら新居生活をスタートさせる清沢一家。だが、その温かい幸せは、ある不可解な出来事をきっかけに身の毛立つ恐怖へと転じていく……。
監督/齊藤工 出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、窪塚洋介ほか。
9月1日全国ロードショー

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■ お問い合わせ

エドストローム オフィス 03-6427-5901 

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