• TOP
  • PEOPLE
  • フランスの若者たちはもはやポルノなどのセックス表現に喜びを感じません

2023.12.30

アニッサ・ボンヌフォン(監督)×アナ・ジラルド(女優)

フランスの若者たちはもはやポルノなどのセックス表現に喜びを感じません

身分を隠して、2年間、娼婦として活動した作家の自伝小説を完全映画化した話題作『ラ・メゾン 小説家と娼婦』がいよいよ公開されます。アニサ・ボンヌフォン監督と主演を務めた女優アナ・ジラルドさんに話を伺いました。その後編です。

CREDIT :

文/安田薫子 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(LEON.JP)

ラ・メゾン LEON.JP
27歳の小説家エマ・ベッケルが娼婦として過ごした2年間を描いた自伝小説「ラ・メゾン」。世界16カ国でベストセラーとなったこの衝撃作が『ラ・メゾン 小説家と娼婦』として完全映画化されました。日本公開に先駆け、アニッサ・ボンヌフォン監督と主演女優のアナ・ジラルドさんが来日。ひとりの女性の欲望を赤裸々に描いた本作についてインタビューしました(映画の内容について語った前編はこちら)。後編では現代におけるセックスワークの問題、フランスにおけるセックス事情なども伺いました。

娼館の中では、分析するべきことがたくさんある

── セックスワーカーは世の中に必要だとお考えですか? 

アニッサ・ボンヌフォン監督(以下アニッサ) いずれにしても、いつも存在するものです。それが現実なんです。そうすると、どのように社会に溶け込ませるのかが大切になってきます。この職業はずっとありましたが、枠組みが作られ守られることがなかった。でも守られることが重要です。あと、私は思うに、障害のある人たちなど現実として必要としている人がいます。だから私はずっと存在していくものだと思います。

アナ・ジラルドさん(以下、アナ) 私もそう思います。映画の中でもセックスを必要としている男性が登場しました。ある意味で素晴らしい職業だと思いますが、娼婦たちはこうした男性の性的な衝動に応える。この職業やセックスが必要である本当の理由を探すのはとてもおもしろいと思いました。
PAGE 2
ラ・メゾン LEON.JP
── ファンタスム(性的興奮を掻き立てる妄想)を実現するために娼館にくる男性についてどう思いますか?

アニッサ このような映画を制作したいなら、いいとか悪いとかあらゆる道徳的なジャッジから切り離して考えるべきだと思います。なぜなら、そうした裁きをしては人間性を語れないからです。この物語では、見つけるべき人間性がたくさんあります。異常な行動であっても何かを物語るのです。娼館の中では、分析するべきことがたくさんあります。そこにはたくさんの鍵があると思います。私は女性として思うのですが、男性に(女性に対する)リスペクトの気持ちがあるなら理解します。
アナ 娼館の外の世界で辛いことがあって慰めを求めてやってくる男性や、お金を払って愛を得る方が気が休まる男性、コンプレックスや臆病さを抱えている男性に心を打たれました。私も男性にリスペクトする気持ちがあるならいいのではないかと思います。

── フランスでは男性たちからはどんな反応がありましたか?

アニッサ フランスでは女性から多くの反響がありました。映画を見て力を得たと。男性からの反応は、おもしろくて、彼らはまるで少年のようでした。女性に属した世界に入ってしまったかのようだと言っていました。男性たちは娼婦が彼らの世界に属していると考えていたのですが、この映画では逆だったわけです。男性たちは、女性たちが強くて大きい存在だと感じたようです。私はそれが素晴らしいと思いました。
PAGE 3
ラ・メゾン LEON.JP

#Me Too運動以降、男女の関係が複雑になった

── キリスト教では夫婦によるセックス以外は悪とされていると聞きました。しかし、現在のフランスではもっとセックスを楽しんでいるという印象があります。イマドキのフランス人は性的な道徳観がゆるいのでしょうか?

アニッサ ゆるいかどうかわかりませんが(笑)、キリストは女性がセックスしないで生まれましたし、マグダラのマリア(娼婦の守護聖人)もいたり……難しいですね。昔、道徳はもっと自由でした。かつてフランス宮廷では、みんながみんなと寝ていました。今よりもずっとオープンだったんです。

私は、女性たちは以前よりセックスについてモラルがあって、ピューリタン的だと思います。それこそ(道徳的な)ジャッジで抑制されています。現在は、セクシュアリティがこういうものだと言葉や呼称など明確になっています。セクシュアリティをめぐって平穏であることが難しくなっています。社会の問題です。私は、解き放つこと、望んでいるセクシュアリティを自分に許すことが大切だと思います。
アナ 最近、研究に関する記事を見たのですが、フランスの18〜25歳の40%以上が2022年まったく性的交渉を持たなかったというのです※。

極端に進んでいるかのようで、特にポルノなどセックス表現がもはや喜びではなくなっています。若い世代が完全にその喜びを拒否しているんです。コロナ禍が強大なインパクトを与えたのだと思います。私はその世代がセックスに新たなアプローチをして欲しいです。

