2024.02.03
高岡早紀「私、甘えられるの、ダメ。ずっと一緒にいてくれなくていいです」
デビュー当時から、妖艶なたたずまいで多くの人を魅了し続ける高岡早紀さん。歌手活動再開10周年、芸能活動35周年を記念したアルバムをリリース。現在の音楽に対する思い、そしてカッコいい大人の男の嗜みをご教示いただきました。
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文/松永尚久 写真/トヨダリョウ 編集/菊地奈緒(LEON.JP)
俳優としてやってきた強みを音楽に活かしたい。私ならではの表現ができたかな
その後、休止期間を経て、2013年に音楽活動を再開。ジャズやクラシック、歌謡曲など、大人の色香を感じさせる歌声で、往年のファンだけでなく幅広い世代のリスナーを虜に。そんな彼女が10年間の軌跡を閉じ込めたアルバムをリリース。経験を重ねたからこそ表現できる、自由で魅惑的な大人のポップスを響かせています。
高岡早紀さん(以下高岡) そうですね、もう10年も経っちゃったのかと感じながら、10年もやってるんだっていう驚きがありますね。
── 歌手活動はこれからも続けようと思っていますか?
高岡 主演映画のエンディングテーマを歌うことになったのをきっかけに再スタートしたのですが、それっきりで終わるつもりはなくて。何事もそうだと思うのですが、ニーズの有無じゃないですか。お話をいただけたら続けてみようという感覚で、期限を設けずに活動をしていたら、ライブのお誘いがあったりして、気づいたら10年になっていました。
── 高岡さんにとって音楽は切り離せないものですか?
高岡 もともと父親がライブハウスを経営していて、そのご縁で、山下洋輔さんの演奏で10年前に楽曲を発表することができたりだとか、私は音楽に導かれていると感じることがあります。
だから、歌手活動をお休みしていた時も、別に歌うのが嫌とか、アイドルみたいなことをやりたくないってことではなくて。純粋に俳優業を追求したかった。いろんなものを削ぎ落として、俳優になることに専念しなくてはいけなかった、というだけで。それがようやく落ち着いて、音楽活動を再開できたという感じですね。
私は歌唱部門担当。コンセプトや流れを決めてもらうほうが自分には合っている
高岡 デビュー当時は、 選曲するのは私じゃなかったし、どういう作品にするのかというのも、すべてスタッフにお任せしていました。私はいただいたものを、歌っていたという感覚。でも、今は定期的にライブ活動をしているバンドのメンバーに楽曲を制作してもらっているので、私も一緒にレコーディングスタジオに入ったりとか。より密接に音楽に関わっていると思います。
── 楽曲のアイデアも提案したりとか?
高岡 音楽に関して私がやっているのは、歌唱部門だけです。専門的なことはよくわからないですし、10年の付き合いになるので、彼らに任せたいというか。私がどんな雰囲気で歌うのかとか、理解してくれているので、特に何かをお願いすることはありませんね。
── アルバム『Decade -Sings Cinematic-』は、この10年の集大成といったベスト盤ですが、収録曲は高岡さんが決めたのですか?
高岡 セレクションはしてないです。アルバムのコンセプトを決めてもらって、いただいたリストの中から、好きなものを選んだりしましたが、それだけで構成するのは違うのかなと。専門の方にコンセプトや流れを決めてもらうほうが、自分には合っていると思います。
── アルバムには、ジャズやクラシックなどのアダルトな雰囲気なものからダブや歌謡曲まで、ジャンルや時代を網羅した楽曲が揃っています。それら多彩な音を、表現力豊かに歌い上げる高岡さんの声がとても魅惑的です。
高岡 ありがとうございます。そういうふうに言っていただけて、ありがたいですね。ずっと俳優としてやっているので、その強みを音楽の部分でも前面に押し出していきたいなと思っています。幅広い楽曲を歌えたのも、俳優だからこそではないかと。
── 歌うことと演じることは繋がっているということですか?
