2023.07.07
アジカン「40代は青春の角度が違う。ちゃんと枯れてていいって気持ちの“完全版”です」
メジャー進出20年を迎えたギター・ロック・バンド、アジカンことASIAN KUNG-FU GENERATION。そのキャリアの中でも高い評価を獲得するアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』を再構築。当時と変わらないエモーションに、進化し続けるバンドの今を閉じ込めた作品に滲む“カッコよさ”とは?
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文/松永尚久 写真/トヨダリョウ 編集/菊地奈緒(LEON.JP)
発売から15年が経過した現在も真摯にバンド・サウンドをかき鳴らし続ける姿とともに、時代としなやかに向き合う様子も伝わる内容。年齢による変化を受け入れながらも、ロックし続ける原動力を尋ねました。
「40代になると青春の角度が違う。新曲は、ちゃんと枯れてていいと思って書きました」(後藤)
後藤 もともと、収録できていない駅名があることが気になっていて、すごく好きなアルバムだったので、いつか網羅した形にして仕上げたいなっていう気持ちはかなり前からあったんです。ただ、なかなか残ったパズルのピースをはめる時間がなくて、このタイミングになったって感じですかね。
── そもそも当時は、どういう思いでこの作品を完成させたのでしょうか?
後藤 08年は本当にたくさん曲を作っていて。3月に『ワールド ワールド ワールド』というアルバムを出して、そのアウトテイクみたいな感じで6月に『未だ見ぬ明日に』ってミニアルバムもリリースしました。普通のバンドだったら、そこでお腹いっぱいになると思うんです。
当時は、本当に作り込んで納得するまでセッションする、みたいなことをやっていたんですけど、その一方で思いついた時に「もうそれ最高じゃん」みたいな感じで音を出す楽しさもあって。そういうこともやっておかないと前に進めないなと感じて制作したのが、『サーフ ブンガク カマクラ』になります。
── 楽曲を「江ノ島電鉄」の駅名で構成したのは、どうしてですか?
後藤 『ワールド ワールド ワールド』と『未だ見ぬ明日に』は、歌詞の社会性が高まっていく時期の楽曲で、世界や社会の問題を視野の向こうに入れつつ作っていました。そうすると、どうしても1人称の歌詞が増えてしまって、もう少し作品自体を自分の体から離していかないと、ちょっとヘルシーじゃないなって感じがしたんですよね。
ザ・ビートルズの「シー・ラブズ・ユー」みたいな、彼女が出てくるだけで話がちょっと変化するみたいな。 そういう歌詞を書かないといけないなと思って、それで江ノ電沿いの風景を加えてみたら、物語が自然と自分の体から外に離れていったんです。
── なるほど。山田さんにとってはどんな作品なのでしょう?
山田 当時は楽曲制作にツアーなど、結構タイトなスケジュールだったので、記憶が断片的なところもあるんですが。この作品では、みずみずしさだったり、バンドの無骨さみたいなところを、表現できたという印象です。
今聴いても、そういうイメージですね、こういう作品を残せたことが、活動を続けていられる要因の1つになったんだと思います。また、当時はわからなかったのですが、この作品を好きでいてくれるファンの方たちがすごく多いんだなっていうことに、最近気づきました。
── 「完全版」を作るにあたってこだわったことは?
喜多 今回はきっちりと制作時間が取れたので、一発録りではなく、今のバンドのレコーディングの仕方で完成させたので、 やりたいところはやれたと思う。全体的に丸くなっちゃうとか、大人っぽくなっただけの音にするのは嫌だなっていう思いがあって、ここではエモさを残せたかなっていうのにすごく満足していて。
何よりやっぱ新曲5曲がね、すごくよい仕上がりになったので、早く多くの人に聴いてほしい作品になりました。特に(伊地知)潔は、鎌倉が地元なので、入ってない駅近辺に在住の友人も多いらしく。
伊地知 「俺の地元の曲を作ってくれないの?」みたいな話も来ました(笑)。
── そうすると伊地知さんの感慨もひとしおなのでは?
伊地知 ですね。当時もうれしかったですけどね。自分が子供の頃から通学で使っていた電車が、 曲になることが。しかも、アルバムの広告を貼った電車が走ったり、特製チョロQも作っていただいたりと。今でも大事な宝物になっています。
── 15年前の楽曲と本作のために書き下ろした新曲で構成。その時間の経過で響く音にギャップはありましたか?
── 新曲はエモーショナルな部分もありますが、年齢を重ねたゆえの重み、深みも感じさせます。
後藤 年老いてきているので、そのぶん青春の角度が違う感じがします。20代の気持ちで、作っちゃいけないなって。ちゃんと枯れてていいんじゃないかみたいな気持ちで歌詞を書きましたね。
── 移り変わりゆく湘南の景色を想像しました。
後藤 そうですね。いろんな人の湘南があるでしょうからね。いろんな形の青春があるし。
── 前作の収録曲も再レコーディングしていますが、15年前の作品と向き合って、感じることはありましたか?