また、バイセクシャルも登場してきました。新しい時代のセクシュアリティです。面白いことに、この映画を見た70歳のパリの女性から「ありがとう」と言われたんですよ。
※フランス世論研究所(IFOP)の研究によると、フランスの18〜25歳の43パーセントが2022年まったく性的交渉を持たなかった。
PAGE 4
ラ・メゾン LEON.JP
アニッサ 昔の世代の人にとって、この映画は心を揺さぶられるものだったんです。

アナ 40、50代の男性は、「この映画について考える権利があるかどうかわからない」と言っていました。30、40代の女性は、モノのような女性を拒否しています。彼女たちにとってはセックスの目的が大切なんです。世代によってセックスに対して異なるヴィジョンを持っています。
アニッサ #Me Tooのムーブメント以降、男性にとって立ち位置がとても難しくなりました。それをしていいのか、いけないのか。男女の間での合意がもっとも重要になって、男性が躊躇するようになりました。男性と女性の関係は複雑になった。

また、アプリケーションの登場で、若い人たちは性行為を自由に実践しなくなった。今は、SNS上でなんでも起こっている。まるで画面を通して関係を築いているかのように感じます。つまり体に触れることが少なくなったんです。一方で、インターネット上でカメラ機能を使った売春も増えています。

セックスの妄想は日本の方が多様でより想像力を持っている

── 今日のインタビュー会場があるのは歌舞伎町です。すでに日本の風俗店を見ましたか? そして何を感じましたか?
PAGE 5
ラ・メゾン LEON.JP
アニッサ ここに着いた時、配給会社が映画のような雰囲気の場所にしたかったんだなと思ったわ(笑)。

アナ 最初、歌舞伎町にはなんでKポップみたいな男の子の写真がいっぱいあるのかしらと思ったんだけど、ああ、男性が女性をエスコートするんだなとわかりました。こういうのはフランスにまったくない。

アニッサ でも、こういう風俗がとても若い男の子だったり、とても若い女の子だったり若年層に広がっているのはショックだし心配だなと思います。エマは選んで売春をした人だけれど、若い人たちは選べたかどうかわかりませんから。それは問題です。

── ガーターベルトを纏って誘ってくるエロティックな女性とセックスするというのは欧米のステレオタイプな性的幻想のように思うのですが、今でも欧米の男性はこうした妄想を持っているのでしょうか? 日本はイメクラなど、仮装や演技をして性的なサービスを提供する店があり、もっと多様なのですが。

アニッサ まったくその通りです。ステレオタイプなイメージを持っていると思いますね。日本の方が多様でより想像力を持っているのではないかしら。

ガーターベルトは、本当に男性が抱くファンタスムに今なお強く残っていますし、私自身もとても美しいと思います。
PAGE 6
ラ・メゾン LEON.JP
── どんな人にこの映画を見てほしいですか?

アニッサ 私はこの映画はあらゆる人のためにあると思っています。これは女性が欲望を選択するということについて偽善のベールをはぎ、エスプリを開くに違いない映画です。

エマは単なるセックス好きな女性というのではなくて、とても複雑な女性です。絶対的なセックスを探求するなかで、エマは彼女なりの方法で愛を探しているのだと私は思います。エスプリをもう少しオープンにして、多くの人に見ていただけたらと思います。
ラ・メゾン LEON.JP

アニッサ・ボンヌフォン

1984年2月26日パリ生まれ。監督として長編1作目となるドキュメンタリー映画『ワンダーボーイ』でフランスの高級ブランド「バルマン」のクリエーティブ・ディレクターであるオリヴィエ・ルスタンに密着し、ファッション業界で成功する現在の姿を追いつつ、子供時代に親に捨てられた経験を持つ彼が、自分のルーツや真実を追い求める過程に迫って注目を浴びる。『ラ・メゾン 小説家と娼婦』では原作者から指名され、監督を務めた。アマンダ・ステール原作・監督・脚本のロマンティックコメディ『マダムのおかしな晩餐』などで女優としても活躍している。

ラ・メゾン LEON.JP

アナ・ジラルド

1988年8月1日パリ生まれ。両親は俳優のイポリット・ジラルドとイザベル・オテロ。3歳から子役として活躍。小栗康平監督の『FOUJITA』、セドリック・クラピッシュ監督の『パリのどこかで、あなたと』など多くの作品に出演。映画女優のほか、ファッションモデルや舞台女優としても活動の幅を広げている。『ラ・メゾン 小説家と娼婦』で主人公エマを演じるにあたり、パリの老舗キャバレー、クレイジー・ホースで2カ月間トレーニングを受けて臨んだ。

ラ・メゾン LEON.JP

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』

小説家エマは、「売春という行為が女性の身体、魂にどのような影響を与えるのか自分自身で体験して作品にしたい」という作家としての好奇心と野心、そしてみずからのセクシュアリティを満足させるため、高級娼館に潜入する。身分や目的を隠しながら娼婦として過ごし、危険と隣り合わせの娼婦たちのリアルな日常、孤独や恋愛を知るうち、2週間のつもりがいつしか2年にも及んだ。エマがその経験から得たものとは……。
原作/エマ・ベッケル、監督/アニッサ・ボンヌフォン、出演/アナ・ジラルド他。
12月29日より全国公開
HP/https://synca.jp/lamaison/

PAGE 7

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        フランスの若者たちはもはやポルノなどのセックス表現に喜びを感じません | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト