2023.11.02
向井 理「演技が凄く上手くても、だらしない服装だったらそれはカッコ悪い」
意表を突いた主演ドラマ『パリピ孔明』が話題沸騰中の向井 理さんが、忙しい合間を縫って舞台に挑戦。11月3日から始まる『リムジン』は「嘘」が「嘘」を呼ぶ心理サスペンスです。なぜ人は良くないと思いつつ嘘をついてしまうのか? 向井さんも嘘をつきますか?
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文/木村千鶴 写真/内田裕介(タイズブリック) スタイリング/外山由香里 ヘアメイク/宮田靖士(サイモン) 編集/森本 泉(LEON.JP)
舞台は小さな田舎町。親から受け継いだささやかな工場を営む男(向井 理)とその妻(水川あさみ)が主人公。ある事故の真相を隠そうと保身のためについた嘘が次の嘘を呼び、夫婦は取り返しのつかない事態に陥っていきます。でも、思わず小さな嘘をついてしまう経験は誰にもあるのでは。主演の向井さんも「嘘」をつくことがありますか?
人間のメンタルとして「やっぱり嘘でした」とは言えない
向井 理さん(以下、向井) そうですね。でも、なるべく嘘はつかないようにしています。子供の頃に散々失敗していますし、悪いことや失敗をした時は、それを正直に言うよりも、嘘をついたのがバレた時の方が大変なことになるのは分かっていますから(笑)。
── 子供の頃にそんな経験が?
向井 例えば何かを壊した時に自分じゃないと言ってしまう、それって意外とバレないんですよね。でも壊された人からすると凄くショックなことで、その傷ついている人の顔は自分の心に残ってしまいます。その人からすると、悲しさや怒りの矛先がないのはつらい。正直に謝って怒られた方が、自分にとってもきれいさっぱりするんだなと思ったことはあります。
向井 ひとつごまかす、嘘をつくと、その前には戻れないんですよね。人間のメンタル的に「やっぱり嘘でした」とは言えない。しかも今回はかすり傷(?)とはいえ、場合によっては傷害ですし、誤射でも人を撃ったのは小さなことではない。だからその現実から逃げたくなる気持ちは分かります。
自分もよくクルマを運転しますけど、いつそうなるか分からないですし。もし何かあった時に、最初にごまかしてはいけないとつくづく思います。ここ数年、いろんなニュースを見聞きした教訓としても。
── それを最初に言えなかったのがこの夫婦の大きな躓きですね。
向井 大人になってくると、社会的地位や家庭といった守らなければならないもの、手に入れたいものが増え、それを失いたくないからこそ、嘘をつくとタチが悪いんですよね。
ちょっとした嘘をついてしまい、それを隠さないと欲しいものが手に入らない、という気持ちはよく分かるし、今回はそうした自分の欲望、欲求として、手に入れたいものに向かっていく夫婦の葛藤の話でもあると思います。
── 特別な悪人が出てくるわけでもなく、登場するのは、皆、個性はあっても、本当に普通の人々ばかりです。
向井 だからこそ、表現するのが難しいですね。誤射をするというひとつの事件はあったとしても、例えば明確な敵がいて、それに向かっていくような分かりやすい構図ではありません。登場人物が自分の内面を吐露することもないので、何を考えているのかが分かりづらい。表情やリアクションでその空気感を伝えていかないと。
向井 どこにでもいる人ですよね。よく普通の人を演じるのが一番難しいと言われますけど、本当にその通りで、特徴がない人ってなかなか日常生活でも記憶に残りづらい。逆に悪役みたいな振り切った役の方が全然楽なんです。ただ見方によっては康人には猟奇的というか、サイコパスかなと感じる部分もあり、どこかで不穏な感じは出したいと思います。だからとにかく生々しくやるしかないのかなと。基本的には記憶に残らないような会話の中に、キャラクターが滲み出てくるのが一番理想的かなと思っています。
不満があるなら言えばいい。裏でぐちゃぐちゃ言うのは嫌い
向井 僕はそれも嘘と同じで、最初にごまかしてはいけないと思っています。何か相手を傷つけてしまうような内容の話でも、不満があるなら、それは言えばいいと個人的には思います。もちろん殴り合いとかはしませんが(笑)、裏でぐちゃぐちゃ言うのは嫌いなんです。
面と向かって言えないのは嫌われたくないからだと思いますが、そんなことを気にするより、改善したいところとか不満があるなら、やっぱりちゃんと正しい言葉で意思表明すべきかと。でないと結局何も変わらないですし。
向井 はい。自分の思ったことを言うのは全然悪いことじゃないし、どの現場でもそうしています。それでより良くなればいいし、「ここはこういう意図があるんで、このままがいいです」となれば、じゃあそっちにしましょうって。その方が気持ちよく仕事ができると思いますから。
ことを荒立てたいわけではないので、言い方を間違えないように、感情的にならずに自分の中で考えをまとめて、最終的にどうなってほしいかということまでなんとなく想定して話すようにはしています。
── それは新人の頃からできていたことですか?