山田 昔はもっと苦労して録っていた気がするところをすんなりレコーディングできたりとか、そういう部分では多少の成長はあるのかなと思いつつ、当時からあるこのバンドのタイトな演奏みたいなのは、わかりやすく出せたんじゃないかな。シンプルなドラム、ベース、ギターで演奏してる作品ではあるんですけど、ロック感っていうか、そのカッコよさを感じてもらえると思います。
喜多 今回の制作を通じて、トレンドも組み入れつつ、自分たちのギター・ロック・サウンドでどういう音を響かせられるか、みたいな話し合いもできたし。今後の曲作りだったり、サウンドの方向性も話に出たので、なんかいい作業だなと思いましたね。
伊地知 15年経つと、江ノ電周辺の街並みも結構変わってきて。例えば、七里ヶ浜にファストフードのチェーン店があったんですけど、 今では別の店になっていて。当時の歌詞に手を加えているんです。時代とともに変わっていく、楽曲に描かれた風景にも注目してもらいたいです。
「100回演奏してできた“リフ”を海外のオーディエンスが歌ってくれたり。シンプルな音のよさってある」(伊地知)
後藤 キープしているというよりは、どんどん変わってきている感じもしますけどね。メンバーの関係性も時期によって違うし。音楽に関しては、その都度集まって、できることを探して一生懸命やっているだけです。
振り返ったら、なるほどみたいなことは思うかもしれないけど、当時はみんな夢中で、先を考えてないようなところがある。それでいいんじゃないかなって。最新をずっと積み重ねて、アントニオ猪木さんが言っているように「歩くとそれが道になる」みたいな、そういうイメージ。ほかのバンドもそうなんじゃないかって感じがしますけどね。
喜多 根っこというかね、基本はデビュー当時からそこまで大きく変わってない気がします。コンスタントに長く続ける秘訣みたいのはないのかも。今だって探そうと思えばいっぱい問題はあるんだろうし(笑)、そんな中でも一緒に音楽をしたいって気持ちがあるからやってるし、少なくとも僕はこの4人でライブやったりレコーディングするのが好きだから、ってだけかな。
それと、その時々でメンバー同士でちゃんと話せてるから。特に最近は、みんな結構本音で話すようになっていて、それはいいかなと思ってます。
伊地知 (ギター・ロックを続けていられるのは)単純に好きだからっていうのもある。コンピュータを使った打ち込みとか、これまでやってないわけではないんですけど、そうすると幅が広がりすぎてしまって、結果すべての音が薄まる気がするんですよね。
僕たちは、1曲に対してどれだけ体力を注げるかみたいなことを大切にしていて。よいフレーズにするために、同じ部分を100回ぐらい演奏したりもする。そこでできたリフを海外にもっていくと、オーディエンスが歌ったりするんですよ。それだけで、世界中の人と音楽で共有できている感じがすごくて。だから、シンプルな音のよさっていうのは、ずっと変わらずにあると思う。
山田 4人で演奏することを楽しいって思う、 またでき上がった曲を全員でいいと思えないと、続けてこられなかったはず。結局アジカンで作るものを、メンバーそれぞれがちゃんと好きなことが続けられている理由だと思います。もちろん、人間的な関係性のよさもあるけど、それも音楽を介して発生したものですから。
── でも20年が経過して、体力の衰えなどもあると思います……。
後藤 最近は、ずっと肩や脇の下を揉んでる。四十肩で手が上げにくくなってますね(苦笑)。突然そうなってきました。
── ずっとギターを抱えていますからね。ある種の職業病!?
後藤 そういう蓄積もあるかも。同じ姿勢のままも多いし。体の問題ってやっぱりどうしたって出てくるんですよね。与えられた環境で一番ヘルシーな働き方とか姿勢を見つけていくしかないです。
「若い頃に戻りたいとは思わない。今のほうが充実してるし、余裕もあるから」(喜多)
後藤 20代の頃は、「明日のことなんて知らねえよ」みたいな感じで歌ったこともありました。だから次の日にライブがあっても「声のことは知らん」とか思っていた部分もあった。今は無鉄砲さはなくなったけど、そんな現状や自分の変化に魅力を感じているところです。
そういう無鉄砲さに惹かれていた人からすると、物足りないかもしれないけど、この歳になると別のところに音楽の豊かさを感じたりするから、 それはそれでいいんじゃないかって気がするんです。まあ無鉄砲な人々は、下北沢あたりに行けばいっぱいいるだろうし(笑)。僕たちは年齢にあった豊かさに向かって進んでいくのがいいんじゃないかなと。
── 年齢を重ねることもまんざらじゃないってことですね。
山田 若い頃のほうがよかったかと言われると、それほどでもなくて。今を大切にしたいですね。
喜多 全国ツアーをする際も、やっぱ昔と同じではこなせない。整体に1カ月に1回通ったりだとか、家でトレーニングしたりするようになりましたね。ここ何年かはお酒も控えるようにしてましたし。でも、若い頃に戻りたいっていう感じがあんまりなくて、今のほうが充実してるというか。ちょっと余裕も出ているから。
伊地知 僕も10年前だったら若さを求めていたのかもしれませんが、今は昔の経験のおかげで失敗しなくなっているから。危機を予想できるようになったというか。20年前はなんでこんなことしちゃったんだろう、なんでこんなこと言っちゃったんだろうっていう失敗がたくさんあるんですよ。その失敗を二度と繰り返したくないなと思います。
「今の若い人はフラット。いいものはいいって姿勢は見習わないと」(後藤)
後藤 あんまりないですね。今の若い人たちは、僕らの頃より頭がいいというか、人間的にできている人が多い。
喜多 僕らが20代の頃は、上下関係がしっかりしてましたけど、今はあんまりそういうのはないし。破天荒な感じの人もいるのかもしれないけど、会ったことない。皆さん、楽器もうまいし、性格もいい。
後藤 フラットな人が多いからね。いいものはいいしみたいな。ジャンルとかにこだわってない人たちが多くて、 そういうのは逆に見習わなきゃなみたいな。
── 主催フェス「NANO-MUGEN FES.」では国内外のバンドを招聘していました。異文化の方とのコミュニケーションで、大切にしていることは?