高岡 とてもリンクしています。俳優をやっていなかったら、歌手はできなかったと思う。デビュー当時も、そういうスタンスで取り組んでいましたし。 自分で言うのもなんですけど、歌唱力で勝負してきたわけではないので。
加藤和彦さん(デビュー時に多数の楽曲を手がけた作曲家・音楽プロデューサー)が作る世界だったりとか、周りのスタッフが表現力に重点を置いてくれたことが、今に繋がっています。
時間を共有した過去があると、再会してすぐに同志のような感覚に。感動します!
高岡 森さんとは、本当に久しぶりでした。今回のアルバムにも収録の「太陽はひとりぼっち」(オリジナルは1989年発表)に登場する少女がどういうふうに成長したのかを描いてほしいとお願いしたところ、東京の中にフランスの要素が入っている感じに仕上がって。
フランスの太陽の下で育った女の子が、東京の月の下でどんな大人になったのかを、森さんならではの言葉で綴ってくださった。また、10代から現在までの私を見ていてくれたんだなと感じる、いろんな要素の詰まった、自分だからこそ表現できた楽曲になりました。
── デビューの頃を思い出しながら、歌ったのですか?
高岡 レコーディングの時に、森さんもスタジオに来てくれて、当時のこととかたくさんお話しをして、気づいたら子どもの頃に戻っていました(笑)。
── 時間が経過して、一時代をともに過ごした人と再会できるって素晴らしいですね。
高岡 そういうことができるのは、私たちの業界ならではだと思うんです。20年、30年ぶりに再会する方が、最近多くなってきました。同じ時間を共有した過去があると、同志のような感覚になれる。感動しますよね。
芸能活動をするのは生きるため。子どもがいなかったら、こんなに続けなかったかも
高岡 カッコつけずに言えば、生きるためですよね。特に子どもたちの存在が大きい。彼らがいなかったら、こんなにせっせと仕事もしてこなかったでしょうし。でも、その積み上げてきたことが、今に繋がっているし。本当にそれしかないですね。
この仕事が好きなんだっていうのもあると思うんですけど。好きじゃないと続けられないって言うじゃないですか。自分に置き換えると、嫌いじゃないってことは、好きなのかなって(笑)。
── 辞めたいとか、恋愛に走ってもいいかなと思うことはなかったのですか?
高岡 実は私、結構お休みしているんです。高校卒業後にロンドンへ3カ月留学して、その途中で映画のお話をいただいて、戻ってきたりとか。子どもの出産や育児で離れていた時期もありましたし。
その間も、CMのお仕事などを引き受けていたので、お休み感が伝わらなかったのかもしれませんが。自分の時間をもちながらの35年なので、無我夢中で走り続けていたわけではありません。
デビューしてからの3年間は、自分が何をしているのかわからない状況で、疲れ果てて活動休止を決断したので、それ以降は自分がどう求められているのかが、はっきりとわかるお仕事しか選ばないようにしています。
自分自身が見えなくなってしまうのは、本当に耐えられなくて。だから、お仕事でわからなくなった時は、ちゃんと尋ねる。本当にわかんないんですけど、説明してくださいって。そこで納得しないと、何も動けなくなるから。
── 日常生活でも同じ感覚ですか?
高岡 子どもたちには、私がわかるように説明してと伝えています。私自身も、こういう理由があるからこうしてねと、幼い頃からちゃんと説明して、育てていました。
小さい頃って、まず怒ってしまうことがあるじゃないですか。そうなった時は、先に謝って、なぜ怒ってしまったのかを説明する。そして子どもの言い分にもしっかり耳を傾けて、そういう考えだったのかと理解する。
それでお互いの関係がより深まっていった気がします。息子2人は20代になりましたが、今でもよく話しますよ。
遠くで見守ってくれて、時々一緒に食事をする、そういう関係性が今は心地いい
高岡 お互いが納得していれば、ずっとそばにいなくてもいいですね。若い時は、一緒にいないと関係性が保てないと思っていたのですが、大人になると、信頼できる相手なら、離れていてもいいのかなって。
自分の好きなこと、やりたいことに没頭できるし。相手が集中する姿を見て、改めてカッコよさに気づくこともあると思うので。
── 年齢を重ねて、自分の世界をもっていると、そこに誰かを迎え入れるのも大変ですよね。
高岡 自分の領域に巻き込みたくもないし、巻き込まれたくない。遠くで温かく見守ってくれて、時々一緒に食事ができるような、そういう関係が今は一番心地いいです。
── いつから、そう思うように?