向井 最初は改善するも何も、まず自分ができていないから、相手にどうしてほしいというレベルではないですよね。それは立場とかじゃなくて、こっちの方がいいですと言えるほどの経験値がないので、良し悪しを判断する感覚がなかったのです。
── やっているうちに見えてくるものがあって、考えが生まれてくるわけですか。
向井 そうですね。わがままというのではなく、周りの思いなどを代表して言うぐらいの気持ちといいますか。舞台って出演者同士の距離が近いんです。映像と違って稽古があるので一緒にいる時間も長いし、みんなで練習して本番で皆さんに披露するので、ちょっと部活みたいなところもあるんです。
向井 今回は特に旅公演があるので、ひとつの座組としていろんなところに行くのも楽しみです。舞台としては、賛否両論あるのがいいと思いますね。みんなが手放しで最高と言うのはちょっと違うと思うし、観ていただいた方の心に何かが引っかかる作品になればいいなと思います。
見られる仕事をする人間として、年相応の服装を心がけています
向井 余裕がある人。先輩でもいっぱいいますけど、セリフがどれだけ多くてもフラットにいられる人はさすがだな〜と思います。あとはプライベートと仕事、両方のバランスがいい人ですね。
── そのバランスとはどんなところですか。
向井 例えば役者であれば、私服もカッコよくて芝居も完璧な人に余裕を感じます。ちゃんと仕事ができていないと服装がいくらカッコよくても全然カッコよくないし、仕事が完璧で演技が凄く上手くても、だらしない服装だったらそれはちょっと違うなと。やっぱり僕らは見られる仕事ですから、それは常々意識してたいという思いはあります。
向井 そうですね、ちゃんとしなきゃなと思います。30代後半から40代って凄く微妙で難しいんです。まだ若者の先端のファッションもやろうと思えばできてしまうんですが、やっぱりどこかで見ていてイタくなってくるんですね(笑)。
特にこういう仕事をしていると、年相応のものにもちゃんと触れていかなければいけないと思うし、そこの切り替えが難しい。だから30代後半から、とにかくセットアップをいっぱい買いました(笑)。とりあえず無難なところから入って、だんだんカチッと、カジュアルだけどしっかりするところはするようにと。靴もスニーカーが減って、ブーツや革靴が増えました。
── 上手に切り替えられているように思います(笑)。
向井 王道に寄せていくことが正解なのかなと思っています。カジュアルだけどフォーマルに近い形もあるから、そっちを目指していけばいいのかなと。ただオジサンになりすぎないように、そのバランスは一応気をつけようとは思います。
── ぜひLEONも参考にしてくださいませ!
● 向井 理(むかい・おさむ)
1982年、神奈川県出身。2006年に「白夜行」でドラマデビュー。10年のNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の水木しげる役で一躍注目を集め、翌11年の大河ドラマ「江~姫たちの戦国」では徳川秀忠を演じた。以降、数々のドラマ、映画、舞台で活躍。近年の主な出演作は、ドラマ「先生のおとりよせ」「警部補ダイマジン」、映画『イチケイのカラス』、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』など。現在、主演ドラマ「パリピ孔明」(フジテレビ系)が話題沸騰中。
■ 『リムジン』
田舎町で小さな工場を営む康人(向井 理)は、町の実力者・衣川(田口トモロヲ)から後継者に選ばれる。ところが、その喜びもつかの間、康人は誤って衣川に怪我を負わせた上にごまかしてしまう。そうして濡れ衣を着せられたのは康人の友人・坂(小松和重)。「全部正直に話そう」と、妻・彩花(水川あさみ)に説得されて、ようやく覚悟を決めた康人だが、いざ衣川を前にすると、夫婦ともども再び迷い出し……。
作・演出/倉持裕 出演/向井 理、水川あさみ、小松和重、青木さやか、宍戸美和公、田村健太郎、田口トモロヲ
11月3日~26日/東京・本多劇場 富山、名古屋、熊本、福岡、広島、大阪公演あり。
HP/https://mo-plays.com/limousine2023/
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