後藤 昔だとやっぱ洋楽に、ちょっと引け目を感じることもあったけど、この歳になるとそういうのもなくて。「お互いやるべき場所でやるべきことをやってきたんだよね」みたいな気持ちがあるから。それに対するリスペクトもあるし。
だから今は、日本の何が劣っているみたいな感覚もないし、フラットにいろんな人に接するようにしている。日本人って褒められると謙遜する風潮がありますが、そういうのはやめて、自分のやってきたことを卑下せず対等に接したいと思います。
── よりグローバルな感覚でということでしょうか。
後藤 最近は、アジアのバンドも素晴らしいですし、国がどうとかじゃなくて、誰が何をやっているかで話をするっていうか。いろんなバイアス、偏見を落として、等身大の物差しでいろんな人と話ができるかを大切にしています。
── これからですが、どんな歳の、キャリアの重ね方をしたいですか?
山田 『サーフ ブンガク カマクラ』を好きでいてくれる人がたくさんいることを改めて知ることができたのが、今はうれしくて。本作のツアーを終えたその先に何か見えるものがあるのかなって思います。これからもポジティブに転がっていけるような気がしています。
「自分の幸せだけじゃない、みんなの幸せを考えられる人はカッコいい」(後藤)
喜多 カッコいいなと思う人は、芯があるけど頑固というわけじゃなくて、しなやかさもあるというか。人に合わせたり、気遣いができる部分も兼ね備えている人ですかね。メンバーも、それぞれにいいところがあるし、見習いたいなって思うこともあるし、逆に真似したくない部分もあるし(笑)。まあ、そこが人間って感じですね。
伊地知 今でもやっていますけど、精力的にツアーを廻りながら年齢を重ねたいですね。アルバム制作は、スタジオにこもっていたら何歳でもできると思うけど、海外も入ったツアーだと、なかなか過酷なスケジュールになる。それをこなし続ける東京スカパラダイスオーケストラの方々などを見ていると、すごいなって。
── 後藤さんの今後のビジョンは?
後藤 自分たちが活動することによって、 これからバンドを始めようとする子たちだったり、音楽をきっかけに何かをしようという人たちがやりやすいような、より活躍しやすいような、シーンというか社会を作っていかなくては。音楽をやりながら、自由に、より豊かになっていくような社会を。
働き方とかなんでもそうですけど、ちゃんと社会に根ざしている人がカッコいいと思いますね。私のやっていることはあくまで自分のためであって、他人とは関係ないみたいな考え方ではなくて。
私は1人の市民であって、その中で役割があり、どういう風にそれを果たすかってことを考えながら働いたりすることはとても大事。 だから、今後は働きながらも例えば貧困の問題などにも取り組むとか、そういう人間でありたいなって気はしますけどね。
自分の幸せだけじゃなくて、みんなの幸せを考えられる人に。そういう人は本当にカッコいいし、この精神をみんなが真似していくと、思いやりのある世界につながっていくのかなって。
『サーフ ブンガク カマクラ 完全版』/ソニー・ミュージックレーベルズ
「江ノ島電鉄」の駅をモチーフにした楽曲で構成。15年前の作品では10駅分の収録だったが、本作では5駅を加えコンプリート。また過去の楽曲も現代にフィットするよう再構築。バンドの進化とともに、移り変わる湘南の風景も伝わってくる内容に。初回生産限定盤[CD+サーフ ブンガク カマクラお散歩MAP&楽曲解説]3600円、通常盤[CD]3300円
● ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)
1996年結成、03年にメジャーデビュー。翌年には主催フェス「NANO-MUGEN FES.」を立ち上げるなど、常にシーンに新たな刺激をもたらす試みをし続ける存在。9月29日から全国ツアー、ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023 「サーフ ブンガク カマクラ」がスタート。11月22・23日には神奈川・鎌倉芸術館 大ホールで公演。
https://www.asiankung-fu.com