高岡 40代後半くらいです。男性もそういう考えに変わるのでは?
── いや、逆に歳をとるにつれ、甘えたがる人もいると思いますよ(笑)。
高岡 私、甘えられるの、ダメ。子どもにさんざん甘えられてきて、ようやく開放されたのに。彼らよりもっと大人に甘えられたら、なんだこれ!ってなってしまう(笑)。
今日疲れちゃったとか、具合が悪いと言われても、私がいることで気持ちは回復するかもしれないけれど、不調や病気は治らないわけだから、甘えるより先に、行くべき所へ行ってほしい(笑)。
── ちなみに、デートも割り勘でいいみたいな?
高岡 そこは、ごめんなさい。話が違いますね。誘ったのなら、その人がお金を払うべき。それが相手への尊重になると思うから。
だから、誘ってくれるのなら、それなりに余裕のある方だとうれしいですね。無理して誘っているのがわかると、こちらも恐縮して、楽しめない雰囲気になってしまうから。
── 身の丈にあったデートの誘い方をしないとですね。
高岡 もちろん、友達としてワイワイご飯をするなら割り勘でいいし、こちらがご馳走しても構わないんですけどね。
── 男性の見た目に求めるものはありますか?
高岡 その人なりにキレイにしていてほしいですね。お互いさまですけど、年齢が高くなってくると、普通にしててもだらしなく見えてしまうことがある。だから、身なりに気を遣っている感じが伝わってくればいいと思います。
この先何が起こるかわからないから、今を大切に、今楽しいことをしたい
高岡 年相応にしなくてはいけないという気持ちがある反面、この年齢になったからもうこれはできないといった制限を作りたくない気持ちもあります。
昔と同じようにはいかないけれど、いろんなことを楽しんだっていいじゃないかみたいな部分も、 残しておきたい。この先どんなことが起こるかわからないし。今を大切に、今楽しいと思えることを追求したいです。
── その楽しいことの1つに音楽があることを、このアルバムで知ることができました。
高岡 自分でもいい選曲になったと感じています。また、デビュー当時の「太陽はひとりぼっち」をセルフカバーしているんですけど、30年以上経過しても歌い続けられる音楽を残すことができたんだとも思えるようになりましたね。
── LEON読者にオススメの曲はありますか?
高岡 「トーキョームーン」が合いそうですよね。シティ・ポップなサウンドで、ちょっと懐かしい気分に浸れるので。東京タワーとか、煌びやかなフレーズも、皆さんお好きそうじゃないですか(笑)。
● 高岡早紀(たかおか・さき)
神奈川県生まれ。14歳の時にシンデレラ・コンテストで優勝し、芸能界入り。1988年にシングル「真夜中のサブリナ」でデビュー。その後、俳優として活躍し、94年には映画『忠臣蔵外伝 四谷怪談』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2013年に、主演映画『モンスター』エンディング曲として「君待てども ~I'm waiting for you~」を発表し、歌手活動を再開させた。現在、テレ東系ドラマ『ジャンヌの裁き』に出演中。
2月4日(日)18:00〜、タワーレコード新宿店9Fのイベントスペースにて、高岡早紀アルバム発売記念インストアイベント(特典会)を開催。
https://tower.jp/store/event/2024/2/055002t
『Decade -Sings Cinematic-』/ビクターエンタテインメント
Yohji Yamamotoをフィーチャリングした「太陽はひとりぼっち 」のセルフカバーや、ボビー・ヘブの歌ったスタンダード・ジャズ「サニー」や、矢野顕子の「ひとつだけ」など、柔らかな光を感じさせる楽曲を集めた【SUNNY SIDE】と、新曲「トーキョームーン」、八神純子の「みずいろの雨」など、しっとりとした気分になれる楽曲を収録した【RAINY SIDE】で構成。限定盤は、1989年の貴重なライブ映像などを収録したDVD『35th Anniversary All Time Video Selections』付き。(限定盤)CD+DVD 7000円、(通常盤)CD 3300円(ともに税込)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A000372.html